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北風の道  作者: きーち
第十二章 突き付けられた刃
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第二話 当然、きっかけはやってくる。

 さて、あたしはあたしの感情を整理しなければならない。宿に戻ったキャル・ミースは、ルッド、レイナラと共に借りた部屋へ向かう間、自分の身に起きたことを再認識しようとした。

 まず事の発生からだ。うん。こういう始め方は、実にそれっぽいな。こういう思考をルッドに伝えられたら、少しは彼もこちらが成長したという風に見てくれるだろうか。

 そうして何から思い出すかと考えた結果、ガーベイト一家の工房を離れ、他の石工職人の工房を見て周った後の事を思い浮かべた。ふと気まぐれから、いないはずのウィソミン・ホーミッツの工房へと足を運んだのだ。




「本当に何も作って無いのかねぇっと」

 足を運んだ明確な理由というのは無いのであるが、それでも何か理由があったとするならば、それは興味であった。

 以前、この村の品評会で見た、この工房で作られた石像。それは石像についての知識が無く、価値を把握する眼力も無いキャルから見ても、素晴らしいものであった。

 確か女神の像だったと思うのだが、そう言った物を作るには、相応の力が必要なのだろう。

 才の力、努力の力、労働の力。それらの力を存分に振るい、一つの石像を作り出す。工房の主、ウィソミン・ホーニッツはそんな人間だった。

 そんな人間が、年に一度のイベントに、何も用意していなかったというのは有り得るのだろうかと思えたのだ。

(まあ、有り得そうな人間でもあるんだけどなぁ)

 ウィソミン・ホーニッツ。それこそ数える程しか顔を合わせた事は無いのであるが、あの職人は変人と呼んで構わない性格と挙動だったと思う。なんと言えば良いのか、頭のネジが数本ぶっ飛んでおり、芸術家らしい性格と言えばらしいものであった。

「さてと、さすがに工房は戸締りしているし、外を見学するだけ………って、開いてるじゃん……!」

 ウィソミン・ホーニッツの工房に辿り着き、留守だろうから外観だけでも見学。と言う風に考えていたキャルであったが、工房の玄関は鍵も掛けられず開いていた。

「不用心じゃね? 盗られるものなんて、ここには幾らでもあるだろ?」

 そんなことを口にしつつ、キャルはそのまま工房内へと立ち入って行く。不用心であるが、そこはそれ、キャルの自宅などでは無いし、別に盗人をするつもりは無いのだからOKだと考える。

 道徳というのは何時も好奇心に負けてしまうものであるし。

「………うん。多分、これだな」

 工房をざっと見るだけでも、それが品評会用に用意されていたのであろうことは分かる。前回が女神であるならば、今回は男神か。四肢がまだ彫られていないが、胴体と顔だけはある程度完成している。

「うん。さすがだな。これは」

 頷きながら納得する。やはり抜きん出た完成度とデザインだと思う。石で作られているというのに、髪は今にも動きそうで、胴体部分の筋肉を模した盛り上がりは、実際の人間に近く、尚且つ人間以上の均衡が取れた肉体となっていた。

 なによりその表情だ。笑みを浮かべている様にも、悲しんでいる様にも見える絶妙な表情。その表情が、感性の薄いキャルに対してすら神秘性を感じさせてくるのだ。

 見惚れていた。と表現するのが正しいだろうか。何分かではあるが、時間を忘れてそれを見ていた。集中力が勝手にその石像を見る様に促してくる。

 そんな集中力を持って見ていたからこそ、違和感に気が付いた。その石像にではない。その裏側に隠れていた人影に。

「あっ…………な、なん―――

「ま、待て! 待ってくれ! 頼む! 大声を上げないでくれ!」

 何か、声を上げようとして、石像の影から現れた人間に止められる。これが不審者であるならば、構わず声を上げていたのだろうが、現れた人間の正体に気が付いたため、キャルはそうしなかった。

 その人物は不審者でも何でも無かったからだ。ウィソミン・ホーニッツ。この工房の主であり、ここにいたって何らおかしく無い人物。

(って言うか、私の方が不審者じゃね?)

 無断で工房に侵入した自分は、その場所の主に非難されたって仕方あるまい。しかし、そうなるとちょっと厄介なので、とりあえず話をしようではないか。

「あれ、あんた。留守にしてるって聞いてたけど」

「むむ? 追手かと思ったが、もしや顔見知りかい?」

 ウィソミン・ホーニッツは完全に石像を裏側から現れると、キャルの顔をしげしげと見始めた。どうやらこちらの顔を覚えていないらしい。

(まあ、1、2度会っただけだしな。こっちは嫌でも覚えてるけど)

 なにせ、かなりの変わり者だ。一度会って話せば、中々に忘れられる相手ではない。向こうはそうでも無いだろうが。

「前の品評会の時、ここの作品を今日みたいに見に来たんだ。だから今回もと思ってな。けど、今回は出展しないんじゃなかったか?」

 ここにいるということは、出展用の石像を作っているということなのか。いや、しかしウィソミンは何と言っていた? 追手かと思った?

「しゅ、出展なんてしている状況じゃあないのだよ! まさかあの様な………ええい! 僕はどうしたらっ! そうだキミ、キミは何かこう、いざと言う時に頼りになる相手とかは知らないかい? ほら、なんだ。緊急事態をスパッと解決できるナイスガイ的な!」

「ちょ、待ってくれよ! 何のことやらさっぱりだし、そんな知り合い、そこらにいるわけないだろ!」

 突然の剣幕に一歩引く。なんというか変人に迫られると嫌でも怖くなってしまうのである。近づいて、そこから何をするか分からないからこその変人であるのだし。

「ええい! そういう場合じゃないんだっ! 良いかい? 良く聞いてくれ。僕は………狙われているっ!」

「へえ。OK分かった。この村にだって医者みたいな役してる奴がいるんだろう? 一緒に探そうぜ。きっと相談に乗ってくれるはずだ」

「おおっと。ちょっと待ちたまえよ。まるで僕が妙な妄想に取りつかれて、居もしない存在に怯えてるから、ちょっとその手の治療を受けさせよう。なんて思ってるみたいな言い方をするじゃないか」

「なかなかの洞察力だぜ。それくらいちゃんと考えられるなら、復帰はすぐだって。まだ真人間に戻れる余地は…………こう、ちょっとくらいならあるんじゃね?」

 多分、きっと。処置不可能の印を押されるかもしれないが、それはそれで一歩全身だ。周りから十分に変人扱いされたって、生きて行ける世界はきっとあるはず。

「だーかーらー! 違うと言っているだろう! 僕は、本当に狙われているのだよ!」

 ウィソミンは自分の胸に手を当てながら叫ぶ。いちいち動きが芝居がかっているせいで、どうにも嘘らしく感じてしまうが、彼は素からして芝居の中の人間っぽい。

「何に狙われてるんだよ。っていうか、なんでそもそもここにいるんだよ。あんた、どこぞで住み込みの仕事をしてるって聞いてたぞ」

「だからその件なのだよ!」

「どの件?」

 つまりは住み込みの仕事をしていて、何故か誰かに追われる立場になってしまったということか?

「話くらいなら聞かないでも無いけど、何があったんだ?」

「なんというか、話して意味があるのかどうかはさっぱりなのだが、そうだな。事情を知る人間は多い方が良いだろう。よし、話そうか。これでまあ、なし崩し的に被害者仲間を増やせるかもしれないし」

「あーちょっと待ってくれ。途端に聞く気が無くなったというか」

「あれは僕が領主様宅で住み込みの仕事を任されてからのことだ」

「あ、この野郎! 無視して話を続けるつもりだな!」

 気にはなるので、話し始められると止める気があまり無くなってしまう。好奇心と言う奴は、本当に厄介な代物であった。

「それにしても、領主? 仕事を頼まれた相手ってのは、マーダの領主様なのか?」

「ああ。光栄だと思ったね。他の地方は知らぬが、この村を含む一帯を支配しているかの領主様は賢明かつ有能だ。そんな方が僕の力を見込んで仕事を任せると言ってくれた。勿論、二つ返事で受けたさ」

 仕事内容というのは、領主宅の外壁の改装であったらしい。一応は外敵を防ぐために頑強に、尚且つ見た目は豪奢に。そんな注文の元、潤沢な資金を与えられての仕事だったそうだ。

「芸術性と機能性。そのどちらも要求されるのは、難度こそ高いものの、職人としては嬉しい話さ。ただ任せるとそう言ってくれる領主様に、そりゃあ僕はやる気を溢れさせた! さながら燃え上がる鳥の如く!」

「鳥が燃えたら焼き鳥にしかならねぇんじゃねえかなぁ」

 こちらの突っ込みもどこ吹く風。ウィソミンの話は留まるところを見せない。

「だが、やはり作業には時間が掛かるというもの。少しでも良くしたいしね。残念ながら今年の品評会には出展できぬだろう。だが、代わりに領主様の屋敷を芸術にしてみせる! そう意気込んで居た頃の事だ」

 不安しか感じぬ物言いだが、こと石細工に関しては確かな腕を持つ彼である。屋敷の外壁は相応に良いものとなるはずだったのだろう。だが、そこで異変が起きたらしい。

「まず頑丈な建築物を作る場合、それそのものは勿論だが、周囲の状況を調べる必要がある」

「周囲の?」

「どれだけの重量に耐える地盤であるか。周りに外壁を越えてしまえる物は存在しないか。地面が突然陥没する心配は無いか。と言った部分だな。外壁を作るにあたっての周囲環境の構造把握。それをまず行っていたんだが…………」

 なるほど。ここからが本題。その仕事を放り出して、自分の工房に逃げ帰った理由が語られるのだろう。

「何か、欠陥が見つかったとか?」

「どちらかと言えば、無いはずのものがあったというべきか」

「無いはずの……もの?」

 ウィソミンが顔を真剣なそれへと変える。ということは、今まで妙に清々しい笑い顔で話していたということなのであるが。

「屋敷の一画。その周囲の土地を調べていた時だ。ちょっとばかり地面を掘ろうとしてみたんだが、なにやら頑丈は岩があったのだよ」

「地面を掘ったら岩が出るってのは、良くあることじゃないのか?」

「その岩が人為的に加工されたものであってもかい?」

 ふむ。それは確かに妙だ。地面の中に人工物。これはいったい何だろうと疑問に思うのは当然のことだろうと思う。

「調べてみたのか?」

 キャルの問い掛けに、ウィソミンは首を横に振った。

「とりあえずは領主様に報告だ。そうだろう? 変な物が見つかったのは領主様の土地であり、どうしようかと尋ねるのは仕事人としての基本さ」

 それもまた常識的な対応であろう。まあ、話す相手がウィソミンであるので、まともなやり方をしているのに違和感を覚えるものの。

「で、領主様はなんて答えたんだ?」

「捨て置けば良いとさ」

「うん?」

「だから放って置けと言われたんだ。逆に気になるだろう?」

 まったくだ。普通、自分の庭の地面の下に何かあるぞと言われたら、何だそれはと調べたくなるというものだろう。

「で、言われた通り捨て置いたのか?」

「ははは! フハハハハ!」

 笑いで答えるウィソミン。つまりだ。無視なんてしなかったと言うことだろう。

「勝手に調べたんだな?」

「地面に不審な物があれば、僕の仕事も上手く行かないかもしれない。依頼人は調べるなと言うが、万全を期すためには仕方ないことだろう?」

 ウィソミンの言葉はまるっきり方便でしか無いのであるが、キャルは同意して頷いてしまう。だって気になるではないか。目の前の男はきっと、それが原因で、ここへ逃げて来たのだから。

(まだどういう事情かは分からないけど、なんとなーく、この人が誰にどんな風に追われているのかは分かり掛けて来たな)

 きっと、いらぬ事を知ったのだ。そして口封じを恐れて逃げ出した。

「で、その地面に埋まっていた何かってのは、何だったのか分かったのか?」

「…………それはかなりの大きさのある人工物だったよ」

「どれくらいのだ?」

「だいたい一般的な部屋くらい。というか、それは地面に埋もれた部屋だったのだよ」

「つまり………地下室か!」

 なるほどと思う。つまりそこは隠し部屋だったのだ。出入り口はまた別のところに繋がれているか、それとも埋め立ててしまったのか。

 何にせよそのどちらかだ。

「で? その部屋の中身は調べたのか?」

 気になって来るのは続きである。地面の下にあるものが地下室であることはわかった。ならば、その地下室はいったい何のためにあるのか。何故、その存在を領主は隠そうとしたのか。そこらがどうにも気になるではないか。

「調べようとした………したが、駄目だったのだ」

「なんだよそれ」

「僕が勝手にそれを調べていることに気付かれてしまってね。何故かその時点で捕まえられそうになった」

 なるほど。そこに地下室があるという情報自体が、もうその時点でかなり厄介な物だったということか。

「どうにも気になるよな…………そういえば捕まえられそうになったらしいけど、良く逃げられたな?」

「一時は領主様の屋敷に、ほぼ軟禁状態にさせられていた。だが、なんとか隙を見つけることができたのだ。私が唐突に逃げ出すとは思ってもみなかったらしいね」

 それは少し違うのではないだろうかとキャルは思う。目の前の変人の行動を予測するなど難しい。どんな行動だって、隙を突かれる形になるのだから。

(まあそうなると、今度捕まれば、殺される可能性とかも少しはあったり?)

 予想が難しい人間を、容易い人間に変えるのは簡単だ。息の根を止めてしまえば、ただの物体にすることができるのだから。

「けどさ、逃げたのなら追われるだろ?」

「だから困っているんだ。今のところ、隠れ家にできる場所など自宅くらいしかないし………」

 それは多分、隠れ家になっていないのではないだろうか。直にウィソミンがここに隠れているだろうことがバレるはずだ。隠れる場所が一つしか無い人間は、実際、隠れていないのと同じ意味なのだし。

「頼りにできる相手を探しているってのはそのためか」

「できれば、追手を蹴散らし、領主様に私を捕まえるのは止めるんだ! と訴えてくれる人間が好ましい。実にスマートだ」

「どこの世界にそんな奴がいるってんだ」

 万一できる能力があったとして、何故わざわざウィソミンにそんなことをせねばならぬのか。

「それができなければ、せめて村を出る手筈などを整えて貰えれば………む。そういえば、キミは村の人間ではないな。ならばだ、僕をこっそり連れ出すこともできるのでは?」

「げ………」

 目を付けられてしまったとキャルは嫌な気分になる。厄介事を抱えた相手に頼られるというのは、それだけで難題だ。頼りにされる誇らしさより、自分にまで降りかかってくる事件に、うんざりとした面倒くささを感じるし、その感情が勝る。

「勿論、タダでとは言わない。そうだな。これでも金銭的持ち合わせは多少なりともある。財産持ちと言えるだろう。さらに言えばだ、この腕を貸すことだって構わないさ。勿論、無事、逃げ延びることができたならだがね!」

「う、ううーん」

 普通なら断る状況。だが、どうしたものかと悩んでしまった。目の前の人物の価値を、キャルがそれなりに評価していた結果なのだろう。

 この状況で手を貸して、彼に恩を売ることができたのなら、それは確かなメリットであり、彼の頼みを受け入れた場合のデメリットを、少しは上回るのではないか。

 そんな勘が働いてしまったのかもしれない。

「………あたし一人でこの村に来たわけじゃあ無いんだ。ちょっと相談してみないことには………返答は明日で良いか?」

「ま、まあそれくらいなら………だがね、ここにもそう長居していられないと思うのだ」

 だからできれば早い方が良いとウィソミンに言われて、キャルはさらに悩ましい気分になった。

 そうして、できればすぐにでも、こういう話についての段取りが上手い、ルッドに相談するべきなのだとキャルは考えた。




「なんて言うかさ、確かに兄さんの言う通り悪運だよな。わざわざ居ないはずの職人の家に行くなんてことしなければ、会わなかったわけで、向こうも向こうで、余計な好奇心を起こさなきゃ、追われる立場にならなかったわけでさ」

 宿で借りた部屋にて、とりあえず起こったことを口にするキャル。最後まで話を聞いたルッドは、さてどうしたものかと暫し考え込んだ。

(確かに運命めいてる………。例えば僕らがこの村に来る。その日が今日じゃなければ、また違う状況になっているだろうし)

 時間の偶然、場所の偶然、事件の偶然。それらが重なり合って今がある。だからこそだろう。キャルが持って来た話について、単なる厄介事とは思えない部分があった。

「………社長の話を聞いた上で、僕らが取るべき選択肢は3つあると思う」

「あら、意外と多いのね」

 ルッドの言葉にレイナラが反応する。彼女はきっと、選択肢は一つ。妙な話には関わるなというもののみだと思っているのだろう。

「まあ、可能性が多いという事実を喜びましょうよ。一つ目は勿論、そんな話受け入れないというものです」

 キャルの話を聞いて真っ先に思い浮かんだ選択肢だ。領主に追われた村人を村から逃げられる様に手配する。そんな仕事は真っ当ではないし、どちらかと言えば暗い仕事だ。かなりのリスクがあるのだから、やはり避けられるのなら避けたいと思うのは人情だろう。

「そりゃあ考えなきゃだよな。うん。アタシも最初は面倒くさい話だなって思ったんだよ」

「けど、そのまま断れなかった。それには当然理由があるよね?」

「ああ」

 キャルが頷く。その理由であるが、ルッドには恐らく予想が付く。そうしてそれは第二の選択肢に繋がって行く。

「二つ目の選択肢。それは、そのウィソミンさんの願いを聞き入れ、彼が村から出る手筈を整えてあげること」

「それには何の意味があんの?」

 分からないというより、考えるより聞いた方が早いとレイナラは考えているのだろう。彼女は商人でないので、それで良いのかもしれない。

「それ相応のメリットがあります。ウィソミン・ホーニッツさんはかなり腕の立つ石工職人だ」

 才能と、名声だってあるだろう。そういう人間に恩が売れるというのは得なことなのだ。

「ウィソミンさんクラスが作る石工細工ですが、大規模なものなら幾らくらいで売れると思いますか?」

「そうねぇ。ふむ、良いものらしいし、私の生活費1年分くらい? いや、2年!」

「30年分くらいにはなります」

「そんなに!?」

 それでも低く見積もってだ。ぶっちゃけ領主の様な立場に仕事を頼まれる職人なら、それこそ値段のつけられないとまで言える物だって作るだろう。

 見る者を魅了出来得る芸術品を作るというのは凄まじいものなのである。

(例えば、石細工の見物料だって取れたりするんだからさ)

 本来、売ったり買ったりする代物を見せるだけで、金銭を得ることができる。ウィソミンの腕はそれだけの価値があるのだ。

「今回の仕事は、依頼する本人だって後ろめたいと思ってる仕事です。売れる恩は大きいし、結構な商売になるってことはわかりましたか?」

「それだけになると、単なる商売に終わらせるのが惜しいって感じなのね」

 その通りだ。彼に依頼の報酬として石工細工を作らせるという手もあるが、それ以上に、彼がこちらへ罪悪感や遠慮などの感情を抱いてくれるかもしれないというのがメリットなのである。

 いざという時、彼の様な才能ある職人の手を借りられる状況を作れるということだから。

「それにしても、依頼を受ける受けないで二種類の選択肢なのよね? だったら、三つめの選択肢ってなんなのよ」

「あたしはなんとなく分かるけど、嫌だなぁ」

 キャルがとても微妙そうな顔をする。自分でその選択肢を口にないのは、その選択肢を選びたくないからなのだろう。きっと、こちらがその選択肢を選びたがっているのを感じとったのだ。

「嫌だと言っても、捨てるのは勿体ないと思うんだよね。なにせ、僕らがこの村に来た目的と合致する可能性があるんだからさ」

「けどさぁ………」

 まだ不服そうな顔をしているキャル。それでもルッドは、その選択肢を無くさないため、言葉を発することにした。

「3つ目。この地方の領主が隠している何かを見つけたんだ。それを確認に向かうって選択肢がある」


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