第七話 そこから先は
「それで、気になった資料の内容っていうのは、どういったものなんです?」
ルッドはさっそく話を進めることにした。相手の考えが変わらぬうちに、引き返せない段階まで行くことが大事だ。
「ええっと………そ、そのぉ………これなんですけどぉ」
リィゼインが、手提げ袋から資料となる本を取り出す。題は『ホワイトナイト』で手に入れたルナー家関連伝承集………と思いきや。
「これ、『赤宝館』に有った方の本じゃないですか」
題にはドワーフ族の伝承と書かれている。間違いなく、ルッドが『赤宝館』で発見し、その後、リィゼインに盗まれたものだ。てっきり盗み返された形になるのかと思っていたが、まだリィゼインが『赤宝館』へ返却せずに持っていたらしい。
「ええっと………そのぉ………あ、あそこって、一人で行くにはちょっと怖いじゃないですかぁ………だから、中々返せないというかぁ…………ほら、誰か一緒に返しに行って欲しいって、言い辛いじゃないですか!」
まあ、本を盗み返したので、元の場所に戻して置いてくれというのも中々説明しづらい状況でもあるのだろう。
そうして、中身を調べたいと思った時に手元に残っていたそれを、彼女は読むことになったのだ。これはルッドにとっても好都合。集められる情報が増えたことになるのだから。
「まあ、仕方ないと言えば仕方ないのかな? それで、内容はどんなものだったんです? その件で悩んでいるんですよね?」
「は、はいぃ………そ、そのぉ………ここを見てください!」
意を決したらしく、リィゼインが手に持った資料のあるページを開き、ルッドに示す。ルッドは目を近づけながら、そのページをじっくり見た。その内容と言えば、こうである。
火の神についてドワーフが残した物語をまとめると、ある一つの事が分かっている。それは彼らが崇める神とは具体的な……実際に存在する力であるということ。それは魔法使い達の魔法のようなものであるが、その力の仕様は限定的かつ、強力なものとなる。彼らにとっての信仰は、如何にその力を引き出すかというものであるらしい。
その力の引き出し方をもっとも効率良く行えるのがドワーフ族にとっての王家であり、彼らは神についてもっとも良く知る一族であったとされる。
彼らは神の力そのものを調整すると表現すれば良いのか、種族全体が扱う神の力を、どれだけの範囲や規模の物にするのかを決定する。そういう能力を持っていたらしい。
「ふむ………こりゃあ……かなり大きな話になるのかな?」
「そ、そうですよねぇ。まさかドワーフ族全体が、神様の力を扱えたなんて、初耳です! 凄い種族だったんですねぇ」
「まあ、そこもだけどね」
この資料で一番注目する点は、神とは超人的な存在というより、強い力それそのものだと表現されているところである。
「酷く具体的な何かの力をドワーフが扱っていた………ファラッドさんはそのことに驚いたわけですかね?」
「その………それだけじゃあ無くってぇ……こっちの資料も見てくださいっ」
リィゼインが取り出したのは、今度こそ『ホワイトナイト』で発見したルナー家関連伝承集という資料だった。名前の通り、ルナー一族が関連した話が纏められた資料であることはわかるのだが、内容についてはこれから初めて見ることになる。
「ここですっ。この部分!」
リィゼインが再び、資料のあるページを開いた。そこに書かれている物を見ると、確かに興味深い内容が見て取れる。
曰く、ルナー一家は、かつてドワーフ族そのものの種族だったというのである。聞いていた話では、人間種族としてドワーフ族に仕えていたというものであったため、新事実だと言えた。彼らルナー一家は異種族が衰退する中で、ドワーフから人間化した一族であったのだそうだ。
そこにどのような経緯があったかは分からない。どこかの時点で人間と混血したのか。それとも、ある日突然、人間しか生まれない様になったのか。個別毎に理由は多数あるのだろう。兎も角として、ドワーフ族の中でルナー一家は、特殊な立ち位置にあった一族だったのだ。
資料の中では、ルナー一家のその特異性について、詳しく描かれていた。
「ふむ………この資料が真実なら、ルナー一家は、ドワーフ族に対する知識もかなり持っているのかもしれないね。あ、でもちょっと待ってください? この資料内容と、さっきのドワーフ族と火の神に関連性があるんですか?」
「えっと……ここだけじゃあ分からないと思うんですけどぉ………ほら、このページ!」
また別のページを見せてくるリィゼイン。随分と細かいところまで読んでいるらしい。彼女の好奇心は中々に膨らんでしまっていた様だ。今もそれは存在しており、ルッドに資料を見せるという行動に及んでいる。
「何々? ドワーフ族の衰退とルナー一族の動きについて?」
ルナー一族が今も存続し、ドワーフ族が存在しないということは、何時かの時点で、この二つが別離したということ。
その周辺の動きについての話を纏めた部分らしく、ルッドが一番目を惹いたのは、ルナー一家がドワーフ族から何かを引き継いだと思われる文脈があるところだった。
「衰退期……ドワーフ族は自らの種族に対して、ある種の保険を掛けようと躍起になっていた………その一つとして存在していたのが、自分達の力の継承である……か」
ドワーフは種族としての衰退が進行していく中で、種族が持つ技術を如何に継承していくかを問題視していたらしい。そうして、自らの種族以外にその幾らかを担わせることにしたのだそうだ。
衰退はドワーフという種族に起こっているのであって、それ以外には起こっていなかったのだから。
「選ばれたのはルナー一家だったって思うのが自然だ。元は同種族だったんだから、それなりに信用だってあったんだろうし………となると、ルナー一家は、ドワーフが持っていたはずの力をそのまま継承している?」
「そうなんです! 同じことを私も考えたんですよっ! その………私の家がずっと言い伝えてた家訓ですけど、御婆ちゃんに良く聞いたら、ちょっと内容が違ってまして………」
「違う? 確か村の外からやってきて、元兵舎にある資料を探る人間がいたら注意しろってものでしたっけ?」
「はい。はいぃ………。そうだと思っていたんですけどぉ………」
違うらしい。結構重要なことなのではないだろうか。なにせ彼女の家訓に興味を持ったからこそ、今の状況をルッドは演出したのだから。
「良く聞いてみたら、違ったんです!」
「どういう風に?」
「私ぃ……資料を探りに来る人間がいたら注意しろって言う話だけを聞かされてまして………ほら、そういう風に言われると、小さい村ですから、外から来た人間を警戒しろってことだなぁって、思うじゃないですか!」
「そうじゃなくて、資料を探る人間全般を警戒しろって話だったんですね?」
リィゼインが昨日語った家訓とやらも、元兵舎である『赤宝館』や『ホワイトナイト』で本や資料等を探る人間を警戒しろという話であって、村の外か内かについては言及していなかった。
そうなってくると、ある別の問題が浮かび上がってくる。リィゼインが語る家訓にも関わる問題だ。
「もし、もしですよ? その家訓が村の内側に向けての話だったら、どう思います?」
「た、大変ですよねぇ……。私ぃ、もっと警戒しなきゃいけない人が増えて大変だっ! って思って、もうどうしたら良いか………」
なるほど。彼女がルッドへ相談をしに来た理由は、そう言った混乱が元になっているのだろう。ならばルッドは、その混乱を解消することはできそうだ。
「ルナー一家……」
「はいぃ?」
「これまでのファラッドさんの話を聞くに、あなたが警戒するべき対象は、ルナー一家の事なんじゃあないかと思っていらっしゃる」
話を纏めるとそういうことになる。筋が通るのだ。かつてルナー一家は、ドワーフ族から何かを受け継いだ。後にこの地方を統治することになったラージリヴァ国の総領主は、彼らの知識を警戒し、彼らの資料を没収した。さらにそれだけでは危険だと判断した者もいたのだろう、リィゼインの先祖である兵士は、土地に根差し、ルナー一家を警戒する事にしたのである。
これがこの村の裏側にある歴史の一幕なのだとしたら………。
「最近、『赤宝館』に、ルナー家の人間が来たことがあるんじゃないですか?」
「な、なんで分かるんですかぁ? その通りです! オンブルト・ルナーさんって人が、あなたと同じ様に、旧館をちょっと見せてくれって頼み込んで来てぇ」
「その時は、あまり警戒しなかった?」
「そ、その時はぁ………外から来た人間だけを警戒すれば良いんだって思ってましてぇ………」
なるほど。つまり肝心要の相手を見逃してしまった形になるわけか。そりゃあ彼女からしてみれば焦るだろう。
「………もしかしたらその時、ルナー一家は何か大切な情報を旧館から手に入れたのかもしれませんね」
「ど、どどど、どうしましょう! わ、私ぃ! 家訓を守れなかったってことになりますよね!?」
というか、彼女の姿を見ていると、これまでだって見逃しがあったのではないかと思えてしまう。例えばほら、今からルッドが話す内容に、まんまと乗せられる可能性だってあるわけであるし。
「そうですね……僕がルナー一家に探りを入れてみても良いですよ? そうすれば、ファラッドさんだって安心するでしょう? もしかしたら特別悪意なんて無いかもしれませんし」
「そ、そうかもしれませんねぇ………。同じ村の人を疑いたくもないですし!」
現状、分かっていることと言えば、ルナー家の人間が『赤宝館』の旧館を訪ねたという事だけであるし、リィゼインが勝手に慌てている可能性も十分にあり得た。
(まあ、多分、杞憂に終わることは、まず無いだろうけどね)
ルッドの予想では、ルナー家は何か狙いがあって『赤宝館』へやってきたであろうことは、かなりの確率であり得ると考えている。
(時期的に言えば、大陸が混乱期に入り始めてから、『赤宝館』を訪ねたって流れの方がしっくり来る気がするんだよね。社会が不安定になれば、自分たちの知恵や力を総動員して、何か行動を起こしたくなるのが常だし………)
それとも、これは単なるルッドの趣向の話でしかないのだろうか。だが何にせよ、ルナー邸へ再び足を運ぶ必要はありそうだ。
「と、いうわけで、それ、一度貸してくれませんか?」
「えぇ?」
ルッドは手で示すのは、リィゼインが持つ2冊の資料だ。一旦はリィゼインに返したそれであるが、今は再びその内容を確認できるチャンスが生まれている。利用しない手は無いだろう。
「明日にでもルナー邸へ向かうつもりです。その時、僕の側に適切な知識が無ければ困るんですよ。何か探りを入れるにしても、その何かの知識が欲しい。それらの資料にはその知識が存在しているかもしれないんです……なら」
「で、ですけどぉ………」
本を一旦、自分の胸に抱くリィゼイン。だが、あと一歩と言ったところだ。さらに相手の感情に踏み込んでいく。
「じゃあ、僕は何の知識も無いままでルナー邸に向かうことになりますね。それでも構いませんが、世間話程度のことしかできないだろうなあ………それで良いですか?」
「あ、そ、それはぁ………。わ、わかりました! わかりましたよぉ! あくまで、一時的に預けて置くだけなんですからね?」
心の中で笑みを浮かべる。これでさらにルッドは村の中の情報を得ることができたわけである。これからさらに情報を集めて………。
(ちょっと待て? 何をするんだ? 僕は………ここから先………情報を集めて何をしろって?)
何時もなら……そう、何時もなら、何か有益な結果を呼び寄せる術を、とっくの昔に考え付いていたはずなのに、これから先の展望が無いことに今になって気が付いた。
村には自分には思いも寄らぬ裏側が存在するかもしれない。その可能性はあるだろう。だが、その真実を知って、自分は何をしようと言うのか。
(興味があったから知識を集めただけ………それで許される立場じゃあ無いだろう? 僕は………)
ブルーウッド国の間者、ルッド・カラサであるならば、まだそれで良いかもしれない。しかしミース物流取扱社の商人、ルッド・カラサであるならば、さらにそこから、商売としての利益を、そうしてさらに大きな結果を残さなければならないのだ。
好奇心を満たすだけで満足するなど間違っている。
「僕は………
「あのぉ? どうかしたんですか?」
突如、考え込んでしまっていたのだろう。そんな様子のルッドを、怪訝そうな表情でリィゼインが見つめている。
はっと表情を元に戻し、ルッドは答えた。
「いや、その………それでは本を預からせてもらう。ということで良いですか? 明日の夕方までには返却しますので」
とりあえずその場を取り繕くろうことしかできぬルッド。未来を見据える目を持たぬ人間には、この程度が限界なのかもしれなかった。
リィゼインが去った後、ルッドは部屋でひたすら資料を読んでいた。彼女から一時借り受けた形になる、『赤宝館』と『ホワイトナイト』にあったそれらだ。
内容を詳しく見てみると、新たに判明することが幾つもあった。例えば、火の神を崇める際のご神体に、ドワーフは円盤状の物を用いていた事や、力を扱う際の祭具なども多種あったらしい事。ルナー邸にはそういう物品が多数存在している可能性が高い事。資料こそ提供したとは言え、それらの物品を秘匿しているらしき言動を取っている事。
そのどれもが、ルッドの好奇心を擽る。擽るのであるが、それ以上へとは導かないのだ。これでは駄目だ。今の自分に必要なのは、好奇心を越える功利心………そして何か、こう、臭い言い回しになってしまうのだが、誇り高さを感じる何らかの義務感だ。それらこそが今までの自分を動かしてきた。そのはずなのに、今はそれがぽっかりと抜け落ちている感覚。
(どうすれば良いって言うんだよ…………いくら何かを調べたって、元通りになれなきゃ、何の意味も無いじゃないか)
ルッドはベッドに自分の体を投げ出す。元々は、自分のリハビリのために始めたことであった。その過程で重要らしき状況を発見したのであるが、だからと言って自分の精神状態が元通りになるわけでは無い。
一時は回復傾向にあったと思い込んでいた自分だが、より交渉事や事件に踏み込む中で、取り戻せていない物があることに気が付く。
こんな感覚がいったい何時まで続くというのか。どれだけリハビリを繰り返したところで、元通りのルッド・カラサにはなれぬのではないか。
目の前の資料よりも、そんな不安感が頭の中を占めていく。それが疲労感や眠気となって行くのにそれほど時間は掛からない。徐々に目蓋が重くなっていくのを感じながら、ルッドの視界は暗闇に。そうしてその暗闇すら感じられぬ眠りの中へと旅立って行った。
夢だと気が付く夢。明晰夢とか言っただろうか。自分がいるここは夢であるらしい。何故わかったかについてであるが、単にそれは、ルッドに記憶がちゃんとあったからだ。
そう、ノースシー大陸に来てからの記憶がしっかりある。だというのに、自分がいるのはブルーウッド国にある自宅であった。
館と言えるほどの広さがあるそこであるが、生まれてからずっと住んでいた場所であるため、どこに何があるか。普段は誰が何をしているか。階段の手すりの傷の場所までしっかり覚えていた。
自分はそんな家の中を歩いている。何を目指しているのだろうか。それは自分にも分からなかった。ただ自然に体が動いていく。すると美味しそうな匂いがした。どうやらこの匂いに自分は惹かれているらしい。
階段を降り、家族の食卓へとやってくる。長いテーブルの上には、スープが並べられていた。どうということはない、領地で取れた野菜やミルクを煮込んだそれであるのだが、独特の色と香りを放っている。
この匂いも良く知っていた。味もだ。近い方の兄はこのスープが嫌いだと言っていたが、自分は大好きだった。
隠し味があるそうで、男の自分にはそれが何であるかを教えてくれなかったし、別にそれで良いと思っていた。何時だって、頼めばこのスープが食卓に出て来るのだから。
そんな子供っぽい考えは簡単に裏切られてしまう。ある日から、そのスープが絶対に飲め無くなってしまうことになったのだ。
自分はその日、とても泣いたことを覚えている。スープが飲め無くなったから悲しかったんじゃあない。ただ、もっと、とても大切な物を失ったので、それがとにかく悲しかったのだ。
けれど、そのスープが今は食卓に並んでいる。家族の分全員だ。いや、一皿多い。まさかと思い、ルッドは台所へと掛けた。
そこでは一人の女性が、家族分の料理を作る時に使う鍋を使って、スープを煮込んでいた。ルッドからは後姿しか見えない彼女だが、その後ろ姿を忘れる訳が無かった。三兄弟の中で、ルッドが一番可愛がられていたのではないだろうか。
ルッドもルッドで良く懐いていたし、ちゃんとルッド個人を見ていてくれている彼女といると、無性に落ち着く自分がいたのだ。
「―――!」
ルッドが彼女に何かを叫んだ。すると自分の声に反応して、鍋を煮込む手を止め、ルッドの方へと振り向く彼女。
そこには、とっくに死んでしまった祖母の姿があった。
「なんてことだ………ちくしょう………」
何時の間にか、ルッドは目が覚めていた。目に映るのは部屋の天井。別にその天井の風景が気に入らなかったのではない。問題なのは夢の内容なのだ。
胸が強く締め付けられるような郷愁感。何時もの自分にあった自信の代わりに入って来た心細さは、ひたすらにルッドの気分を落ち込ませてくる。
(死んでしまった人間は反則だろう?)
自分の夢に悪態を吐くルッド。しかしそれで取り返しが付くわけでも無かった。
(最近夢を見てないから油断してた……いや、気を付けたってどうしようも無いってのは分かってるけど………)
今のルッドは、涙を流してしまいそうになるくらいに、故郷への念が強くなってしまっていた。懐いていた祖母の夢など、今の時期見るべきものではないはずだ。だというのに、自分の心の奥底にある何かは、ひたすらに訴えかけて来るのだ。寂しい。故郷に帰りたいと。
「ふっざけるなよ!!」
苛立ち紛れに枕をベッドに叩きつける。力を込めた割には、枕はただベッドの上を少し跳ねたのみで、不完全燃焼が続くルッドの心を現しているような、そんな気すらしてきた。
「はぁ……はぁ……………うん? 開いてますよ………」
部屋の扉を外側から叩くノックの音が聞こえた。そう言えば鍵を閉めていなかった。不用心かもしれないが、今はそんな事すらどうでも良い気分だった。
「ああ…………開いてたのか。入るぞ…………何をしてるんだ?」
扉の向こうからダヴィラスが現れた。ここはダヴィラスと共同の部屋であるため、別にやってきてもおかしく無いだろう。むしろ、ベッドの上で息を荒くし、枕を叩きつけているようなルッドの方が、おかしい目で見られてしまう。
「えっと………ちょっと………」
なんと返せば良いかわからない。上手く行くかもしれないと思った矢先に、ホームシックがぶり返してしまったと、どうやって口にすれば良いのだ。自分がひたすらに情けなくなってしまう。
「あー…………これから時間はあるか?」
どうしようかと迷った様子のダヴィラス。いったい何の用があるのか知らぬが、どうにもルッドを誘いに来たらしい。
「え、ええ………大丈夫です……けど」
精神的には大丈夫ではない。大丈夫では無いのだが、体の方はと言えば、休息を取ったおかげか元気だ。今さらもう一度寝るという気分でも無く、起きているのであれば、ダヴィラスと付き合うべきなのだろう。
「だったら………来てくれ。社長が呼んでる…………」
「社長が?」
キャルがいったい何の用だろうか。昨日の夕食の一件から、あまり話をしていないので、どこか会うのが気まずかった。ただ、一度大丈夫と言った手前、断り難い。
「プレゼントが………あるそうだ」
ダヴィラスはそれだけ口にして、ルッドに付いて来るよう促すのだった。