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北風の道  作者: きーち
第九章 偶然か必然か
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第七話 館の商人

 ディードという男の部屋だと紹介された扉の前で、ルッドは一人立っていた。他の二人は館内部を(あくまで見学の様に振るまいながら)調査をしてもらっている。

「すみませーん。ディードさんはいらっしゃいますかー?」

 扉をノックしながら、奥にあろう部屋に向かって声を掛ける。バッハブルの部屋の様に仰々しい扉ではないため、普通の対応だ。

「………………留守かな?」

 反応がまったくない。もしや部屋に居ないのかとその場を離れようとした時、扉の向こうから声が聞こえて来た。

「一人か?」

 それだけだ。しかも、かなりくぐもった声である。向こうにいるのは本当にディードか?

「えっと……はい。今のところ………一人ですけど………」

 誰に見られるでも無く、キョロキョロと周囲に視線を向けてから、すぐに扉へと視線を戻す。

 すると扉がほんの少しの隙間だけ開き、その間からディードの顔が覗いた。彼はルッドの姿を見た後、扉の隙間から、本当にこちらが一人だけなのかを確認している。

「よし………入れ」

 確認を終えたらしく、ディードは扉を完全に開いた。くぐもった声でも無い。いったいさっきまでは何を警戒していたのか。

「まあ、入って良いのなら入りますが…………」

 ルッドは促されるままにディードの部屋に入った。自分達の部屋とは違い、かなり雑多な物品が飾られていたり、置かれていたりしている。なんというか部屋に物が溢れていると表現すれば良いのか。はっきり言ってしまえば、整理整頓がまったくできていなかった。

「その辺りに適当に座ってくれ」

 床や椅子の上にまで散らばった何がしかを、荒っぽく退けてから、ディードがルッドに話す。

「良いですけど…………こう、なんか一気に俗世間に戻った様な気がする部屋ですねえ」

 この館が、魔法使い達が造った奇妙な館というのもあり、なんだか異界に辿り着いた様な気分が続いていたものの、ディードの部屋を見た瞬間、一気に現実に引き戻された気分になる。

「半分はわざとだよ。俺は魔法使いじゃあないからな。あくまで一商人だってのを認識するために、こんな部屋に住んでいるのさ」

 言いながらディードは部屋を紹介する。

「じゃあ、もう半分は?」

「整理整頓が苦手でな」

 頭を掻きながら呟くディード。もう半分の方が、実際はかなり重い理由であるのだろう。

「気にはしませんが…………。僕については、約束通り、これを返しに来ただけなんですけども」

 ルッドはそう言って、手に持っていた地図を渡す。この館に来るための地図であり、ディードから借り受けていた物だ。彼と会う上で、これを返すという理由がもっとも適当であったため、利用させてもらった。

「うん? おお。そりゃあ助かる。前にも言ったかもだが、そうそう予備があるもんでも無いからな」

 言いつつ、ディードはルッドから地図を受け取った。さて、前置きはこれくらいだろうか。

「で、何か警戒でもしてるんですか? 僕が部屋に尋ねて来るなんて、想定済みとばかり思っていましたけど………」

 恐らく、ルッドが彼の部屋に尋ねることを、ディード自身、予想していたはずだ。館の地図を貸すという言葉を、強調して渡してきたのは彼なのだから。ルッドが地図を返しに来る瞬間は必ずあるのだ。

「ま、あんたが来るのは予想済みさ。これから、問い掛けられる内容も大凡は…………ただ、同行者がな」

「同行者? うちの社長と護衛が何か?」

「…………女子供が同行者ってのに困惑しちゃあ不味いかい? 何か妙な考えがあるんじゃないかって警戒していたのさ。一人で来たところを見るに、別に何らかの策では無かったらしいが………」

 そういうものだろうか。同行者が見慣れぬ相手だから警戒を強くするというのは、大胆な動きをしているディードらしくないと感じてしまう。まあ、彼の事をそれほど知る立場ではないのであるが。

「あくまで商人としての旅はあの二人としてるってだけですよ。そんなのでも警戒心を持つのが経験豊富な商人ってことなんですか?」

「悪いが立場が違う。俺には俺なりの事情と言うものがあって、その事情とやらは、他の商人より身の危険を心配しなきゃならん類のものでね」

 ディードの言っていることは正当だろうか? まだ良く分からない。もし言っていることが真実であるならば、こんな辺境で魔法使い達と一般社会との橋渡ししている理由というのも見えてくるが………。

「その身の危険の心配というのは、もしかして、あなたが館に来る人間を選り好みしている事に関係があったり?」

 相手の考えや立場が分からなければ、踏み込んでみるに限る。会話の足踏みは交渉の停滞に繋がってしまうのだ。後ろに引かないのであれば、前に進むしかない。

「まあ、気が付くわなあ…………。その通りだよ。俺が独断で館に接触しようとする外部の人間をシャットアウトしている」

「どうしてそんなことを………」

「話せば引き返せないぜ? 言っとくが、そっちが想像しているより余程厄介な事情ってもんが―――

「ブラフガ党」

「ほう」

 ディードの関心混じりの声が聞こえる。

 その一言が何故出てきたのか。ルッドには最初分からなかった。答えが先に出て、その理由を後から考える奇妙な感覚を味わう。少し考えれば、すぐにどういう理由かが口から出てくるものの、やはり答えが先にあったのではと思えてしまう。

「事前に………ブラフガ党という組織が館に接触しようとしている。という話を耳にしていました。ですが、こっちに来てからその名前が出てくることは無かった………誰かが隠しているのか、まだ接触していないのか…………それとも―――

「それとも、既に接触していて、それが当たり前になってるから、名前なんぞ出てこない………か?」

 やり返された。相手の言葉を先読みして口に出す。思考を先んじれば交渉も上手に回れるのだが、お互いが読み合いのできる場となれば、立場が交互に変わってしまう。

「ああ………そうだ。俺はブラフガ党員のディードだ。党の命令でこの館に接触し、館専属の商人として動くことで、館を間借りさせて貰っている」

「それが踏み込んだら引き返せない情報………ですか?」

「だと思っていたよ。むしろそっちから口にしてくるとは思わなかったがね。なんのこたあ無い。最初からこっち側かよ」

 ブラフガ党云々の話であればその通りだ。すでに結構な部分までルッドは踏み込んでしまっている。いまさらこの館にブラフガ党員が存在しているという事実を知ったところで、何だと言うのだ。

「別にブラフガ党の仲間ってわけじゃあありませんから。これまで、何度か関係者と顔を合わせることがあっただけで………」

「だが、一般的な商人であっても、そこまで踏み込んでくるやつは少数派さ。なるほどねえ。俺があんたを気になった理由も、そこだったか」

 ルッドがブラフガ党と関わりがありそうだというのを、直感で察して話しかけたとでも言うのだろうか。

(おいおい。エスパーか何かだってこと? 僕だってそんな察しの良い勘なんてしてないよ?)

 バッハブルから聞いた館への来客数を考えるに、相当な数の人間がディードに館への接触を阻害されているはずだ。

 そんな中、ルッド達が選ばれたのは、単なる勘から来るものだというのだろうか。そんな仕事はあるまい。

「あなた一人で、多数の来客を取捨選択できるとは思えません。他にも仲間がいると考えられますが」

「この地図を貸したろ? 魔法使いが来客を判別する際に使うために、館にやってくる際は、決められた経路というのが存在しているのはもう聞いたな? そこにちょっと手を加えさせてもらっている。ほら、丁度この部分。ここは俺が独自に書き足した経路だ。ここ以外を通って館に近づく人間が居た場合………」

 盗賊に襲われる手筈になっているとディードは続けた。その盗賊とやらが、間違いなくブラフガ党の関係者であろう。ディードの部下か同僚か。

「用意周到と言えばそうですね。で、ブラフガ党には力を貸しているんだ。この館の主は」

「いや? 違うな。ブラフガ党に対しても同じさ。組織として、魔法使い達の力は借りられていない。例えば争いごとに魔法使いを使える状況にはないのさ」

 では何をブラフガ党は手に入れようとしている? 魔法使いの力を借りられる目途が無いとすれば、ディードがここに居る意味とは何だ。

「さて、話はこれで終わりか? まったく、軽くこっちの脅しを見せて、あんたを探ろうとしていたわけだが、まさかそっちもブラフガ党に関わりがあるなんて思わなかったよ。なかなかに面白い偶然だとは思わないか? 俺からすれば、これからも仲良くしたい相手とは思ってるんだが………」

 まずい。話が収束し始めた。ディードがブラフガ党員であり、既にブラフガ党が館と接触しているという情報は、この館に来てから得た、価値のある情報だと言えたが、それでもディードはまだ何かを隠している。これは勘によるものではない。これまでの会話から推測できるものだ。

 どうすれば良い? どの様な言葉を口にすれば、さらなる交渉に挑めるのか。

「ブラフガ党がこの館に求めているものがあるとしたら………それはもしや魔法使いの力でなく知恵ですか?」

「うん?」

 訝しむ様にこちらを見るディード。本当にルッドの言葉が分からぬ可能性もあるが、実際はこちらの言葉が鋭く、相手の喉元に届いた可能性だってないわけではなかろう。

 一方でルッドが口にした言葉は、苦肉の策とすら言えるものではなかった。魔法使い達の力は借りられないというディードの言葉を信じるのであれば、直接的な力ではなく、何か別の物を手に入れたという解釈もできる。力でなく知恵なのではないかと口にしたのは、単にそれ以外思い浮かばなかったからだ。

 ただ、一度口にしてしまえば、理由というのが幾らでも出てくるもので、ルッドは後付けの形で魔法使いの知恵の意味についてを説明する。

「例えば………魔法使いがどんな風に魔法を使うか。そういう知識があれば、この館の関係者でない魔法使いを育成できます。それも研究目的でなく、実践向きな」

 言ってから、それなりに真っ当な理由だと自身で頷く。何も魔法使い本人の力を借りなくたって良いのだ。魔法という現象と、魔法を使える様になる過程を知れば、大きな組織であるならば、独自に魔法使いを養成することができるだろう。館に籠った魔法使いを頼るより、幾らか建設的だ。

「なるほどねえ。確かに面白い考えだ」

「そういう言い回しをするということは、外れでしたか」

 咄嗟に思い付いた事であるため、別にそれが当たりである必然性はないだろう。だが、ディードの興味は惹けたと思いたいものだ。でなければ、会話がここで終わってしまう。

「まるっきり外れじゃあ無いわな。しっかし知恵を借りるねえ。物は言い様か」

 顎を手で擦りながら、こちらをしげしげと観察するディード。なんとか再び話をする機会を得られたらしい。

「つまり、ブラフガ党はなんらかの知識を館から得ているという解釈で良いんですね?」

「おいおい、面と向かって話せるわけないだろう。そっちが対価を用意できるでも無し」

「そうですね。館だって知識をタダで明け渡すわけが無い。もしかしてディードさんがその対価だった? 館側は外を繋ぐ商人が居れば便利だし、その役目は魔法使い以外の人間がする方が望ましいはず。なるほど」

「ちょ、ちょっと待て。何勝手に納得してるんだ」

 大凡、ディードの立場というものが分かってきた。相手の立場が分かるのであれば、その後の交渉もやり易くなる。

「しっかしそうなると、ディードさんのブラフガ党内での地位が気になってくるところです。組織のために身売りされている様に見えますが、その実、館に外部の人間を接触させないためのフィルターとしても動いている。その仕事のため、あなたの言葉で動く人間もいるんじゃあないですか? となると、単なる下っ端というわけでも―――

「ああ、くそっ。それまでだ! 面白い話し合いだと思ったが、それ以上突っ込むと、本気で引き返せなくなるし、こっちだって引き込む必要がでてくる!」

 怒鳴り声に近いそれによって、ルッドの話は中断された。少し言葉を選ばなさ過ぎたか。いや、相手が感情を昂ぶらせているのだとしたら、むしろチャンスかもしれない。

「もし引き込みが成功しなければ、次は命でも狙いますか?」

「だからそういう事を聞くなっての。ああ、そうだよ。うちの組織ってのはそういうところだ。深く関わって、尚且つ味方じゃないってのなら、排除するしかないだろうが」

 そこらについて、きちんと説明する点に関しては、ディードという人間の人の好さを感じる。本当の悪人は引き返せぬところまで来てから、笑顔でこう囁くのだ。死にたくなかったら言う事を聞けと。

「ああ、でも、僕、色々と事情を既に知っちゃいましたね。どうしようかな。引き返せないとかいう一歩目を既に踏み出しちゃってるかも………」

「お、お前なあ………」

 そう、どちらかと言えばルッドは悪人だ。引き返せないところまで来てからこう囁くのだ。ちょっと自分の話を詳しく聞いてみませんかと。

「ねえディードさん。僕はあなたに渡す対価をどうすれば良いかわかりません。まさか金銭を用意すればどうにかなる問題とも思えない。相応の物が用意できるとも…………ですから、あなたが僕を使ってみませんか? それが対価です」

 自分の胸に手を当てるルッド。相手に判断を委ねる危険な行為であるが、今出せる手札と言えばこんなものだ。

 では、危険を冒してまでこの様な意見を口にする意味はあるのか。

(怪しいところではあるんだけど…………結構な重要局面だとも思うんだよね)

 自分が用意できる対価とやらは、自らを差し出したって安い物だ。だから、その価値を乗せる天秤について、選り好みはできない。

(最後に物を言うのは経験とそれに裏打ちされた勘ってことに、やっぱりなるのかなあ)

 確信というものが無ければ、どれだけ情報を積み上げても、自分が損をする可能性を捨てきれない。そんな立場であるからこそ、危ない橋を渡るのだ。そうするしか前に進めないから。

「…………その対価には、命の危険があるかもって危機感は含まれてるのか?」

 薄ら笑いを浮かべるディードの顔。一見、余裕がある様だが、良く見れば少し硬さが

見える。これがディードにとっての真剣な表情というやつなのかもしれない。

「ブラフガ党という単語を口にした時点で、そういう覚悟はあります」

 そうしてその覚悟は、準備のいる決意から出た物ではあるまい。普段から心に秘めていたからこそのあの一言だった。既にブラフガ党と関わった時点で、自らの命は火にあぶられた状態であるというのは、受け入れている。

 勿論、無駄に死ぬつもりなど毛頭ないが。

「ふん。まあ、気概があるのは承知してるさ。そうさな。そっちが知りたいのはブラフガ党が何を狙って館と接触しているか………で、良いんだな?」

「ええっと、まあ、そういうことになりますね」

 自らの持つ情報とルッドを天秤に掛けているのか、それともまた違う狙いがあるのか。ディードはなにやら考え込み、次に言葉を発する時には、こういう提案を口にした。

「お前らの館の滞在期間だが、明後日まで伸ばせないか、俺が掛け合ってみよう」

「はい? いや、そりゃあ館に一日でも長く居られるならそれで良いですけど………ああ、いや、でも、ウィンザーさんとの交渉の続きが―――

「なら、それも明後日に引き伸ばしだ。明日一日は、俺がお前の身を借り受ける。それが対価ってことで良いか?」

 いったい何が狙いなのだろう。それが分からないまま、話を進めても良いものか。

「明日、何かすれば良いんですか? それはいったい?」

「……………山登りだ。それだけだよ」

 淡々と呟くディードであったが、その表情は真剣そのものだった。




 モイマン山の館は、モイマン山の中腹に存在している。これより上は目立った平地も無くなり、完全な険しい山道となっていくのだ。これと言った目的地というものも無くなるため、登る者は極端に少ない。はずなのだが…………。

「今日一日で登り降りするってことですけど、いったいどこを目指すつもりなんですか………」

 ルッドは登山用の道具を入れた荷袋を背負いながら、モイマン山の道を歩いている。先導するのは、この道を進むことに決めたディードである。

「勿論、山頂だ。館からなら、半日掛けりゃあ十分に登れる距離にあるぜ」

 ディードは上を指差す様な仕草をするが、その指の先には空しかないぞ。

「山頂に何かあるんですか?」

 どこまでも上り坂が続く道である。というか道と言っても良いものか。辛うじて進行方向を示す草地の少ない場所はあるものの、これは獣道と言われても信じてしまいそうな道だ。

「それを確かめに行くのさ。俺一人じゃあなんとも分からんかったが、外から来たお前さんなら、何か新しい発見があるかもしれん」

「新しい発見って………何かを探るために山頂へ?」

「ああ。というか、アレだ。ブラフガ党の狙いを知りたいらしいが、恐らく、その狙いとやらの正体がそこに―――

「ちょっと待ってください。はい、歩くの止めて」

「なんだ?」

 ディードと話を聞いていると、なんだか不安になってきた部分があるため、一旦、話と歩みを止めて質問してみることにした。

「なんていうか………どう言えば良いのかな………さっきから話をしていると、まるでディードさん自身は、ブラフガ党が何を狙って館と接触したのかを知らない風ですが………」

「ああ。知らないな」

「…………くそっ。やっぱりか」

 舌打ちしそうになったものの、それだけは耐えた。とりあえず話を聞こう。とりあえずは。文句を言うのはそれからで良い。

「僕はね………今日の日の労力を対価に、情報を貰うつもりだったわけですが、どういうことなのか説明をしてもらっても?」

「お、落ち着けって。何もお前さんの意向に逆らったり騙したりしてるわけじゃあない。むしろ、目的の一致と言っても良い」

 どうにも苛立ちを隠せていなかった様だ。慌ててディードが弁解を始めた。

「目的の一致ですって?」

「そうだよ。俺もブラフガ党が何を対価に俺をこの館に置いていったのか。それを知りたいんだ。そうして、その謎はどうやらこの山の頂上にこそあるらしい」

「この山の……頂上?」

 ルッドはまだまだ続くモイマン山の坂道を見る。この先に、自分が望む情報があるとでも言うのだろうか。

「俺の組織は、館そのものより、館にあった知識と山の頂上にあるらしい何かについて、興味を持っていたらしい」

「らしいって、言い方が曖昧ですね………」

「館との交渉役は別に居たんでね。俺はそれらが一通り終わった後に、この館で商人をする様になったのさ。だから、交渉内容を詳しくは知らない」

 さすがブラフガ党。中々の秘密主義である。仕事の実行役を幾つかに分けて、何を目的としているかを分かりづらくしているのだろう。

「ですが、交渉の目的は山の頂上にあったということは分かっていたと?」

「この館に滞在して、俺もそれなりに長い。それなりに調べる時間はあったってわけだ。そうでなくても、館はこの山を重要視しているしな」

「館が?」

 そう言えば、疑問に思うことがある。どうして魔法使い達はこの山に館を建てたのだろうか。いったい何の目的があって? 人があまり近寄らない場所と言っても、もう少し利便性の良い場所だってあるだろうに。

「お前さんの連れも、そろそろアレを見るころだろうさ。お前さんもアレを見れば、館と山の関係について、少しは分かるんだろうが、まあ時間が無い。おいおい俺が説明してやるよ」

「ちょ、ちょっと待ってください。アレってなんなんですか? 言葉を濁すばっかりで、意味がわかりませんよ」

 唯々戸惑いが増えていくルッド。ルッドの連れ、つまりキャルとレイナラは、館で何を見るというのか。

「危険な事じゃあないさ。定期的に行われる行事ってやつさ。説明は難しいんだが、一言で表すなら…………祈り、かな?」



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