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北風の道  作者: きーち
第十章 休養は湯煙と共に
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第九話 跳ね石ルッド

 部屋へと通されたルッドは、ベッドに座っているナハルカン・ルナーを見た。彼女からは、このような恰好ですまないという旨の挨拶から入り、話が始まる。

「それで? 今日はどんな話を聞きに来たんだい?」

 こちらのことを、まだ昔話を聞きたがっている観光客だと思っているのだろうか。そうであれば好都合なのだが。

「そうですね………例えば、この家のことなんかは聞いてはいけませんか?」

「家?」

 なんのことだろうとナハルカンは首を傾げている。これが単なる恰好であるのか、それともこちらの本意に気が付いていないだけなのかは、まだ分からない。

「ええ。ちょっとした噂というか………まあ馬鹿な話だとは思うんですけど、この家は元々、ドワーフ族の家だったとかいう話を聞きまして」

 直接的な物言いはしない。ただ遠回しに、ルナー家とはドワーフ族だったのではないかと尋ねるのみだ。

 以前はドワーフ族に仕えていたと自らを名乗っていた彼らであるが、それは明らかに嘘であったことが、『赤宝館』や『ホワイトナイト』で手に入れた資料のおかげで分かった。

 問題はどうしてルナー一族がそのことを隠すかであるが、まずはそれを探ることから始めてみたかった。ここではぐらかされたとしても、その返答内容によって、相手の狙いが少しは分かるはずなのだ。

「………それは、どちらからだい?」

 ナハルカンの表情は変わらない。だがその口調は違っている。多少はこっちの言動に興味を持った。そんなところだろうか。

「さて、どこで聞いたのだったか………前にここへ来た時もそうだったんですが、ドワーフ族に興味を持ちましてね? あちこち話を聞いたり調べたりする内に、そんな話を耳に入れたのかも……いや、どうにも思い出せない」

 やはりここでも決定的なことは言わない。相手を焦らし、向こうが何かを漏らすのを待つのである。

「………確かに、この家はドワーフ族が使っていた家だったねぇ。そうそう………ドワーフは頑丈な建築物を建てることもできたのさ。この家も幾らか修繕しているけれど、今まで使ってこられたのも、そう言ったドワーフの人達のおかげというわけだよ」

 ナハルカンは、あくまで、今の自分達とは関係が無いと言った話し方をする。つまりは、自分達とドワーフ族に関する繋がりは隠しておきたいということだろうか。

(隠す理由があるってことは、後ろめたいことがあるんだろうね)

 自分達は元異種族であると名乗って、不都合があるということもあるまい。この大陸においては、別に異種族が蔑まれているということでもないのだから。

(あえて隠す理由。自分達がドワーフと繋がりがあることを知られたくないそれは………ドワーフ族そのものとこの土地に何か秘密があるってことかもしれない)

 推測でしかない考えであるが、その推測のさらに先へ考えを巡らせてみると、些か厄介な結論に達してしまう。だからこそ探るのだ。もし予想が外れたとしても、それはそれで安心できるのだから。

「なるほど。この家はやはりドワーフ族が作ったものでしたか。でしたら、家の中についてもそうだったりしてそうですね」

 調度品等の中には、ドワーフ所縁の物が多くありそうだと、表面上はそう取れる話をしてみる。ただ余計な事を勘繰る相手であれば、別の印象を受けるかもしれない。

 例えば、何かドワーフに関する重要な秘密を探ろうとしているのかもとか。

「………その通りさ。例えばこの燭台なんて、先祖代々な物でねぇ」

 ベッドの枕元近くの台に置いてあった、石作りの燭台に触れるナハルカン。上手く誤魔化したつもりだろうが、その言葉を発する前に、逡巡があったことをルッドは見逃さない。

「でしたら、一番古い物だったり重要な物だったりって言うのは、例えばどんなものなんでしょうか。勿論、この屋敷以外で」

 単なる興味本位から聞いている。そんな内容の会話を続けて行く。これにはどう答えるだろうか。的確な誤魔化しをしてくるか。

「一番古い物と言えば………そうだねぇ…………床の間には金属で出来た槌が飾っていてねぇ。それだろうさ」

 ナハルカン曰く、この家に住んでいたドワーフが、かつてドワーフ族の王から名誉の勲章として賜った物らしい。相応に価値があるらしいが。

(この家に住んでいたドワーフ。つまりはルナー一族の先祖からの所有物ってことか。この話は重要かな?)

 実際にそれを見なければわかるまい。つまりは一旦置いておくべき話だろう。ここからさらにその槌を見せてください。そして調べさせてくださいというのは、話の展開上、ナハルカンに違和感を覚えさせてしまう。

「では………一番重要な物と言えば?」

「一番重要ねぇ……………屋敷以外でって言われなければ、屋敷って答えたんだけどさ」

 そうだろうとも。だからこそ、その可能性を真っ先に潰しておいた。相手の逃げ道を出来るだけ塞ぎ、この交渉においては相手に色々と考えさせることが大事なのだ。その考える仕草をこそが、ルッドが観察したい物なのだから。

「オンブルト。オンブルト。あれなんかどうかしらねぇ。あの―――

「母さん」

 ナハルカンの言葉を、ベッドの横で立っていたオンブルトが制止する。何か漏らしてはいけないものを言葉にしかけたのかもしれない。できればその言葉を聞いてから制止して欲しかったが、これは仕方あるまい。

「あの……? あの、なんですか?」

 勿論、その事については尋ねる。普通、目の前で言葉を遮られれば、疑問に思うものであるからして、自分の行動に違和感は無いはず。

「ああ、いいえ………そうさねぇ………これまたやっぱりこの家に住んでいたドワーフが、かつてドワーフ族の王から名誉の勲章として賜った物なんだけどねぇ…………ここだけの話だよ?」

「は、はい」

 秘密にしてくれと言った風にひっそりと話すナハルカン。だが、これは恐らくポーズでしかないはずだ。オンブルトに制止されたが故の誤魔化し。

「こう、金貨がねぇ。もう大分数少ないけど、家の中に残っているのさ。それが重要かねぇ。まだ、大分価値があるはずだよぉ?」

 なるほど、価値有る宝がこの屋敷にある。それは内密にするだけの意味があるし、オンブルトが制止するだけの理由もあるというわけだ。

(そこそこに上手い誤魔化しだ。だけどまあ、誤魔化しは誤魔化し。そこに僕が求める答えは無い)

 あるとしたらどこだろうか。ルッドはそれを、ナハルカンと今まで話した会話の中にこそあると思う。

(古い物と大事な物。この二つの共通点は、ドワーフの王から賜った物と、材質が金属である物か)

 ヒントがあるとしたらここであろうと思う。ルナー一族にとってもっとも重要なものがそれであり、その重要な物を発想の元として、さきほどの槌や金貨と言った物品を思い浮かべたのだ。

(じゃあ、それが何であるかは………まだ分からないけど…………)

 分からないままでは終わらせないと思う。ここで話が終われば、何の意味の無い会話をしただけになってしまう。

「なるほど。面白い物がこの家には沢山あるわけだ。だけども、この屋敷に住んでいたドワーフは、何故あなた達に大切そうな物品を残していったんでしょうね。特に金貨なんて………幾らでも使い様がある物を、違う種族に残すでしょうか?」

「それはねぇ………ドワーフ族は滅びてしまったからで―――

「いや、そういう話は、もう結構です。止めましょうよ。こっちは既に勘付いていますし、そちらはその事にそろそろ気が付いてもおかしくはない」

「…………」

 ナハルカンは黙り込む。迂闊な事を言わぬ様にするためか。それとも、ルッドのひととなりを計るためか。

「直接的口にしましょうか。あなた方はドワーフ族の血をそのまま受け継ぐ―――

「そこまでだ。そこからは俺が話をする」

 再度、オンブルトが会話へと入ってきた。母であるナハルカンには話をさせぬ気であろうか。

「そこまでと言うのはいったいどういう基準で? 何を話してはいけないのでしょうか?」

 ルナー家はそっくりそのまま元ドワーフ族であり、人間化することによって今に至るという事実は、そんなに話してはいけないことなのだろうか。

「尋ねたいのはこっちだろう? お前は何の目的があってここに来た?」

 さて、さすがに怪しまれるかとルッドは観念する。何も知らぬ観光客を装うのはここらが限界であった。であるならば、ここからが本番になるだろう。跳ね石ルッドの交渉開始だ。

「僕ですか? 僕はですね………あなた方を監視する者の頼みできました」

 嘘ではない。嘘ではないはずの言葉だ。リィゼイン・ファラッドの頼みもあって、ルッドはルナー一族と接触している。勿論、頼みが無くたってやってきていたのだろうが、今はそれが一番妥当な理由であった。

「監視……だと?」

「心当たりはありませんか? あなた方がドワーフ族の何がしかであれば、そういう監視がある可能性は、良く理解できていると思っていましたが」

 この言葉に首を傾げるのならそれでも良い。警戒心が薄いか、自分たちの立ち位置に気が付いていないということなのだから、そちらの方がやり易くなるだろう………が。

「ふん………国の兵士どもは、まだうちに何かあると思っているらしいな」

 どうやら、相手には心当たりがある様子。正当に自らの一族を評価できているということだろうか。

「近いですね。分かっていらっしゃるなら話が早い。そういう立場の人間から、あなた達を探る様に頼まれました。それが僕です」

 自分の胸に自らの右手を当てながら話す。実際はその兵士の子孫の、若干間が抜けた女性が依頼相手であり、国の兵士に頼まれたなどという上等なものではない。ただ、オンブルトがこちらを高く見積もってくれているのなら、そのまま話を続けよう。こちらにとって損は無いはずだ。

「で、立場を漏らして何のつもりだ。ギブアップ宣言か?」

「バレていそうだから、自分から身元をバラしたってだけの話です。ここでこうやってする会話を、終わらすつもりはありません」

「自分から俺達の敵だと口にする相手へ、俺達が何かを話すとでも思っているのか?」

 どうやらルナー一族にとって、自分達について探る相手は、尽くが敵であるらしい。理屈で考えれば当たり前だろうか。しかし、その様に考えている者の大半は、何か重要な秘密を抱えている者であったりする。

(敵を意識する人間なんてのはね、敵がいるような立場であることを理解している人間なんだよ)

 だから、交渉を行おうとするのであれば、ルッドがすべきことは一つ。ルッド自身が敵ではないということを証明するのだ。

「僕が敵? とんでも無い話です。あなた方の敵は、あなた自身が口にした、国からの使者だ。そうでしょう? 僕はそうじゃあない」

「その敵に頼まれてここに来たと話していたがな」

「仕事ですよ仕事。あくまであなた方の様子を探りに行けって頼まれただけの話で。とりあえず、どうしてそんな頼みごとをされたのかについては、知りたくないですか?」

「うん?」

 何を狙っているのかと怪訝な表情でオンブルトはこちらを見つめている。

 ルッドの狙いは単純だ。味方では無いが敵でも無い、相互を取り持つ立場であることをオンブルトに認識させること。

「僕だって立場を明かした状態で、あなた達に何を考えているかを教えろなんて言えるほど図太くはありません。というか無理だ。けど、踏み込まなければあなた達の考えなんて分からない。そうでしょう?」

「そちらだけの理屈で言えば、その通りではあるな」

 多少は相手に思考させる機会を与えられたらしい。そもそもルッドの様な立場の人間と話をするというのは、論外のはずであるし、さっさと退散させるのが本来である。

 それをさせなかっただけでも、価値のある会話であった。しかしさらにルッドは距離を近づける。

「だから、対価を渡します。あ、けど、言っておきますが、あなた側に付くわけではありませんよ? 完全に依頼者側に立ってるわけでも無いってだけでして」

「まあ、あんたの言い分はわかった。で、その対価とやらが、向こうがいったい何を狙っているのかについての話というわけか? 対価と言うからにはこちらも何か渡す必要が出て来るが」

「何のための対価だと聞かれれば、時間ですね」

「時間だと?」

 さらにルッドの事が分からなくなったという表情をオンブルトは浮かべた。良い調子である。こちらに対する疑心が、好奇心や興味へと変わる可能性が出て来たということなのだから。

「話をする時間をいただきたいんですよ。僕は、まあ依頼主になる相手に、あなた方がどう動いているかを伝えなければいけない。けれど、立場を明かした今となっては、あなた方があれこれと自分達の情報を明かすなんてことはおいそれとしないはず。そんな事はわかっているんです」

「ではどうする?」

「簡単です。あなた達と話を続ける中で、僕は勝手にあなた達がどう動いているのかを想像します。そうしてその想像に脚色なんかを付けて、依頼主に報告すれば、ほら、とりあえず僕の仕事は果たせる」

 ルッドはニヤリとした悪い表情を浮かべる。小悪党を演じられていれば幸いだろう。ようは依頼人の情報を渡した上、出鱈目な情報を依頼人へ報告するつもりだと口にしたのだから。

「そんなので良いのか?」

「構いません。どうせこちらが渡せる対価も、それほど有益なものじゃあないんですから。オンブルトさん? あなた、最近、『赤宝館』へと向かいましたね?」

「あ、ああ。その通りだが」

 オンブルトはあっさり口にする。本来は隠すべき話だろうに。随分と困惑してきたのだろう。チャンスだ。

「そこで何かを調べたということで?」

「………そうか、何時の間にか監視されていたということだな」

 そこに気が付くということは、監視されそうなことをしていたとバラしている様な物だ。やはりオンブルトは『赤宝館』へと向かい、何か重要な事を調べていたらしい。

「僕の依頼主は、あなた達が『赤宝館』で、いったい何を調べていたかを探りたがっています。僕はそのための人材でしてね」

「だが、それを適当に済ましておくと、そう言うわけか」

「適当だなんてそんな………単に説得力のありそうな報告を僕が自身で考えるってだけで、仕事をサボっているわけじゃあありません」

 ただし依頼主への背信ではあるだろうが。まあこれもまた方便であろう。今は何より、ルナー家から話を聞き出さなければならない。

「楽をしようとしているのは変わらないだろう。まあ、こっちが何を警戒されて、監視されたのかについてはわかった。対価として確かに受け取ろう。でだ、こっちは何を話せば良い? それとも、話自体もポーズだけか?」

 話がトントン拍子に進んでくれる。罠じゃあないかと勘繰りたくなるではないか。どんな時だって、そういう警戒心を常に持ってはいるが。

「最低限、報告に説得力を持たせるため、なんで『赤宝館』へ向かったのかについて、それなりの理由というか、どうしてそういうことをしたのかを考えておきたいんですよね」

「つまり、本来のとは別で、俺があの宿へと向かう正当な理由が無ければ、あんたの依頼人は満足できないだろうと、そういうわけか?」

「ですね。勿論、旧館の方には入ってしまわれたんですよね?」

「ああ。その通りだ。しかし参った。それを知られているとなれば、その理由を考えるのは難しいかもしれない」

 『赤宝館』の旧館は、従業員以外の立入は基本的に禁止されている。わざわざ宿を尋ねて、そんな場所に入る正当な理由というのは、中々無いものであろう。

「………いっその事、あそこにある資料を調べに来たというのは、正直に伝えておいて、その中身をはぐらかすなんてのも有りでは?」

「ああ、確かに。それなら報告自体にも真実味が増す」

 やはり、何らかの資料を目的に『赤宝館』を訪れたらしいことが、このオンブルトの言葉で分かった。

 こうやって会話をしていく中で、オンブルト自身が気づかぬ内に、こちらが情報を得ていくという形。ある程度続ければ、ルナー一族の目的が掴める可能性は高い。

(そうして僕が知りたい情報も、この会話の中で分かるかも………)

 そのためには、上手いこと相手を乗せる必要があるだろう。自分の話術が物を言うはず。

「では例えば、一族の過去に関する資料がこの家に無いので、他のアテを探して立ち寄った……とかはどうでしょう」

「いや、それは駄目だ。別のにしてくれ」

「なるほど。駄目でしたか。では別の別の………」

 会話をしながらも、内心では相手の目的が見えてきたぞと笑うルッド。さっきルッドが例で挙げた内容こそ、オンブルトが『赤宝館』へと訪れたその理由。もしくは近い何かだったのだろう。だから別の報告をしてくれと頼んできた。

(かつてルナー邸から国が奪った資料を、この人………ルナー一族が欲したということだ)

 次はその内容を見極めるべきだろうか。ではどの様な話をすれば、オンブルトが何の資料を探していたのかを、気付かれずに引き出せるのか。

「じゃあとりあえず、昔のゴルデン山の様子とかはどうでしょうか。今はなかなか入山できないんですから、山の過去の資料を見てみたくなったってのなら、適当な理由に有り得る」

「む……確かにそれなら良いかもしれんな」

(OKが出た………つまりゴルデン山自体には、それほど重要視するべきものは無いってことか? 国の兵士を警戒しているんだから、山関連かとも思ったんだけど………)

 ルナー一族の歴史に関連して、ゴルデン山はそれほど重要でないとすれば、いったい何が残るだろうか。

(それは多分―――

「ちょっと良いかい?」

 ルッドが頭の中で結論を出そうとしたその時だ。部屋に響く声がした。ルッドが喋った覚えはない。オンブルトも同じだ。ただ彼は驚きに近い表情で、声の主を見ていた。

(驚き……いや、違うな。なんだ? 恐怖?)

 オンブルトの表情から感情を読み取ろうとするルッド。しかしその表情に、どうにも違和感を覚えてしまう。何故なら、その表情は恐怖心を抱いたそれであるというのに、彼が見つめているのは彼の母、ナハルカンだったのだから。

「オンブルト………あんたじゃあ荷が重いよ。この坊やは」

 ナハルカンの様子は、先ほどまでとは何かが違っていた。声の調子がどこか強くなっているのも理由の一つだが、ベッドから上半身のみを起こした弱弱しい姿であるはずが、その細かい仕草、目つき、表情などが、威圧感を与えるそれへと変化していたのだ。この変化はいったい何だ。

「母さん………その」

「手玉に取られてることすら気が付かないっていうのなら、それまでさ。その歳になって、まだ甘えちゃんなんだからねぇ」

 背こそ低いものの、その他は偉丈夫と言って良い雰囲気のあるオンブルトが、すっかり恐縮してしまっている。それほどにナハルカンが恐ろしいというのか?

「ねえ坊や。この子がもう聞いたことだけど、もう一度尋ねるよ? 坊やはどんな目的があって、私たちと話をしているんだい?」

「それは………」

 なんとかはぐらかす言葉を思い浮かべようとするも、言葉に詰まってしまうルッド。ナハルカンから感じる印象のせいだ。

 迂闊な事を言えば、すぐに喰われてしまいそうな。今、目の前にいるこの老齢の女性が、肉食獣のそれに感じてしまうのは、こちらの勘が狂っているということになるのか。

(いや、今、この場で頼りになるのは、自分の感性だけじゃあないか………信じろ。ナハルカン・ルナーは一筋縄じゃあ行かない相手だってことだ)

 だから最初の一言が肝心なのだ。相手に引き込まれる前に、自分のペースを掴まなければならない。

(何を話すべきだ? 何を答えれば、目の前の彼女をあっと言わせられる?)

 頭の中で思考が乱れ飛ぶ様な感覚。昨日、跳ね石を貰うまでのルッドならば、この感覚に振り回され、さらに頭の中が靄で包まれた様な気分でいたことだろう。

 だが、今は違う。

「そうですね………僕は………ドワーフ族の顛末を聞きに、あなた達に会いに来ました。それが僕自身の目的ですね」

 ナハルカンがどの様な人間だったとしても、一歩も引く気はない。そんな威勢を心に秘めて、ルッドはそう答えた。


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