第三話 ある商人との出会い
「そのお婆さんは、自ら魔法使いだって名乗ったんですか?」
コールウォーターに向かうまでの道すがら、ルッドはレイナラの魔法使いに出会ったという話を聞く。
「そうなのよ。表現が難しいけど、そう名乗るのが一番だって言ってたわね。意味が良く分からなかったわ」
このノースシー大陸は、魔法使いであると迂闊に名乗るには、あまり向かない土地であるはずだ。偏見や差別などが残り、衆目を集め、芸などをする目的以外では良くない事であると思われるのだが。
「で、そのお婆さんは、いったい何が目的で、姉さんにいっしょに散歩してくれって頼んできたんだよ」
「だから、湖が青く光る瞬間を見るためよ。それしか話してくれなかったわ。ちょっと、変な目で見ないで頂戴よ。本当にそれだけだったんだから!」
疑っているわけではないものも、妙な依頼であると思う。だが、どうにも魔法使いが関わる仕事だったのだとしたら、その不可思議さも不自然で無くなりそうな。
「もうちょっと、詳しく聞かせてくれませんか? 特に、その青い光を見た時のことを」
「え、ええ。良いわよ。そうね、あれは雇われて3日目の事だったわね。こう、日一日、湖の回りをお婆さんと歩くだけの仕事だったのだけれど…………」
「へえ。お子さんもお孫さんも魔法使いじゃあないの?」
「そうなのよお。本当は知識を受け継いで欲しいのだけれど………無理強いするのはちょっとねえ。あまり良く見られない職業なのは知っているし…………」
知り合ったばかりとは言え、3日間も一緒に散歩をすれば、世間話をするくらいにはなる。レイナラは現在、老婆とゴーゼネリティ湖の周囲を歩きながら、彼女の家族について話をしていた。
彼女の名前はアランシー・ナララと言うらしい。大陸北方出身で。その人生の半ば程で魔法使いとしての道を目指し始めたとか。
「場所柄、他の魔法使いと出会う事が何度かあったのね? その姿を見て、どうにも楽しそうだなと思ったから、つい、目指したくなっちゃって…………」
「つい? 申し訳ないけれど、魔法使いって偏見たっぷりに見ちゃうから、私はその姿を見て、なろうなんて思わないけれど………」
雇用主に対して失礼なもの言いだが、これくらいに気安い方が、目の前の老婆にとっては良いらしいのだ。率直な意見を好む性質が見て取れる。
「生まれながらの性格かしらねえ…………。落ち葉が落ちるのを、不思議に思ったことはあるかしら?」
「落ち葉が? 季節が過ぎて、葉が落ちるのは自然なことじゃあないかしら?」
「そうねえ。とても………自然なこと。生まれて、育ってきて、それまでに出会った周囲の人間もそう思っていたわあ。けれど………あたしは違ったのねえ………なんでだろうって。どうして葉は色を変えるのかしら? 木から離れて行くの? それが風に揺られながらも、地面に落ちて行くのはどうして? そんな疑問が色々膨らんで、パンクしそうになる時が何回もあったの」
レイナラにはアランシーという老婆が特殊な人間に見えた。恐らく、そのことを老婆自身が良く理解しているはず。だかこそ、おかしな話をレイナラにしている。
「こんなこと考えるのは、あたしだけだと思っていた。だから、必死に抑え込んでいたのだけれど………出会ってしまったのよ。同じ考え方をする様な人達に」
「それが………魔法使い?」
老婆が頷きを返す。そうしてその出会いから、この目の前の老婆も、魔法使いとしての道を歩み出したのかもしれない。
「世の中に不思議なことは沢山あるわあ。それをね、解き明かしたいって思うのが私達なの。勿論、何もかもが分かるわけじゃあないのよ? けれど、時々、その神秘の正体を突き止められることがある…………例えば、これ」
老婆が手の平を上に向けてレイナラに近づかせる。すると、そこに白い物が舞った。それが雪の結晶であることが分かったのは、幾つもの白雪が老婆の手の平で踊りだしてからだ。
「雪が………どうして? 季節はまだ秋なのに………」
周囲を見渡す。雪など降っていない。雪が存在するのは老婆の手に平の上だけ。
「これが、あなた達が魔法と呼ぶ現象よ。ちゃんと種も仕掛けもあるのだけれど、説明がすごく難しい現象だから、やっぱり魔法って呼んだ方が良いのかしら」
老婆が手を閉じると、雪も消えてなくなる。始めて見た。これが魔法と言う奴か。レイナラは驚きの表情を隠せないでいると、その顔を見たアランシーが顔を覗き込んで来て微笑んだ。
「どう? ちょっとは興味を持ってくれたかしら? あなた達が魔法と呼ばれるこれだけど、あたしにとっては、出来る様になった。その程度のことなのね」
「ちょ、ちょっと待って頂戴。そんな不思議な事ができるのに、その程度だというの?」
自分の人生の中で、芸を身に付けるということが大半の行動だったレイナラにとって、その芸の集大成と言えそうな魔法の現象に、あまり強い感情を持っていないアランシーを、やはり理解できなかった。
「結果をどこに置くのかの違いなのよねえ………。あたし達にとっては、不可思議を見つけることと、それを解明することが重要なのよ。そう………今からここで見られる現象についても…………」
魔法使いアランシーが、すっと湖の方を見た。つられてレイナラもそちらを見ると、湖の中心あたりの、美しく透明感のある光景が、徐々に変化が現れはじめた。
そう。話に聞いていた通り、青く輝き始めたのだ。初めは小さな点であったそれが、どんどん広がって行き、遂には湖中を青く輝かせる。
周囲で見学していた人間の様子は様々だ。歓声を上げる者、腰を抜かして驚く者。この現象を知っていたとばかりに自然のままの者。
では、魔法使いアランシーの様子はどうだったのかと言えば、ただ、ひたすらにじっと、湖の現象をその目で見ていた。
「ほら、あなたもちゃんと見て。そのために雇ったのよ?」
そう言われては従わないわけにもいかない。この3日間。金銭をしっかりと支払われていたのだから。
「…………」
どれだけの時間が経過したか。そう長くはなかったとは思う。青の輝きは光り始めた時とは真逆に、湖の中心点へと縮まって行き、遂にはその光を消した。
これですべての現象が終わったのか。ふとレイナラが視線を戻すと、そこにアランシーはいなかった。別に掻き消えたわけでなく、場所をさらに湖側へと移動し、その手で湖の水を掬っていたのだ。
「なるほどねえ………やっぱり魔力による光だわあ。勿論、原因があるはずなのよ。それは何かしら…………うーん。中心点から広がったのを見るに、やはりそこに何かが? 潜って確かめるのも良いけれど………」
手の中にある水を繁々と眺めているアランシー。その水も彼女の手を流れて、湖へと帰って行く。
「ちょ、ちょっと。大丈夫なの? そんなの触って………」
「大丈夫よう? 水自体、ここはとても綺麗だから。さっきの光なら、尚更大丈夫。単なる自然現象では………多分無いけれど」
湖を睨むほどに眺めているアランシー。なんだろう。彼女の雰囲気が大きく変わった様な。
「…………どれくらいの時間が光っていたかしら? 光の色はどんな風に見えた? 光り始めた場所と収束した場所について詳しく聞かせてくれる?」
そうして突然始まるアランシーの質問責め。いきなり聞かれたため、戸惑うしかない。
「ま、待って。待って待って。いきなり急に、どうしたの?」
「個人だけの観測じゃあ、齟齬がでるのよ。だからあなたを雇っていたの………ちゃんと見ていたわよね?」
「も、勿論。言われた通り見ていたわ。あれだけの事、目で見て覚えていない方が難しいもの」
さっきまでの光景は、レイナラの記憶に強く刻み込まれていた。湖があれほど青く光ることなど、今までの人生の中で無かったことだ。
「なら良かったわあ。さっき、いきなり色々聞いて悪かったけれど、今から一つずつ聞かせてくれないかしら? あたしにとっては………とても大事なことなの」
湖の次は、レイナラの目をじっと見てくるアランシー。どうやら、これがレイナラに依頼されていた真の仕事であったらしい。
レイナラはアランシーに聞かれるままに答えた後、ミルワでの仕事を終える事になった。後に残ったのは、幾ばくかの報酬と、魔法使いという存在に対する奇妙な印象だけであった。
「これが全部よ。光る湖の感想について一通り聞かれた後、お仕事が終わったからって。その後に会うことも無かったわねえ」
「なんなんでしょうね? 結局、その魔法使いのお婆さんは何をしたかったのか………」
ルッドはレイナラの話を聞くうちに、魔法使いという人種がますます分からなくなってしまった。
これが魔法使いを騙った偽物などならまだ良いのだが、どうにも、ルッドが思い浮かべる魔法使いのイメージ像に合致してしまうのだ。
そういう意味不明さこそが魔法使いであるという印象。
「わたしに聞かれても困るわ? なんなら、ミルワのゴーゼネリティ湖でも向かってみる?」
「冗談ですよ。もう目の前にはコールウォーターの町が見えているんですからね」
コールウォーターの町に辿り着くのにあと2,30分といったところまで来ていた。大陸の北端近くにあるこの町から、東部の町であるミルワに向かうなどもっての外だ。
そんな時間も労力もない。
「じゃあ、姉さんの話だけを元に、魔法使い達と交渉するってことになるな」
じっとルッドを見てくるキャル。本当にできるのか? と尋ねているのだろう。正直なところ、不安でないと言えば嘘になる。
「やるしかないんだよ。コールウォーターの町で、幾らかそういう話を聞ければ尚良いんだけど………」
コールウォーター。大陸北端に位置するラージリヴァ国の領地。モイマン山にもっとも近い町。ここに到着することが、まず仕事の第一段階だ。そうして第二段階であるモイマン山の館へ向かうというそれが、ルッドにはどうしようもなく高く見えてしまうのだった。
物品の輸送自体が労力と危険を伴う物であったためか、コールウォーターへ運んだ輸送物品に関しては十分な利益を得ることができた。
商店には特産品であると聞くカンフラの根を買い入れる約束をしたおかげで、幾らか輸送物品を高く売り、一方で商品を安く仕入れることもできたのだ。
とりあえずは、表向きの仕事に関しては、半分の行程を終えたことになるだろう。
「順調に行くばっかりだと、途端に不安になるのはどうしてだろうね?」
「幸運なだけの人生と不運なだけの人生ってのは、二つとも有り得ないらしいぜ。こう、振り子の様に振れるのが一般的な人生なんだと」
コールウォーターの町でとった宿にて、宿に備え付けの食堂で食事をしながら、ルッドはキャルと話をしていた。
一歩外に出れば、夏でもかなり寒い町であるのだが、屋内などは石造りの暖炉から常に火が焚かれており、むしろ暑いくらいである。
「姉さんなんかは、いっつも幸せそうだけどな」
レイナラは今頃、町の酒場をうろついている事だろう。
「彼女も彼女で、気候が大きく変わって頭痛が酷くなったそうだから、釣り合いは取れてるんじゃないかな」
買い入れる予定のカンフラの根がどれくらいのものだろうと頼んだ、蒸かした根に味付けをした物を、昼食代わりに食べながらルッドは話を続ける。
既にコールウォーターに就いてから二日経過しており、今はその二日目の昼だ。通常の商売に関する仕事は昨日の内に殆ど済ませており、今日はとりあえず、旅の疲れを取るために、ゆっくりしておこうという話になっている。
そうして、明日になればモイマン山に向かおうという話も。
「じゃあ兄さんはどうなんだ?」
「だから不安なんだって。うーん。これ食べ終えたら、町をちょっとぶらついてみるよ。石にでも転べば安心できるかもしれないし………」
「なんだそれ。変な心配だなあ」
キャルに笑われてしまう。まあ確かにおかしな心配だ。最近は精神的に成長したと思っていたのだが、こう、不安に思う相手がいるというのを実感して、落ち着かないのかもしれない。
「情報集めも、積極的にしておこうかと思ってね………。うん、情報と言えばこれ」
ルッドは現在食べているカンフラの根を指差す。
「これがどうかしたのか?」
「仕入れ量を増やして置こうか。結構おいしいからね」
すべてを食べ終えたルッドは、そう言って席を立った。これから歩き回るコールウォーターで、不安を晴らす材料を見つけるために。
モイマン山の館にもっとも近い町である以上、コールウォーターには魔法使いに関わる施設があるのではと思っていたルッド。
それを探し回って町を歩いているのだが、中々にそう言った物は見つからない。
(モイマン山の館が人の集まりである以上、食糧なり燃料なり、いろんな物が必要になってくるはずなんだ………まさか全部が全部自給自足でやってないだろうから………魔法使いと知り合いだっていう商店があってもおかしくないはずなんだけど………)
それが見つからない。思った以上に大きな町であるため、すべての商店を周れていないのも原因かもしれないが、それにしても情報がまったくもって手に入らなかった。
(本格的に外界との交流を絶っているからか………それとも、何か別のルートがあるのか?)
例えば、モイマン山とやりとりしている専属の商人がいるのやも。
(いやいや。待てよ? そんな物好きな商人がいるかなあ?)
利益も無く働く商人はいない。魔法使いから何らかの対価を得ているのか、それともまた別の理由があったりするのか。
(そもそも、いるかどうかもわからない人間について考えるってのも―――
「おい坊主。もしかして、商人さんかい?」
と、やや左後方から話し掛けられる。振り向くと、やや年配の髭を生やした男が立っていた。随分と大きな荷物を背負っている。服装は汚れており、服の皺もかなり酷い。
「えっと………何ですか?」
いきなり話し掛けられて、名乗る者はいない。見るからに怪しい人物であれば尚更だ。
「はっはっは。俺が怪しく見えるかい? そりゃあまあ、この成りだ。警戒するのもわかる。だが、これでも坊主と一緒の商人だぜ?」
顎に手をやってニヤリと笑う男。怪しさが一層に増す男であるが、これはある意味、自分が求めていた不運と言うやつではなかろうかと思い、とりあえず話を聞く事にはしてみる。
「商人………えっと、その商人さんが何の用で?」
「どうも坊主みたいな年頃の商人が、魔法使いについての話を、あちこちの商店で聞いて周ってると耳にしてな。もしやと思って声を掛けてみたんだが………」
値踏みするかの様にこちらを見てくる男。どうにも居心地が悪い。いったい何が目的か。
「僕が魔法使いについてを聞いて周っているその商人だったとして、あなたに何の関係が?」
「そうさな。例えば、俺がその魔法使いとやり取りしている商人だと言えば、どう反応する?」
「………別に………ああ、そうですかとしか」
一瞬、驚きそうになった心と表情を鎮める。感情の動きを相手に見せるな。見せるならあえて作った偽物の感情をだ。
「思った以上に胆力はありそうだな。それとも俺の勘違いだったか? 興味についてはどうなんだ? あるかい? ないかい?」
さて、どう答えるべきだろうか。目の前の男は飄々としており、その本質を掴めない。そもそも会ったばかりの相手だ。分かるのなら分かったで、自分は超能力者か何かかという話になるだろう。
ならば、ここは正直に答えて置く。
「モイマン山の館………という場所には興味があります。そこに住む魔法使いにも」
「理由を教えて貰っても構わないかい? なんなら、案内してやっても良いぜ?」
なんなのだろうか、この男は。何故こうまでこちらに話し掛けてくる。その狙いはなんだ?
(まず、目の前の男が本当に魔法使いと関係のある商人だと想定してみろ。ただ魔法使いについて探っている僕みたいな奴に、どうして接触しようと思う?)
商人は利益の出無い行動は行わない。単なる親切心からルッドに接触しようとは絶対にしないだろう。彼が魔法使い側の人間だと仮定するとしたら………。
「で、ここでどう答えた場合、魔法使いに接触させないようにしてくるんですかね?」
「ほう、気が付くとはな。やはり胆力がある方だったか」
さらに笑う男。この男、恐らくは外界とあまり接触しようとしない魔法使い達が用意した、選別役なのだ。
それも商人としての仕事なのだろう。モイマン山へ近づく人間をどの様な人物かを判別し、その上で接触させるかしないかを決定する。
「まず、商人として魔法使いを商売道具にしようとする奴はアウトだ。そういうことを特に嫌う連中でね。そんな奴をおいそれと館に近づかせれば、俺の商売があがったりなんだよ」
「あなたは、魔法使いに関係する何かで商売をしている風に聞こえますね?」
「そりゃあそうさ。彼らも日用物品や実験器具が必要でね。そうして魔法で作られる物品というのは、それなりに高値で売れる。後は………わかるだろ?」
つまり目の前の男は、魔法使い達に日用品を売り、その対価で魔法に関わる物を貰う。そうしてそれを売りさばくことで利益としているのだろう。
「ただまあ、若干の義理があって商売をしているところもあってね。こうやって、人物確認をしているのは、親切心みたいなもんさ」
「親切心………ですか」
「ああ。ぶっちゃけた話、モイマン山の館は、お呼びで無い客は近寄れない様になっていてね。俺がいちいち判別しなくとも、別に構わなかったりする」
「それは………有り得なくも……ないのかな」
相手が魔法使いであるというのなら、その様な神秘を使える可能性も大いにある。そのことを考えていなかったのは迂闊だろう。
ただそこに進むだけで辿り着ける場所ではないなどと思ってもみなかったのだ。
「彼らは伊達に世間と隔絶してはいなくてね。はっきりいって、彼らを見ることがあれば、価値観の違いに大きく驚くことになるだろうさ」
「で、その親切心とやらは、むしろ、そんな彼らに外部の者を会わせてしまう行動に繋がると思うのですが」
もし、この男の話すことがすべて本当だとしたら、むしろいちいちそんな話をしない方が、邪魔者をモイマン山の館へ近づけさせずに済むのではないだろうか。
「だからこその親切心さ。さっきも言った通り、彼らは外界との接触を極端に嫌う………ってほどじゃあないんだが、少なくとも館には近づかないで欲しいと考えている。だが、そうなると、幸運をもたらす稀人も取り逃がすことがあるのさ」
男の話によれば、モイマン山の館は魔法使い達の学習場所であり、尚且つ研究場所であるらしい。
魔法と呼ばれる物に関する様々な実験が行われており、その光景を見た人間の目には、神々しい何かが映るという。
「だが、それも暫くすれば、なんとなく法則がわかってくるんだ」
「法則?」
「理屈やどうして起こるかの話じゃないぜ? ただ、在り来たりな風景として見れて来るんだ。そうして気が付く。空気が少し停滞してきてるってな」
「空気が停滞って、比喩表現ってことで良いんですよね?」
立ち話を続けていたせいで、少し足が疲れて来た。足の位置を変えた後に、ルッドはまだ話を続ける。
「その通りだ。外界と隔絶された社会ってのは、定期的に外の空気を呼び込んでやらなきゃ、何時か変わり映えの無い物になっちまう。魔法使い連中にとっちゃあ、結構それが致命的でね」
神秘を解明するのが魔法使いという人種であるらしく、変化の無い日常が繰り返されると、魔法使いとして生きる意義が無くなってしまうのだそうだ。
新しき物に興味を覚え、そこからさらなる謎を解き明かしていくのが魔法使い故に。
「外に出る魔法使いもいるにはいるが、少数派だ。しかも持ち帰る知識も魔法使い的なもの。そのままじゃあ、あんまり外の空気を呼び込んだとは言えないよな。だからこそ、俺が外来人を選別するのさ」
例えばルッドの様な人間を。だろうか。目を付けられたのか。それとも、何がしかの詐欺に遭っているのか。
まだその判別ができないルッドはとある提案をしてみることにした。
「とりあえず、お茶でもしません? 立ち話を続けるって、なんだか変に見られますよ」
詳しく話を聞いてみよう。最初は不運に出会った程度の認識しか無かった目の前の男であるが、今は興味の対象になってしまっていた。