第九話 モイマン山の火口
見つかるかどうかもわからぬ情報を求めて山を登るルッドとディード。既に行程の半分は過ぎただろうか。
一歩を踏み出すごとに重くなっていく足に不安感を覚えながら、それでも前に進んでいく。足に良く引っ掛かる木の枝が非常に鬱陶しく、尚且つ障害となってルッドを苛つかせた。
もっとゆっくり進めばまだ違っていたのだろうが、ルッド達は早歩きに近い速度で山道を登って行く。そこまで急いで進む必要は当初無かったはずだ。そのはずだったが、かなり酷い問題がルッド達の身に発生していた。
「…………つけられてるって、どういうことですか」
「俺が知るか………と、言いたいところだが、多少は心当たりがある」
訳知り顔で頷くディードであるが、それはつまり、現在発生している問題は、彼が原因であるということだ。
ルッド達は数人に追跡されている。その事に気が付いたのは、山の音のおかげであった。モイマン山は山頂へと近づくにつて、生物の量が少なくなっていく。生い茂る木々も、それらの中で生きる動物達も、少しずつであるが減少していくのだ。それはつまり、生物が立てる音も少なくなっていくということ。
(そんな中、明らかに動物の足音が僕達とは別に存在しているんだよね)
最初は好奇心を持った動物か、もしくは肉食性の獣にでも狙われたのかと思ったが、音に気付いて後、耳を澄ます中で、完全に人間が立てている足音であることが分かった。
「で、その心当たりって、いったい何なんですか」
「前に言っただろう? 俺は館に近づく人間をブラフガ党の力を利用して選別してるってな」
ディードの言葉にぞくっした。もしや自分達をつけている人間とは………。
「おーい! いったい何の様だ! 何か無い限り、持ち場を離れるってのは命令違反だろうが!」
足音がする方に向かって、ディードが叫んだ。暫くの沈黙が続いたが、すぐに足音が再び聞こえ始めた。今度はとても近くで。
数は3か4。そうしてルッドの目の前に、自分達が歩いてきた山道を追う様にして、4人の男達が現れた。数は合っている。顔つきが厳つかったり、傷があったり、全員恐ろしい風貌なのは予想外であるが。
(まてまて。うちのダヴィラスさんの方が、よっぽど怖いさ)
顔つきの恐ろしさだけを見れば、同じところで働いているダヴィラス・ルーンデの方が、現れた4人を合わせたとしてもまだ勝つだろう。
ただし、腕っぷしの強さに限っては一人に勝てるかどうかすら怪しいが。
「ようディードの旦那。命令違反っていうのならお互い様じゃないのか? なんであんたが山を登ってる?」
現れた男達の一人が、ディードを睨み付ける様に話す。恐らくは、というか確信に近い予想だが、彼らはブラフガ党に所属する盗賊だ。館へと接触する人を選別するための目がディードだとしたら、彼らは手足であろう。
要するに暴力的で怖い人種だ。そんな人間達が目の前にいる。勘弁して欲しい。
「俺が山に登っちゃあいけないってのかい? あんな館に長居してると、偶に体を動かしたくなるんだっての」
「一人だけでってのなら、まあ、俺達だって見逃すさ。だが、そこの小僧はなんですかい?」
盗賊の一人がルッドを睨み付けてくる。なんてことだろうか。どうやら主に狙われているのはルッドであるらしい。
「こいつは………館への客人さ。奇特にも山頂に登ってみたいって話だそうだから、ついでに俺が付き合うことになった。なあ?」
話がこっちに飛んできた。事前に打ち合わせなど無いため、どう答えれば良いのかわからない。しかしわからないままであれば、きっと盗賊達がその腰や背中に帯びた刃物や槍を、こちらに向けてくるかもしれない。
(ええい! こうなる事が分かってるなら、しっかりと話し合いをしてから盗賊に話し掛けるべきだったろうに!)
ディードを睨みたくなるが、今、そういう表情は良く無いだろう。いきなり現れた相手達の前で浮かべる自然な表情は、怯えて事情が分からないと言った顔のはず。
「そ、その…………ディードさん? こ、これはいったい? ただ山に登るだけだと………聞いていたのですが」
さて、上手く演技できているだろうか。出来得る限り、気弱になった旅人らしい挙動と声で話してみたのだが。
「……………そこの旅人か? そんな奴が何の役に立つかはわからねえが、止めときな、旦那。引き返すなら、俺達だって何もしやしねえよ」
盗賊の返答は穏便な物であった。ルッドを無害な人間だと判断してくれたらしい。ただし山へ登る者への警戒は解いていない。やはり山にはブラフガ党にとって重要な物があるのだろうか。
それを知ることができないのは些か残念であるが、命には代えられない物だ。ここは大人しく下山するべき時で―――
「そいつはできねえ相談だな」
ディードの一言が、状況を台無しにした。盗賊達の目つきが明らかに変わっていく。主に敵意を抱く方へと。
(何やってるんだこの人は!)
ディードの考えを読み違えた。彼は事を穏便に済ますつもりなど毛頭ない。むしろ荒らすつもりなのだ。
「舐めんなよ下っ端ども。俺はてめえらより、ボスに近いってことが分かってんのか? そんな俺がこいつを連れて山に登ると言ってんだ。邪魔してんじゃねえよ」
次に続く言葉は挑発だった。もしやと思うが、ディードは自殺でもするつもりなのだろうか。だったら自分を巻き込まないで欲しい。というか、如何にしてこの場を逃れるか。それを考えた方が良いかもしれない。
「おい………あんたが元々、組織のために商売で荒稼ぎしていた商人だったのは俺達も知ってる。だが、相応の見返りだってあったろう? 組織とあんたはそれだけの関係だ。上下も何も無いのさ。そして今は、ただのうらぶれた商人だ!」
話の最後に差し掛かり、突如として盗賊が剣を抜き放った。剣の軌道はそのままディードの体へ向かう。
「あぶな―――
「おい! 兄さん! 逃げるぞ!」
ディードは剣から逃れていた。というより、相手が剣を抜くことを予想していたのだろう。既に盗賊に背中を向けて走り出ししていた。上手く剣が空振り、盗賊達に大きな隙ができている。
「逃げるって!」
「上だ!」
つまり山頂か。どうすべきかなど考える暇すらない。盗賊達と完全に敵対してしまった。下山への道は盗賊達に塞がれている以上、山頂への道を進むしか無くなる。
「くそっ!」
悪態を一言だけ吐いてから、ルッドはディードの言葉通り、山頂への道を走った。足がガタガタになるくらい疲れていたはずだが、肉体が危機に反応して、その疲労を一時的に忘れさせた。
ただひたすらに走り続ける。一分一秒が何時間にも感じる様な感覚。と、背後に強い衝撃を感じて振り返る。
「矢!?」
背負う荷物に短い矢が一本刺さっていた。盗賊の一人が撃った物らしい。クロスボウか何かを持っている男達の影が見える。
「振り返るんじゃねえ! 躊躇してると、その矢が体にぶち当たるぞ!」
ほぼ横に並ぶ様になったディードが叫んでくる。こんな凶器が自分の体に当たってしまえばどうなるというのだ。血が流れ、急速に体力が奪われてしまう。命を落とす可能性もあれば、走る力すら無くなり、盗賊に捕えられてしまう事だって有り得る。
(掠るだけだって、疲労した体には毒じゃあないか! 山頂へ向かう速度があいつらより遅くなれば、それだけで捕まってしまうんだ!)
心臓が爆発しそうな程に鼓動し、手足が熱くなっていく。だが、それでも止まらぬ肉体が存在していた。こんな感覚は嫌だ。肉体がもう走りたくないという思考を凌駕して、只々生き足掻こうと勝手気ままに動き続ける。
まるで獣じゃあないか。自分の生きている場所はそういう領域では無かったはず。もっと理性と悪知恵を働かせ、自身の頭脳を持ってして事を成す。そんな場所に居たはずなのに。
「おい、兄さん………おい!」
「はぅあっ!!」
耳に響く声に体が止まる。それがディードの声であることに気が付くまで、少し時間を要した。それくらいに集中していたし、周囲の状況から隔絶した精神状態にあったと言える。
そうして、漸く辺りを見渡さなければならぬという考えが頭に浮かんだ。激しい呼吸は収まらず、心臓の鼓動が胸を破かんばかりだ。
足から一気に力が抜け、倒れそうになるのを何とか耐えながら、とりあえず盗賊を撒いたことだけは確認できた。
「はぁ……はぁ……け、結構な距離を……ふぅ………進めたってことですか……ね?」
「だ、だろうな。だいたい……1時間くらい掛けて登る………行程を、20分程度で来ちまった…………体力も相応にってところだが………」
ディードの方もディードの方で、かなり消耗しているらしい。だが、話す余裕があるだけ十分だ。言いたいことが山ほどある。
「なんでこんな目にあったのか…………わかってるんですか!」
安全圏に入ったというなら、次は事情説明をして貰わなければ。それに、少しだけでも足を止めて休めなければ、倒れてしまいそうだった。
「わざわざ剣を抜かせるために挑発したんだ…………。分からないわけが無いだろう?」
「な、なんのためにっ」
ふざけるなと叫びたかったが、その体力が無い。冷静になって話を聞くしかないというのは、こんなにも歯痒いものか。
「勿論、山頂に向かうためってのもあるが、ふぅ………逃げ切れる自信もあったからだ」
近くの地面へそのまま座りながら、ディードは説明する。挑発行為は、相手を怒らせ、状況判断を遅らせるためであったと。
「いいか? あいつらは確かに荒らし場の経験はある。俺達なんかより、よっぽど喧嘩慣れしてるし、殺しの腕も相応さ。だがな………」
そこまで話してから、ディードは己の足を叩いた。
「足………ですか?」
自分の足をルッドは見る。そうしてそのまま、ルッドも地面に座った。酷く疲れていたためか、尻もちを突くような勢いだ。
「その足だ。俺達には足がある。商人としてあちこち歩き回っている足だ。この足だけは、殴り合いばっかり長けたあいつらより上回ってんだ。わかるかい? 俺達はこの山をしっかり登るために準備までして歩いてきた。向こうはただ、俺達に追いつくために急ぎ登って来たってところだろう」
前提となる体力の差。そうして山を登るまでに消耗したそれも含めれば、一度逃げてしまえば、自分達が追い付かれる可能性は限りなく少ないという理屈になるらしい。
「でもそれって………あくまでこの場での事ですよね? あなたはブラフガ党に、今回の件で敵対したことになる」
「そうでも無いのさ。さっき挑発で口にしたが、あの下っ端どもより、俺の方がうちのボスに余程近い考え方ができるんだよ」
今度は自らの頭を人差し指でとんとんと叩く。ボスとやらは噂に聞くブラフガ党の党首のことか。
「会ったことあるんですか? そのボスに。あなたは?」
確かブラフガ党の末端は党首の姿すら知らぬと聞く。もしディードが党首に会ったことがあり、その思考方法を知っているというのなら、党内での彼の立場は、相応に高いということになるが。
「一応な。何度か直接会って話たことはある。おっと、知りたそうな顔をしてるが、詳しくは教えられんね。口が軽くなるってのは、俺達の業界じゃあ死ぬのと同じだ」
こっちの考えを読んだかのように話しをするディード。だが、そう簡単に教えて貰えることでないのは知っている。期待なんかしていない。
「で? だからあの盗賊達に襲われる心配なんてないと? 実際は襲われてるじゃないですか。向こうが言ってた通り、今は党内部でもそう立場が高い人間に見えませんけどね、あなた」
「ま、まあ、ちょいとデカい仕事をミスっちまってな。こんなところで小さな商売をしている立場にはなった………。だがな、あの盗賊達の動きが、党の上層部からの意向ってわけじゃあないくらいは分かる」
ディードの言葉がどういうことかを考える。盗賊達は誰の命令でも無く、独断によりディードを襲いに来たというこか。
「あなた、随分と恨まれてるってことですね」
「………元々頭の上でふんぞり返ってたやつが、自分達と同じ立場に落ちて来たとなれば、いじめてやろうって思うのが人情さ。裏切り者を始末すれば、自分達の手柄になるとでも考えてるんだろうさ。だがね、やはりそれはうちのボスの考えじゃあない」
盗賊達がディードの挑発に乗り、いきなり斬りかかって来た点を指して、ディードは党の意向ではない証明だと口にした。
「俺が党と敵対する行動を取っているなんて判断をするなら、うちのボスはとりあえず俺を生きたまま捕えろと命令するはずだ。そうして、いったいどんな目的で動いたかを拷問でも何でもして聞き出す。事は俺個人で納まる話じゃあないかもだからな?」
盗賊達の動きはあまりにも軽率であった。もし突然斬りかかったりしてこず、ディードを捕えようとしてきたのならば、党の命令で動いたと判断し、そのまま大人しく捕まるつもりだったそうだ。
「って、じゃあ僕までブラフガ党の拷問にかけられる可能性があったってことじゃないですか! なんてことを…………!」
頭を抱える。実際、酷く頭が痛かった。激しい運動後の酸欠と、起こってしまった問題への悩ましさが合わさったものなのだから尚更だ。
「はっ。まあ、そんな顔するなって。賭けには勝ったんだ」
「賭けってなんですか賭けって…………いくら振り切ったからってね、まだあの乱暴な盗賊達は、僕達を追っているかもしれないんですよ!」
「さっきも言ったろう? 山登りの体力なら俺達が上だ。動ける様になったら、すぐ出発する。それなら追い付かれることはまず無いはずだ。下山道も複数ある。その全部を待ち伏せなんてできんだろうから、注意してれば館には帰れるってもんだ」
なんともまあ楽観的な意見である。館に戻ったとしても、盗賊達の狙いはそのままだと思うのだが。
「おいおい。まだ不安なのか? いいか? 俺はこれでも商人だし、口も裏工作も達者な方だと自認してんだ。暴力沙汰にならない限り、あの盗賊どもより上手く立ち回れるさ。それこそ、党と敵対しないようにするなんて簡単だね」
その暴力沙汰になっているから不安なのであるが。ルッドは頭を抱えているものの、山頂に進む他に選択肢が無いので、これ以上の問答はできずにいた。
―――暫しの沈黙が続く。話すよりも体力の回復を優先する。空を見れば、まだ日は高く、予定に多少の狂いは生じたものの、山頂に向かうまで日が暮れはじめることはないだろう。
「さて………あまり休みすぎるのも事だ。立ち上がりが鈍くなるし、そうなったら追い付かれる可能性が生まれちまう」
そう言ってディードは地面から立ち上がった。ルッドも釣られて立ち上がる。若干足が震えて、身体が休息を求めてくるものの、やはり盗賊に追いつかれるかもという恐怖心が勝った。
「で、山頂まであとどれくらいなんですか?」
「あと一時間ってところだろうな。山頂で少し調査をして貰うから、出来る限り急いだ方が良いな。盗賊どもを引き離せば引き離した分だけ、調査の時間が増える」
できれば調査などせず、そのまま違う下山道で館へ帰りたいと思うルッドだったが、山頂までは口論をしないよう努めることにした。
辿り着いたモイマン山の山頂付近。そこはルッドが想像した以上に奇体な光景が広がっていた。
「元々火山だって聞いていたから、火口があるんだろうと予想はしていたけど………これは………」
山頂付近。そこにはマグマが冷え固まった後であろう玄武岩や黒曜石が多く見られるのであるが、火口と見られるそこは想像以上に広く、一方浅い。山の天頂付近がそのまま抉れるのではと思う程に穴は広いのであるが、そうはならないのは、穴そのものが深く無いからであろう。
いや、違う。穴が深いところなら存在している。元火口であろうそれのさらに中心部。そこだけは、何故か極端に凹んでおり、崖の様になっている。だいたい100m四方と言ったところだろうか。その凹みだけは、自然地帯に有るまじき、均一な形をしていた。まるで半円形の何かがそこに埋まっていたかの様に。
「驚きの光景だろ? 魔法使いじゃあなくても、ここには何かあったってのが丸わかりだ。ただ、それが何なのか分からねえ。魔法使い達はそれを研究し、何がしかの答えを導き出した………かもしれねえけどな」
それこそ魔法使いが、バッハブルが隠している事なのだろうか。そうしてその知識ブラフガ党に渡した?
「…………それが何であるか………例えばそれこそが火の神?」
「そういう考え方は俺もしたぜ? ただし、そうであったからどうだって話だろ?」
良く分からないという言葉が、火の神という単語に置き換わるだけだ。それ以上の思考の発展は望めないし、何か分かったとしても、魔法使い達に通じる手となるかは不安である。
「詳しく調べてみるってのは無しだ。時間を掛けりゃあ盗賊どもがのっそり登ってくるかもしれんし、そもそも調査能力なんて一点を取れば、魔法使い達の方が上手だしな」
まったく、わざわざ連れて来たというのに、憎まれ口を叩くものである。ただ、ディードの言葉ももっともだった。
調査というのは、この山にずっと以前から住んでいる魔法使い達がし尽していると考えられる。それを再び掘り返したところで、有益な物が得られる可能性は低い。
「さあ、どうするね?」
茶化すように話し掛けてくるディードであったが、表情は真剣そのものだ。ここにルッドを連れてくるというのは、ディードにとっても賭けであったはずなのだ。実際、今、こうして盗賊に追われている。何がしか得るものが無ければ泣くに泣けないという様子だろう。
(傍から見れば、結構無茶やってるよね、この人も。僕みたいな小僧一人の意見を、命の危険がある賭けをしてまで手に入れようとしている)
そのルッドへの信頼と言えば良いのか、いったいどこから来たものなのだろうか。自分はディードという男に、そこまでさせる何かがあるとでも?
「……………視点を、変えてみる必要があるかもしれません」
「視点?」
「はい。普通の調査なら魔法使い達が勝る。なら、僕らは商人としての長所を活かす必要が出てきます。さっきあなたがした様に………ね」
盗賊達よりも足には自信があるのが商人だと、ディード自身が言っていた。ならばこの奇妙な山頂に関しても、商人としての視点と長所を活かす形で発想を広げていくべきではないか。
「ほう………で、商人の目線から見て、この山はどう思うってんだ?」
興味深そうに視線をこちらへと向けるディード。まったく、目線を向けるなら、目当てのこの火口であろうに。
「この場所にかつて何があって、どんな力を働かせいたかなんてのは分かりませんが、魔法使い達が長くここを放置していた可能性は零に近い」
「だろうな。こういう場所を調べないで、何が魔法使いって話か」
魔法使いが研究者なのだとしたら、この火口付近は調べ尽くされていると考えて良い。
「そこでちょっと尋ねるんですが、魔法使い達は最近、ここへ頻繁に調査を行っている様子はありましたか?」
さて、どういう手を考えようかと頭を働かせる。下山して館に戻れば、バッハブルを相手に交渉をしなければならないのである。盗賊の問題に関しては、一時忘れることにしよう。問題を頭の中で先積みしても、頭痛が酷くなるだけだ。
「調査に関しては、何人かが偶にってところだったな。そう大規模な調査ってのを館がしたことは、俺が来てからは無かったはずだ」
ならば面白いやり方を一つ思い付いた。ちょっとした揺さぶりになるであろう案が。
「調査があまり大規模に行われないっていうのは、ここを調べ尽くしたという証なのでしょうね。魔法使い達は山の現象には興味があっても、この火口へ頻繁に足を運ぶほどには、好奇心を失っているんでしょう」
「まあ、そりゃあその通りだとは思うが、それがどうかしたのか?」
ふむ。分からないということは、ディードがまだ試したことの無い手ということになりそうだ。やはり有効な手かもしれない。
「探し飽きていると表現しても良いですよね? ここに価値を感じなくなっている。ですがもし、ここでとんでもない物を発見した。という情報が入れば、どうなるでしょうね?」
ルッドはディードを見てニヤリを笑ってみた。悪い顔ができていれば幸いなのだが。