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北風の道  作者: きーち
第十二章 突き付けられた刃
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第四話 届きそうな手を伸ばす

「どうだい? うちの石工細工は。小さいながらも、限りなくそれを再現したミニチュア庭園ってやつだ」

 領主、グゥインリー・ドルゴランより頼まれた偵察の仕事により、石工職人達の工房を周っているルッド。キャルとレイナラにはまた別の仕事を行ってもらっているため、ルッド一人であった。

 本日はこのイスルマギ工房で3つ目。マーダの村には工房がすべてで12あり、そのうちガーベイト工房とホーニッツ工房は確認しなくても良いため、残り7つを見て周る必要がある。

「これは………苔ですか? 石工細工に苔を?」

 ルッドが工房を訪ねると、必ずと言って良いほど歓迎される。このイスルマギ工房もその通りで、領主の見学許可書を見せるやいなや、向こうから品評会に出展予定の石工細工を持って来てくれるのだ。

 それだけ領主の信頼が厚いのだろう。この村において、領主はまるで信仰の対象である。領主のやることなのだから、きっと自分達にとって良いことなのだろう。そんな考えが村中に行き渡っている。

(そりゃあさ、その領主が有能ならそれで良いさ。実際そうなんだろうし)

 だが、もし悪意を持ってその思想を利用したらどうなると言うのか。そうでなくても、領主が突然いなくなれば、この村の秩序は簡単に消え去ってしまうのでは。そんな不安感をルッドは覚えた。

(それもこれも、ブラフガ党の狙いだったりしたら、尚更怖い)

 既に完全な管理下に置き、どの様な結果をこの村に齎すのか。それもまた彼らの手中にあるということに―――

「庭園を表現しようとして、石だけでは限界があると思ったんだ。なにせ色彩に限界がある。そこで思いついたのが、石に自生する苔で………聞いているかい?」

 イスルマギ工房の主、デュハル・イスルマギがルッドに自らの石工細工についての説明を続けている。彼は彼で、ルッドにきっちりと自分の石工細工の価値を示さなければならないと必死なのだろう。なにせルッドは領主の代理として来ているようなものなのだ。彼ら心酔しているであろう領主の。

「ええ、ちゃんと聞いてましたよ。自生する苔を石工細工のデザインとして採用するなんて、中々できない発想だと思います。実際、良い感じの彩りになってる。ただ………」

「た、ただ?」

 代理として来ているのだから、ある程度の助言というか苦言くらいはしておくべきだろうか。まあ、芸術というものは分からぬものの、素人目に見た感想というものあるのだ。

「ちょっと彩り対してこぢんまりし過ぎと言うか、少し離れてみたら、ごちゃごちゃとした何かとしか映りませんよ?」

「う………た、確か、そういう問題があるか………いや、しかし、苔の成長が上手く行かず、この規模のものしかできなかったというか」

 どうやら本人も分かっていた問題点だったらしい。ただ、その問題点を解決しないことには、品評会で人の目を惹くことは難しいだろう。

(イスルマギ工房は細かい工作が得意。発想も面白いけど、いかんせん細微に凝り過ぎる部分があるっと)

 頭の中で採点をするルッド。一応、頼まれた仕事は及第点以上の結果を出すつもりで行動はしていた。

 ただ、ここからはルッド側の目的のために動く。

「労力的限界があるってことですかねえ。ふむ、その労力なんですが、今は精一杯って感じですか?」

「当たり前だろ。品評会は勿論、他の仕事だって多く入ってる」

「むしろ商業的仕事が本質ですものね、工房って言うのは。だいたいどこからの仕事が多いんですか?」

「なんでそんなことを?」

 勿論、この村に存在しているブラフガ党の痕跡を調べるためだ。などと言う本音は口にしない。だが、聞きたいことがそれであるので、言葉を選んで上手く聞き出さなければ。

「削れる仕事があるのなら、今は品評会用の労力に割いた方が………いや、これは出過ぎた言い方でしたね」

「まあね。そりゃあ領主様の紹介なんだろうが、仕事云々まで言われるのは心外だ」

「はい、すみません。ああ、そうか。他ならぬ領主様からの仕事もあるでしょうし、こっちが言えることじゃあないか………」

「おや? 知っているのかい? その通りだよ。うちで仕事って言えば、最近じゃあ領主様が卸してくれた仕事が殆どなんだ」

 相手のその言葉に、心の中でほくそ笑む。そうだ。その情報を待っていた。これまで周った工房でも、色々と聞き出す中で、同じことを言っていた。

 最近では領主からの伝手で入って来た仕事が多いと。

「僕も領主から仕事を頼まれている身ですからね。仕事内容が違うとは言え、同じ立場ですよ。そっちはどんな仕事なんですか? こちらと同じく、各工房に品評会で出展する品を見て周れってわけでも無いでしょうし」

「それこそまさかだよ。と言っても、こちらも良くわかっていないんだが………」

「へえ………」

 良くわかっていない。その言葉も、他の工房と同じである。領主から頼まれた仕事であるから、良くはわからないが、とりあえず頼まれた通りに仕事を行っている。ラージリヴァ国は不景気だと聞いているが、その分、領主からの仕事が入ってくるから、むしろ大変に助かっていると。

(なんだ? 彼はいったい何を狙っているんだ? そう言えばウィソミンさんも領主から頼まれた仕事で彼の屋敷に赴いてたんだっけ? 確か………屋敷の外壁を作る作業だったっけ? 帰ったら詳しく聞いてみるかな)

 とりあえずはやる事が増えている。これに関しては良い傾向か悪い傾向か分からぬものの、まだ止まるつもりは毛頭なかった。




 今日もまた日が暮れて行く。ルッドもそろそろ帰ってくるころだろうか。そんなことを思いながら、キャル・ミースは、現在、宿に借りた部屋に匿っている、ウィソミン・ホーニッツと話をしていた。

「ふうん。じゃあ、最初から仕事に関しては妙だと思ってたんだな?」

「ああ。注文の外壁の新築だったのだがね? どうにもこう………加飾に富む形にするのはわかるのだが、その間に非合理な……いや、視点を変えれば、しっくりと行きそうな……そんな設計を頼まれていた」

 本日のキャルの仕事は、目の前のウィソミンに話を聞くことである。彼を比較的良く知っているのはキャルであるし、彼が迂闊なことをしない様に見張る目的もあるという。

(今捕まって、あたし達がこの人の逃走に加担したって見られるのもアレなんだろうな)

 そこまではルッドに言われていないものの、彼が何を目的として動いているか。そのためにどういう行動を周囲に求めるのかは分かって来たつもりだ。

 例えばウィソミンが捕まり、こちら側の助力が発覚すれば、それはもうそこでルッドの狙いはすべて終わりなのだ。

 領主からは信頼を失い、尚且つ彼がブラフガ党関係者だとするのなら、それはブラフガ党への敵対行為であり、命すらも失う。

 それをさせないためのキャルの存在であり、なんでも無い様な仕事に見えて、かなり重要な仕事であったりする。

(だからこそ、あたしはあたしでこの仕事に全力を尽くすってことで、やることは間違いない)

 故にウィソミンに話を聞くことも手を抜かない。彼から引き出した情報が、何がしかの役に立つ。立たなくても、次に至る一手の、その欠片になる可能性を信じている。

「視点を変えれば、しっくり行く設計って言うのは、どういう視点で見ればそうなるんだ?」

「そうだねぇ。芸術の道というのは様々さ。見て、感嘆の声を上げるものを作るという道もあるが、逆に気落ちをさせる暗い気持ちにさせるというのもまた芸術の道と言える。一見、悪意しか感じぬその芸術であるが、人の心を揺さぶるという一点に掛けてはむしろ単純なプラス方面へのそれより優れたものが多くある。つまり何が言いたいかと言うと、芸術というものは懐深く、私の様な者でもすべてを把握するのは―――

(落ち着け………あたし。話してると、こんな風に暴走して、良くわからない事をくっちゃべる相手だってのは、十分に分かってたことじゃねえか)

 この話を聞く作業。わざわざ頼まれるだけあって、とてもとても苦痛が伴う仕事であった。

 なにせこのウィソミン。頭のネジが2、3本外れた男であるからだ。石工職人という地位が無ければ、狂人か、もしくはさらなる狂人か。そんな風に見られていたことだろう。

 行動も突飛ならば言葉も脈絡を持たず、万一持っていたとしても、常人ならまったくもって理解できないタイプのそれであった。

 そんな言葉の中から、キャルはどうにか役立つ情報を聞き出そうというのだ。掛かる集中力は生半可なそれでなく、若干、疲労を覚え始めて来た。

「そう。それを芸術と仮定するのであれば、やはり芸術として見るべきなのか。いや、だがしかし、それを芸術として見なければどうだろうか。そも、芸術目的でないものだとしたら、幾ら深淵が如き広大さを持つ芸術の世界と言えども、それを芸術として受け止めることは無く、むしろそれは戦う者たちの世界に繋がり―――

「はいはい。それでそれでっと、何だって? 戦う者たちの世界が?」

 こうやって、気になることがあれば、逐一口を挟まなければならない。そうしなければ、ウィソミンの話は際限なく広がってしまうだろうから。

「うん? ああ、戦う者たち。つまりは兵士やそれを指揮する者の事さ。そういう人種の視線で、領主様の屋敷に作る予定だった外壁の設計を見れば、それは確かにそのためのものだったかなと」

「だから、それを詳しく教えてくれよ。そういう人種の視点で見れば、屋敷の外壁はどういう設計だったって言うんだ」

 気になることがあった場合は、こうやって逐一、キャルにも分かる言葉に落とし込まなければならない。後になり、分からないままでルッドへ報告して、残念ながら得るものは無かったとなるのは、キャルにとって一番嫌なことであった。

「だからだね。芸術家目線で見るのなら、機能美と言えなくもないそれであったが、どうにも理に富み過ぎているというか、実際、外敵を防ぎ、尚且つ撃退する時には内側が圧倒的に有利となるような………なんだろうね。まさか領主様が戦争をしようってわけでも無いだろうし」

「待った………そう感じたのは確かなのか? その……戦争をしようとしているって感じに見えたのは」

 聞き逃せない話であった。このマーダの村へは、ブラフガ党という血生臭い組織との繋がりを探しに来たのであり、方向性は違うかもしれないが、戦争というこれまた血生臭い話を聞くことになったのだ。

 偶然かもしれない。だが、何かあるぞという直感を覚える。

「さて……私の勝手な妄想かもしれないし、ああそうだ。領主様がわざわざ外敵を警戒するというのもおかしい。少なくともこの領地で、領主様と敵対しようという人間なんていやしないのだから」

「あのなぁ。その領主様に、あんたは軟禁されたんだぞ? しかも、ちょっと気になることを調べ様としただけでさ」

 どう考えたって、この地方の領主は聖人君子でまったく裏が無い人物なんて言えないのである。

 勿論、まだ善人か悪人かはわからぬものの、盲目的に信じる相手ではないだろうに。

「むむむ。確かにその通りであるが……領主様がそれを望んでいるというのなら、何がしかの理由があるとは思うのだよ」

「理由ねぇ。そりゃああるだろうさ」

 領主の狙い。それは一体何なのか。まだわからぬものの、やはり話し合いだけで納まらぬ何かが待ち受けているような。そんな予感がするキャルであった。




 最後の一人、レイナラであるが、彼女は自ら領主屋敷の監視を買って出た。領主の動向が気になるというより、やはりあの屋敷の門番、パックスが気になったのだ。

(そりゃあ凄腕の武術家が、最終的にどっかの要人の警護役に納まるって話は、良くある話だわよ)

 ある意味では、レイナラ達のような立場の人間における、理想的な終点であるとも言える。

 だが、その終点となる場所にしたって、腕とはまた違う要素、つまり性格によって違ってくるものだ。どれだけ腕があろうとも、そういう終着を望まなければそこには至れない。

「ねぇ。あんた。ここで仕事する前までは、どんなことしてたの?」

「なんだいったい。突然尋ねて来たと思ったら、俺目当てかよ」

 屋敷の様子見のつもりだったが、パックスという男が気になり始めたため、いっそ、直接話をしてみようとした。

 パックスは門番であるから、屋敷に向かえば勝手に出て来る。別に彼について、ブラフガ党がどうとか聞くつもりはない。なので、別にどんな疑問をぶつけたって、向こうにこちらの狙いが判明する危険性はあるまい。

 世間話をしにきたという体であれば、屋敷を見張っても別に怪しまれないだろうし。

「ちょっとね。これでも護衛仕事をしているの、私」

「ああ、なんとなくわかるよ」

 別に腰に帯びた剣を見て。という意味での返答ではあるまい。向こうも向こうで、こちらの佇まいから、戦闘技能者であることを理解しているのである。

 それができるということは、勿論、それなりの腕があるということの証明なのだが。

「わかってくれてるのなら話は早いわ。私が興味を持った理由っていうのも………わかるでしょう?」

 言いつつ、人差し指をそっと向ける。パックスはその指を暫く見たあと、溜息を吐くように口を開いた。

「俺みたいなのが、地方の領主様の護衛してるのが、そんなに不思議かい?」

「丸くなっちゃってって感じ? いや、刺々しかった頃なんて知らないけれど、多分、もっとこう、血生臭いタイプだって思うのよね、あなたのこと。違ってたらごめんなさいな」

「間違っちゃあいねえよ。これでも大陸の東の方じゃあ、まだ指名手配でもされてるんじゃないか?」

「あらやだ」

 藪蛇というレベルではない話が出てきてしまったかもしれない。パックスと言う男は、相応に危険人物であったということだ。もしかしたら現在進行形でかもしれないため、危機感は嫌でも覚える。

「7人刺しのパックスなんて呼ばれてた頃もあったよ」

「そういう異名って言うの? あんまり良い印象無いわよね」

「俺もだ。その名前で呼ぶ奴は、だいたい痛い目に遭わせてきたこともある。今じゃあ、んなことしないがね」

 痛い目とはどれくらいのレベルか。顔に青痣を作らせるくらいであればまだ良いが。

「今はしないって、本当に?」

「本当だ。雇用主に迷惑掛けるわけにはいかないんだ。特に今のはな」

「へえ。ここの領主様にね。仕事に忠実ってわけだ」

「それもだが、恩もある」

「恩かあ」

 中々に人情味のある話になった。昔は荒々しかった人間が、偉い人の施しで真面目になるという奴だろうか。だがしかし、そういう話でも、目の前の男性とは合わないと思えるのは何故か。

「恩を受けるってことは、それなりに人格者なのね、ここの領主様は」

「さあ。どうだろうねえ。良いか悪いかはまた別の話さ。だが、俺は恩だと思ってる。そういう話でね」

「いろいろあるわけだ」

 詳しくは聞かない。怪しく思われてしまうから。という理由よりも、なんとなく、聞くのは止そうという感情からである。

「いろいろあるのはお互いさまだろ?」

「え?」

「あんただって、あの若い商人の下でのうのうと働く人種には見えなかったがね」

「そうかしらね。私の場合、そういうのってあるんじゃない?」

 ルッドのことは、初対面の時は良い仕事相手だと思っていただけだ。自分の様なものを雇ってくれるのは、まあ有り難い話ではあったが、一度が二度。それくらいの回数を護衛するだけ。そんな関係性と想定していた。

 その想定が崩れたのはどのタイミングだったか。彼がホットドリンクという酒場に尋ねて来た時か、自分をミース物流取扱社に期間契約したいと言って来た時か。それとも、気になる二人の子どもについての事件を、解決してくれた時からか。

 自分でも良くは分からない。分からないからこそ、そういう事もあるのだろうとしか言えなかった。

「どうだかね。お互い、血筋からしてややこしいだろうしな」

「どういうこと?」

 お互いの血筋とは何だ。妙に気になる言葉だった。

「なんだよ。そっちは気付いてなかったのかい? ほら、俺の………まあ、気付かないのも無理ないけどな」

「ああ、そういうこと。そりゃあ奇遇だわ」

 パックスは自分の耳を見せる様な仕草をしようとして、途中で止める。だがレイナラは彼の耳を見て、何を言いたいのかを理解した。

「エルフだったのね。そっちも、大分特徴は無くなってるみたいだけど」

「ああ。そんな予感があったが、あんたもなんだろう?」

「ええ………そうよ。こっちも、特徴なんて殆ど無いけれど」

 向こうが何故こちらについて気が付いたのは分からない。だけれども、パックスは自分と同類だったらしい。彼もまた、滅び行く種族の一人なのだ。

「こういうのって、偶にあるわよね。なんの因果か関係無さそうな場所で、こうやって出会っちゃう」

「うん? そうなのか? なら、そうなんだろうな」

 何故か、拍子抜けした様な表情を浮かべるパックス。自分の言葉に何かあったのだろうか。期待していた言葉と違ったか?

「ここの領主様に恩があるっていうのも、それ絡み?」

「まあ、そうだな。あんたも悩んだら相談してみると良い。そういう話に関しちゃあ、うちのボスはそれなりに建設的な提案をしてくれるだろうさ」

 パックスは軽く言っているが、その心の変化は相当なものだと思う。

 自らが滅びる運命にある種族だという認識に関して、何らかの影響を与えた人物は、どれだけ自分達と言う存在にとって重要か。実感で分かってしまう。

「詳しいことは分かんないけど、なんとなく、あなたがここにいる理由っていうのは理解できたわ。なんなとあるのね」

「そういうことだ。それにしてもだ………」

 しげしげとこちらの顔を見てくるパックス。何故か表情は緩いというか笑みを浮かべている。

「な、何よ」

「いや、あんた。結構いい女だな」

「は!?」

 唐突に口にされたその言葉に驚き、戸惑う。今はそういう事を話す雰囲気では無かっただろう? 

「いやいや、武の腕があって護衛の仕事なんぞしている奴に、これだけの美人ってのは中々いねえよ。これで性格も良ければ完璧だわな」

「完璧って、あんたの好み?」

 これまでの話とは打って変わって、砕けた姿勢というか軟派な男を見る様な目線をレイナラは向ける。実際、軟派な会話なのだし。

「そうそう。俺好み。顔が良くて戦いの腕も良いなんてどんぴしゃって感じだな」

「性格についてはどうかしら?」

 この際だから、最後まで聞いておこうと思う。別にパックスが好みの男だったわけでは断じてない。

「芯に一本筋が通ってて、逃げない女が好みさ。そういうのは、時間掛けて付き合ってみなけりゃあ分からないけどな?」

「性格云々で言えば、同意見だわね。まあ、私もそういうタイプの人間は好きよ。あんたがそうかはわかんないけど」

 それだけ言葉を交わすと、二人して笑い合った。これまでの会話で、とりあえずはある程度の気心は知れた。そんな関係性になったのだと思う。

「で、こっちの話ばかりだったが、そっちはどうなんだい? 今の仕事に満足してるのか?」

 そうして、パックスからそんな事を聞かれた。別に深い事は聞く気は無い。ただ、どんな感情を持っているのかは興味がある。そんな口調だ。

「そうね。良い感じよ。悪く無い。全然悪く無い場所ね。今の位置は」

 そうだ。悪く無い。悪く無いとも。今の自分の立ち位置は、それこそ奇跡的とすら言える。

 もし、少しでも運命が違えば、未だにどこぞの酒場で飲んだくれているか、日銭を稼ぐために仕事を探していただろう。

 今は期間契約関係と言えども、定職に就いた様な状況だし、いろいろと仲間と言える同僚もいる。これが良いこと言わず、なんと言う。

「そうかい。お互い、こんな立場にずっと居られたら良いわな」

「どこにいるか知れない神様にでも祈っておく?」

「止めとこうぜ。お互い、そんなお偉いさんには恨み節しかねえだろ?」

 その通りだ。神様に祈ったところで、良いことも悪いこともしてくれやしない。だからこそ、自分の力とちょっとした偶然で得た今の自分を大切にしたいと思うレイナラだった。



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