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北風の道  作者: きーち
第九章 偶然か必然か
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第四話 そこに辿り着く

 コールウォーターの町にある食堂。昼食時はもう既に過ぎているため、飲み物のみを頼んだルッドだが、目の前の男は遠慮などせずに、香ばしい匂いのする魚の煮物を頼んで食事をしている。もしや飯を奢らせるつもりではあるまいかと警戒をしながら、ルッドは話の続きを切り出した。

「それで、わざわざああいう話をしてきたってことは、僕は魔法使い達の館に入る資格があるってことなんですか?」

「それをこれから聞くんだ。まあ、小僧の商人で魔法使いに興味あるなんてのは、新しい空気ではあろうけどな。何故会いたいか。その目的を話してくれないことには、こっちも紹介の仕様が無い」

 それはその通りだろう。顔だけを見て何がしかの資格や才能があるなどと言う人間は、だいたいが詐欺師なのだし。

「………とある人物が、魔法使いとの繋がりを作りたいそうなんです」

「それは………目の前のお前じゃあないわけだな?」

 察しが良い。こういった話に慣れている相手ではあるらしい。やはり商人であるということは嘘ではないのだろう。

 魔法使いと本当に関係性があるのかについては、確証が持てていないが

「とある人物です。としか言いませんよ。ちなみに金儲けとかそういうのではないです」

 ルッドの返答を聞いて、腕を組んで考え込み始めた。目線はルッドに向けたままであるが。

「そうかあ…………なんとも言えんなあ」

「こっちとしてもそうですよ。はっきり言わせて貰えれば、あなたに、本当に魔法使いとのツテがあるかどうかすら疑ってる段階です。名前だってまだ聞いていないし………」

「あ、ああ。そうか。お互い、名前を名乗っていなかったな。ディードと言う。姓はない」

 流れの商人などなら、姓の無い者も偶にいると聞くが、彼もそうなのだろうか。外見的には、確かに姓を持った、しっかりとした人物には見えぬ。

「僕はルッド・カラサです。あなたの察しの通り、商人をしていますよ。そうして、さっきも言った通り、商売のついでに、ある人物と魔法使いを繋ぐためにコールウォーターへとやってきたんです」

 自己紹介をし合うものの、話に進展はない。まずルッドが行うべきは、目の前のディードという男が、信用に足る人間かどうかを探ることだろう。

 そうして、向こうの狙いに関しては、やはりルッドと同じく、こちらの目的を探ることか。

「じゃあな、ルッド。こういうのはどうだ? 俺は魔法使いが普段、何をしているかを話す。その対価としてその人物とやらが、具体的にどういう目的で繋がりを作りたがっているかを話してくれ。そうすれば、俺はお前を評価できる」

 魔法使いの情報というのは、こっちにとって、とりあえずは得ていて損は無い。その事を向こうは分かっているらしい。心を読まれている様な感覚を味わってしまう。

(うん。本来なら嫌な感覚だけれど、むしろ相手が有能なんだってわかっちゃう以上、自分的には好印象なんだよなあ)

 自分の考え方の歪さに何かむず痒さを感じながら、ルッドは頷きを返す。話をまだまだ続ける気になってしまったではないか。

「さて、魔法使いに関してだが、あいつらは本質的な意味ではその言葉は当てはまらない」

「はあ? それはどういう?」

「魔法を使うから魔法使いって言葉になるだろ? だけど、別にあいつらは魔法を使えなくなっても構わないんだよ」

 やはり意味がわからない。魔法を使うからこそ魔法使いではないのか。

「この世界には魔力っていうものがあるらしい」

「魔力?」

「ああ。俺も詳しくは知らないんだが、そこら中にありふれた物らしくてな。俺やお前さんの体の中にも、その魔力ってのが存在するんだそうだ」

 言われてルッドは自分の体に触れる。そんな妙な力など、生まれてこの方感じたことが無い。

「あいつらが言う魔法使いっていうのは、その魔力がなんであるかを解明する人間のことを指すらしい。なんでも世界の構造を解き明かす重要な力だとかなんとか。その力を解明しようとする内に、出来る様になったのが魔法ってことらしい」

 ディードの話を聞くと同時に、ルッドはレイナラから聞いた魔法使いについての話を思い出していた。

 彼女の話に出て来た老婆の魔法使いの印象と、ディードの話が合致するのである。つまり、目の前の商人は、魔法使いについての情報を正しく伝えているということ。

「外界との接触を絶っているのは何か強い理由が?」

「一つは勿論、この国自体に魔法使いに対する偏見があるからだが、もう一つ。実験や研究ってのは、ある程度隔離した場所で行わなきゃならないってのもあるらしい。そういう施設っていうのは、金や資材を掛けて作らない限り、人気の無い場所でやるしかないだろ? それがモイマン山の館ってわけさ」

 なるほどと納得する。行動倫理に対する理解こそないが、彼らが動く理屈が分かり掛けて来た。これならば、もし会った時も、交渉することが可能かもしれない。

「さて、魔法使いについて話せることってなら、とりあえずこれくらいだが、満足はしてくれたかい?」

「こちらの情報について、幾らか開示するくらいには………ですね。とある人物の目的について知りたいんでしたっけ?」

「ああ。それで会わせるかどうか判断したいんだが………なんていうのかね。これは商人としての勘なんだが………」

 頭を掻きながら話すディード。勘云々と言った表現をするのが恥ずかしいのだろう。ルッドとて、そういう言葉を使う時はそういう気分になる。

「そのお前さんの背後にいる人物。目的については聞かせてもらうが、それと同時に、お前さんが個人的に考えている事についても、聞かせて欲しいと思ってね」

 ディードはルッドの考えを聞きたがっているらしい。誰かの依頼や命令で無く、ルッド個人が魔法使いとどう接したいかを。

「………まず、とある人物の目的に関してですが、魔法使いと接触し、その力を借り受けたいというのがそれです」

「まだ曖昧だな。力を借り受けるというのなら、どういう形でかをはっきり言ってくれ」

「…………その人物は権力者です。ただし、その力はまだまだ弱い。その後ろ盾として、魔法使いとの繋がりを欲しています」

 個人名さえ出さなければ大丈夫だろうと考え、ルッドは魔法使いと接触する目的をディードに伝える。間者としての方は、モイマン山の館にさえ入れればそれが完遂できるため、明かさないし、明かす必要性も感じられない。

「権力者と言ったな? そうして繋がりをか…………単純に見世物にするってわけじゃあないみたいだな」

「要は戦力? 違うな………未知数の力と言えば良いのですか? そういう物を欲しているのだと思います。実際に動かせるかどうかは問題ではないのでしょうね」

「ああ、そういうことか。こいつはあの館に関するツテがあるぞ。そういう関係性を周囲に認知させることが目的なわけだな」

 魔法使いの勢力というのは、今まで社会から隔絶されたものであったが、では、無視できる勢力かと言えばそうではないだろう。

 魔法使いに対する偏見や差別は、魔法という力に対する恐怖から来る物が大きいのだ。その恐怖を利用できるのだとしたら、それはかなり強力な権威となるはず。

「有り体に言えばそうなんですが………魔法使いの話を聞くに、それだけじゃあ通りませんよね?」

「まあ……なあ。利用されるってことには変わり無いだろ? 研究や実験内容なんかにも介入される可能性があるなんて思われたら、絶対に会うのを断られるだろうな」

 あくまで目の前のディードは魔法使いの代弁者であり、魔法使い側の気持ちになって考えなければなるまい。そうしてそういう立場から見れば、権力者の手を結ぶというのは、あまり魅力的な提案には映らないはずだ。

「対価としては、社会への多少の認知と、もしかしたらモイマン山の館以外での、魔法の研究施設の提供ってのができるかもしれませんが…………やはりそれも弱い?」

 対価の話については、多少吹っ掛けて話をする。今回の依頼主であるレイスに、そこまでの事ができる力はまだ無いのであるが、将来的に、魔法使いと手を組むとしたとしたら、可能になるかもしれない。だが………。

「弱いなあ。いや、実際、俺の視点から見れば魅力的だが、会うかどうかの最終的な決定権は魔法使い達の方にこそある。魔法に対する情熱に関しちゃあ、とんでもないんだが、それ以外に関しては、からっきしさ」

 ルッド達が普段、利益や損と感じる事を共有できない相手だということ。見返りというのも、普通の物では駄目だろう。

「なんといっても、モイマン山の館には向かいたいと思っています。何か手は無いものでしょうか?」

 ルッドはすっかり、ディードという男を信用する気でいた。別に詐欺師であるという疑惑が晴れたわけではないのだが、交渉に足る相手という目では見られる様になったのだ。

「そうだな………だから、お前さん自身が思う事を聞かせて欲しいのさ。なあ、実際に魔法使いに会うのはお前さんだ。向こうが会いたいかどうかを決めるのも、お前さん自身に掛かってるわけだぜ?」

 もっともな言い分だった。今、レイスの代理人として来ているのはルッドであるのだから、ルッド自身の意思が、ここではもっとも重要視されるはず。

(僕としては………魔法使いは苦手………なんだけども…………)

 魔法使いに対する考え方は本当にそれだけだろうか? 自分の中にある苦手意識。その源泉がどこにあるかを理解して口にしろ。

「魔法使いという存在に対する変化の兆しというものに対して、僕はある危機感を持っています」

「ほう変化が? あの空気が停滞した館に、そんなものがあるとは思えないがな」

 モイマン山の館がどの様な場所かは知らぬルッドには、そう言われても分からない。ただ、事はそこだけで納まる話ではなくなっているのではないか?

「変化は………この国中で起こっています。僕が代理人となっている人の動きに関してもそうですが、この国は今、大きな変化の只中にあるんです。モイマン山の館にだって、その変化の影響は必ず来るはずだ」

 社会から隔絶されていると言っても、それはあくまで既存の社会での話だ。その社会そのものが変化を始めようとしているのだとしたら、魔法使い達とて巻き込まれる可能性もある。

「その変化が起こった際、魔法使い達の力が悪用されるかもしれない。力そのものについて分からず、ただ強大な勢力としての認識がある。このまま放って置けば危ないから、せめて自分の目でどんな存在か見極めたいっていうのが………ここに来た僕の目的かもしれませんね」

 ディードとの話の中で、ルッドは自らの中にある感情を整理することができた。魔法使いという存在に対する良く分からぬ危機感こそが、ルッドが魔法使いに対して苦手意識を覚える一因となっていたのだ。

 この認識を引き出したのは、ディードとの会話のおかげだろう。やはり向こうは交渉事に長けているらしい。

(油断していると、僕はこの男に食い散らかされるかもしれない)

 彼が何気無く聞いてくる、ルッドがコールウォーターに来た目的の話だって、実は相手の望む情報を引き吊り出されているのかもしれない。

 危険な相手だ。だからこそ交渉のしがいがあるというもの。

「…………その言葉、魔法使いを前にしても、そっくりそのまま言えるか?」

 急に真剣な表情をしてこちらを見据えてくるディード。何を考えての言葉か?

「ええっと………単に僕が感じたことを口にしただけで………」

「それが大事なんだ。魔法の力が否応なく世間に影響を与え、そのことに危機感を覚えている。これは魔法使い達にとっても説得力のある言葉だぜ? そういう感性を持った人間が会いたいと望んでいる。会わない理由ってのは………ないだろ?」

 ディードから返ってくる言葉に、ルッドは戸惑った。

「けれど、それはあくまで僕個人の意見ですし、そんな御大層なお題目でも無い。そんな言葉だけで会ってくれそうには―――

 ないと、言葉を続けようとしたところを、眼前に広げられたディードの手のひらによって止められる。

 手のひらはそのまま握りこぶしに、いや、人差し指だけを立てた状態になり、左右に揺れた。

「自分の価値観だけで相手を判断しちゃあいけない。特に俺達商人はな。違うか?」

 どうにもディードは、未熟な商人に忠告する先輩らしい振る舞いをしたらしい。こういう行為に関しては、少し不快感を覚える。その未熟な商人とて、何時でもそちらの喉元に喰らいつこうとしているかもなのだぞ?

「つまり、これくらいの言葉でも会ってくれる相手かもってことですかね?」

「だから価値観の話なんだと言ってるだろう? 個人単位の言葉だったとしても、お前さんが言った言葉は、魔法使い達にとっては重要に取られるかもなんだ。だからな………」

 合わせてやろうか。ディードはそう続けて来た。ただし何かを対価にか? そう身構えていたルッドであるが、目論見通りには続かない。

「地図はこれだ。どう進めば良いかの経路も書いてある。遠回りに見えるだろうが、ちゃんと守って進めよ。そうしなきゃ辿り着けないんだ。俺は俺で魔法使い達の説得をしなきゃならんから、案内もできない。それと、やるんじゃなくて貸すだけだから、後で返しな」

 そう言ってディードは、大量に持った荷物の中から地図を取り出し、ルッドへと差し出した。本人はと言えば、その場を立ち上がり、去ろうとしている。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。え? これだけの話で、モイマン山の館へと案内する気になったんですか!?」

「ああ………何か不思議なことでもあるのか?」

 本当に。そう、本当になんでも無い様にこの場を去ろうとするディード。価値観云々の話であるならば、ここで対価を要求するのが商人としてのそれであるはずだ。ディードは魔法使いでは無く、ルッドと同じ商人であり、何故それをしないのか。ルッドには理解できなかった。

「現状、僕はあなたとの話の中で、得しかしてません。こんな馬鹿な話はない」

 交渉とは、もっとこう、振子的な物のはずだ。互いに自らの利益を奪い合う様な………。勿論、穏便にであったり、お互いの利益になる交渉だってあるのだが、一方的に益を与えられるというのなら、それは不気味な物に映る。

「そうか? ならお前さんの思い違いってことになる」

「はい?」

「俺はきっちりと、俺自身の利益を得ているんだ。勿論、モイマン山の館で世話になっている借りを返すのがその利益だ………なんてことは言わないぜ? それがわからないってのなら…………まだまだだな」

 こちらを一度振り向き、どこかで見たことある様な笑みを浮かべた後、ディードは店を去って行った。

 残されたのはルッド一人と、彼が食べ終えた後に残った皿と魚の骨。

「ああっ!」

 しまった、やられたと今さら気が付いた。ディードは既に店の外。店員に自らの分の食事代を払った様子は無い。

「お、奢らされたあ!!」

 ルッドは頭を抱える。どうにも今回の交渉では、ディードの方が一枚上手だったらしい。




「それで………なんでそんな怪しいおっさんの言うことを信じて道を進んでいるんだ? 要は集られたって話だろ、それ」

 ディードとの話をしてから一夜明け、翌朝、ルッド達はコールウォーターの町を出て、モイマン山へと向かっていた。風が強くなり、標高も高くなっているためか、冬用の厚着をしなければ寒くて歩けた物ではない。

 そんな中で、ルッド達はモイマン山へと直線距離で進まず、ディードが用意した地図の通り、遠回りをしながら進んでいたのである。

 キャルの文句もわからないではない。

「いや、なんでだろうねえ。信じてみようって思っちゃったんだよ。この地図」

 渡された地図を良く見ながら、進行方向を決める。全行程的には山へと近づいてはいるのだが、時にはむしろ遠ざかる道を選ぶ場合もあった。

「護衛からは、一つ忠告させて貰うことがあるわ」

 左手の人差し指を一本だけ伸ばして、レイナラが口を開く。彼女もまた、不満気な表情を隠そうとしていなかった。

「護衛のレイナラさんからは、いったいどんな話が?」

 小言がずっと続いているため、そろそろうんざりしてくる頃だ。ただ、反論できないことが悩ましい。

「どこかの場所に誘導されてるって危険性は考えないの? その複雑な経路のどこかに、盗賊団が潜んでるかもしれないのよ?」

 つまりディードと言う男が、盗賊たちが獲物を呼び寄せるための生餌かもしれないと言いたいのだろう。

 確かにレイナラの言う通りだ。そういう危険性も勿論ある。

「申しわけないんですが、そういう危険性も承知でレイナラさんには護衛の仕事をしていただきたいんです。今回分の報酬についてはその分上乗せしますから、頼みます。社長も、僕の取り分からレイナラさんへの護衛代を出して良いからさ」

 彼女の負担が増えることに対して、ルッドができることと言えばそれくらいだった。そうして、彼女の負担を増やしてでも、ディードから借り受けた地図通りに進みたいという欲求がルッドにはあるのだ。

「理由を話してくれよ。そうしてくんなきゃ、こっちは文句しか言えないだろ」

 じと目でこちらを睨むキャルに心が痛くなる。なにせ、明確な答えが自分でも分からないのだから。

「信用してるって表現が、違和感があるけど正しいのかなあ………」

「その突然あったおっさんをか? 全然正しい言葉に思えないけどな」

「だから僕も悩んでるんだよ…………。なんていうかね、人としては、当然信用なんてできないよ。身なりも怪しいし、やり口が詐欺師のそれに似てるしさ。ただ………一商人としては………盗賊が待ち構えているとかいうそういう結果を用意している人間には思えなくて」

 もし悪巧みをしているとしても、それはこの道中などではなく、モイマン山の館で行われるのではないか。

 ならば、この地図の先にあるのは、やはりモイマン山の館であり、そこに辿り着くまではディードが用意した案内を信用しても良いのではかいか。そんな風に考えているのだ。

「わっかんねーなあ。言っておくけど、あたしは兄さんが進むって決めたから進んでるんだからな!」

 信用するのはそのディードという男ではないとキャルは言ってから、とりあえずの愚痴は止めてくれたらしい。レイナラもそれは同様で、ただ自らの仕事に専念してくれる様だった。




 標高が高くなるについて、霧が出始める。それは一歩足を踏み出す毎に濃くなっていき、比例する様にレイナラの警戒がさらに強くなっていった。

 盗賊の気配を感じ取ったというわけではないのだろう。ただ、視界が狭まることに対する危機感だ。

 ついには数歩先すらも見えなくなり、頼りになるのは一応、雑草など生えぬ様に整備された道のみ。だが石畳によってできている上等な物ではないため、実は道を外しているのではないかと不安になってくる。

 地図の通りであれば、もうただ道に沿って前に進むのみ。不安感からキャルが時々、こちらを見ているのが分かる。同じくルッドにもレイナラやキャルと視線を合わせたくなる衝動が存在しているが、それを必死に押さえつけていた。

(この道を進むと決めたのは僕なんだから、少しでも不安な様子を見せるなんて、馬鹿のすることだ)

 せめて外面だけは、自信をもって道を進んでいる風を演じなければ。そんなルッドの思いに反応したわけでもないだろうが、徐々に霧が晴れ始めた。

 寒さは肌を突き刺す様に酷いものであるのだが、それでも霧を貫く太陽の光が、ルッド達へ注ぎ始める。

「あれは…………もしかして!」

 霧が晴れると同時に、世界に色が取り戻されていく。木々の青や緑。土の茶色。そうして、明らかに人工物である、石造りの建物が眼前に現れた。

 霧が晴れなければ、気付かぬ内にその土地へ入っていたかもしれない。それくらい近くに、その灰色の石で造られた、神殿のような建物が存在していたのだ。

「ここが………魔法使い達が集まる場所。モイマン山の館………」

 その建屋は歪な形の石によって組まれており、上部に向かう程に大きくなっている塔の様な姿をしている。

 どうしてこの様な形で自重に負けずに建っていられるのだろうか。そんな疑問が浮かび、すぐに消え去って行く。

(ここは魔法使い達の巣窟。何が起こっても不思議じゃあない。この程度で驚いていられるか)

 こんな場所だからこそ、自らの意思をはっきり持ちたい。そう強く自分を戒め、ルッドは館に向けて、一歩足を踏み出した。



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