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北風の道  作者: きーち
第十一章 雪降る町でのこんにちは
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第五話 ちょっと行動してみよう

 レイナラに殴られ、倒れ、そのまま地面から起き上がれなくなる男。そう言えば名前はなんと言ったか。聞いた覚えが無いのだから、知る術が無い。どうしたものかと考えて、まあ良いかとレイナラは視線を前へ向ける。

「やっほー。じゃあ、あなた達も同じ様にぶっ倒れてくれない? できれば派手に叫んでくれると嬉しいんだけど」

 にっこり笑みを浮かべて、男と一緒にいた、別の男達に話し掛ける。数は二人。彼らの拠点となる廃墟の入口に、門番だとでも言いたげに立っていた。

「てめえ! 女ぁ! 何しやがる!!」

 彼らはすぐに、レイナラの挙動に反応してこちらへ向かってくる。だが動きは素人だ。何やら短い棒のような物を持っているが、それだけ。武器の利さえこちらにある。

「体で味わってみたらどう?」

「なんだ―――がぐっ………ごふぉっ」

 まず真っ先に襲い来る男の喉に、相手の動きに合わせて、剣入りの鞘の先で強く叩く。それだけで人間は激しい衝撃に襲われるし、呼吸困難に陥って動けなくなるのだ

 勿論、それを避ける隙を与えてはならない。流れる様に、体の動きに不自然さを無くす。それだけで、相手はこちらの攻撃を何故か警戒しなくなるものだ。

「お前っ、何を………ひぃっがっ………ふっ!」

 もう一人の男は、仲間がすぐに戦えなくなったのを見て怯んだ。こういう輩はさらに対処が簡単だ。怯んでいるのだから、動きがぎこちない。

 固くなった体は容易く衝撃を全身に伝えてしまうというもの。例えば思いっ切り腹を叩けば、そのまま蹲ってしまう。これは意思云々ではどうしようもない。肉体の反射である。そうして。

「はい終わりっと」

「はぐっ」

 視界の下に見える後頭部に向けて鞘を振るう。そうしてそのまま倒れて動かなくなった。とりあえず命を奪うまでは行っていないと思うが。

 見れば喉を突いた男も、泡を吹いて倒れていた。青くなった顔を見るに、一時的呼吸困難で意識を飛ばしてしまったらしい。今はちゃんと息をしている。暫くすれば目を覚ますだろう。

「うん。まずは順調っと」

 思いの外、簡単に倒せてしまった。

最初の数は3人で、もう少してこずるかと思ったが、集団で戦うことに慣れていなくて助かったと言える。

 合わせようとしなければ、人間は自然と動く順番というものが出来てしまう。だからその順番を意識すれば、3対1の状況だとしても、実質1対1と変わらぬ動きができる。まして最初の一人を完全に虚を突く形で倒せたのは良かった。

 並みの人間なら、2人相手でも自分の方が圧倒的に有利だと言えるくらいに、剣の腕には自信があるのだから。

「さあって。それじゃあ暴れましょうか!」

 レイナラがここに来た理由。それは、この廃墟で暴れるためだった。勿論、御淑やかかつか弱い自分の様な女が、その様な事を思い付けるはずも無いのだが、ランディル、ミターニャの兄妹をなんとかするためには、そうする他無いという雇用主からの命令だから仕方ない。仕方ないのである。

「さあ! なんと! あんた達の組織に喧嘩売りに来た女がいるわよ! ちゃっちゃとなんとかしないとたいへーん!」

 思いっ切り大声でレイナラは叫んだ。ああ、気分が良い。やはり自分の天性は体を動かすことなのだ。

「………出て、来ないわね?」

 こう、廃墟の中からぞろぞろと強面が現れるかと思ったが、そうではない。となるとだ、やはり自分から踏み入らなければなるまい。

「…………」

 廃墟は元々、何か商業的な目的で建てられたものらしく、扉は開け放たれている。外からでも中が見え、奥にはカウンターがあった。

 そうして入口から真っ直ぐそのカウンターを目指すのが正しい向かい方らしい………が。

「うおらぁっ!!」

 入口の脇に隠れて、体格が良い男が何かを振り下ろしてくる。まあ、それが確認できたと言うことは、ちゃんとそういう奇襲があるのだろうなという予想が出来ていたからだ。

「ふん?」

 体を半歩だけ後退させて、男の振り下ろしから逃れる。どうにも棒の先端に石を巻き付けたものらしい。当たれば骨の一本や二本で済むまい。

 ただその分、振った時の反動は強く、生半可なものでは無いだろう。再度持ち上げるまでは数瞬どころか数秒掛かるだろうし、男の顔は相応の苦痛に歪んでいる。だからその顔を強く蹴った。

「ぐぶっ!!」

 蛙が潰れた様な音を口から漏らしながら、仰向けに倒れる男。

「他にはいない? いるわよね?」

 倒れた男を足蹴にしつつ、今度はちゃんと廃墟の中へと入って行く。さて、こちらの挑発に反応するかの様に、カウンターに隠れていた人影が立ち上がる。

 どうやら女だ。体は震え、何も握らぬ両手を上げていた。

「ひ、ひっ………助けっ………」

 怯え、自分は無抵抗な人種だと訴えて来る女。確かに、女そのものはこういう戦いに慣れた雰囲気は無いが。

「うーん。どうしよっかなあ。例えば、あなたの隣に隠れているその人? 出て来てくれるなら考えても良いかな?」

「え……?」

 女の目線が、ほんの少し、女の右斜め下へと向かう。その瞬間、レイナラは一気に走り出した。

 静から動へ、淀みなく、そして極限まで素早く移動できるのなら、それを目にする者には、まるで対象が突然、目の前に近づいた様に見えるはずだ。

「みーつけたー」

「ひっ……やめ……があっ!」

 女の横。まだカウンターの裏に隠れていた男へ、再度鞘を突く。顔面の鼻柱に向けての一撃だ。吹っ飛んだ男は、カウンターの向こうにあった棚へと勢い良く叩きつけられる。

 棚には陶器類が乗っていたが、それらが勢い良く落ちていて男の頭へとぶつかっていった。

 ガシャガシャとやかましい音が鳴り止む頃には、白目を剥いて棚にもたれ掛かる男と、手を挙げたままの女。

「あ、あんた。こんなことして、タダで済むと思ってるわけ!?」

 非常に恐そろしげな表情をして話す女。恐怖と怒り、それと混乱か。それくらいの感情を混ぜたらこういう表情になるのだろう。

 まあ、何時までも見ている物では無いため、叫ぶ女の腹に向けて拳を一発

「かひゅっ」

「タダで済まない状況にしたいのよねぇ。後何人くらいいるのかしら? これで最後ってわけでも無いんだけど」

「まったくだな」

 部屋にまた新たな男が現れる。いや、降りて来ると表現すべきだろう。どうやら廃墟の2階部分から降りて来たらしい。

 ゆったりとした服を着崩し、腰にはレイナラと良く似た長剣を帯びていた。長剣に対する体のバランスを見るに、それなりに腕が立つだろうことはわかる。

(それしても寒く無いのかしら?)

 動きやすい恰好を。というのは分かるのだが、対象の男はかなりの薄着。冬のこの季節では屋内だろうと酷く寒いだろうに。ましてやこの廃墟、隙間風はどことなりともありそうな。

「ええっと………何? 用心棒?」

 なんだか髪を長く伸ばしている男に尋ねる。格好をつけているつもりなのだろうか? だが、動くのに邪魔になりそうなほど良く伸びている。切れば良いのに。

「他人はそう呼だろうな。だが、私は自分を求道者と定義づけている」

「えっと、定義………ああ、まあ良いわ。とりあえずあれよね? 私とやりに来たわけよね?」

「ふっ………そう単純なことではないさ。お互い、剣と言う道を志す者と見た。つまりだ、今、この場においては敵、味方ではなく、ただ一介のおおおおお!!!? 貴様! 最後まで話を―――

「うっさいわねぇ! ちゃっちゃと気絶するなりなんなりしなさいよ! このナルシスト!」

 口が達者な男へと近づき、さっさと剣入りの鞘を振るう。さすがに不意打ちでも倒せるわけが無かったらしく、向こうは抜き身の長剣でこちらの剣を受け止めた。

「ナルシストではない! だから求道者とっ、ええい!」

 話すというのはそれだけで労力だ。戦いの中で言葉を発するのは、自分に戦うためのスイッチを押させるためか、そうでなければ敵を挑発するなりなんなりで思考を誘導させるために行うものなのだ。

 それ以外の、自己満足でしか無い言葉を発するというのなら、それは命賭けのナルシストと言って、何の間違いがあるというのか。

「ほらほら、腕の振りが遅いわよ!」

 この後に及んでも、レイナラは剣を鞘に納めたままに敵を叩く。剣は抜き身でこそ真価を発揮するのであり、そこに余分な物を付けていれば、剣としての機能が阻害されてしまう。

 ただでさえ鞘分の重さが余計に掛かっているのである。だと言うのに、存外、戦えている。

「はあっ!」

 まずは敵の肩を突く、敵が半身をズラしてそれを躱す。剣を戻さず、敵がズラした距離だけ半歩踏み込み、そのまま袈裟懸けに………しようとするも、敵の長剣に阻まれる。長剣はそのまま力押しでレイナラの剣を押し返そうとしてきたので、今度は体を後方へステップさせることで、その力から逃れる。

(体格と実際やりあってみるに、向こうの方が力は上。真正面からはさすがに不利か)

 だが、技能的にはこちらが上だろう。つまり絡め手が有効と見える。であるならば、まずは先手に虚を突くのが得策であった。しかし、残念ながらこちらが油断ならぬ相手であることを理解したのだろう。剣使いの男は、かなり警戒した様子でこちらを見ていた。

「ほう、どの流派の者かな?」

「言ったところでわかんの?」

 だいたい流派など、これぞという物はこの大陸にそれほど無いではないか。レイナラの剣術は確かに歴史あるものだが、それを答えたところで目の前の男が分かるとは思えない。

 そもそも、理解されたらこっちの手札をバラすことにもなるのだから、本当に意味が無い。

「然り。その通りだったな。我らは剣士。その持てる技術は、お互い、剣を合い合せることでのみ、理解を得られる」

 まあ、男の言う通りではあるのだが、彼のキザっぽい言い方は、同意という感情からレイナラを遠ざけてしまう。どうしてだろうか。

「んじゃあこっちの方は理解して貰えないのかしらね!」

 この廃墟。整備や掃除などこれっぽっちもされた形跡が無いため、酷く汚れていた。特に多いゴミが、床の破片。ひび割れた床板から零れた破片は、それなりの塊になってそこら中に散らばっている。

 レイナラはそれを蹴り上げた。

「貴様! その、卑怯な!」

 蹴り上げた破片は男の顔周辺に跳ね上がる。男は咄嗟に顔を庇うも、それこそレイナラの狙い目。

「こっちは命賭けてんのよ!!」

 顔を庇う動作のおかげで隙ができる。その隙を突き、レイナラは再度男へ接近、剣を振るう。

 しかして相手に攻撃を通す程の隙ではなかったらしい。こちらの剣は相手の剣によって阻まれ、また力比べへ。完全なそれへ移行する前に、また後方へ跳ぶ。しかして男が接近。今度は敵の刃をこちらが防ぐ。横へ薙ぐ様な一閃。こちらも剣入りの鞘の腹で受け止めるも、やはり力比べは不利。敵の剣の勢いに逆らわず、剣が振られる方向へ体を飛ばす。

 ほんの一瞬の浮遊感ののち、すぐに床へと着地する。安定した着地のために、自然と体を低く保とうとする姿勢になった。そのままレイナラは剣を持つ両手のうち、左手を離し、代わりに床に幾らでもある床板の破片を握る。

 やる事はさっきの繰り返し、目潰しである。当たれば目を潰せるし、避けられれば避けられた分だけ、隙を作ることができる。有利に戦える状況があるのなら、積極的にそうするべきなのだ。誇りなどどこぞに捨ててしまえ。

「あんた、あんまり実戦経験無いでしょう?」

「なんだと!?」

 再度、隙を突いた攻撃を防がれつつも、レイナラは男に囁く。暫しの鍔迫り合いの後、また離れ、行動を阻害し、その隙を突くを繰り返す。同じ手が何度も通じる時点でやはり経験が不足した相手であることがわかってしまう。

 確かに剣の練度はレイナラと同等くらい。腕力含めてならばレイナラより上かもしれないが、それだけだ。戦い方に幅が無い。そのうち、この目潰し攻撃に対応してくるだろうが、その間に、レイナラは次の一手の準備ができるのだ。

「げほっ、いい加減にしろぉ! 戦いと言う場を、どこまで汚せば気が済むのだ!」

「確かに、服、結構汚れちゃってるわねぇ?」

 目潰しのための破片を払っても、細々とした埃は服に掛かる。男の上半身は埃まみれで真っ白だった。

「じゃあ、そろそろ真面目にぶつかってあげましょうか?」

 レイナラは、そろそろボロボロになっていた剣の鞘から長剣を抜いた。鞘が引っ掛かって抜けなくなることが一番心配だったが、無事、抜き身のそれを晒すことができた。

 どうせ鞘は買い替えなければならないから、雑に捨てた。余計な重さになってしまう。

「なんのつもりかは知らないが、鞘を捨てたのは勝利を捨てたと見える」

 さすがにこちらがまともにぶつかるとは思っていないらしい。警戒心が漸く出て来たと言ったところか。ならば油断できぬ。

「鞘を捨てたら勝利も捨てるって、どういうこと?」

「鞘は剣を納めるもの。それを捨てるということは、生き残るつもりが無いということだ!」

「ふーん。抜き身のまま持ち歩けない人なのね、あなた」

「普通は剣を抜き身で持ち歩かん! っとおおお!!!」

 やはり話の最中で、レイナラは斬りかかった。こういう隙だらけの瞬間を見逃さない。まあ、受け止められたが。

「また小細工を弄するか?」

「とりあえず今は力押し!」

「ぬぅ!?」

 せり合いになるも、今度は逃げずに踏み込んだ。突進した勢いと隙を突いたことにより、一時はこちらが相手を押す形になるものの、それは体重と筋量というどうしようも無い差から、すぐにレイナラが押し返される形になってくる。

「まさか、本当に、真正面からとは。だが、やはりそれは、愚手だな」

 じりじりと、男の力が強くなってくる。さすがに向こうも必死なのか、冬だというのに汗を掻き、手も震えている。それにしたってレイナラよりは力は強い。

「愚手? どうかしら……ね。案外、こうする事自体も、作戦かも……よ?」

「どんな作戦だと、言うんだ?」

「そうね、そろそろだと、思うんだけど………」

 そうだ。そろそろ効果が出て来るはずなのだが、さて、もしそれが起こらなければ、些かこちらが不利になってくる。

 そういう類の賭けに命を捧げるのは少し厄介だなと思い、また別の作戦を考えようとしたその時、望む結果が現れてくれた。

「このっ………何!?」

 男の、力んだ手から剣がすっぽ抜けた。そうしてレイナラはその抜けた剣を自らの剣で部屋の隅へと弾いた。

 上半身が埃だらけだということは、その手とて汚れている。汗と床板の破片を払った際につく埃。それらは剣を強く握ろうとすればするほどに、上手く握り込めなくなる要因となる。

 レイナラもまったく同じ立場であるのだが、この状況を狙っていたため、適宜、目潰しを放つと同時に、剣を握る手を拭いていた。それを気付かせないための目潰しでもあったのだ。

「最後に良いこと教えてあげる。真正面から挑む時は、勝てる算段が付いてからにしなさい。腕の競い合いなんてできるのは、試合くらいよ?」

「ぐぅっ………」

 がら空きになった相手の腹部に、剣の腹を叩きつける。そうしてよろついたところを、さらに頭へ一撃。剣使いの男はそれで昏倒して倒れた。

「とりあえずは………ふん?」

 どうしようかと算段する。まずは自分の疲労度を確認。今の相手と同じくらいの力量の相手がいたとして、もう一度相手にするのはかなり厳しいだろうか。

 一方で素人相手ならばあと何度かと言ったところ。既に誰もいなくなった1階部分を見渡し、まだ足りぬかなと考えてから、レイナラは2階部分へと上ることにした。




 レイナラは廃墟の2階部分へと上って行く。そこに何が待ち受けているかは心配だが、それよりまず、こういう場所であれば足元を注意しなければなるまい。

 いつ何時、床ごと自分が落ちるとも知れぬのだ。まあ、表面の壁紙や床板などはボロボロであるが、芯はしっかりした石づくりのため、そう簡単に床が抜ける可能性は薄いだろう。

「普段からそこで活動する人間がいるとなれば尚更よね? だったらだったで、掃除くらいすべきだけど。それとも、そんな真っ当な仕事をする人間すらいない?」

「清掃役くらいは決めてるんだが、まともにやる奴が少ないのは事実だな」

 誰に向けたわけでもないレイナラの言葉に、返答する人間がいる。その人間は初老の男であり、2階部分の中央に、建物に不釣り合いなくらいの豪華なソファーに座っていた。

 2階部分は完全に居住区として使われているのだろうか。1階よりかは家具などが少なく、広々としている。そんな場所にいるこの男はなんだ。

「………もしかして、ここの管理人?」

「ギルド長と呼んで欲しいがね」

「ギルド? そんなものがこの場所のどこにあるっていうのよ」

 職人の互助会なんて場所ではないだろう。この廃墟は。弱者を糧にして生き延びようとする集団の一つに過ぎないはずだ。

「職業斡旋ギルドだよ。さらにうちで技術を教え込んだりもする。まったくもって真っ当さ」

「だったら、わざわざ武器もった連中を横に侍らせているのは、何の現れなのかしらね?」

 初老の男。恐らく組織の長であろうその男の両隣には、強面の男が3人ほど、大きなはずのソファーにも座らず、立ってこちらを睨んでいた。体格も良いというか筋肉が服の上からでも分かるくらいに盛り上がっているため、部屋が暑苦しくかつ狭苦しく感じてしまう。

(というか、良いもん食ってるみたいね。ちくしょう)

 なんというかこういう組織の構成員は、トップ層以外はみんな飢えている奴らだと思っていた。それとも、あの筋肉達磨どもが組織の幹部なのか?

「彼らはうちの組織の営業役兼接待役だ。客人を持て成すためにここで待機して貰っていたのだよ。なんとまあ、うちの組織の上位層そろい踏みだ。このような事、組織の方針決定会議の時ですら珍しい」

 ああ、やはりこいつらがこの組織を牛耳っている存在らしい。見たところそれほど大規模では無いだろうから、彼らを何とかしてしまえば、この組織はガタガタになると思われる。

「で、そんな人達が私を迎撃に来てくれたわけね」

「まあそんなところであるが、これから血みどろになる前に聞いておきたい。何故、うちの組織に乗り込んできた? どこぞの縄張りを荒らした覚えは無いんだが………」

 なるほど。どうやら相手はレイナラを対抗組織が送り込んできた殺し屋か何かだと思っているらしい。

「うーん。どちらかと言えば、私個人の琴線に触れちゃった感じ?」

「さもありなん。偶にそういうやからがいる。無駄に正義感溢れる奴がな。まあ、そういうのなら手っ取り早い。潰せば良いだけだ」

「そう簡単に行くかしら? 一階の連中、全部のしちゃったわけよ? 私」

 あまり自分の力を見縊られるというのは、良い気はしないものだ。多少なりとも警戒してくれなければ、面目が立たないではないか。

「ここにいる彼らは、1階にいた誰よりも強い。いや、例外は一人いたが………確かウィックくんが1階に向かったが、かち合ったかね?」

「ウィックくん………あの剣を持った奴のこと?」

「そうだよ。彼は我が組織四天王が一人。疾風のウィック」

「あ、ああ……そう………」

 なんとも大層な名前だが、何かこの場では酷く不釣り合いな様な。

「俺は怪力のジョー!」

「私はそそり立つ壁、イージマン!」

「そして……最後………異次元のレンリン」

「彼ら3人。ウィックくんと同程度か、それ以上の強者だ。見たところウィックくん一人にてこずっていた君に、彼らを相手にすることができるのかね?」

 ふふふと4人で笑う男達。その姿を見て、レイナラは溜息を吐いた。もう良い。もうたくさんだ。

「こういう馬鹿らしいことする奴らに、人生狂わされる人もいるって思うと、腹立ちと呆れの感情が生まれちゃうのよねぇ」

「なんだと?」

 若干、初老の男を苛立たせることができたらしい。表情を怒りに歪ませてこちらを見ている。まあ、今はこの表情を引き出せたということで溜飲を下げて置きたい。何故なら。

「あのねぇ。もうちょっと、そういう説明はちゃんとした場で言った方が良いわよ」

「ちゃんとした場? 何を言っている」

「逃げ場を防いでからじゃないと、相手はちゃっちゃと逃げ出しちゃうってこと!」

 そう吐き捨てて、レイナラはさっきまで上った階段を、今度は走り降りて行った。


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