第五話 変化は常に起こっている
増改築を繰り返した結果と言えば良いのか、旧館と呼ばれる空間への入口は、『赤宝館』内に幾つも存在している。
それは単純に従業員用の通路であるという看板が飾られているだけであったり、危ない場所は柵がされていたりする場所の先にあった。幾つか壁で塞がれてしまった場所もあるのだそうだ。
「宿の従業員は、まず、安全な場所かそうでないかの判断しなきゃいけませんっ。勿論、新館部分だけで移動はできるんですけど、旧館を通れば早く行ける場所とかもありますから!」
熱く説明してくれるリィゼイン従業員。ただ、彼女の隣で歩くルッドは、如何にして彼女の目から逃れるのかについて考えていた。
(危ないからっていう親切心で付いて来てくれている以上、何かしら理由を付けて別行動をするわけにはいかないんだよなあ。どうするか)
とりあえず目当ての部屋があるかどうかなのであるが、その部屋が見つかるまでに、彼女をなんとかする方法を考えなければ。
「ファラッドさんは、旧館の構造については、全部把握してらっしゃるんですか?」
ルッドは自分の視界に映る廊下を見渡した。既に従業員が旧館と呼んでいる場所に入っており、ここからさらに進めば、構造的に床や建材が脆くなってくるそうだが。
「奥になるほど危険だって言われてますから、実は行ったことがないんですようっ」
「そうなんだ………じゃあ知ってる場所だけで構わないんですけど、旧館の中で、本がいっぱいある場所っていうのはあったりしました?」
「本? うーん………無かったような?」
首を傾げるリィゼイン。なるほど、目当ての物は奥に向かわなければ無いことがわかった。
「できれば、その危険そうな場所に向かいたいんですが………危なければ、待っていただいてくれても結構ですよ?」
「そんな! お客様を危険な目に遭わせないように言われてるんですよっ、私! しっかり付いていきますからね!」
そもそも、危ない場所に向かうのなら引き留めるのが普通だと思うが、そこには頭が回らないらしい。ルッドにとっては良いことであるし、文句は無い。
「それじゃあ、がんがん進みますから、付いて来てくださいねー」
ルッドは歩く速度を上げる。できればリィゼインを置き去りにしたかった。と言っても、床が何時抜けるかもわからぬ廊下であるため、足の感触を確かめながらの慎重さは維持したままであるが―――
「きゃあっ!」
悲鳴が聞こえた、右斜め後方からである。慌てて見やると、木材で出来た床の穴が抜けて、そこに足を突っ込んだリィゼインの姿が。
「な、何やってるんです!? 大丈夫ですか!?」
走り寄り、ルッドはリィゼインに手を貸す。彼女はルッドの手を握って、なんとか足を床から引っ張り出した。
「うう………すみませぇーん……だめですねぇ、私………」
怪我は無い様だが、どうにも落ち込んでしまった。どうしたものだろうか。
「とりあえず……あなただけでも引き返した方が良いんじゃあ………」
「そ、それは駄目です! お客様の安全が第一!」
危険なのはそちらの方であるし、正確にはルッドは客人ではあるまい。思いの外面倒な相手だなと頭を掻いてから、とりあえずルッドは足を先に進めることにした。
「とにかく、足ともには注意してくださいね!」
これではどちらが案内役か分かったものではない。それでも奥へ奥へと進んでいく。途中にある部屋を逐一覗きながらだ。元は食堂であったり、休憩所、睡眠場所だったところなどを発見し、なんとなくだが、旧館の構造がわかりはじめてきた。
どうやら自分は、既に兵舎として使われていた部分までやってきているらしい。来客を楽しませるためのゆとりや外観より、機能性を重視した構造に変わってきているのだ。さきほどまでの『赤宝館』と同様の建屋とは思えない。
(ここまで来ると、まだ頑丈なんだ。抜けそうな床も無い。さっきリィゼインさんが床を踏み抜いた場所は、多分、無理に増築した部分……なんだろうね)
自分の足で、床とトントンと叩く。ここはしっかりとした石の床で作られているらしい。そもそも木材はこの国では貴重であるし。
(となると、そろそろ目当ての場所があるかも………おっ)
廊下を進み、幾つか部屋の中を確認していると、並ぶ本棚が押し込まれた部屋を発見した。
「あれー? その部屋? 何かあるんですか?」
先ほどまでは、部屋を覗いた後、すぐにまた廊下を歩き出していたルッドが、今度は部屋の中をまじまじと見ているため、気になったのだろう。背後からリィゼインが話し掛けて来た。
「ほら、色々と本が………この部屋、知ってましたか?」
「い、いいえぇ? こんなところまで来たこと、私ありませんっ!」
まあそうだろう。床や棚に積もった埃を見ても、かなりの期間、ここに人が来ていないのがわかった。
「ちょっと、中に入らせてもらいます」
「え、ええ!?」
返答を待たず、ルッドは部屋の中へと入った。試しに一つの本を取ってみると、かなりボロボロであることがわかる。
(大丈夫かな。内容が判別できないなんてオチだと、もうどうすることもできないけど……)
本を開き確認する。所々虫食いがあり、書かれている文章も古語の類であるが、なんとか判別できた。
(というか、古語の方が分かりやすいんだよね………ちょっと気分は微妙だけど)
ブルーウッド国で、ノースシー大陸の言語を学んでいた頃、あちらでは大陸の古語を主に学んでいたのだ。というか、そういう資料の方が多かったから、そっちを学ぶしかなかったというのが実際だ。
(時代遅れの言葉だから、こっちでも随分古風な言葉を使ってるなんて言われたっけ………)
まったく困ったことであったと思う。一応、ブルーウッド国側では最先端な研修という形になっていたはずだし、教える側も教えられるルッドも、とても真剣に行なっていた。だというのに、実際にノースシー大陸へと来てみれば穴だらけだ。祖国ながら、その間抜けさは笑えて―――
「ああ、くそっ」
「どうかしたんですか?」
「あっ………いえ、別に何でもありません」
本当に何でもない。リィゼインとはまったく関係ないことであったのだ。つい、故郷についてまた考えてしまっただけのこと。今はホームシックを解消するためにリハビリをしているというのに、こんなことでいちいち思い出してしまうなんて………。
(とりあえず、今は資料を探すことに専念しなきゃ………)
手当たり次第、部屋にある本を手に取り、捲っていく。兵士達の日誌であったり、その日の食事のこんだて。予算の帳簿、物品整理帳、白紙、落書き、予定表、ドワーフ族の伝承、山の天候―――
(あった、これだ!)
危うく手放し掛けた本を握り直し、ルッドはその中身を見て行く。速読の技能などはないため、それほど早くは無いものの。
「あのお? さっきからいったい何を?」
「えっ……いや、あー」
しまった。リィゼインへまず何かしら言い訳をしておくべきだった。単純そうな彼女でも、怪しむ様な目でこちらを見ている。頭が回っていなかった自分を叱りたい気分だが、今はこの状況を解決しなければ。
「ここ………どういう場所か分かりますか?」
「ここ……ですか? えっとぉ……図書室…とかですかぁ?」
「そうですね。その通りです」
だから何なのだろう。何とか自然に会話を進めたくあるが、平行して良い具合に、ここで本を調べる理由を作らなければ。
「こーんな大量の本がある、この部屋。ほら、なんだかわくわくしてきません?」
「ま、まあ………そうなんでしょうかぁ」
頬に人差し指を当てながら、考え込む仕草をした後、リィゼインは答えた。多分、何にもわかっていないのだろう。言い包めるなら今がチャンス。
「こんな古い場所にある、古文書みたいにボロボロな本の山! 興奮しない人の方が少ないですって! この場所、是非とも宣伝したくなったんですよね」
「は、はあ………そ、そう言えば! そうかもしれません!」
絶対に分かっていないであろうことは分かるものの、今は話が通じているのだから、これで良いとしておく。ただ、ここに長居することもできなさそうであるため、リィゼインの目を盗んで、手に持った本をローブの内ポケットに入れておく。
(ああ、泥棒だよね、これ、完全に)
自分の行動力が恐ろしくなってしまう。というか、まず罪悪感を抱くべき状況だ。だというのに、止めるつもりが毛頭無かった。
好奇心が止められない。そうだ、このどうしようもなさも、また、商人ルッドの有り方えあったはず。
「とりあえずこの部屋は要チェックです。こんな部屋を他にも見つけないとなあ」
そう口にしてから、素知らぬ顔で部屋を出た。とりあえず、今回はこれくらいにしておこう。
一応、取り繕うために他の部屋も回るつもりなのだが、既に目当ての物は手に入れたのだから、すぐに『サラマンドラの息吹』の部屋に戻り、本から新たな情報を得たい気分であった。
『赤宝館』での作業を終えたルッドは、内部を見させてもらった件の礼をした後、『サラマンドラの息吹』へと戻った。
既に太陽が傾き、暗くなり始めている時間帯であったため、丁度良い時間帯だったと言える。
「夕食等はどうなさいますか?」
「あ、そうですね。温泉に入ってから、すぐに貰いたいかな」
宿に戻るなり、玄関で掃除をしていた店主に尋ねられた。本来は部屋で手に入れた本を調べたいところであったが、腹具合を改めて確認すると、随分と空腹であった。そういえば朝に食べたパンと干し肉以外、今の今まで何も食べていない。その癖、あちこち動き回っていたのだから、飢餓状態になるというものだ。
帰ってきてからすぐに夕食というわけにもいかないだろうから、まずは体を休めるため、温泉へ入ることにした。一日一回は入らなければ、損な気分でもあったからだ。
「うちのダヴィラスって言う男性も、相変わらず入ってたりするんですかね?」
温泉で会えるだろうかと思ったルッドは、店主が知っているかもしれないと尋ねた。
「いいえ? 昼ごろからふらっと出て行ったきり、今の今まで帰ってきていませんが」
「あれ?」
彼も何か用があったのだろうか。ルッドは首を一度傾げた後、そういう事もあるかと温泉へ向かうことにした。
ダヴィラス・ルーンデは今日の昼頃から『サラマンドラの息吹』を出て、村内にある温泉宿を巡っていた。
『サラマンドラの息吹』にある温泉に飽きた訳ではない。ただ、村にいる以上は、あちこちの温泉に入りたいというのが人情である。
幸いに温泉だけならば、宿泊代より随分と安く入ることができるのだ。今日だけで3つ程宿を周り、それぞれの温泉に浸かって来た訳だが、中々の満足度合であった。
「締めには…………やっぱり泊まっている宿の……温泉だがな………」
やはりまだまだ温泉を楽しまなければ。泊まっている間は、宿泊代に入浴代も入っているのだから、入らなければ損と言うものだ。
そんなことを思いながら、『サラマンドラの息吹』の脱衣所までやってきたダヴィラス。風呂に入ったら食事にしようかと考えながら入ったところ、そこには知り合いが居た。
「うん? どうしたんだ………ルッド」
脱衣所でなにやらがさごそと、自分のローブを探っているルッドを見て、ダヴィラスは話し掛けてみた。というか、話し掛けないで放っておくという選択肢が浮かばない状況だ。
「無い、無いんですよ!」
いったい何が無いのか。どうやらその何かを探しているらしいが。
「落ち着け………何かをどこかに忘れたのか?」
「ええ、ええ! そうなんですよ! くそっ、確かにここに来て服を脱いだ時にはあったんだ。そもそもなんで僕はちゃんとしたところで保存して置かなかったんだよ! こんなところに置いてたら、盗まれる可能性はそう低くないじゃないか! なんで、そんなことに頭が回らなかったんだよ……くそぉ!」
「だ、だから………落ち着けって。いったい何があった………言ってみろ」
彼がこの様に錯乱しているのを始めて見たかもしれない。最近は何故だか気落ちしているし、ホームシックになっているなどと言い出していたから、これは想像以上に深刻な事かもしれない。
「盗まれたんですよ! いや、まず盗んだのは僕も方かもしれないけど………それをさらに……ああ、まだだ。そう断定するのは早くて………」
「わかった………とりあえず、ここで話す話じゃあ無いな…………部屋に行くぞ」
脱衣所の周囲を見渡す。他に人がいなくてとりあえず一安心。盗んだ盗まれたと言った内容の話は、あまり大ぴらにする物ではないだろう。
とりあずルッドを部屋まで連れて行き、そこで話をするべきだと、ダヴィラスは判断したのだった。
「おいおい………ちょ、ちょっと待て………。本を盗んできたって………本当か?」
借りている部屋までやってきたルッドとダヴィラス。とりあえず、ほんの少しは冷静さを取り戻したルッドは、これまでの経過をダヴィラスに話す。勿論、彼は随分と驚いていた。
「ええ、ちょっと『赤宝館』の旧館部分から拝借を……そんな顔しないでくださいって。確かに危ない橋を渡ったなって自覚はあるんですから」
ダヴィラスが怯えた様な表情をするため、ルッドは言い訳にもならない言葉を口にしてみた。当然、ダヴィラスは安心した様子を見せない。
「あ、あのなあ………わかってるのか? 犯罪だぞ………それは………」
「そうなんですよ。訴えられたら負けなんです。ああ、だからこそ危ういなあ。そういう狙いがあったかもしれない」
タイミング的にドンピシャなのも怖い。持って来て、その日のうちに盗まれたというのは、どうにも狙われている気がする。単なる被害妄想であるかもしれぬが、本が無くなったというのは現実だ。
「あのなあ………そもそも、泥棒自体がいけないことだろう………」
溜息を吐かれてしまった。しかもそのすぐ後には呆れたと言った目線を向けてくる。二重にショックを受けてしまうから止めて欲しい。本を盗まれた件も合わせれば三重であるのだ。さすがに心に来るものがあった。
「いけないことですよねえ………やっぱり、すべきじゃなかったんだろうか」
「しかしなあ…………そんなに興味があったのか………その……山について」
こちらを元気づけるためというわけではないだろうが、本に関する事柄から、別の話題へと話を変えようとしてきたダヴィラス。ルッドはそれに素直に答えることにした。彼は敵ではないのだから。
「山というか、それに関する環境ですね。興味があるのは。国がどうしてルナー一族から過去の山に関する資料を奪ったのか………気になりませんか?」
「俺は………あんたの様な商人じゃあ………ないからな」
理解はして貰えず残念であった。こんなにも好奇心をくすぐられる事柄だというのに………。
「山と言えば…………前にあんたが行ったなんとか言う山とも………山繋がりだな」
「へえ。ダヴィラスさんも、やっぱりそう思います?」
ルッドは笑っている自分の表情に、ここで漸く気付いた。どうにも自分は、この危機的状況すら楽しむ様になってきているらしい。つまり、何時もの自分だ。
「山と火の神様……この二つがゴルデン山の物語に関わる重要な物でした。さて、火の神と山と言えば、以前にモイマン山という場所に僕が向かった時、似た様な話ではないですが、共通点のある物語を聞いたんですよね」
これは単なる偶然なのだろうか。いや、そうは思えない自分が確かにいるのだ。二つの山と火の神に関する事柄が、ゴルデン山の物語を知ることで繋がる様な、そんな予感がする。
「しかし………それが本当に繋がるかどうか。それが分かる本を………あんたは盗まれたんだろう?」
「むしろこのタイミングでかって感じですね。完全に狙われてる様な………ああ、なんだろうなあ。むしろやる気が出てきましたよ。もしかしたら僕を妨害する連中がいるのかもしれない? だったらどうするか………」
ダヴィラスが目の前にいなければ、興奮していく自分を抑えられなかっただろう。妨害があればさらに燃える。
「単純に………盗人に盗まれたとは………考えないわけか?」
「この宿の中に、そう都合よく泥棒がいますかね?」
「今………俺の前にいるな………」
「まあ確かに? そりゃあそうですけども」
今のルッドは、言う通り盗人だ。その盗人が誰かに物を盗まれた形になるのだから笑えぬ話ではあろう。だから今はこの興奮を抑え、必ず意趣返しをしなければならない。
「…………次は何をしでかすつもりなんだ?」
「しでかすって……そんな……まるで突拍子もないことを企んでるみたいな言い方しますね」
「………企んでるんだろう?」
「ええ、まあ、誰かが喧嘩売ってきてるのなら、こっちの流儀でお返ししないとって」
「もし………あんたが想像する様な状況だっていうのなら…………先に喧嘩を売ったのは………こっちじゃあないか?」
そういうことになるのだろうか。自分は誰か知らぬ者の虎の尾を踏んでしまったのかもしれない。ただ、踏んでしまえば、もう虎と相対するしかないのだ。ならばこの窮地に全力を出そう。
「喧嘩相手がどんな相手かを知りたいっていうのは、自然な考えですよね?」
「だから………何をする気だ………」
「誘き出します。キャルとレイナラさんは忙しいみたいだから、ダヴィラスさん。手伝ってくれませんか?」
「………来ると思った」
心底嫌そうな顔をされてしまう。だが、彼の力をルッドは是非とも借りたいのである。
「駄目ですかね?」
「………やってはやるさ。雇われ者だからな」
それでこそだと思う。外見だけだと言われるタイプの男であるが、その実、誠意を持った人間であることを、ルッドは十分に承知していた。
「で、次はここになるわけか………」
本を盗まれてから一夜明けて、ルッドとダヴィラスはある場所へと辿り着いた。『サラマンドラの息吹』から村の外側へと向かった先ある『ホワイトナイト』という宿だ。
「もともと、『赤宝館』か『ホワイトナイト』、どちらかで、山の情報となる資料を探すつもりだったんです」
まずは近い方からと『赤宝館』に向かったわけだが、資料が存在する可能性は、この『ホワイトナイト』も同じくらいにあるわけである。そして『赤宝館』には役に立ちそうな資料が存在していた。
「で………ここでもその………盗む……のか?」
「同じような手を使って、内部を探ります。そして同じような資料が見つかれば、そうなるでしょうね」
「俺は…………はぁ……どうしたら良い?」
何やら頭痛でも感じているのか、ダヴィラスはとても嫌そうな顔で尋ねてくる。そんな顔されたって、遠慮する自分では無いぞ?
「とりあえずは旅館の外でうろうろしていてください。怪しい人物がいれば、その報告を」
「………それだけで良いのか?」
「駄目です。僕が一通りの事を終えて、宿から出てきてからが本来の仕事なんですから」
そうだ。そこからが本番なのだ。『赤宝館』で行った事と、まったく同じ行動をする。資料が見つかるかどうかは運次第であるが、可能性は十分にあるし、無かったら無かったで遣り様はある。
そうして、宿へと持ち帰るのも一緒だ。
「僕が『ホワイトナイト』を出て『サラマンドラの息吹』へと向かう時、僕一人で帰るつもりです。そうしてダヴィラスさんは、その後をある程度の距離を置いて付いて来てください」
「………尾行するやつを見つけろってことか?」
「勘が良いじゃないですか。そういうことです」
つまり二重尾行というやつだ。もしルッドから資料を奪おうと考えている人間がいるとしたら、『ホワイトナイト』から出て来たルッドを追ってくるはずだろう。
その人間を、ルッドを同じくつけているダヴィラスに見つけさせるのだ。頭の中であれこれ犯人は誰だなどと考えるより、よっぽど手っ取り早い方法であると思う。
「で………見つけた後は………どうするんだ?」
「そうですね。危険であれば、さっさと資料を渡すのも良いかな」
「そうなのか?」
意外そうな表情をするダヴィラス。だが、それで構わないのだ。
「僕を狙っている人間がいるとしたら、その人間がどういう相手か。それについても情報もまた、ゴルデン山の物語と同じくらいに面白い情報になるんですよ」
何故ならば、その人物はゴルデン山の物語を隠そうとしている人間だからだ。そこからでも、山と火の神についての話が、さらに広がるかもしれなかった。