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北風の道  作者: きーち
第十章 休養は湯煙と共に
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第八話 あなたへのプレゼント

 相手が何かしようとしているな。という予感は、相手の様子を見るまでもなく、そこに至るまでの空気でなんとなく分かってしまうものだ。

 ダヴィラス経由でキャル・ミースに呼び出されたルッドは、これは何かあるなと既に勘付いていた。いや、まあ、本人が呼びに来ないで、わざわざダヴィラスを呼びに寄越した時点で、何か無いわけが無いのであるが。

「で、いったい用って何なんですか? プレゼント?」

「ああ………プレゼントらしい」

「プレゼント………どんなでしょうね」

 ダヴィラスの様子を見るに、彼自身も良く知らないのだろう。お互いに首を傾げている。普段であるならば、わくわくしながらそのプレゼントを待つのであるが、いかんせん、今は精神状態が大分低空飛行をしている。

 普通に何かしらのプレゼントを渡されたとしても、素直に喜べそうに無い状況だ。若干、それが申しわけなくある。

「昨日まで………というか……さっきまで。社長とレイナラが………何かを村内で探していたのは知っているな?」

「ええ。昨日は………そうですね。その件でちょっと気まずい雰囲気になっちゃいましたけど」

 だから、これから会うのも気が引けている。ただでさえダウナーな気分であるというのに、そこからさらに状況を悪くする条件があるのだ。

「それが、あんたへのプレゼントだった…………ということらしい………」

「あ、ああ。そういう……って、だったら、より気まずいじゃないですか」

 せっかく自分宛のプレゼントを探してくれていたというのに、ルッド自身がその空気をぶち壊してしまったことになる。

 自分がプレゼントを探すのを手伝おうかと尋ねた時、キャルが素っ気無く対応したのも、ルッドを驚かせてやろうという考えがあったからだろうに。

「まあ………それも含めて………水に流そうってことなんじゃあ………ないか?」

 そういうことなのだろうか。であるならば、顔を出すことに対しても、それほど抵抗は無くなるが………。

「ほら………あの部屋だ」

 どうにも宿の別の一室を借り受けてプレゼントを渡すつもりらしく、ルッド達の部屋から少し離れた場所へと案内された。

「なんか仰々しいですね」

 自分へのプレゼントだけなら、キャル達の部屋で良いのではと思う。

「良いから………さっさと行ってやれ………」

「はいはい」

 ダヴィラスから後押しされる様に、ルッドは部屋の扉を開く。その先には、空き部屋なのだろう。家具等も無い部屋の真ん中で、一脚だけ用意された椅子に座るキャルの姿があった。その隣にはレイナラが立っている。

「あ、ああ。良く来てくれた……な」

 何故かちょっと緊張した様子のキャル。しかも口調が何時もと違う様な。

「えっと………何?」

 それくらいしか言葉を返しようが無かった。キャルがこれから何をしてくるのか、さっぱりわからないのである。

「兄さんは……あっと、ルッドはこれまで、良く働いてくれたよな?」

「まあ、結構働いていた方だとは思うけど………」

 何故に今になって、わざわざ呼び方を変えたのだろうか。心境の変化なのか、何かの演出か。

「だからな、その……社長として、何かしらの褒美というか、褒賞? そういうのが必要なんじゃあないかって思ったんだ……ああ」

 部屋の様子を見るに、威圧感とかカリスマ性を演出しようとしていたのは分かったが、今のキャルの言葉を聞いていると、それが見事に失敗していると思う。

 キャルはどこまで行ってもキャルなのだ。

「褒美って………あ、もしかして、今回、ここで休養することを許可してくれたのも、それが理由?」

「そ、それもあるんだけど……な?」

 なにやら口籠るキャル。とりあえず彼女には感謝している。さきほどまでは気まずかったものの、実際に会った今はそんな気持ちは消えてしまった。ただ、ルッド自身が落ち込んでいることには変わり無いのであり、そっちの方が重要だろう。

「ああ、ほら。社長。早く切り出しなさいな。彼、ちょっと苛立ってる」

 レイナラがキャルに次の言葉を口にするよう促している。そんな苛立っている様に見えただろうか。ただ気落ちして、悩ましいという気分であるのだが。

「わ、わかってるって! あのな兄さ………ルッド」

「もう兄さんで良いよ?」

「そ、そうか? じゃあ兄さん。これをさ、兄さんに上げたいんだよ」

 キャルはそう言って、椅子の後ろ側に隠してあったらしい小箱をルッドへ渡して来た。

「これは?」

 小箱を受け取るルッド。小箱は手に納まる程度の大きさだ。蓋が存在しており、それを開ければ、中にプレゼントとやらがあるのだろうか。

「とりあえず開けてくれよ」

「開けてって。蓋をだよね………ええっと…………………あのさ」

 言われた通りに蓋を開けたルッド。しかし目に入った物を見て、顔を顰めた。

「そ、それなんだけどな―――

「いい加減にしてよ………まったく」

 キャルが何かを口にしようとするが、ルッドはその前に言葉を遮った。小箱の中に入っていたのは石ころだったからだ。とてもではないがプレゼントなどとは表現できない。何かの悪ふざけだろうか。

「いや、ちょっ、ちょっと待ってくれよ兄さ―――

「これでもね、色々と切羽詰ってるんだよ。余裕なんて無いんだ。そんな状況で、こんなの渡されたってさ! 受け入れられるほど心が広くできてないんだよ!」

 ルッドはつい怒鳴り声を上げてしまった。体も大きく揺さぶってしまったため、手に持っていた小箱から石ころが零れ落ちる。

「あっ………」

 キャルが落ちた石ころを見る。ルッドもつられてそちらを見ると、どうしたことだろう。石ころが床にぶつかると同時に、大きく跳ねた。その跳ねる軌道もかなり出鱈目であり、何度かあちこちに跳ねた後、ころころと転がって、レイナラの足元で漸く止まった。

 レイナラは屈み、石ころを手で摘まみながら、苦笑いを浮かべた。

「もう、せっかくのプレゼント。落としちゃ駄目でしょ」

 仕様が無いなと言った様子で、彼女がルッドへと近づいて来る。普段の彼女とは違う優しげな物言いであるため、ルッドも一時の感情の昂りが治まって行く。

「ほら、社長。あなたも順序ってものがあるわよ。まずコレがなんであるかを説明してあげないと」

 レイナラはキャルに対して話しながら、ルッドには石ころを手渡した。ルッドは石ころを受け取った後、そのまま小箱へとそれを入れる。この石ころが何だと言うのだろうか。

「そ、それさ………跳ね石って言うんだよ」

 とても申し訳なく、そして恥ずかしいと言った顔をしながら、キャルが口を開いた。お腹近くに置いた両手は、所在無さ気に互いの指を叩いている。

「跳ね石?」

 石の名前については、どこかで聞いたことがあった。それがどんな物であるかについては、今日初めて見たのであるが。見る限りにおいては、そこらにある石と変わらない。

「さっき床に落とした時みたいに、跳ねるんだよ。こうぴょんぴょんってさ。どこにでも行くから、比喩で跳ね石みたいな人間みたいななんて表現があったりしたな………」

「へえ……もしかして、珍しい石だったり?」

「この村ならあると思って、二人して探してたのよねえ。なかなか見つかんなくって、今日の朝、漸く見つけたわけ」

 だとしたら、さっきはとても申し訳ないことをしてしまった。そんなプレゼントをただの石ころだと思い、怒鳴ってしまうなんて。

「その……さ。さっきはごめん」

「良いんだよ。ちゃんと説明しなかったあたしが悪いんだ。だからさ、最後まで話、聞いてくれないか?」

「う、うん?」

 なんだかキャルの表情はとても真剣だ。ルッドをじっと見据えてくる。

「兄さん自身が気付いてないのか、それとも隠してるのか知らないけどさ、兄さん。最近落ち込んでただろ?」

「………まあ、ねえ」

 なんでそれをとは聞かない。それなりの期間を共に過ごして来たのだ。相手の感情がある程度読める仲にはなっていたのだろう。ただ、キャルにこちらの不調を知られていたと言う事実は、気恥ずかしさがあった。

「理由は別に言わなくても良いぜ? 悩みなんて人それぞれだしさ、いちいち口にするもんでも無いだろ? 自分の手に余るって言うんなら、兄さんはすぐに他人に手を借りる人間だしな」

「そう……かな」

 随分とキャルに過大評価されている気がする。今、このホームシックという悩みは、どう考えてもルッド個人の手に負える物ではないのである。だというのに、ルッドは一人、悩み続けていた。

「けど、こっちとしてはそれでも何かしたかったんだよ。普段から、兄さんには迷惑も掛けられてるけど、それ以上に恩があるわけだしさ」

「そこまで気にする必要は無いんじゃあないかな。僕も僕で好きで仕事してるんだから」

 実際、今の立場は自らで望んだ物であるはずなのだ。ノースシー大陸に来たのは国の命令だったかもしれないが、その後、どう行動していくかは何時も自らの意思で決定してきたと思う。

 だのに、こんな風に故郷を懐かしく思い、苦しんでいる自分がひたすらに情けない。ルッドが今、一番苦しんでいる思いというのは、そういうものである。

「だからって、何時までも落ち込まれてたらこっちが困るんだ!」

 急に胸を張るキャル。いや、落ち込まれていたら困るなどと言われても、どうしようも無いから落ち込んでいるのであるが。

「だからな。発破掛ける意味でそれを探してたんだよ」

 キャルはルッドが持つ跳ね石が入った小箱を指差した。この跳ね石が、いったいどの様な意味を持つというのか。

「これでもさ、あたしも色々と商人の知り合いが多いってこと……知ってるか?」

「初耳だよ………え? 一人でそういう知り合いとか作ってたわけ?」

 彼女の逞しさには何度も驚かされる。一時は家も無い状態で生活をしていた図太さというのは、時として驚異的な精神力を発揮するのかもしれない。

「冬の間でも、兄さんってあちこち行くこと多いじゃんか。だから私もって思ってさあ。それで話を聞いてると、兄さんの噂も耳に入って来るんだよ。一応、あたしは兄さんの雇い主ってことになってるからな?」

「僕の噂?」

 自らの噂や、他人にどう思われているかと言った話は、当の本人にはなかなか伝わらないものだ。キャルがいったいどの様な話を聞いたのか。気になるところではあった。

「兄さんが、あっちこっちに顔を出したりしてるから、どこにでも顔を出す奴だなってさ」

「ま、まあ。足が軽い方ではあるかな?」

 この大陸に来てから、短期間のうちに、様々な場所、地域に訪れていた事は事実である。そんなルッドの姿を外から見れば、確かにそんな奴には見えてくるだろう。

「それでな、仇名まで付いてたよ。なんて呼ばれてるか知ってるか?」

「僕が………なんだろう?」

「“跳ね石”だよ。“跳ね石のルッド”。その石みたいに、どこにでも居るに跳ねまわってる」

「僕が、跳ね石?」

 その言葉………跳ね石のルッドの名前を聞いた時、自分の心の中に何かが浮かんでくる様な感覚があった。ルッドは自分でも分からぬうちに、心臓近くの服を握っている。

 なんだこの感覚は。こんなのは初めてだ。

「そうそう。跳ね石。妙な奴だって馬鹿にしながら言う人もいたけど、だいたいは評価されてたぜ。あの商人はできる奴だ。もし、今みたいなやり方を、将来も続けられるのなら、大成するかもなってさ。ま、若い内だからできるもんで、経験積んだら落ち着くだろうなんて事も付け足してたけどな」

 キャルが話を続けている。しかしその内容の半分くらいはルッドの耳に入ってこなかった。それよりも、自分の中から溢れてくる感情……熱いと表現すれば良いのか。その感情の整理に必死であったのだ。

「でも、あたしは、兄さんが凄い商人になるって信じてる。そんな予感がするんだよ。だからさ、何時までも気落ちしてないで、“跳ね石のルッド”としてやって欲しいというか、そういういう応援の気持ちでそれを―――兄さん?」

 もうキャルの声すらも聞こえない。いや、聞こえてないわけではないのだが、その内容が完全に理解できる状況ではなかった。只々、熱く滾る様でいて、何処か腑に落ちる様なその感情を、必死に押さえつけていたからだ。

 そんな感情も、つい漏れ出てしまう物がある。漏れ出たそれはルッドの表情へと現れるや、薄ら笑いに近い笑みとなって表面化した。

「跳ね石のルッドだって?」

「に、兄さん?」

 ルッドの様子がおかしいことに、漸く気が付いたのだろう。だが案ずることはない。これは歓喜の笑みだ。ルッドは自分を取り戻していくような感覚を喜んでいるのだ。いや、元通りというわけではない。だが、それでも、前に進む力を、今、この瞬間に手に入れた。

「やってやるって気分になってきたよ。跳ね石のルッドとしてね」

 ホームシックの治し方。こんな方法があったなど思い付きもしなかった。ゆっくりとしたリハビリでなく、故郷に帰るでもない。ただ、ノースシー大陸という場所に自らの居場所を見つける。それだけで、郷愁の念を吹き飛ばす心意気をルッドにくれるのだ。

 “跳ね石のルッド”という名前に違わぬ生き方をしてやる。そんな気概がルッドの中へと広がって行く。

(そうだ。跳ね石のルッドとして生きてやるんだ。ブルーウッド国の間者じゃ無い。ノースシー大陸に来たばかりの見習い商人でも無い。この大陸で経験を積み、生まれた、跳ね石ルッドの生き様を、この大陸に見せつけてやる)

 熱き思いは心のわだかまりを洗い流し、ルッドの脳内へ様々な発想を叩き込んできた。先ほどまで思いもつかなかった発想。展開。予想。行動方法。それはホームシックになる前のルッドと同様か、もしかしたらそれ以上の考え方かもしれない。

 ただ、それが通用するかはまだまだ未知数だ。実際に試して見なければわからない物。そう、例えば、明日予定している、ルナー邸での交渉などどうだろうか。跳ね石のルッドという人間を試す良い機会ではないか。

「なんか………さ」

「うん?」

 キャルが何やら安堵した様な表情を浮かべて、ルッドに話し掛けて来た。自分の感情にかまけて、キャルを放置していたので怒るのかと思ったのだが、そうではないらしい。

「兄さんのその顔。あたし、それなりに好きだぜ?」

 ルッドはキャルに言われて、自分の頬に手を当てた。少し釣り上がった笑み。一方で目は真剣なままかもしれない。そんなルッドの表情が、キャルは好きだという。

「悪い事考えてる顔って言い方が一番かもだけど、兄さんらしいって気がする」

 そうか、何時もの自分はこんな表情を浮かべる時もあったのか。ルッドはキャルの言葉に頷き、答えを返すことにした。

「悪い事は考えてるだけじゃあ済まないもんだよね。実際に、行動に移してこそ楽しいんだ。キャル? 申し訳ないけどさ、明日ちょっと予定が入った。今日のお礼は必ずしたいんだけど、ちょっと待っててくれないかな?」

「あ、ああ。良いけど…………」

 彼女は、もしかしたらこちらの様子に気押されているのかもしれない。明日はこの様にしないようにしなければ。跳ね石のルッドの交渉は、その熱い思いをひた隠し、交渉相手の隙を突くことこそが第一なのだから。




 キャルからプレゼントを貰った翌朝。ルッドはベッドから起き上がる。まだ早朝であり、部屋の別のベッドで横になっているダヴィラスの方は、夢の中らしい。

「さてと………行きますか」

 この時間に起きたのは、心の興奮が収まらず、早く起きてしまい、二度寝する気分にもなれなかったからだ。

 ルッドは身支度を整えると、さっそくルナー邸へと向かうことにした。向こうの家の人間が、起きているかどうかは分からぬものの、現地へは早めに行っておきたい気分であったのだ。

「おっと、その前に、これを忘れない様にしないと」

 ルッドは枕元に置いていた小箱を開く。その小箱を開けば、中にはキャルからプレゼントされた跳ね石があった。ただしそれには紐が付いていた。

「よし、これでOK」

 小箱にあった跳ね石は、紐が通せる様に加工されていたのである。最初から、ルッドが首に掛けられるために用意されていたらしく、さっそくネックレスの様に、跳ね石を身に付ける。これで準備万端。

 ダヴィラスを起こさぬ様に、気を付けながら部屋を出たルッドは、ルナー邸へと向かった。今日は宿の店主とも出くわさず、必然的に朝飯も用意されなかったため、昼食までには帰りたいところだった。

 朝ということで、村には朝日が差し込んでいるのであるが、曇りがちな空のせいで、眩しいという印象は受けない。

 人の動きが疎らで、それが徐々に多くなってくる雰囲気は、この村独特の物であろう。ノースシー大陸の冬は人の動きが少ないのが常であるが、観光地であるこの村では、この季節こそが稼ぎ時であった。

(彼らにしてみたらどうなんだろうか。今、この季節。いや、この時期の大陸は、稼ぎ時と言えるんだろうか)

 彼ら、ルナー一族の事を思い浮かべる。村に来てから彼らの情報は、幾らかルッド元にやってきている。昨日まで思いつかなかったとある可能性について、今はルッドの中に思い浮かんでいたりもする。

(今回はそのことについても探らないとね)

 もしかしたら、今後のルッドの方針にも関わってくるかもしれない。

 色々と思考を巡らせていながら歩いていると、目的地へは驚く程の速さで辿り着いた気分になる。実際は、歩く早さがそう変わらないのであるから、体感以外での所要時間に違いは無いのであろうが。

(おっと、良かった。人がいる)

 先日来た時と同様にルナー邸の門近くには男が立っていた。オンブルト・ルナーである。朝はだいたい、門の近くにいるのかもしれない。柵の修繕などをしているのかも。

「む………お前は確か………」

 オンブルトと目が合うと、向こうから話し掛けて来た。顔を知った人間が来るというのが、そんなに珍しいだろうか。それとも、ルッドを特別覚えている理由があるか。

(どっちにしたところで、これからやることに変わりは無いだろうけど)

 後者であれば、些か厄介かもなとルッドは警戒した。勿論、その警戒を面には出さぬが。

「何度もすみません。ちょっとまた、ナハルカンさんにお聞きしたい事がありまして………時間ありますかね?」

 まずは相手の家に入り込むことから始める。交渉の進行によっては危険な事に成り得てしまうのであるが、それでも交渉相手の懐に入ることは相応に意味がある。

「またか? いや、まあ、別に構わんが」

 相変わらず率直に物事を決める相手だ。確かドワーフの血が先祖に入っているのだったか。だとすれば、それはドワーフという種族的な考え方から来ているのかもしれない。

(この屋敷の天井が低かったりするのも、種族的なそれ?)

 そう言えばオンブルトの身長は随分と低い。ナハルカンはどうだったろうか。ベッドで横になっている姿しか見ていないが、確かに低かった様に思える。一方で弱弱しく見える部分は無かった。背こそ低いものの、骨太な印象があるのだ。

(もし、ドワーフ族が今なお存在していたら、こういった特徴をさらに強めた種族だったのかな)

 そんな種族が、さらに火の神の如き力を扱っていた。なんとも勇ましい姿で想像できてしまう彼らも、終には滅んでしまう。それは時間の流れの残酷さというやつなのか。

「そういえば、今さらなんですが、ナハルカンさんはもう起きてらっしゃるってことで良いんですか?」

 現在、屋敷の廊下を進んでいる状況で、本当に今さらであったのだが、ルッドはオンブルトに尋ねてみた。

「ああ。今日はもっと早くから来客があってな。もうお帰りになったが」

「来客………」

 自分より早くに来た人間がいたということに些か驚いた。まだ朝も早い時間帯であり、これよりさらに早くとなれば、早朝も早朝であったろうに。

「着いたぞ」

 やはり思索を続けると時間の流れが早い。先日もやってきたナハルカンの部屋まで、すぐにたどり着いてしまった。

「それじゃあ………失礼させていただいても?」

「ああ。待っていろ」

 オンブルトが部屋へと先に入っていく。彼がナハルカンへルッドの来訪を告げ、ルッドの入室許可が下りた段階で、今回の交渉が始まるのである。



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