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北風の道  作者: きーち
第十章 休養は湯煙と共に
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第三話 ゴルデン山物語

 ゴルデン山には物語がある。かつて異種族の王がこの地を治めていた。ドワーフという種族の王だ。このドワーフの王は、この山に棲む神の信仰者でもあったらしい。

 彼には確かに火を操る力があった……と、伝えられている。元々ドワーフという種族自体、火の扱いに長けており、鍛冶などの仕事を主にしていたと伝えられているが、ドワーフの王はそれが際立っていたそうだ。

 それはまるで魔法のよう。いや、魔法以上であったと言われる。火の気のない場所に猛火を生み出し、岩をも溶かすその火の力をもって敵対する者を焼き払い、一方で金属の精製や加工のために用いれば、多大な富を生み出すこともできたそうだ。

 彼……だろう。恐らく。ドワーフ王は、その力をもってして周辺一帯を支配し、その権威は盤石な物であると思われた。

 しかし変化が起こる。大陸を巻き込む変化だ。異種族と人間種族が対立を始めたのである。

 それは土地でのしがらみよりも根深き種族間同士の対立。大きな戦いこそ起こっていないものの、小競り合いならば既に何度も発生していた。ドワーフ王は考える。何時かこの争いが拡大し、自らや自らの領地に住む民草に、大きな害を及ぼすことになるだろうと。

 だからこそ、その時の準備を始めなければならない。そのために彼の王が取った策は、自らの力を強大化させることだった。いや、語弊があるかもしれない。彼は自らが信仰する火の神の力を強大化させようとしたのだ。

 そのために彼の王はある物をゴルデン山へと運び込んだ。神をさらに強大化させる何か。しかし、それが実際に使われることは無かったそうだ。

 異種族は人間種族と完全に戦うことは無く、異種族自体の衰退という形で戦いの幕を閉じたのである。外敵のために用意した何かは、自らの種族から現出する問題には無力であり、結局使われることは無かったと伝えられているそうだ。

「で、それって言うのは何なんです?」

 話も佳境に入ろうかというところで、ルッドは店主に口を挟んだ。なんとも焦らされる話であり、最後にその何かが分かるというオチであれば良いのであるが、どうにも違う気がした。

「ええ、それがさっぱり。色々説があるのですよ? それは巨大な神像であるとか、神の奇跡とは財力の比喩で、運びこまれたのは大量の金塊であるとか。ドワーフは金属精製に優れた種族。だからその様な噂が出たのでしょうなあ」

「つまりは………確かなことはわからない?」

 やはりそういうオチかと落胆しそうになる。途中まではいろいろとワクワクできる内容であったのだが。

「まあ、お待ちになってください。この話の通りの事が歴史上起こったとしたら、ある事実が浮かび上がるのです。わかりますかな?」

「事実………」

 さて、なんであろうか。ここで思い付けなければ、心底頭が回らなくなったのだなと落胆するところであるが。

「もしかして………その何かは、まだゴルデン山に存在している?」

「正解です。その通り」

 良かった。当たりだったらしい。話のオチとしても上等な部類であろう。その何か、恐らくはお宝の類だろうと類推できるそれは、まだゴルデン山に残っている。そして………

「山への立ち入りは一年に一度しか許されていないんですよね?」

「その通り。その一年に一度の機会の中で、もしかしたらその何かを見つけられるかも………というのが、開山時期、やってきたお客様に伝えるお話でして」

 なるほど。確かに客人を楽しませるには最適な話題だ。単に山を登るだけではなく、宝探し気分を味あわせることができる。

「でも今は、山に登ることはできませんし、じれったいところですね。あ、大丈夫。十分に楽しめましたから」

「そうですか? いや、申しわけない。話のストックはあまり多く無いもので。適切でない話だったのかもしれません」

 そんなことは無いと首を横に振る。おかげで、この村にいる間、調べたいと思えることが増えたのだ。

「その話。店主さんが独自で考えたものですか?」

「いえいえ。昔からこの村に伝わる話でして」

「この村に……昔から? 確かこの村は、国が許可の無い入山を禁止するため、兵士達を置いたのが始まりでは?」

 要するに、それほど歴史深い村では無いのである。それでもルッドの年齢の何倍も歴史はあるのだろうが、物語の時代はさらに以前のはずだ。

「ああ、それでしたら、村自体はありませんでしたが、人は住んでいたのですよ。ルナーという姓の一族が。その一族に、今年80になろうかという刀自がいらっしゃるのですがね? 私の若い頃などは、散々、そういう話を聞かされたもので」

 なるほど。ゴルデン山の入山口に住む一族。その一族が語る物語とは、中々面白くなってきたじゃあないか。

「その人達が住む家……で良いんですよね? 突然伺っても大丈夫だったりします?」

「深夜や早朝と言った時間帯で無ければ、大丈夫だと思いますが………さっき話した刀自の方も、最近はずっと家の中にいらっしゃいますから………おや、もしかして、先ほどまでの話で興味をお持ちになった?」

「そうですね。ちょっと話を詳しく聞きたくなったというか、その何かですか? いろいろ説があるそうですが、具体的にどんなものだったのか、ちょっと気になるじゃないですか」

 物語が口伝されるうちに、変化している可能性だってある。できれば元に近い情報を手に入れたいというのが、商売人としての人情だ。もっとも、これは商売ではないため、駄目であれば駄目なりに、また別の行動を始めるのみであるが。

「ははは。わかりますよ。お宝話というのは、実際に探さなくとも、話を聞くだけでわくわくするものです。ただ、そろそろ日も暮れはじめるでしょう? 家を尋ねるなら明日にした方が良い」

「ええ、そうですね。そうするつもりです」

 別に焦る必要はない。ゆっくりと続けて行けば良いのだ。ルッドは自分自身にも、そう言い聞かせていた。




 時間が過ぎ、夕食時。宿内にある食堂にやってきたルッド一行。食事代も宿代に含まれているため、既に用意されていた料理を食べること以外に何かする必要はない。そしてその料理がどの様な物かと言えば。

「干し肉に干し魚に漬物に………うへえ。しょっぱい」

 大凡、キャルの感想の通りである。冬の間はただでさえ産物が少ない上に、山に近い内陸部ということもあって、保存食材を使った料理が多いのだ。塩を多量に使うので、当然ながら、塩辛くなってしまう。

「仕方ないこととは言え、食事代はもうちょっと出しておくべきだったかな」

 ルッドもキャル程に文句は言わないが、宿に泊まる一週間。こういう食事ばかりだというのは、先を考えればうんざりしてしまう。

「良いんじゃないのー? お酒にも合うものー!」

 楽しそうにケラケラ笑いながら話すのはレイナラだ。食事をするフォークを右手、酒が入った器を左手に握った状態である。

 そりゃあ酒のつまみには塩辛い物が合うだろう。酒なら保存も効くから、いくらでもあるだろうし。

「まあ………こんなものじゃあないか? 贅沢したって………仕方ないだろう…………温泉もあるんだし…………」

 言う割に、あまり好みで無いらしく、ダヴィラスはチビチビと食事を進めている。ただ、彼にしてみれば、ここに来たのは温泉目当てなのだろうし、それがあれば満足なのだろう。

 今日もあれから、今の食事時まで、ずっと大浴場か、そうでなければ涼みに脱衣所にいたのではないだろうか。もしかしたら、今回の旅行をもっとも満喫している人間かもしれぬ。

「そう言えば、そっちは今まで何をしてたんですか? まだお風呂にも入ってないみたいじゃないですか」

 ルッドはキャルとレイナラを見ながら尋ねる。二人はまだ、ここに来る目的であったはずの温泉にも浸かっていない様子だ。レイナラは村の酒場なりを探していたのかもしれないが。

「あ、ああ。ちょっとな、ほら、姉さん?」

 何故か急に慌てだすキャル。なんだ?

「んー? ああ。そうね。ちょっと村の中、二人で散策してたのー。温泉以外の娯楽でも無いもんかってねー?」

「そうそう! それだよ」

 なんだろう。多分、何か別の目的があるみたいな様子なのだが、それがなんなのか。

「何かあったの?」

「ええっとねー。なんか矢の玩具みたいので的当てしたり、仔馬のレースなんてしてたわねえ」

 キャルに聞いたつもりなのだが、レイナラが答える。なんだろうか。キャルを庇った様な印象を受ける。そして答えの内容自体も、軸をズラされた様な違和感が。

「まあ、観光用の村でもあるんですから、そういう遊び場とかはあるかもですね。一週間は飽きずに過ごせるのかな」

「そうねえ。まあ、そういうのが無くても、満足してそうな人はいるけど」

 レイナラは視線をダヴィラスに向けた。未だにチビチビと食事を続けるダヴィラスであるが、自分に話が周ってきたことに気が付いたらしく、顔を上げる。

「なんだ…………」

「ずっとお風呂入れて、すっごい満足そうだなって」

「ああ…………あれは良いぞう。普通の風呂とは…………やはり違うな」

 皮肉げなレイナラの視線にも気づかず、薄ら笑いを浮かべているダヴィラス。正直怖い。きっと食事が終わった後も、温泉に向かうつもりなのだろう。のぼせなければ良いが。

「あ、そうだ。明日はどうするんだ、みんな」

 キャルが提案する。全員で行動すると言うのも良いだろうが、どう返答するべきか。

「特に無い様だったら、別々で行動したいんだけどさ、良いか?」

「うん? こっちは構わないけど」

 てっきり、みんなで色々遊ぼうと言ってくるのかと思ったのだが、そうでも無いらしい。一応、明日の予定というものを決めていたルッドにとっては、有り難い話なのだが。

「何か…………やることでもある……のか?」

 ダヴィラスも気になっているらしい。彼の予定はと言えば、一日中温泉に浸かっているだけだと思うが。

「ちょっとねー、社長と私とで、やりたいことがあんのよー。ねー?」

「あ、ああ。そうそう」

 レイナラとキャルが目を合わせあっている。なんとも仲が良いことだ。しかし何かを隠していそうに思えるのは、きっと気のせいではないだろう。

(まあ、それを探るって気分でも無いし、とりあえずは放って置こう。僕も僕で、用が無いってわけでもないし)

 明日単独行動になるのなら、ルナーと呼ばれる一族の家へ向かうのも悪くない。ただし………

「まずは、この料理をなんとかしないと」

 そろそろ舌が痺れてくるなと思いながらも、ルッドは料理を胃に放り込むのだった。




 何時もより暖かい朝。天候にも恵まれており、休養中だからそう早く起きる必要はないものの、勿体ないという気分がどこからか湧いてきたため、起床する。

 夢………というのは、今回は見なかった。実際は何等かの物を見たのかもしれないが、覚えてはいない。

(良い傾向だ。故郷の夢なんていうのは、そう何度も見るようなものじゃあない)

 そもそも、その夢が原因で悩んでいるのだから、見ないで良かったと思うのは自然なことだ。

 ルッドは部屋のベッドから抜け出す。部屋の両端に用意されたベッドであるが、もう一方にはダヴィラスが寝息を立てていた。昨日は確か、ルッドが寝付くまでは温泉に行っていたはずだが、どうやら無事に戻ってきたらしい。

「そこまで入り浸れば、さすがに飽きると思うんだけど………」

 どうやらそうでもないらしい。今日の予定も、きっと湯に浸かるか涼む以外の物はないのだろう。

 なので、ルッドが一人行動する予定は変わらない。身嗜みを整えて部屋を出ようとする際に、物音でダヴィラスが目覚めかけていたため、出かける旨を伝えておいた。

 そのまま宿から外へ向かう間に、店主と出会い、朝食はどうするのかと聞かれたので、硬いパンを薄く切り、塩漬け肉と野菜を挟んだ物を一つ貰っておいた。

 その場で食べるのではなく、紙袋に包んで貰った。道中、食べながら目的地へ向かうつもりであったのだ。向かう先は、宿の店主に教えてもらったルナー邸。ゴルデン山の物語について良く知る一族の家。

 行儀悪く歩きながら食事をしていると、食べ終わる頃にはルナー邸へとやってくる。指についたパンくずを舐めとった後、ルッドは邸宅と言えるほどの大きさが十分にある、その屋敷の門へと近づいた。

 門から玄関までそれなりの距離がある。勝手に開けても大丈夫なのだろうか。ベルは玄関の方にしかないため、一旦はそこで立ち止まってしまう。変化があったのは、まあ良いかと門に手を掛けた時である。

「なんだ。きみは」

 門の内側。塀の影に隠れて見えなかったが人がいた。60になる男だろうか。背は低いが、体は寄る年に負けずがっしりとしている。ただ顔の外見だけは年相応。黒よりも白が多い髪と髭、頭頂部の髪は随分と薄くなっている。そんな男だった。

「ええっと………もしかして、ルナーさん?」

「ああ。オンブルト・ルナーとはワシの事だが、で、なんだ?」

 率直な男だ。名乗りと質問を同時に行ってくる。ルッドにとっては好印象。話が早いのはとても助かる。

「僕はルッド・カラサと言う者です。『サラマンドラの息吹』という宿の店主さんから、ここの家を聞き及んで―――

「ルッドか。で、そのルッドは何の様で来た。用件とやらは、うちの家への用か?」

 率直は好印象だと思ったが、こうまで先に話を進めようとされれば、少しテンポが狂ってしまう。

「あ、はい。ここの家で、ゴルデン山に纏わる話が聞けるそうなので、ちょっと尋ねてみたんですが………大丈夫ですかね?」

「ゴルデン山………ああ。うちの母にか」

 納得したように頷く男、オンブルト。さて、どう出て来るのだろうか。警戒するような視線は感じられぬものの。

「ええっと、この家の刀自が詳しいとは聞いてます」

「なら間違いない。母のナハルカンの事だ。来い」

「え? 来いって………家に?」

 トントン拍子に話が進むのであるが、そのせいでむしろ拍子抜けしまっている。何か裏があるんじゃあないかと勘繰るのは、自分の悪い癖だとでも言えば良いのか。

「話を聞きに来たんじゃあ無いのか?」

「そ、そうですけど………」

「なら来い。母ならもう起きてるし、今は暇な時間だ」

 会いに来ましたと言って、すぐ会えるものなのだろうか。実際そうだったとしても、もう少しこう……情緒というものがあっても良さそうな物だと思うのだが。

「わ、わかりました。門、開けますね?」

 尋ねてみるのであるが、男はさっさと屋敷の玄関へと向かっていく。ルッドは慌てて門を開き、自分が入ってから、再び閉じた。

 そうこうしている間に、オンブルトは屋敷の玄関まで歩いてしまっている。早足で彼に追いついたルッドは、彼と共に屋敷へと入って行くのだった。




 ルナー一族の屋敷は、どうにも天井が低い。ルッドは背の低い方であるから、特に不便さは感じないのであるが、それでも頭一つ身長が高ければ、なんども天井に頭をぶつけていたかもしれない。一方で、家を構築する柱や壁は、とても分厚く頑丈そうな印象を受けた。これなら、嵐や大雪の日であろうとビクともしないのだろう。

 そんな家の奥に、オンブルトの母、ナハルカン・ルナーの部屋が存在している。ルッドはオンブルトに、まっすぐそこへと案内された。彼にはルッドに対する警戒が無いのだ。

 例えばルッドが盗人や強盗の類であるという警戒心がまったく無い。それに気づいたルッドは、漸くこの一族の違和感に気付くことができた。

(なんていうんだろう。この違和感………どこかで覚えたことがある………どこだ?)

 思い出せと強く思うものの、頭のどこかで引っ掛かったままであり、それ以上具体的な事が分からないままだ。何時もなら、こんな時、すっと思い浮かぶ物であるというのに。

(これは僕がスランプだからか? それとも、単に今回は頭の回転が鈍いだけ?)

 そんな事すら判断できぬ状態で、ルッドはナハルカン・ルナーと出会った。彼女……もう大分年配で、子どもに近いくらいの身長の、一方で横幅がある老婆は、ベッドの上で横になっていた。

「母さん。お客だ。なんでも母さんの話を聞きに来たらしい」

「おや? お話かい? 良いとも良いとも。どんなだい」

 皺だらけの顔に、さらに皺を浮かべながら、微笑む老婆。人の好さを感じさせるのだが、やはり彼女も警戒心が薄い様子。血というやつなのだろうか。そういえば体格も男性と女性の違いはあるものの、オンブルトに近い。

(天井が低いっていうのも、一族の身長が低いからなのかな)

 実際に他の一族を見てみないことには分からない。それに知ったところでどうなるということでも無いのであるが、こういう好奇心が湧いてくることは良い傾向だと思う。

(調子が戻ってきたってほどではないにしろ、何時もの僕らしい興味じゃないか)

 少しずつであるが、以前の自分に戻ってきているという実感が持て始めた。ゴルデン山について実際に調べてみるという行為が、これほどの効果になるとは。

「すみません。村の『サラマンドラの息吹』という宿で、ゴルデン山の物語というものを聞きまして………あ、昔、山に住んでいたどわーふという種族の王様の話で―――

「はいはい。インヌクエ・ドールゴ様の話だね」

 なるほど。それがドワーフの王の名前らしい。こういう宿の店主から聞くことができなかった情報も、確かに存在していることがわかったので、ここに来た甲斐はそれなりにあったのだろうと思う。

「かなり変わった名前……ですね。語感的には……」

「ドワーフ族独自の命名法だ。わしらルナー一族も、古来より、インヌクエ様に仕えた一族だったから、ドワーフ族の命名法で名を付けている」

 ナハルカンでは無く、オンブルトが答える。確かにルナー一族も変わった名前をしているなと思うが、伝えられるドワーフ族の王の名前とも少し違っている様にルッドは感じた。

(けっこう時代が開いてるから、命名法とかも、細かいところが変わってしまってるんだろうね、多分)

 本来、オリジナルとなるべきドワーフ族は滅んでしまっている。だから模倣は時を経て変わっていってしまうのが普通なのだ。だが、ルナー一族がかつてドワーフ族の王に仕えていたという話には信憑性がある。

(そう、ルナー一族はこの村ができる前から山の麓に住んでいたんだ。かつてドワーフ族の領地であったここに住んでいたってことでもあるから、ドワーフ族の王とも、なんらかの関係があった可能性は高い………はず)

 良く考えてみれば、断言できるほどのことでは無かったため、曖昧な結論で思考を止めておくことにする。まずは話を続きだ。

「インヌクエ様は、それはもう偉大な方で、先祖代々受け継いだ山への祈りを、さらに発展させたのよぉ」

「へえ、祈りを」

 これも宿の店主からは聞かなかった話だ。話の腰を折るからと思ってか、もしくは憶えておらず、語られなかったのかもしれない。

 それ以降、ナハルカンの話を聞くと、細部を除いては宿で聞いた話と違いが無いことがわかった。

 神の奇跡によりドワーフ族は発展し、巨万の富を蓄えたが、大陸で人間種族との諍いが起こり始める。

 それを戦争の機運であると考えたインヌクエ・ドールゴはさらなる力を得ようとして………そうここだ。ここでルッドは宿で聞いた話とは、違う内容のものを聞けた。

「火の神様の………怒り……ですか?」

「ああ、そうだよ? 争いが起これば、必要になってくるのは金属でもそれが生み出す富でもない。神様の怒り。だけどゴルデン山の神様は優しかったのさ」

「優しかったら………ダメなんですかね?」

 やたらめったら厳しい神様よりかは、随分とマシに思える。まあ、それにしたって、信仰や自然が起こす何かを擬人化した物なのだろうが。

「戦争になるのならダメ………とインヌクエ様は考えたのだろうねえ。だからどこからか火の神様の怒りを探し出したのさ。優しい神様がかつて捨てたと言われる神様の怒りをね?」

 これで、宿で聞いた話と随分印象が変わったと思うルッド。ナハルカンの話を聞く限り、それは言われる様なお宝や神像ではない気がするのだ。

 むしろ、もっと直接的な………

(火山の噴火。そういうものの比喩に聞こえる)

 山に住む火の神の怒りとは、そういうものではないだろうか。


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