第十話 言葉の押し売り
「おやまあ。坊やは歴史家か何かだったのかい?」
ドワーフの顛末を知りたいと口にしたルッドに対して、ナハルカン・ルナーは大した動揺も見せずに、そう答えた。
「………異種族に興味を持っていることは事実ですね。ただしそれは何も歴史に限った話じゃあない」
「既に滅んだ種族について聞きたいっていうのは、歴史を学ぶことと同じさ」
さて、それはどうだろうか。ルッドは考える。このルナー一族がドワーフ族の血を引き継いでいるというのなら。そうして、このナハルカンの態度を見るのであるならば。さらに、この時期になってルナー一族が行動を始めたというなら…………。そこで行き着く答えが一つ。
「滅んでいないから問題なんですよ。僕はね、知っています。ドワーフ族がまだ少なくとも一人、この大陸で生きているという事実を」
そうだ。会ってこそいないものの、情報としてそのことを知っていた。それを思い出したのも、胸に飾る跳ね石を貰った後のことであった。
何故、自分はそんな大事なことを忘れていたのか。思い出せない方がおかしいのだ。以前、オークが住むという森の中で、自分はそのオーク達の長と出会った。そうして彼は告げたのだ。
「この大陸で暗躍しているブラフガ党。その党主はドワーフだそうですね」
「………あらあら」
やっと、ナハルカンの表情を崩すことができた。だが、それはわずかなところであろう。相手に動揺を与えるほどのものですらない。ただ、こちらに対する興味だけは持った。そんなところだろうか。
「知る限り、生き残った唯一のドワーフです。となれば、あなた方とも無関係では無いかもしれない。だってあなた達は、ドワーフから人間化した、元異種族なんですから」
「おい、お前―――
「オンブルト、少し黙ってなさいな」
オンブルトが口を挟もうとするも、ナハルカンに制止される。ナハルカンの方は、既に覚悟と言えば良いのか、ルッドがどのような言葉を発しても、受け入れるつもりでいるのだろう。
受け入れて、反撃をするつもりなのだ。逆にこちらが何者かを探るために。
「ええ、そうだねぇ。確かにそう。少し調べればわかることだから認めるよ? 私のご先祖様はドワーフだったんだ。今の私達はそうじゃあない。けれど、ずっとその誇りは持って来たつもりさ」
そうか。ナハルカンの威圧感。その正体の一端が見えた気がする。彼女は曲がりなりにも、一種族を背負っているつもりなのだ。
既にその身は人間なれど、滅びたドワーフ族の歴史を担っている。
「で、そんな私達がどうして、そのブラフガ党? それと関わりがあるなんて思っているのさ」
元ドワーフ族であることは認めるが、ブラフガ党との関わりは認めないという態度を取るナハルカン。
(じゃあ、なんでドワーフ族であることを隠したかって話さ)
ルッドが考えるに、彼らがついさっきまでドワーフ族であることを隠していたのは、彼らとブラフガ党の繋がりを隠すためだったのではないだろうか。
(そうして、ブラフガ党が関わっているとしたら、ルナー一族の動きだって、ある種の兆候かも………)
それがルッドにとっての嫌な予感であった。こんな観光地で偶然関わった事柄が、思いの外、大事になるかもしれない。
「となると、ブラフガ党の党首がドワーフであるという事も初耳ですか?」
話を続けなければならない。偶然関わった事件であるからこそ、これをチャンスとして見ることも、できるはずなのだから。
(今ここで、僕がこうやってルナー一族に接触しているのは、誰にも予想できないことのはずだ。だって、僕自身が予想していなかったんだもの)
単なる偶然こそが武器になる。誰もが知らない自分だけの武器だ。今回の交渉を成功させ、何らかの利を手に入れられたらの話ではなるが。
「知らないねぇ………それが本当だったとしたら、こっちは驚きだよ。まったく、まだ生きているドワーフ様がいるなんて……是非に会いたいものさ」
「ドワーフ様……ですか」
「うん?」
ナハルカンの言葉に違和感を覚えたルッドは、そこをつつくことにする。積極的に行かなければ押し負ける。今回の交渉はそういう類のものだ。
「普通、種族に様なんてつけませんよね。人間を人間様なんて呼び方はしない。なのにそう呼ぶのは、明確にドワーフという種族に敬意を抱いている以外は無いんじゃないですかね」
「前にも言ったろう? 私達はドワーフ族に仕える一族だったのさ。だったら、ドワーフ様って呼んでもおかしいことは無いんじゃあないかい?」
「どうでしょうね。既にそれはちょっと意味が違うってことになったはずですよ。なにせ、ドワーフに仕えていた一族じゃなく、元ドワーフだってことが判明したわけですからね?」
あくまでルナー一族とは、ドワーフ族の一部であったはずなのだ。だから、そこにドワーフを様付けで呼ぶ理由は無いはず。あるとすれば、それは、今のドワーフに対する敬意………。
(そうだ。ブラフガ党を抜きにしても、ルナー一族は今を生きているドワーフ個人に仕えているか、もしくは従っている立場なんじゃあないのか? だからこそ、その支配者側たるドワーフを指してドワーフ様と呼んだ………)
だが、どうやってその情報を引き出すか。それが問題だった。なにせ今のルッドは、化けの皮を剥がされた状態なのである。
今、こうやって会話をしているのは、あくまで相手側の、こちらを探りたいという好奇心のおかげであろう。その好奇心が途切れれば、良くて追い出さられるか、最悪の場合、ここで口封じなどされてもおかしくはあるまい。
「で、どうするんだい? 私が関係無いと言っても、坊やはブラフガ党とやらと私達に繋がりがあると疑い続けるんだろう? だったら平行線だねぇ。話なんてできる状況じゃあない」
このまま話を切り上げる気か。それは問題であろう。何せルッドは今のところ、自分の予想がある程度当たったという認識しか得ることはできておらず、さらにそこから、新たなる情報を引き出さなければ、わざわざ足を運んだ意味が無くなってしまうのだ。
「あなた達とブラフガ党を繋ぐ、証拠があると言ったら?」
「なんだって?」
なんとか、相手の興味を惹ける話題へと繋いだルッド。まだ会話を続ける気にはなってくれた様だが。
(どうしようか。そんな証拠なんて僕には無いぞ?)
口からの出任せである。場を繋ぐためだったとは言え、失策だったかとほぞを噛むルッドであるが、口に出してしまった以上は二の句に繋ぐ。
「ブラフガ党には、その象徴にホーンドラゴンの刺繍だったりを使っているとか?」
「さて、初耳だよ。そうなのかい?」
動揺であったり、逡巡した姿を見せてくれれば良いもののと思うルッド。だが、そうそう上手く行く話もあるまい。
「ふむ。初耳と言いましたか」
「だったら変かい?」
「ホーンドラゴンについても?」
「ああ。なんだい? そのホーンなんとかって言うのは」
ナハルカンは尚も知らぬフリをする。このフリが上手くても下手であっても、彼女が動揺を示さぬ限りは、そこから新たな進展は無いと考えて良いだろう。そうして彼女は、そんな隙を見せてくれるほど甘くはあるまい。
(考えろよ………僕。相手に弱点が見つからない場合は……どうする?)
答えはすぐに見つかる。というか、すぐに見つけなければ交渉などできない。
「変な話ですよ……それは。確かにブラフガ党とは関係ないと言えるかもしれませんが、ホーンドラゴンを知らないなんて………」
「どうしてそんなことを坊やが言えるんだい?」
「だってそうでしょう? 家に入った時の玄関で、オンブルトさんが見ていたあの絵、あれは間違いなく―――
「待て、そんなものがあるわけが…………!!」
対象に弱点が無ければ、他から探せば良い。オンブルトが声を放ち、自分の失策に途中で気が付いたのだろう。最後まで言葉を口にすることは無かった。だがそれで良いのだ。
「無いなんてどうしてわかりました? ホーンドラゴン……知らないんですよね? だったら、そんな絵があったとして、それがホーンドラゴンであることも分からないわけです」
オンブルトの失言を、殊更に強調していくルッド。ナハルカンはこういった交渉事に対する経験や能力が高いのだろう。だからルッドとて隙を突くことはできなかったが、そうでは無いオンブルトを、この場に残したままだったのは、ナハルカンの失策である。
その失敗を見逃さず、ルッドはさらに話を広げていく。
「さて、こんなもんでどうですかね? もし、さらなる証拠が欲しいって言うのなら、今からさらに“作り”ますが」
幾らでも、会話の中からブラフガ党との繋がりを引き出してみせると嘯くルッド。勿論、そんな上手い話は無いのであるが、そこはそれ、できる自分を演出するのも、交渉時には必要なことだろうさ。
「はぁ………慈悲のつもりだったんだけどねぇ。オンブルト。出て行きなさい」
「母さん………」
「良いから早く。この坊やと、一対一で話したくなったんだよ。そのためには、あんたは邪魔なんだ。良いね?」
ナハルカンにそう言われては、反論できる立場に無いのだろう。オンブルトはそのまますごすごと部屋を出ていった。大分心残りがある仕草であったが。
(僕なんて、恨まれなければ良いけど………)
逆恨みなんてものですらない。彼の顔に泥を塗ったのだから、それくらいの感情。向けられる道理があるだろう。だからと言って後悔するつもりは無かった。
「で、交渉開始ってことで良いんですかね?」
「交渉? 生ぬるい考えだねぇ?」
ナハルカンの視線が、より一層鋭くなる。背筋に震えが来そうなそれであるが、ルッドは薄笑いを崩さなかった。余裕こそが大切だ。実際にそんなものが無くたって、見栄えを良くしていけば、度胸というものが手に入る。
「交渉が生ぬるいとなると、殴り合いでもするんですか?」
「近いね」
「へえ」
ベッドで上半身だけを起こしたナハルカンの様な老婆が、実力行為に出られる様には思えないのだが、それができてしまいそうな雰囲気は確かにあった。
「さっき慈悲のつもりだったと言ったけどねぇ。あれは坊やに向けたものだって気が付いたかい?」
「なんとなくは………ですかね」
手加減をするつもりは無くなったという意思表示。そういう類の言葉であると受け取った。だからこそナハルカンが恐ろしく、それでいてルッドの心を熱くさせる。
正念場に立った自分は、意外にもそんな状況を楽しむ性質であったのだ。
「だったら、分かるはずさ。これから私がするのは尋問に近いそれ。だってそうだろう? 坊やが言う通り、私達がブラフガ党の関係者だって言うのなら、私はそれなりに薄暗い存在なんだからさ?」
社会の裏側に生きる者。ナハルカンはどうやらそちら側らしい。だが、そんなそちら側の人間とだって、ルッドはこれまで何度か交渉をしてきたのだ。これが初めてではない。
「尋問ということはそちらが一方的に僕へ問い掛けると?」
「そうじゃない理由なんてあるかい?」
「随分と安く見積もられたもんです」
まるでルッドの方が弱い立場だとでも言いたげではないか。ここに交渉へやってきたのは、あくまで対等な話し合いができると踏んだからこそだというのに。
「僕をここへ寄越した人間がいるのはさっき言ったでしょう? あれは嘘じゃあない」
「ふん。だったら何なんだい? そんな奴の後ろ盾があるから、自分は襲われないはずだと、そう言いたいのかい?」
「どちらかと言えば、襲えばそちらの損になりますよと言いたいですね」
例えばだ、ルッドがこの場所で襲われたとしたら、ルッドにここへ向かうように命令した側は、何かあったと当然ながら思う。つまりその時点で、ルナー一族の化けの皮が剥がれてしまうことになるのだ。迂闊に手を出すことはできないだろう。
その後ろ盾とやらは、一村人でしかないのであるが。
「無事に返せば、結局はこっちのことをバラすんだろう? だったら同じさ。あること無いこと話されるより、口を封じた方が早い。そうじゃあないかい?」
ナハルカンの右手が、ベッドの掛布団の下側へと移動していく。
(そういえば、武器なりなんなりを隠すには、丁度良い場所だよね。あそこ)
冷や汗が滲みそうになるのを必死に隠す。生理現象を止めるのには、心構えをちゃんとするのが大切だろうか。
そう、あそこに武器があったとしても、それは使わせない。戦闘の術など無いルッドは、口先だけで事を成す。それを行う覚悟さえあれば、自然と冷や汗は引くものだ。
「………だからこそ、話をしましょう? さっきまでのオンブルトさんとの話。まだ続いているはずですよね?」
「さっきまでのと言ったかい?」
「ええ。このルナー邸で起こった内容についてはぐらかす代わりに、雑談をさせていただきたいって話でしたよね? あれ、まだ続けませんか?」
ルナー一族にとっては、唯一、自分達の正体を外部に漏らさぬ方法となるわけだが、さて、乗ってくるかどうか。
「ふぅ…………乗ってもいいけどねぇ」
長い溜息を吐いた後に答えるナハルカン。どうやら交渉をする気にはなってくれたようだが、何か思うところがあるらしい。さすがに一筋縄ではいかぬか。
「何か事情でも?」
「事情って………ねぇ? 絶対に狙いがあるんだろう? じゃなけりゃあ、そんな提案しないはずだよ。頼まれごとを裏切ってまで、坊やは何をしたいんだい?」
ナハルカンの目がこちらを見据えてきた。ここだと思う。ここがもっとも重要な境界線なのだ。
今、ナハルカンはルッドに興味の目を向けている。それに対して、的確な答えを返したのならば、彼女から有益な情報を得ることができるかもしれない。
「依頼人を裏切る行為ですからね。そりゃあ怪しまれるのはわかります。けれど、僕の方も事情があるんです。鼻で笑われるかもしれませんが、自分なりにはっきりとした事情が」
昨日までは、こんな言葉を出せなかったと思う。自分がいったい何をしたかったのか。それを答えられなかったから。
しかし今は違う。只々、やるべきことを行うのだ。
「その事情ってのは話せるのかい?」
「僕はですね。ブラフガ党を知りたい。ただそれだけのために動いています」
遂にここで、偽らざる本音をナハルカンへぶつける。恐らくはブラフガ党員であるナハルカンに向かって、この言葉を口にするのは抵抗があったものの、この際だ。腹を括る。
「こんな成りですが、これまで何度かブラフガ党と関わることがありましたよ。そうして、ブラフガ党の目的や動きを知ることになった」
「どんなだい? 話してみな」
交渉を続ける許可を得たということだろうか。それともまだこちらを値踏みするつもりか。
「国を破壊する。それも大凡、理性的とは思えない理由で。だというのに、その目的を達成する方法については酷く現実的だ。誰も邪魔できなければ、ほぼ確定した未来として、ラージリヴァ国の崩壊が起こるでしょう」
「で、だからそれを邪魔したいって?」
「結果的にはそうなるかもしれませんね。ただ、それより前に僕は知りたいんです。ブラフガ党の動き、狙い、考え方。その何もかもを知らなければ、ブラフガ党に対して、何らかの判断の仕様が無い」
「ふぅん。だから私に話をして欲しいってわけじゃあ無いんだろう?」
ナハルカンの言葉に頷く。これは頼みごとなどではなく、対等な交渉なのだ。こちらから渡せるものの話が無くて、どうして交渉と言えよう。
「僕はね、ナハルカンさん。自分のことを変化だと思っています」
「変化? どういう意味でのだい?」
「この大陸に起こっている変化の一つという意味です。僕はこの大陸の外側から来た人間ですが……わかりますか?」
「言われてみれば………いや、言われなきゃ気づかなかったろうねぇ」
それは良いことだ。ルッドも大分、この国に馴染んできたらしい。
「僕は外来人として、この国の人間には見えない物が見えるかもしれない。この国に、この国だけでは有り得ない変化を引き起こせるかもしれない。若輩で非力な存在かもしれないけれど、そう思っているんですよ」
「はっ。こりゃまた、大言を吐くじゃあないか。それが、坊やが私達に提示できるものだってのかい?」
いいや、それだけではない。まだ続く。ルッドの考えを相手に伝えるには、短い言葉だけではまだ足りぬのだ。
「ブラフガ党の目的。国を滅ぼすという、まるで自殺をするようなその行為は、どう考えたって先詰まりの、閉塞感に満ちた行いだ。本当にそのままで良いと思ってるんですか? 違う何かが、もっと先が感じられる道筋を、見てみたいとは思いませんか?」
大言に壮語を重ねていくルッド。ここからは相手の感情に訴え掛けて行くことになるだろう。交渉と言っても、最終的にはそれに行き着くのだ。納得とは、常に感情の側にこそある言葉だから。
「私達が、そんな悩みを一度だって考えたことないとでも思ってんのかい? 頭悩まして、出した結論がそれだって、欠片も想像できなかったってのなら、確かに坊やは外来人さ。ただし、そんな小僧が組織一つをどうこうできるとは到底思えないけどね」
強い否定の言葉がナハルカンから向けられる。敵意に近いそれだが、強い感情が込められているということでもあった。
饒舌になっているナハルカンの内心は、確実に揺さぶられているのだ。ここで止まっていてはいけない。さらなる言葉を口にしよう。もっとナハルカンの感情に訴え掛ける様に。
「だから知りたいんですよ。本当にブラフガ党へ影響与えられるほどの人間になるために。僕はブラフガ党が抱える異種族の、その恨み辛みも悲しみも、まったく知らないんだ。けれどブラフガ党は、そうして目の前のあなたはそれを知っているはず」
だからナハルカンはブラフガ党員なのだ。元ドワーフ族。そんな立場のナハルカンだからこそ、異種族がこの大陸に生きた証を残そうとしているブラフガ党の幹部足りえるのである。
ああ、そうだろうとも。彼女はブラフガ党の幹部のはずだ。ブラフガ党にとって以前出会ったブラフガ党幹部のオーク。それと同じ威厳をナハルカンからも感じている。
「坊やの成長に期待しろって、そういうことを言っている?」
「これは投資って言うんですよ。ナハルカンさん。まだ見ぬ未来のために、何か違う選択肢を用意する。そのための投資です」
かつて、ブラフガ党元幹部で、オークでもあるドードリアス・ベイグンがそれを行っていた様に、ナハルカンにもそれをしてみないかと提案するのだ。
もし、ブラフガ党関係者の内的感情が、ある程度、共通したものであるとしたら。この提案は通るかもしれない。
「一つ聞くよ」
「なんですか?」
「坊やは…………ブラフガ党が国を滅ぼすために動いていると知って、どう思った? 止めたいと………思うかい?」
さて、ここでどう答えるのが正解なのだろうか。普通に考えるならば、ブラフガ党の動きを邪魔するつもりが無いと答えるのが正しいのだろう。
なにせ相手がそのブラフガ党員である可能性が高いのだ。その活動を邪魔すると答える人間に、好印象を抱くはずがない。はずがないのであるが………。
(そんな簡単な話では………無さそうなんだよ……ね)
相手の感情に訴え掛ける交渉をするのなら、相手が今、どの様な気分なのかを察しなければならない。
ルッドから見るナハルカンの感情は、迷いのそれだ。ブラフガ党の方針に迷っているのか、それともルッドをどう扱えば良いのかに迷っているのか。
何にせよ、ルッドはどう答えを返すかについては、既に決めた。
「ブラフガ党関係者のあなたに言うのは、絶対におかしいことだと思います。思いますけれど、それでも僕は、ブラフガ党が行うことを、止めたいと考えている」
これもまた偽らざる本音であった。国を滅ぼそうと暴走している様にすら見えるブラフガ党に関して、ルッドはこの国を滅ぼして欲しく無いと叫びたかった。
今、跳ね石のルッドがいるのは、この国があったればこそなのだ。それに、キャルやレイナラ、ダヴィラスにだって、不幸になって欲しく無い。だからこそ、ルッドはブラフガ党を止めたいと、そう願う様になった。
(まあ、最初の感情は、好き勝手されるのは癪だから………なんだけどね)
自分の力がどこまで及ぶか見てみたい。そう言う感情も、勿論、ルッドの中には存在していた。