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北風の道  作者: きーち
第十一章 雪降る町でのこんにちは
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第四話 ちょっと考えてみよう

 『ホットドリンク』。酒場のある一階へと降りて行くレイナラ。そこで待っていたのは知人では無く、見知らぬ男だった。

 薄汚れた服の男だ。茶色がかった髪も髭も、伸びればとりあえず切り落とすを繰り返しているのだろう、ぼさぼさである。

「何?」

 酒場へと降りた先、そのすぐの場所に立っている男は、明らかにレイナラを見ていた。というか行く先を塞いでいる。店主が何も言わないところを見るに、この男がレイナラに会いに来たという客人なのだろう。

 あまり会いたくない人種の見た目をしているが。

「………ランディルの奴は上か?」

「いないわ」

「おい」

 どうやらレイナラというより、あの兄妹に用があったらしい。

 無論、この様な外見の男は怪しいと相場は決まっているので、兄妹などここにはいないと伝えようとするも、店主にツッコまれてしまった。まったく、空気の読めない奴だ。

「実はいるの。ただし何の用かを先に話しなさいな。でないと、絶対にここを通さないから」

「あんたがランディルの面倒を見てるかどうか確認したい。最近、あの兄妹に近づく女がいると聞いてな。それがあんたか?」

「なんかそういう言い方されると、私は変質者みたいに表現されてるけど、面倒を見ているのは本当。ちょっと剣を教えて欲しいって妹さんの方に頼まれてね」

「ほう剣を………どんなもんだ」

「なんで答えなきゃいけないの?」

 質問になんでも答えると思ったら大間違いだ。こうやって話をしている時点でかなりの譲歩だというのに。

「俺が、あの兄妹の一応の保護者だから。それが理由にはならないか」

「保護者? ああ、つまりスリの………」

 親が現れたとは考えない。一度捨てた子どもに怪しい人間が近づいて来たのを見て、わざわざ心配しに来る様な親なら、そもそも子どもを捨てぬし、幾らなんでも行動が早すぎる。

 ならば現在、あの兄妹を雇用していると表現すべきなのかは知らぬが、そういう関係の人間が来たと考えるのが筋だろう。兄妹の兄の方にスリの技術を教えたという人間。

「そういうこった」

「で、だから何なの? 結構な放任主義だって聞いてるけど。私が剣を教えているのがそんなに不服?」

「んなこたあ無いさ。好きにすりゃあ良い。あの兄妹が組織に儲けの上前を渡してる限り、俺が口を挟む余地なんざないね。ただ………」

「それが滞ってるからって問題かしら」

「話が早くて助かるじゃねえか」

 あの兄妹はこの吹雪の中、泊まる場所さえ用意できない有様だったのだ。スリの仕事が上手く行ってないのだろう。

 結果、この目の前の男が所属しているだろう組織へ、渡すべき金銭を用意できない状態になってしまった。

 用意できないものは用意できないのだから、あんな子どもから取り立てなど不可能な話であるはずだが、恐らく事情が変わったと考えているのだろう。

「あんた、あの兄妹に同情でもしたんじゃあねえのかい?」

「………だったらどうだって言うの? 言われた通り好きにしてるんだけど」

「面倒見るなら最後までしなって話でね。あんた、あの兄妹が抱える負債を払うつもりはあるかい?」

 つまりは、こういう魂胆があるのだろう。兄妹が金銭を払えなくても、それに同情した大人が代わりに払う。組織としては金が入ってくるのだからそれで構わないと言ったところか。

「…………その負債って言うのは、いくらなの?」

 別に、あの兄妹の保護者になったつもりは無い。無いのであるが、少しばかり気にはなるので、男に聞いてみることにした。

「ざっとこんなもんだな」

「………桁間違ってないかしら?」

 男が手で示した額。それはレイナラが月に貰う報酬どころか、年額のそれを優に超えていた。

「おおっと、こいつは失礼。あいつら自身の値段を提示しちまったな!」

「あの子達自身? 別のあの子達はあなた達の奴隷でも何でも無いはずだけど?」

「あいつらの教育代と、これから稼いでくれるだろう金の額を考えれば、これくらいが妥当だろう? 妹の方なんか、良くみれば将来有望だぜ?」

 下卑た笑いを浮かべる男。クソッタレがと口にしたくなってしまう。何がこれから稼ぐだ。今日、もしかしたらあの兄妹は死んでいたのかもしれないのだぞ?

(それを見捨てた様な男が将来の事なんて言葉にするなってのよ!)

 内心では怒りながらも、まだなんとかそれを抑え付ける。あの兄妹の、本当の未来が掛かっている。そういう話のはずだ。だから慎重に事を運ばなければならない。

「それにしたって随分と高いのね」

「だったら、せめて月々の面倒代だけでも払うんだな。それだったらあんたでも払えるんじゃあねえのかい? 見た所上玉だ。金を稼ぐ方法なんていくらでもあるんだろう?」

 我慢しろレイナラ。自分の女としての部分を侮辱されたからと言って、ここで話をご破算にすれば意味が無い。それに良かったではないか。ランディルが義理を感じているらしい男が、それほどの人格者で無いということがわかって。むしろ下種の方が、あの兄妹を無理矢理彼らから引き離せる。

「御託は良いから、さっさとその面倒代とやらについて話なさい。私、それほど気が長い方じゃないの」

 睨み付ける様に、というか、実際に睨みながら話すレイナラ。しかし男は余裕の表情を浮かべたままであった。

「そうさな。負けに負けて、これくらいってところか」

「あんたねぇっ!!!」

 我慢が効かず、レイナラは怒声を上げた。男が今度提示した額は、レイナラが月に貰う報酬の半分ほど。

 払えない額ではないが、こちらが稼げる金を推測して、搾り取れるだけ搾るつもりなのだと言うことが容易くわかる。

 ここまで来たら舐められてたまるかという気持ちが勝るというもの。レイナラは腰に帯びた剣の柄へ勢いのままに手を置く。

「おいおいおいおい。うちの店で刃傷沙汰は勘弁だぜ、レイナラ!」

 と、そこで店主に止められた。言われて咄嗟に柄から手を離す。確かにこの場で斬ったはったをするのは得策ではあるまい。

 だからと言って怒りが収まるかと言えばそうでもないが。

「あんまり勝手気ままにほざかない方が良いわよ? どう考えたって不法なことをしているのはそっちなんだから」

「だったらなんなんだ? そういう場所でしか生きて行けないから、あの兄妹はああなってるんだろうが」

「………」

 男の返答に対して、睨むことしかできないレイナラ。癪であるが、ここで目の前の男を切り捨てることが出来たとして、そこから何か発展はあるとは思えなかった。

(この男が消えたところで、あの二人が真っ当に生きられる様にはならない………)

 レイナラがずっとあの兄妹を養うこともできないだろう。そんな余裕は、レイナラもさすがに無かった。

 足抜けさせることもできぬ。面倒を完全に見ることもできない。男の言う通り、自分がどうしたって、あの兄妹を真に助ける事などできるはずも無い。

「まあ、今すぐ答えろって話でもねえよ。だが、あの兄妹をどうするのかはきっちり考えときな。見捨てることも含めてよ」

 そんな憎らしい言葉を残して、男はレイナラに背を向けた。

 その背中を蹴ってやりたい衝動に駆られるものの、なんとかそれも抑えるレイナラ。そんな頑張りが、レイナラができる唯一の行動だったから。

「………ったく。ひやひやさせやがって。これはいらん忠告かもしれんが、やっぱり、あの兄妹からは手を引いた方が良いぞ。このままじゃあ、あんたまで食い物にされる」

「………」

 胸を撫で下ろしてから、店主がレイナラへと告げる。確かに彼の言う通りだった。このままでは、にっちもさっちも行かないことは目に見えているのだ。

 背負えない責任を背負ってしまえば、何時かレイナラ自身が潰れてしまう。そういう心配のある忠告だけに、反論などできぬままのレイナラ。

(ほんとうに………クソッタレだわ)

 自分自身を罵倒にするように心で思うレイナラは、無意識に自分の唇を強く噛んでいた。




 吹雪が続いた日から一夜明けたその日は、ルッドにとっては驚きのそれで幕が開けた。

「うーん。あー、その。まずは顔を上げてくださいよ…………」

 さて雪かきでもしようかと社を出たルッドを待ち受けていたもの。それは、レイナラ・ラグドリンが頭を下げた姿であった。

「いいえ。とりあえず話を聞いてくれるまではあげないつもりよ」

「頭を下げる側なのに態度デカいですね!?」

 レイナラの様子に戸惑うというか、何が目当てだと警戒するルッド。給料を上げてくれという話であれば、地の底まで交渉をし続けるつもりだぞ。賃上げなぞさせてなるものか。

「どうしても聞いて欲しいことがあるの。多分、私の進退に関わる話」

「進退に関わるですか?」

 やっぱり賃上げ交渉か。とりあえず身構えてみるルッド。敵は何も外ばかりに居るのではない。同じ仲間、共に仕事をする相手だったとしても、商売人として時には戦わなければならぬ時があるのだ。

「ええ。私と………子どもが二人の人生が掛かってる」

「例え報酬が不足していると言っても、うちとしてはまだ余裕の無い経営でありますから、そう簡単に上げるのは………って、子ども二人!?」

 なんだそれは。つまりあれか。まさか身ごもったというのか。しかも二人ということは双子!? 賃金管理がきっちりした商業組織は、そういった扶養している子どもの数によっても、報酬の過多を決めると聞いているが、うちもそういう段階に来ているということなのか。

「ああ、ちょっと待って。なんだか勘違いしてそうだから言っておくけど、私の子どもじゃないから。とりあえず話を聞いてちょうだい」

「あ、なんだ。そうなんですか………って、レイナラさんがいきなり頭を下げてくるから、こっちが凄い勘違いをしたんでしょう!?」

 まったく。ややこしい振る舞いもほどほどにして欲しいところだ。それにしても、いったい彼女はルッドに何を要求するつもりなのだろうか。というか、実の子どもでないとすれば、彼女が言う二人の子どもとはいったい。

「とりあえず何から話せば良いか………この前、スリに遭った話をしたじゃない?」

「ああ、ありましたね。そう言えば」

 そうしてレイナラは二人の子ども。ランディルとミターニャの兄妹についての話を始めた。彼女が気まぐれに近い形で剣の使い方を妹の方に教え始め、ついにはいろいろと感情移入する様になったその過程を。

「…………それで。僕に頼みっていうのはどういうものなんです?」

 もし、彼女が金銭の工面であったり、その兄妹を引き取って欲しいなどと言うつもりだったのなら、断るつもりのルッド。

 そりゃあ同情すべき点は多分にあるし、レイナラの感情もある程度はわかるつもりだ。だが情だけで動けるほどにルッドは万能でもなければ聖人でもない。

 すでにルッドはやらねばならぬことを決めていた。それ以上を背負い込めというのならば、相応の理由が必要なのである。

 レイナラがこちらに頼むであろう物事に対して、ルッドが適していると考える理由は無いと思っていたのだが。

「分からないのよ…………」

「分からないって………え?」

 またとんでもない返答が来たものである。何を頼むか分かっていないというのに、わざわざルッドに頭を下げに来たというのか。

「本当に、分からないの。どうして良いか分からない。少しでも何か、状況を良くしたいと思ってるのに。そこから先が行き止まりで、引き返さなきゃどうしようも無いのに、引き返したくないって思ってる自分がいて………」

「ストップ! ストーップ! 分かりましたよ! 分かりました! レイナラさんが何を伝えたいのかはなんとなく分かりましたから、それ以上言葉を口にしないでください。お互い、どんどん混乱してくる」

 頭を掻きながら、どうしたもんかとルッドは考える。レイナラがルッドに伝えたいこと。それは彼女自身に無い発想をルッドに求めるということなのだ。

(ある意味じゃあ正しいことだと思うんだけどさ)

 自分ではできないから人を頼る。当たり前の行動だとルッドは思う。というか、そういう場面以外で人を頼るのだとしたら、それは不純な行為であろう。

 ただし、その頼みを聞き入れられるかどうかはまた別問題でもある。

「レイナラさんは、ランディルくんとミターニャちゃんでしたっけ? その二人の生活を向上させたいってことを望んでいる?」

「そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれない………そういう簡単な言葉にされると何か違うというか」

「安直な表現だとは僕も思いますよ? ただ、やるべきことはそれだと思います。その兄妹二人の一番の問題は生活が困窮してるってことですから」

 だからこそ路頭に迷ったり、暗い組織の末端となってしまったのだ。ならば、兄妹の問題を解決するには、その二人がなんとかしてさらなる生活力を手に入れることが重要なのだとルッドは考える。

「けど、そんなことを考えるのは僕らみたいな人間じゃあない。国とか領主とか、そういった人種が、町の治安を良くする際に考えるべき事だと思います」

 だから話はこれで終わる。その兄妹には申し訳ないがそういうことであろう。レイナラはどうすれば良いのか分からないと言った。だが、事実はそうではあるまい。どうしようも無いのだから、分からないのは当たり前なのである。

「…………そうよね。そういう答えが返ってくるって、予想はしてた」

 下げていた頭はとっくに上げているものの、今、この瞬間になって、彼女が精神的にもルッドに頭を下げるのを止めたのが分かった。

 何故だろうか。そのことが、ルッドには少々癪に障った。

「私も馬鹿みたいよね。自分で勝手に作った問題を、無関係の、それも雇用主になんとかして欲しいなんて…………」

 癪に障ったのは、多分、自分を軽く見られたからだとルッドは思う。確かにレイナラの頼みは滅茶苦茶で筋の通らぬ物であろう。しかし、そんな頼みだからと言って、社員が真の底から悩んでいる姿を、許容できる人間だと思っているのか。

「僕にとっては他人事ですけど。上手いやり方ならありますよ。もし、僕が当事者だったら、こうしようって手がね」

「手って、どういうこと!?」

 さっそく食いついてきた。いや、まあ、素直に教えるのも何だから、こうやって遠回しな言い方になっているのだから、こういう反応をしてくれなければこちらが困る。

「話半分で聞いて欲しいんですけど、やっぱり根本には、怪しい仕事をしているって点が問題なんだと思うんですよ」

「スリなんて仕事、まともじゃあないものね………けど」

「いくら子どもったって、小間使いの仕事や、孤児院なんかで施しを貰ったり、そういうまだまっとうに生きる手段があるはずなんですよ。それができないって言うのは、それを頼るツテが無く、そこをあくどい組織に付け込まれたって言うのが実情でしょう?」

「それは…………そうよね」

 問題が物理的な部分にあるので無く、知識の部分にあるとしたら、その部分については幾らでも手の貸し用がある。

「ぶっちゃけ、今のレイナラさんだってできることだと思いますよ。生活費の稼ぎ方くらい、幾らか知ってるか、知ってそうな人との繋がりくらいありますよね?」

「まあこれでも図太くは生きてるから…………けど、やっぱりそれで問題が全部解決するとは思えない」

「勿論です。一番厄介な問題が残ってる。多分、レイナラさんが悩んでるのはそこなんじゃないですか? その兄妹。悪い組織に両足突っ込んで抜け出せないでいる。一方で、その組織が存在する限り、兄妹に幸福な未来がやってこないだろう。そんな風に考えている」

 例えば、今から兄妹が真っ当な職に就けたところで、必ず現在の組織に所属していたという経歴が足かせになる。というより、そう簡単に真っ当に戻られては、その組織が困るのだ。

(他人様が希望に満ち溢れていては、非合法組織が困るんだ)

 誰彼かまわず幸福で建設的な人生を送れることを喜ぶのは真っ当な組織であろう。いや、真っ当な組織でも少ない。

 誰かが不幸であらねば困るのが大半の組織であり、できれば不幸な人間は多い方が良いと考えるからこその非合法組織なのだ。

「いろいろと口にするけれど、じゃあどうするって言うのよ。そっちに関しては何にも案が無いとか言うんじゃあないでしょうね?」

「凄く単純な話です。邪魔なら潰せば良い」

「はぁ!?」

 驚かれるかもしれないが、一番適切な対処だと思う。そういう組織というのは性根からして厄介この上ない存在であるから、根本から処置をしないことには、どうやったって関係者に悪影響を与えてくる。

「その兄妹を、本当の意味で正道に戻そうとするのであれば、はっきり言ってそんな組織は根本から無くす必要がある。当たり前の理屈だと思いますけど?」

「当たり前だけど、無理なこと言ってるわよ? あなた?」

「そうですかね? どうして無理だって思うんです?」

 多分それは、組織と聞いて、得体の知れない物を思い浮かべているからだと思う。ドラゴンや巨人など、そんな幻想的な怪物たちと同様の印象を、単なる人の集まりであるはずの組織に覚えているのである。

 だが、冷静に、そして細かに観察することができるならば、ちゃんと分かるのだ。組織なんて言っても、それを構成しているのは人間個人個人であると。

 付け入る隙はいくらでもあるのだ。

「でもよ? 言ってみれば私はほら、たった一人よ? その組織を潰すのだって、もしするなら一人でするしかない。まさか、そこまであなたの力を借りるわけにはいかないもの」

 もっともだ。レイナラが始めようとしている喧嘩に、彼女以外を巻き込むというのは、筋の通らない話であろうとも。

 だが、である。元々、ルッド個人の癪に障るという思いから始めた、ブラフガ党との戦いへ、先にレイナラを巻き込んだのはルッドの方なのだ。ここでレイナラに手を貸さなければ、今度はルッド側の筋が通らなくなる。

「とりあえず貸せるものなら貸しますよ。僕の領分であるならね」

「ちょっと、本気で言ってる?」

「ええ。傍から見てもひたすらに面倒な事ですけれど、僕にデメリットだけの話じゃあない」

「どういうこと?」

 さっぱり分からぬと言った様子のレイナラ。そんな彼女に、ルッドは似合わぬウインクを返した。

「まあ、詳しい話は中で話しましょうか。ちょっと表立って話せる内容じゃあありませんので」

 とっても薄暗い話をこれからしよう。そうして、まずはレイナラの覚悟を確認しておかなければ。

 その兄妹にどれだけの事を賭けられるか。今回、ルッドが考える作戦は、そこに掛かっているのだ。




 次の日。そう、たった次の日で、レイナラはそこへ向かうことになった。作戦は迅速さこそ寛容。作戦を決行する相手に考える隙を与えてはいけない。そういうものらしいが。

「な、なんだ……あんた。まさか自分から来るなんてな。あれ? 俺、ここの場所………教えてたか?」

 レイナラの目の前にいる男。一昨日、あの兄妹を『ホットドリンク』の宿へと泊めた際、やってきた下品な男だ。

 ランディルとミターニャ兄妹の保護者らしいが、この男は犯罪的なそれしか教えなかった。そうして、さらにあの兄妹をダシに金を引き出そうと考えている。

 そんな男であるが、レイナラがここへやってきた事について戸惑っているそうだ。

「ちょっと情報通の知り合いが居てね。あなた達の本拠地って言うの? 調べれば多分すぐだからって調べてくれたのよね」

 ルッドの事である。本当に素早いことこの上無いと思う。なんでも、ホロヘイ内のそういう組織の拠点となっている場所は、だいたい頭に入っているそうで、あの兄妹がスリをしていた場所を縄張りとして推測するのなら、ここしかないと言ってきた。

 周囲を建物で囲まれ、日差しが差し込まぬ一画。そこに3階建てくらいの廃墟があった。こここそが、あの兄妹みたいな子どもに訓練をしている組織の拠点だと言う。

 最初はそんなすぐ判明するものかと疑心暗鬼のレイナラであったが、実際、目の前の男がいたので驚く。推測によるものだというのはわかるのだが、こうやって当たると、超能力か何かかとしか思えなかった。

「で? 自分からやってくるほど、そんなに払いたいのかい? あの兄妹の面倒代をよ?」

「そうね。是非とも払いたいわね。というわけでさっそく、ぶん殴られてちょうだいな」

「へ?」

 レイナラは男に言葉を向けた後、ついでとばかりに、鞘に収まったままの剣を振るう。鞘は革でできているが、中身は金属の塊。それで頭をぶんなぐれば気絶もしよう。当たり所が悪ければ死にもする。

 そんな一撃を、レイナラは振るったのだった。


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