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北風の道  作者: きーち
第九章 偶然か必然か
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第六話 岩の翁

 いくら魔法によって作られたと言っても、材質は岩。腰を下ろすと少し尻が痛いのがなかなかに問題点だと思うが、まあ、そんな不快感も、目の前の人物から感じる奇妙さに比べれば些細なことだろうとルッドは考えていた。

「どうした? まあ、ぐいっといくと良い」

 『岩の翁』バッハブル・ウィンザーが、石の器を一つこちらに差し出してくる。中にはバッハブルが先程からずっと飲んでいる透明の液体が入っている。酒では無いらしいが………。

「まあ……その、一口だけ」

 ルッドはそう答えて石の器を受け取りながら、隣の椅子に座り、必死に口元を抑えているキャルの姿を見た。

 彼女とレイナラは、机に置かれ、先に液体を注がれたそれを口に含んでおり、その結果の反応が現在だった。

 ルッドの両隣に座る二人ともに液体の味に微妙な表現をする。レイナラは露骨に顔をしかめる程度であるが、キャルに至っては口を抑え、顔を真っ赤にしていた。毒ではないのだろうが、まともな味ではないらしい。

(今さら、遠慮しとくってわけにも行かないんだろうなあ)

 相手に差し出された物を断るのは、会談をするうえであまり良く無い行動であるのだし、正直、飲みたくはないのであるが。

 ルッドはバッハブルから手渡しで貰った石の器のその中身を、意を決して口に含むことにした。一口だけ。

(辛っ………!!)

 思わず咳き込みそうになった。舌が酷く痺れる。ある程度の覚悟しておかなければ、キャルと同じ様に口を抑えて顔を真っ赤にしていたことだろう。それ程に辛い液体だったのだ。

「ワビィの草をただの水に入れるって、どういう趣向?」

 唯一、不快な顔こそすれ、特に動揺した様子の無い表情のレイナラが、バッハブルに尋ねた。

「体を温めるのに、良く使う香草だろう? 酒なんぞにも入れる時もあると聞くがね?」

 ルッドもワビィの草という物は知っている。商人として商売をする上で、食糧なども運ぶことがあり、その中でワビィの草は良く目にする調味料の一つだった。

 そのまま口に含めば、ピリリと辛く、煎じるとより一層辛さを増す代物だ。この国では料理に一味加えたりするための物として良く用いられている。ただし、水に入れて飲むというのは初耳であるが。

「………甘ったるいお酒にね。水に入れたら、ただ辛い水になるだけよ」

 なるほど。この国の酒はティンベント酒という甘い酒が主体であるため、そこに辛味を足すために使われているのだろう。

 酒飲みのレイナラであれば、良く知る話なのかもしれない。そんな彼女でも、水にワビィの草を入れるという話は聞いた事が無いらしいが。

「ふむ………いや、酒はいかんぞ酒は。あれは頭を働かせなくするからな。そうなると、魔法使いとしては致命的だ」

 だから単なる水に入れているのだとバッハブルは話す。単なる水を飲むより、体を温めるのには役立つからと。

(なんというか………魔法使い的というより、あれなんだろうね………世間知らず? そう表現すべきなのかな?)

 いくら体を温める効果があるとは言え、普通、辛い水にしたものを普段の飲み物や客人へ出す飲み物として使うものだろうか。

 館の空気が停滞している。そんな印象を目の前の老人からも受けた。幾らかこちらよりの思考をするとは言え、変人な部分がある。そうしてその部分は、彼の性質の本質というわけではなく、やはり外界との非接触から来る物なのかもしれない。

「頭の中身を働かせるのも良いですが、もっと外に目を向けるのも研究者としての動き方なのでは」

 なんとか舌の痺れを我慢して、話を続ける。魔法使いが内に籠り過ぎじゃあないかというルッドの話に、バッハブルが答える形になる。

「実際、フィールドワークを主な研究にしている人間はいる。向かう先が町中やその周辺ならば、一般人と同じ様な姿で行動している者もいるだろう」

「そう言えば、私が昔あった魔法使いも、変な名前じゃなくて、ちゃんとした人名を名乗っていたわねえ」

 コールウォーターの町に着く前に聞かされた、アランシー・ナララという魔法使いの事を言っているのだろう。レイナラの話には、魔法使い的な名乗りが出て来なかった。

「そういうことだな。外に出る人間は、基本的な知識がちゃんとあるんだが…………まあ、それが上手くこっちで浸透していないというのが、問題に見えるのだろう?」

 バッハブルが石の器をこっちに向けて少し揺らす。つまりこの館が非常識に見えるかどうかを、ルッドに尋ねているのだろう。それが意味するのは、内部からではその非常識さが分からぬということ。

「まだ館の全容を見たわけではありませんが、ここまで案内をして貰った、迷い霧さんですか? 彼の話し方や振る舞いは、少し………ああ、いや、もうはっきり言わせて貰えば、変人のそれに映りました」

 勿論、バッハブルにしても、少し浮世離れしている様に見えるが、『迷い霧』はもっとだった。

「ああ………やはりそうか。そうなんじゃあないかと思っていたんだが………自信が無くてな。彼の振る舞いが変人だと言ったが、その点に関して言えば、館内では彼が普通だ。わしが変だと思われている」

「………そうですか」

 バッハブルと話しているだけでも、館内の問題点というのが浮き彫りになってくる。これはルッドの推察が鋭いのでなく、分かりやすい問題であるというのに、館内では放置され続けていた結果だろう。

「もし、魔法使いのみなさんが先程会った迷い霧さんの様な性格と言うか、考え方をしている様であれば、早急になんとかした方が良いと思います」

「理由を聞かせて貰っても?」

 バッハブルの問いに頷く。話の本題はと言えばここからだろうか。いや、まだもう少し先か。

「近いうち………誰がどうという風には言えませんが、外界からの使者が多くこの館へとやってくる機会が増えるはずです。僕らだってその一部かもしれない」

「…………ふむ?」

 首を傾げているものの、こちらの話には興味を持っているはずだ。

「大陸に住む様々な人種が、今、大きく動こうとしています。切っ掛けが何であったか。それは中心都市、ホロヘイで起こった事件によるものか、それともずっと前から何者かが画策していたものなのか。それはわかりません」

「悪いが、どちらもどういう話か心当たりがない」

「それが問題だと言ってるんですよ!」

 机に右手を置き、それを支えに少し身を乗り出す。怒鳴り込む様な形になるだろうか。バッハブルが驚き、ほんの少しだけ体勢をルッドから離そうとしたのは見逃さない。

 相手の虚をつく作戦はまず成功だ。

「良いですか? ホロヘイでソルトライク商工会が分裂するほどの事件が起こり、その引き金を引いたのはラージリヴァ国の総領主だという事実は、国中に波紋を広げ、混乱を呼び込んでいます。現状はその混乱もある程度落ち着きを取り戻していますが、火は燻り続け、さらには炎上させようと意識して動いているやからもいる」

「あ………ああ。そう、なのか?」

 バッハブルは恐らくルッドの言葉の一割程しか理解していないだろう。そうしてその一割も、ただ、大陸で大変な事が起こっているらしいという理解だ。だがそれで良い。その話題さえ勢いのままに進められるのならば、交渉を有利に進められる。

「例えばあなた方は考えた事がありますか? もし、今、魔法使い達が一斉に統一した動きで、何がしかの事件を起こせば、万が一にでも国の未来を左右できてしまうと」

「まさか…………何もそこまで…………」

 たじろぐ様子のバッハブルを見るに、魔法使いに対して、こちらの話術もある程度通じるのだという手応えを感じる。物怖じせずに挑んでよかった。

「まずは自らの力を理解してくださいよ。あんな岩扉、手も使わずに個人が動かせるなんて、とんでもないことなんです。もしそんな集団が徒党を組んだら………力を借りられたら………そう思い始めている人種は少なくない。今まであった差別や偏見の感情なんて、そんな思いに比べたらまったく障害にはならない」

 実際問題、ルッド達は彼らとレイスという権力者を、結ぶためにやってきているのだ。他にもそういう人物がいて、その人物が酷い悪意を胸に抱く存在である可能性も、ゼロではあるまい。

「今までは………そういうことも無かったと思うのだが」

「本当ですか? 平和な状況だったとしても、手を組みたいという輩はいくらでもいそうですが………」

「そういう人種が近づかない様にするための“霧”だ。君らを案内した迷い霧は、その名前通り、館に許可なく近づこうとする人間を、迷わせる仕事も担っていてな」

 そう言えばこの館に来る前に、酷く濃い霧の中を歩いたか。もしやあれも魔法による産物とでも言うのか。

「正式なルートを通り、尚且つ、こちらが選別した者でなければ、辿り着くのは容易ではない。そういう魔法を迷い霧には使って貰っている」

「つまり、ここに来れるかどうかは、さっきの迷い霧さんの判断次第………」

 ルッド達も、ディードの紹介がなければ危うかったということだ。霧の中をさまよい、遭難でもしていたらと思うとゾッとする。

「基本的に、判断自体は私や周囲の合議によって決定しているはずだ。彼が独断で誰かを立ち入らせるということはない」

 そうだろうとも。あからさまに杓子定規な考え方しかいない男だった。いちいち自分の判断で考えたりなどせず、事前の取り決め通りに、排除する者は排除し、館に入れる者は入れているのだろう。

「ちなみに、その合議というのはどれくらいの頻度で行われるんですか?」

「2月に2,3回といった回数だな。つまり、君らの様な客人は相当に珍しい………が」

「最近、その回数が急に多くなったりなどは?」

「いや、そういうことはないはずだが………」

 バッハブルが嘘を吐いている様には見えない。となると、大陸中の混乱から、未だにこの館は無関係でいられているということだろうか。

(それも妙だね………僕ら見たいな奴は、もっと多くても良いはずだ。僕らが他より一足早く行動できたって思うのは………まあ、うぬぼれだよ)

 自分の行動力はこの大陸随一か? その智謀は他の追随を許さぬ物か? どちらも否だ。こちらの考えることは他人も既に考えているし、行動もしている。その前提で考えて、尚且つ、自分達がこの館に先んじて到着した理由はなんであるか。

(霧の他にも………この館に来られない理由があるってことだ………そしてどうやら僕らはそれを気付かぬ内にクリアしてしまっている?)

 それはいったいなんだ? 自分は何を見落としている? 今ここでその答えを見つけ出せるか? それともこのまま会談を何事もなく続けるべきだろうか。

「…………とりあえず。自分達の影響力をしっかりと考えなければ、何時か痛い目に遭うとだけ忠告しておきますよ。僕だって、本来はあなた方の力が目当てでここに来たんです」

「ああ……確かにそうだったな。ディードから話は聞いているよ。…権力者の紹介に来た………という話だったか」

 話を先へ進めることにした。それもだらだらとでは無く、さっそく本題へ。

「レイス・ウルド・ライズ。という人物です。この国の総領主一族の一人で、魔法使い達の後ろ盾が欲しいとの話なのですが…………」

「どれほどの人物なのかはわからない………だが、悪いがそれ以上は―――

「ええ。わかってます。あなた方が、そういう繋がりを好まないということは特に。自分達の研究が阻害される要求は絶対に飲まないとは理解していますよ。ただし………」

 ルッドはバッハブルの言葉を遮り、そこから続くであろう言葉を代弁する。そうしてすぐ後に溜めを作り、相手の興味を引く。こういうのも話す際のコツだろう。対人交渉に慣れぬ相手であるのならば、より効果があるはずだ。

「外からの空気を呼び込む何かは必要になってくるはずです。であるならば、その空気を呼び込む相手は、なんらかの見返りを要求できる相手が良い。そうは思いませんか?」

「言うことはわかる…………が」

 思案していると言った様子で、腕を組み、顔をしかめるバッハブル。考えるべきことは当然いろいろあるだろう。ルッドとて、はいそうですかと受け入れられる問い掛けをした覚えはない。

 相手がすぐ拒否の意思を見せない様に仕向けることができただけ、御の字であろう。

「今日直ぐに返答をとは言いません。もし、こちらの方で泊まる場所なりなんなりを用意していただければ、また、明日にでも会談の場を設けて話をする準備はあります」

「そう言って貰えると助かる。少々、そういう話には疎いのだ。じっくり考えなければ、迂闊な返答をしてしまいかねん」

 頷きと言葉による返答をするバッハブル。その姿を見て、ルッドは安堵の溜め息を吐きたくなった。

(勿論、実際にそんなことはしないさ。油断にも見られかねない表情なんて、意図的にじゃなければ人前でするもんか)

 こんな考え方は基本中の基本だ。この業界では、表情が豊かな人間とポーカーフェイスの人間が存在するものの、しっかり利益を得ている人間は、どちらも本音の感情を上手く隠せる人間なのである。

「………そうだな。部屋を用意しよう。空いている部屋なら幾つかあるからな」

「助かります。案内していただいても?」

 バッハブルに秘書役をしている部下などがいない以上、本人に頼む必要があった。

「ああ、勿論だ。館の大まかな構造なら分かる人間はいるものの、どこの部屋が空いているかと言った事は、わししか知らんからなあ…………」

 だからこそ、この老人がこの館の主なのだろう。他の魔法使いは、その主の館の居候と言ったところか。

「あ、そうだ。この館に来ることができたのは、ディードさんに館の地図を貸してもらったおかげですから、お礼と地図の返却をしたくて………できれば彼の部屋も教えていただけませんか?」

「なら、ディードの部屋近くの空き部屋まで案内しよう。確かあったはずだ」

 そう言ってバッハブルは手を振るう。部屋の扉がまた独りでに開くのを見たものの、この部屋に初めて来た際に感じた驚きは、今度は感じなかった。




 用意された部屋は二つ。いくら浮世離れしている魔法使いと言っても、部屋を男女に分けるという気遣いなら存在するらしい。

 部屋の内装が殺風景極まり無いのが些か寂しいものの、歓迎をそれほどされぬ客人相手に対してのものであるなら、上等な方であろう。

「とりあえず、交渉第一弾は成功したと思うんだけど、何か質問はある?」

 ルッドは、明日以降の方針を決めるために、自らに宛がわれた部屋に、キャルとレイナラを呼び寄せていた。

「成功ったって…………なんかあの爺さん。こっちの提案に否定的じゃなかったか? それとも、例のレイスって人との繋がりを作ってくれそうな確信でもあるのかよ」

 疑わしげにこちらを見てくるキャル。その視線に対して、どう答えるべきか。

「そっちに関しては、望み薄だよ。明日にもう一度交渉の機会があるとしても、難しい問題かなあ」

 外部との接触がこれから増える可能性があり、その危険性をこちら側で説いてしまった以上、受け入れてくれそうには思えない。多少の信頼は得たかもしれぬから、それに一縷の望みを賭けると言った具合だ。

「ちょっとちょっと。話が違うくない? さっきのお話は、あなたにとっては成功の部類なんでしょう?」

 レイナラが驚いて話に入ってくる。

「ええ、まあ。こうやって、館に滞在する許可を貰えましたから、成功なんです。さて、どうしようかな」

 この後の行動も重要になってくる。部屋を借りられたから明日まで休もうという気はさらさらないのだ。

「まーた妙なこと考えてんのか? 本来の仕事は成功する見込みがまだないんだろ? それでも交渉については成功ってどういう事だよ」

 ほら来た。説明を求める時間というわけだ。年下だというのに、まるで母親の様な少女である。最近は口も達者になってきたせいで、なかなかに弁論が難しくなってきている。

「ええっと………ウィンザーさんとの話の途中で、迷い霧さんの話題が出たのを覚えてる?」

「あの愛想の欠片も無い殿方でしょ? きっとモテないわよ。だから魔法使いなんてしてんのよ」

 なんとまあ、ずけずけと言う女である。いくら偏見があると言っても、レイナラの発言は同じ男として受け付けない言葉だ。別に反論はしないが。

「要するに杓子定規な人だってことです。例外なんてものがないんでしょう。そんな人間が、この館の、門番って言えば良いんですかね? そういう役目を担っているらしい。ここで一つ疑問が浮かびませんか?」

「ああ、そうか! 確かに………妙かもな」

 キャルは最近、本当に察しが良くなってきたと思う。ルッドが考える疑問について、すぐに気が付いたらしい。これが交渉の途中でもできる様になれば、彼女と自分は対等な存在になるのだろう。

「まったくわからないのだけれど。もしかして、これから私を置いて、二人して話を続けるつもりじゃあないわよね?」

 話がスムーズに進むかと思いきや、さらなる説明を要求してくる女、レイナラ。まあ、とりあえず現状の確認という意味であれば、説明も無駄ではあるまい。

「だからさ、姉さん。おかしいだろ? あたしらみたいな人間が、なんで他にいないんだよ。あの迷い霧って魔法使いが、自分で勝手にあれこれ来る人間を選り好みしたわけじゃあないんだぜ?」

「それは………ほら、霧に迷って辿り着けなかったんじゃあないの?」

「じゃあ、なんで僕らは辿り着けたんでしょうね?」

 そこが重要だ。そこに疑問を覚えたからこそ、ルッドはこの館での滞在期間を、少しでも延ばすように交渉をしたのだ。

「それはほら、あなたがあったディードさんって人だったかしら? その人の案内があったからで―――

「分かってるじゃあないですか。つまり、本来、もっと増えて良いはずの館への来客をどうにかしているのは、魔法使い達当事者じゃなく、そのディードって人なんですよ。僕らはそのディードさんに品定めをされ、お眼鏡に叶ったわけです。だけど多分、それ以外の何人もが、館に辿り着けずに終わったはずです」

 誰かは霧に迷い。また違う誰かは、館にすら迎えなかったかもしれない。というかそもそも、バッハブルは館へ来客を通すかどうかの合議を行っていると言っていた。それが、大陸で騒動が起こった後であろうと、普段と変わらぬ回数であるということも。

 つまり外来の人間が霧に迷い、魔法使い達が館へ通すかどうかの合議が行われる様な事態さえ少なかったということだ。

「つまり…………その人が重要人物だってことかしら?」

 まだ良くわかっていない様子の彼女であるが、これ以上、話を止めるのもなんなので、レイナラに限っては、その理解で良いということにしておく。

「とりあえず、ここはディードさんの部屋に近いらしいですから、さっそく彼に会ってみるつもりです。そのためにこの館の滞在許可を貰ったんですから」

「明らかに怪しそうな人間だよな。あたしは会ったことないから、聞いた話でしか判断できないけど、要は魔法使い達にも気付かれない様に、館に来ようとしている人間をなんとかしてたってことだろ? 一人でそんなことできるもんか? 個人じゃあ、どうやったって見過ごしとかがあるんじゃあ………」

「まった、社長。それ以上の推測は怖いことになりそうだ。確証が得られるまでは、深く考えない方が良い」

 考えて怖い予想が浮かんでしまえば、行動に気負いができてしまう。その気負いを交渉相手に見破られては、少しこちらにとって不利になるかもしれない。

「で、どうするのよ。深く考えないっていうのなら、行動するしかないんでしょ?」

「だからディードさんに会いに行くつもりなんですけど…………ここに居る全員で行くべきなのか迷ってて」

「3人で押しかけたら、向こうが警戒するかもだよな」

 と言っても、女性二人に小僧が一人だ。警戒されるという程でも無いが。

「兄さんが行くんなら、とりあえずそれで良いんじゃないか? おっさん一人と話し合うくらいなら危険はないだろ。代わりの仕事ってわけじゃあないが、あたし達は館の中を見て回っておくぜ?」

 ルッドが魔法使い達の情報も欲しがっていると、キャルはどこかで勘付いたのかもしれない。キャルがそういう行動を取ってくれるなら、大変助かる事だ。

「頼むよ。思わぬ真実が見つかるかもだけど、その時は覚悟しとくようにね」

「大げさなんだよ、兄さんは。案外、単なるおっさんかもしれないぜ?」

 そうであれば良いのだが。どうにも色々と嫌な予感がするルッドだった。


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