第八話 火の神への信仰
ルッドが山登りをしている頃、ミース物流取扱社社長、キャル・ミースは、モイマン山の館で、おかしなことが始まっていることに気が付いていた。
「なんか、廊下を通る魔法使いが多くなってないか? 姉さん」
偵察と言えば良いのか、館内部を歩き回っているキャル達であるが、今日に入って、どうしてだかすれ違う魔法使いが増えた様に思う。
とりあえず会釈くらいはしてみるのだが、向こうの反応は薄く、それがより一層不気味であった。
「昨日は、外から来た私達に恥ずかしがって、部屋をあんまり出て無かったとか…………じゃあないわよね?」
レイナラの言葉に頷く。勿論そうだろうとも。この館の普段の様子なんてキャルはまったく知らないものの、すれ違う魔法使い達の様子を見るに、人見知りする様な人種には見えなかった。
(っていうか、人の目を気にしねえって感じだな)
自分勝手なのだろう。基本的に自分のことしか考えず、内に籠るタイプの人間が、世界の真実やらなんやらがあるはずだと、目の前の現実では無く、また別の視点から見ようとした。それが魔法使いであると勝手にキャルは考えている。
(あ、じゃああれか。今、魔法使いがみんなして動き回ってるってこは、全員にとって他人事じゃあない何かが起こるからなのか)
ルッドなどなら、この状況をどう思うだろうか。自分にとって有利な状況になるよう、誘導する?
(いや、とりあえずは一体何が起こってるのかの把握だろ。きっと。どう動くか考えるのはその後って言うだろうし)
ルッドはそういう人間だ。万事を把握できるだけで把握してから、様々な物事に挑むのだ。時々、自分の危険を顧みないところはあるものの、先の利益についてはきっちりと考える人だ。
「なあ、姉さん。あのバッハブルって爺さんの部屋に行ってみようぜ。聞けば、何が起こってるのか話してくれるかもしれないだろ」
「話してくれるかもしれないって………あなたもわざわざ自分から、厄介事に首を突っ込むつもりなの?」
レイナラ言われて、キャルはハッとする。なるほど。これは何時も自分がルッドに注意していることと同じだ。
やらなくても良い厄介事に関わって、自分を危険に晒すのだ。それを注意するのが自分の役目だというのに。
「いや……でも、話を聞くくらいなら、危なくはないだろ?」
なんというか、最近はルッドに感化されてしまっている部分があると思う。別に危ない状況を楽しむような趣味はないのであるが、踏み込まなくても良い部分に踏み込んでみたくなる。そんな衝動がキャルにもあった。
「ああ、今日は火の神への祈りを捧げる日だからな。その準備に忙しいんだろうさ」
例の重苦しいばかりの扉をくぐり、岩の翁、バッハブル・ウィンザーの部屋までやってきたキャル。さっそく館の様子について尋ねてみたのだが、返って来たのがそんな言葉であった。
「火の神って……魔法使いは火の神を信仰してるのか………ですか?」
火の神という言葉をキャルは知っている。寒いこの国では良く信仰されている一般的な神だからだ。
山に住んでいると言われる神様で、自宅に小さな祭壇を飾る家もある。屋内だけでなく、町中に設置されている物もあるため、キャル自身、験担ぎのために手を合わせたことは何度かあった。
不思議なのは、神への信仰というものに対して、あまり熱心で無さそうな魔法使い達が、忙しそうに神への祈りを捧げようとしている点だった。祭壇用の石材などを運んでいる者もおり、かなり本格的な儀式になりそうだった。
「おかしく見えるかね? 正常な考え方をする人間から見て、魔法使いが神への信仰が似合わぬ人間だと思うのは、当たり前だと、わし自身も思っているよ」
まったくだと思う。魔法使いなんていう人種は、みんな神様なんていない。いたとしても自分達のやりたいことが優先だ。などと考えていると思っていた。
しかしここでは違うのだろうか。
「こう、これから、火の神様への祈りを捧げる行動をするってのは事実ってことで?」
「一応、その通りなのだがね。実際に火の神に対して明確な信仰をしている者は皆無だろうよ」
やはりそうか。バッハブルの返答は予想通りだ。では、その言葉がどういう意味を持つのかを考えなければならない。
(きっと、兄さんもそうするはずだよな。状況を読むだけじゃあ駄目だってことだぜ。それを利用して、何をするかが重要………)
自分は商人としてまだまだである。だから手本とする人間の行動を模倣しようとする。キャルにとってはルッドがそれであるし、結果、やる事は似通ってくる。
「魔法の研究のためとか、そういう理由で良いのか……ですか? 神様に祈ることで、すっごいことが起きる?」
キャルはとりあえず、バッハブルからより多くの情報を引き出すことにした。恐らく、ここにいないルッドもそれを望むだろうし、それらの情報を自分よりももっと上手く使いこなしそうなのもルッドだ。
「すっごいことか………いや、そうなってくれば嬉しいのだがね」
苦笑いに近い笑みを浮かべ、バッハブルは自身の頬を掻いている。何か気恥ずかしいことでもあるのだろうか。
「火の神様なら私知ってるわよー。確か、空の彼方からやってきて。山に落ちてからは、温かい風を大地に送ってくれるんでしょう?」
「あたしだってそれくらい知ってるよ。有名な話だしな」
レイナラも話に入りたかったのか、なんとか知っている単語を口にしたらしい。ただ、あまりに有名な話であるため、意味のある言葉にはならないと思われる。
(確か………そう、火の神様が炎を纏って空から落ちてくるところから話が始まるんだっけか)
火の神の物語。いろんなバリエーションがあるが、共通の部分が存在している。まず、神のいない土地。つまりはノースシー大陸に、神の玉座を見出した火の神が、天上世界から舞い降りてくる。勿論、火の神らしく炎を纏いながら。
神が玉座として見出したのは、ノースシー大陸に存在する山々だった。しかしそこで問題が起こる。
(神様ってのはでっかくて、山一つじゃあ玉座として足りなかったってオチだっけ? 変な話だなあって昔は思ったもんだけど………)
その実、教訓話でもあるのだ。火の神様は、仕方なく自分の体を分けたのである。そうして幾つかの山に分けた自分の体を置いた。そう、それがノースシー大陸に存在する火山というわけだ。
(火山ってのがどういう風に生まれて、どれだけあたし達にとって大切なものかってのを説明するのが、火の神様の物語だったはずだよな。それが魔法使いとどう関係しているのか………)
火山が重要ということなのか。そう言えば、このモイマン山は火山だったろうか?
「かつて………このモイマン山は熱きマグマがその内に存在し、噴煙が舞う活火山だったと言えば……信じるかね?」
「そのかつてってのが、何時くらいまでに寄ると思います……けど」
別に昔火山で、今は休火山か死火山になっている山など幾らでもあるだろう。このモイマン山がそうであったところで驚きはしない。
「大陸で異種族と人間が争っていた時代のことだ。その当時、モイマン山は活火山であったという資料が残されている」
「………」
異種族という言葉を聞いて、レイナラの体がほんの少し反応したのをキャルは見た。
(やっぱり自分が異種族だってことを気にしてんのかねえ)
レイナラが自らの出自について、いろいろと含むところがあるのは知っているが、今、この場では単に言葉として出て来ただけである。
「結構昔のことじゃん。それくらい年代が経てば、火山がそうでなくなっても不思議じゃないんじゃあ?」
「まあ……な。ただ、この山が活火山であった時代、頻繁に火の神への信仰が行なわれていたのが重要な話なのだ」
火山であったのなら、むしろ信仰は普通のことに思える。この大陸において、火山はとても重要で、損より利益の方が余程大きな存在として見られるからだ。
人間、異種族も含むだろうが、強大な存在を敬意をもって見ることは自然な事だと思うのであるが。
「確か………あたしが住むホロヘイの近くにも、ゴルデン山という活火山がありますが、そういう信仰はちゃんとあります……よ」
年に一度は、山登りの祭りも存在している。普段、ゴルデン山は総領主一族が厳重に管理しているのであるが、その時期になれば、山頂近くまでの通行が許可され、ホロヘイに住む多くの人間がゴルデン山へ登るのである。
山頂で何をするかと言えば、祈りである。頭を下げて、温かい風を日々送ってくれることに感謝の念を捧げる。
火山にその念が届くことはないのだろうが、それでもしたくなるのが信仰というものだと思う。
「そう。その信仰が重要なのだよ。そうだな。信念というものが自然現象に通ずるとしたら、それは不思議なことだと思わんかね?」
「実際にあったら魔法みたいだ……ですね」
勿論、そんな事は無いだろう。祈りが神へ通じて、祈った者に対して奇跡が起こるのだとしたら、世の中もうちょっと良い方向に変わっているはずだ。
「良い線を突く。もしかしたら良い魔法使いになるかもしれんぞ?」
「は、はあ………」
別に魔法使いになんてなりたくないのだが、バッハブルはこちらの言葉で上機嫌になった様だ。
「モイマン山が活火山であった頃の記録には、同時にこの山への信仰についてが書かれていた。その信仰についてだが………どうにも即物的な物だったことがわかっている」
バッハブルは説明を続ける。モイマン山で行われていた信仰とは、信仰者の集団が集まって、山に祈りを捧げる行為だった。そこまでは、まあ普通の信仰である。変わっていたのは、その内容であるそうだ。
「モイマン山への信仰方法とは、酷く具体的なものだったのだ。例えば今年の冬が例年よりも厳しい物になるとする。そうすると、信仰者たちは山へこう祈るのだ。普段よりも、今年は熱い空気を送ってくれとな」
「滅茶苦茶手前勝手なお祈りだ…ですね。そんなの神様がいたとして聞いてくれるとは思えないんですが」
火山活動を幾ら擬人化したって、自然の営みである。ああして欲しいと頼み込んだって、聞いてくれる存在ではないだろう。
「本来の信仰はと言えば、そんな祈りが聞き届けられるはずは無く、時間が経つにつれ要求が謙虚になるものだ。だが、この山での信仰は違った。神への要求は聞き入れられる。そういう地盤があるからこそ、神への要求も具体的かつ、君の言う通り、手前勝手なものになったのだろう」
「ねえ、聞いていると、お願いすれば火山がその年の気温を調整してくれるって言う風に聞こえるのだけれど、そんなわけないでしょう?」
レイナラもバッハブルの話に関する矛盾に気が付いたらしい。もしこの老人の話を信じるのであれば、モイマン山には自然を操れるような存在がいて、尚且つその存在は信仰者の言う事を素直に聞いてくれる。そういう事になってしまう。
「まさに、この山にはそういう不思議があるということだな」
「あたしは良く知りませんけど、眉唾ものの話を掴まされたんじゃあ………」
「眉唾ものの話だとしても、そういう不可思議についての話があれば、確認するのが我々魔法使いだ。この館に集まった魔法使いは、自分達の研究場所を求めて集まったというのもあるが、それとは別に、この山に興味を持ったからやってきた者も少なくはないのだよ」
そうしてバッハブルは自身の胸に手を当てた。バッハブル自身も、モイマン山に興味を持っているからこそ、ここにいるということなのか。
「もしかして…………この館の魔法使い達が火の神に祈るってのも………」
「研究とは、その殆どが実学だ。不可思議な話があれば、試してみて実在を証明する。さて、そろそろ時間だが」
バッハブルはそう言うと、彼自身の仕事机まで歩いていき、机の上に置かれていた、ガラスと石材を合わせたような複雑が器材を見つめ始めた。
「それは………いったい?」
キャルが尋ねると、バッハブルは器材から目を離さずに答えてくる。
「文献によれば、祈りからその年の気温の変化まではある程度の日数が掛かったらしい。つまり、一分一秒で起こり得る変化は微々たるもの。さらに今、モイマン山は休火山だ。いや、死火山になっているかもしれん。変化量は一時よりも期待できんだろうなあ。となれば、気温以外の何か別の手で、変化を見極めなければならんわけだが」
バッハブルはその不可思議な器材を、人差し指で何度か軽く叩いた。火の神に対する祈りによる変化とやらを、判別するための器材がそれということか。
「気温を計る何かってことなのか? それ?」
「いや、これはな。わし特製の魔力量を判別する道具なのだ。魔力というのは知っているかね? 魔法を引き起こす種となるものだと考えてくれて構わん。強い魔力は目視できる程の光を放つが、弱いものだとしても、この器材を使えば、周囲の魔力量の変化を見てとることができる」
そう言うと、バッハブルは器材に備え付けられた丸いガラス板を覗いている。そうしてなんどか納得する様に頷いていた。
「ふむ。やはり祈りの人数が多ければ、反応量も増す………か。山の奇跡は魔力によって引き起こされていることがわかる。わかるのだが………何故その様な事が起こっているのか…………」
頷きの後は独り言だ。キャルやレイナラは完全に放って置かれている。
「要は、祈れば確かに何がしか答えてくれる山ってことで良いんですかー」
バッハブルに聞こえる様、大きな声で尋ねてみる。あまり返答を期待できそうにも無いが。
「ああ、そうの通りだともさ。これを見たまえ、この変化を。この様な不可思議があるかね? 明確に魔力量が増えている。神の正体は山全体に存在する魔力ことであるわけだ。だがしかし、魔力にはその源泉が無ければな。考えられる予想としては、山そのものの物質がそうなのかも…………それとも、また別の要因が存在して―――
「ねえ。多分、もう幾ら話しても無理っぽいわよ」
器材を前にして、興奮しているらしいバッハブルを見て、レイナラが匙を投げたと言った様子で両手を少し上げる。
キャルも同意見だった。これ以上話を聞いても、専門用語が飛び出すばかりで、これ以上を得ることはできまいと、そう考えている。
「けど、部屋から出るのも、無理っぽくないか?」
キャルは部屋の扉を見た。相変わらず大きく重そうな扉である。あれを開けるのは、この場でバッハブルしかいない。
「となると、暫くはここで棒立ちしてるわけしかないじゃない」
「そう言うことだよなあ」
散々だと思いながら、レイナラとキャルは二人して溜息を吐いた。
彼女達は気付かない。ルッドを真似ようと動いていたキャルにしても、もしルッドがこの場にいれば、していたであろうことをしていないのである。
バッハブルが長々と語る言葉。いくら理解できない文言が連なっていたとしても、そこに嘘が混じっている。それに気づき、追及できる人間が、残念ながらこの場にはいなかった。
「じゃあ、その実在するかもしれない火の神様に関わる話こそ、ブラフガ党が目を付けた物だっていうんですか?」
館で現在行われているであろう火の神への祈り。その話をディードから聞いていたルッドは、とりあえず話を正確に理解できているかどうかを話し手に尋ねていた。
「ああ、恐らくはな。うちらのボスはそれについての知識を得るために、館と接触したんだ」
ただし、その詳しい内容がわからないとディードは話す。何らかの知識なのか。それとも物質的な資料や何がしかなのか。それらについて、ディード自身が独断で調べたこともあるらしい。
「わかったのは、一度、ブラフガ党で交渉役をした人間が、モイマン山の山頂へ向かったってことくらいだった。つまり山頂に何かあるかもしれないわけだが…………」
実際行ってみて、確かめてみたのだろう。そうしてディードの目では判断ができなかった。だからルッドの手を借りようとしたのだと、今になってルッドは理解した。
「目線を変えれば、違う事がわかるかもってな」
「どうでしょうね………。話に聞く限りにおいては、どうにも魔法関係の話らしいですし、僕にはそれらに関する知識はまったくです」
「俺だってそうさ」
ディードと視線を合わせあう。同じことを考えている。口に出さなくてもわかった。お互いがお互いを頼りない相手だと思っているのだ。そうして、そんな相手の手でも借りなければならぬとも考えている。
「山頂………とりあえず目指しましょうか」
結局、視線を外し合って、山頂へ続く道を歩き出した。これ以上、お互いの考えを口にし続けても、発展性が見込めないと判断したのだ。
ルッドはディードからブラフガ党と館の関係について聞き出したい。一方でディードはディードでブラフガ党の狙いが何であるかを知りたい。つまり、この場において、明確な答えがまだ無いのである。
答えが無い以上、どこかで探さなければならない。その候補地の一つが山頂なのだとしたら、向かわないわけには行かなかった。
そうして歩き続けること数十分。頭の中を幾らか整理できたルッドは、再度、ディードに質問をしてみることにした。ちょっとした質問だ。
「…………さっきまでの火の神の話。そうして、それに伴う館の動きについて、ウィンザーさんからディードさんは説明を受けたんですよね?」
「ああ。受けたぜ。お前さんの連れが、俺と同じ様に興味を持って、あの爺さんに質問していれば、同じ話を聞くはずだ。そうして分かる。良く分からんってことをな」
苦笑いを浮かべるディードであるが、その姿をルッドは疑わし気に見ていた。
「やっぱり、館に留まって置くべきだったかな…………」
ふと、そんな考えを口にする。もし、自分が館に留まり、バッハブルから直接話を聞いていれば、さらに館についての情報を得ることができたかもしれない。
「ほう。そりゃあどういう了見だい?」
苦笑いを崩したディードが聞き返してくる。この反応。どういう意味を持つのだろうか。
「ウィンザーさん。多分、嘘の説明をしてますよ。専門用語を捲し立てて、煙に撒こうとしてるのかは分かりませんが、話の中におかしな点があります。館でバッハブルさんから直接話を聞いてみれば、幾らか追及をしていたのに…………」
「だから館に留まりたかったってか? なら、その疑問、俺にぶつけてみろよ。案外、館にいなくても、その答えが返ってくるかもだぜ」
ディードの表情が、昨日、一度見た硬い苦笑になる。彼が真剣になるときの顔だ。確か。
(もしかして…………試されていたのか?)
ルッドが、話の中でバッハブルの嘘に気が付くかどうか。それを見極めるために、バッハブルはあえて館と火の神に纏わる話を口にしたのか。
「………魔法使いっていうのは、研究者なんですよね?」
「ああ。そうさ。あいつらは頭のてっぺんから足の指先に至るまで、研究一辺倒。多少は社会性のあるバッハブルの爺さんも、それは変わらねえ」
「だったら、何で火の神に関する考え方がその程度なんですか」
ディードから聞いた話の中で、バッハブルは火の神とその信仰。それらをモイマン山と結び付けることで、新たな何かを研究しようとしている。それは分かるのであるが。
「彼がこの山でそれの研究を始めてどれくらいなんです? 昨日今日って話じゃあないでしょう? 館の魔法使い達だって、集団で動きが変わるくらいに、火の神に興味を持って、祈りを捧げるという実験を繰り返してる。その結論が、未だに山の物質が関係してるのかも。なんて曖昧なものであるんでしょうかね?」
館自体が、モイマン山という存在があったればこその物だろうに。火の神に関わる研究は、そのまま館の歴史でもあるはず。魔法使い達が研究者であるというのなら、何がしかの答えを既に見つけていたっておかしくは無い。
「……………俺と同じ答えに行き着いたじゃないか」
ディードは本格的に笑い始めた。どうやらルッドが口にした質問は、ディードが基準を付けた合格ラインを越えていたらしい。ちっとも嬉しく無いが。
「やはり、ウィンザーさんも何かを隠してる?」
「ああ。間違いねえよ。というか、あれでブラフガ党と交渉したのもあの爺さんだ。一筋縄で行かない部分もある」
だから、まずは山頂に向かって、何がしかの情報を集めるべきだとディードはルッドを歩かせた。
そうして口にする。山での情報を集めた後に待っているのが、バッハブルの嘘を見破ることであると。