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北風の道  作者: きーち
第九章 偶然か必然か
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第一話 重なる依頼

 ルッドがその日、レイス・ウルド・ライズ総領館商管室長に呼び出されたのは、彼女からの依頼を聞くためだった。

 以前にあった商売上の不審な点を、再度確認しておくという名目であるため、かなり不名誉な呼び出しであるのだが、その実、商人と権力者で行う密談であった。

 なので商管室にある応接室にて、ルッドはレイスと面と向かって話をしている。顔立ちが整った女性であり、彼女と個室に二人だけというのは、本来なら嬉しい状況であるのだが、男装の令嬢風のレイスと話し合うと、どうにも緊張してしまう。

「で、わざわざ呼び出したからには、こちらに何かをして欲しいということですよね?」

 現在、漸く一通りの挨拶が終わり、本題へ入る段階だった。

「ああ。その通り。良くわかっているじゃあないか。例によって、私の後ろ盾を作って貰いたいと思ってね?」

 後ろ盾。レイス・ウルド・ライズが今、もっとも必要としている物である。この国を中心的に統治している総領主一族の中で、レイスは微妙な立ち位置にいる。一族の中心に近いのであるから、それなりに権威があるのだろうが、女性と言う立場もあるのだろう。最近までは実質的な権力を持ち合わせていなかった。

 そう最近までは。

「商管室に関しては、ある程度、牛耳ることができているんでしょう?」

「まあね。だが、それも危うくはある。所詮、大きい仕事を一つ持って来て、解決したというだけだからねえ。ほら、例の実子じゃなかった騒動。君が用意してくれた」

「スキャンダル内容については、僕が用意したわけじゃなくて、そう仕向けたってだけですけど………そうですか。確かに、権力者には明確な後ろ盾が必要か」

 彼女は、数週間前に起こったラージリヴァ国の流通路を管理する二大組織に関する事件について語っている。ルッドも大きく関わったその事件であるが、結果的に二つの組織は一つになり、商管室はその事に対して、幾らか組織としての行動を起こしており、その権威を増していた。

 レイスはその商管室の動きを主導した立場であり、商管室内での発言力というものを掴んだ形になっている。元々お飾りでしかなかった室長と言う地位が、実質的な物となったと言ったところだ。

「私がもっと権威や権力を高めていくのが君の望み。というという解釈で良いのなら、今回の依頼も引き受けて貰えると思うんだがなあ」

「内容をまず話してくださいよ。いくら望みが合致したって、できることとできないことがあります」

 ルッドが所属するミース物流取扱社は、お世辞にも組織力があるとは言えない。長所はと言えば、小さな組織故に機動的に動けるというくらいだろう。

 レイス側もそれを承知しているはずなので、恐らくは受け入れられる依頼かとは思うのだが、内容を聞く前から頷けるほどにお人好しではない。

「そうだね。まず聞きたいんだが、近いうちに、ノースシー大陸北部へと向かう仕事というのはあるかい?」

「まあ………流通網に関する混乱は、まだ完全に収束したわけでもありませんから、大陸中のあちこちに物品を運んでほしいという依頼は、山の様にあります。一番の北部と言えば、コールウォーターという町に食糧輸送と仕入れの依頼が入ってます。漁業が盛んなんでしたっけ?」

「ああ、あそこか。最近は植物の根を育ててるらしいね。カンフラとか言う名前だったか。根っこが膨れて、それが甘く良い味がするらしい」

 コールウォーターはノースシー大陸内でもっとも北部に位置する町だ。先ほど言った通り、漁業が盛んで、最近は冷たい地域でも育つ植物で農耕を始めているらしい。さらに毛長馬の酪農も行っており、大陸の食料事情を幾らか支えている町であると言える。

 もちろん、人が住む場所という意味では、さらに北に集落が存在している場所もある。

「食料関係の輸送依頼が結構ありますから、そこへ向かうのなら別に問題ありませんが、そこじゃあ問題がありますか?」

「いや、大変に都合が良い。比較的、目的の場所の近くにある。モイマン山という場所については耳にしたことがあるかい?」

 その単語に、ルッドの耳は反応する。聞いたことがちゃんとあるのだ。大陸の北端近くにある山であり、その麓には、モイマン山の館と呼ばれる場所が存在しているという話。

 そうしてその館には、魔法使いの組織が存在するという。

「………つまり、あなたは後ろ盾として、魔法使いの存在を必要としている。そういう解釈で良いんですか?」

「察しが良くて助かるよ。さすが私が手を組んだだけある」

 自分で自分の能力を高く評価しているらしいレイス。彼女はつい最近まで、自身の能力を十分に発揮できない立場にあったため、それを活かせる様になった現状に浮かれているのだろう。

 自信を持つのは良いことなのだが、注意はして欲しいと思う。

「しかし魔法使いですか………僕はそう詳しくありませんが……大丈夫なんですかね?」

 魔法使いという存在について、ノースシー大陸では異端視される存在だ。エルフやオークと言った異種族などより、もっと変わっている存在として見られている。

 何も無い場所から炎や氷を出したり、光を操って人を幻惑させたりと、神か悪魔かと言った存在なのだ。

 だからこそ、大陸の北端に追いやられていると言える。それを後ろ盾にできるなどと、本気でレイスは考えているのか。

「これでも、他大陸の情報を積極的に仕入れて居てね。向こうの大陸じゃあ、魔法使いを社会に対する貴重なリソースとして扱ってる国が多いそうじゃないか。うちだって、魔法使いが社会の内に入る機構があっても良いはずだ」

「わからない話ではないですが…………」

 奇跡に似た現象を起こせる魔法使いを、社会と隔絶させておくというのは、勿体ない話であるとルッドも思う。

 例えば燃料も無く、一定空間を温かくすると言った魔法があるだけでも、この大陸にとっては凄まじいまでの価値があるのだ。

 しかし、そういう価値を理解していたとしても、不安は拭えない。

「何か、問題を感じている顔だね?」

「端的に言って、相手がどういう思考回路を持った人種か分かりません。偏見混じりかもしれませんが、魔法使いと交渉なんてできるのかって不安は常にあるというか………」

「それは………まあ、その通りさ。だからこそ、一度接触して貰う必要がある。でなければ、何も始まらないじゃないか。頼めるかい?」

 レイスの依頼については、少しだけ思考をするフリをするルッド。実はと言えば、結論は既に決まっていたのだ。ただ、即決するというのは、安請負する気がして許せなかっただけだ。

「………わかりました。受けますよ。その依頼。とりあえずはモイマン山の館に住むであろう魔法使いがどういう人種かを探り、尚且つ、上手くできるのなら関係性を作るって形で良いんですよね?」

「ああ。そうだ。その通りさ。一応、これを持って行ってくれ」

 レイスは懐から、一枚の紙を取り出した。何やら達筆かつ仰々しい文字が並ぶそれは、最後の行にレイスの名前が書かれていた。

「この者を総領主一族の代理とする。レイス・ウルド・ライズ………。紹介状みたいなもんですかね?」

「向こうの魔法使いに会って、単なる商人だというのもアレだろう? 身分証明みたいなものさ。勿論、他の場所で多用して貰っては困るよ?」

「わかってますって。レイスさん自身、それほど影響力のある人じゃあまだありませんしね」

 紹介状というのは、それを作成した人物の権威や権力があってこそ、正常に機能を発揮する。

 レイスの紹介状に関して言えば、無いよりはマシと言った程度だ。

「はっきりと物を言う奴だ。だからこそ、良い仕事をしてくれそうに見える」

「お世辞なら、仕事が終わった後に言ってください。先に言われると、重荷が増えるだけなんですよ………」

 そう言ってルッドは頭を掻いた。厄介事だなと思ったわけではない。ただ、奇妙な偶然に、少し頭が混乱していたのだ。

(なんでまた、こう、タイミングって奴が重なるんだろうねえ。モイマン山に向かえだなんて、良くある話じゃあないだろうに)

 そうしてルッドは思い出す。レイスとの話し合いの前にあった、もう一つの依頼についてを。




 レイスから呼び出される前日。とある昼食屋へと足を運んでいた。最近になって、良くここに来ることが多くなっている。味は悪く無いのだが、正直ルッドの好みではない。いちいち味付けが大袈裟なのである。

 では何故、この昼食屋に来ているかと言えば、ここへ呼び出されることが多くなったからだ。

 呼び出す相手は決まって一人。ルッドの間者としての上司である、グラフィド・ラーサだった・

「よう。来たな」

 店に入ったルッドを、テーブルで食事を取りながら、手を上げて答えるグラフィド。何時も彼は自分より先にここにいるのだ。一度、待ち合わせの時間より先に行ってみた時も、そこにいるのが当然と言った様子で食事を取っていた。

「今度は何ですか。最近は呼び出しが多いですけど、そう頻繁に会うっていうのも不味いでしょうに」

 ルッドはまっすぐ歩き、グラフィドの対面の席へと座る。こういった行動も慣れてしまうくらいの回数は、この店に来ている

「国の状況が動いているからな。情報収集係のお前には、直接会って話を聞いて置きたいんだよ。それに、今回は頼みもあるしな」

 ソルトライク商会が関わる変化。ブラフガ党の暗躍。新たな組織の併合などなど、ラージリヴァ国は変化の時代と言っても良い状況だった。これが激動という言葉に変わる可能性だって十分にあるだろう。

 グラフィドはそれを心配しているらしく、ルッドとこの昼食屋で接触を図っていた。

「この前に報告した、ソルトライク商工総会とノースシー流通管理会の併合に関する話ですか?」

 今回より一度前に接触した時は、その二つの組織の動きについてを報告させられた。ある程度、ルッド自身の動きを隠した上で、その実情を話したものの、情報内容に満足して貰っていたはずだが。

「また別件だよ。積極的に情報を集めて欲しい件があってだな…………ふん?」

 話の途中で、グラフィドがルッドを興味深そうに見ている。なんだろうか。別に食事が気になっているというわけでは無さそうだが。

「なんです?」

「いや、背が伸びたか? この国に来て一年にはなるだろう? 雰囲気が変わったなと思ってな」

「そりゃあ、まあ。ここじゃあ色々と経験を積ませて貰ってますからね」

 事実、ブルーウッド国に居た時のルッドとは、大きく違った存在になっているだろうと、自分でも思う。

 命の危険やら商人としての経験。権力者との接触。様々な物事が、ルッドの思考を大きく変えてしまっている。ミース物流取扱社の面々との出会いが、そのもっとも大きな原因だろうか。

「そうか……なら、今回の頼みも上手くやってくれそうだな」

「つまり、酷く面倒なんですね………」

 嫌な顔を隠さないルッド。断る権利なんて部下のルッドに無いわけだが、それでも不平不満は隠さぬ方が良い

「まあなあ。モイマン山の館ってのは知ってるか?」

「………名前くらいは」

「魔法使いの学び舎みたいな機能があるってことも?」

「魔法使いが集まってるんですから、そういう組織でもあるんでしょうね」

 持っている知識の確認。この後に続くのは、その知識に関わる事だろう。魔法使いに関わる仕事か。

「最近………良くその単語を耳にする」

「単語って、モイマン山の館を………ですか?」

 グラフィドが良く耳にするということは、ラージリヴァ国の権力者層がその言葉を口にしているということだろうか。

「今、この国がブラフガ党の動きを強く警戒しているというのは、知らないだろう?」

「…………知りませんでしたけど、そうであっても驚きませんね」

 ブラフガ党。ラージリヴァ国を滅ぼすために動く一党の名だ。以前までは国の裏側で、法に反した行いをする集団という認識しか無かったのだが、彼らの元幹部と接触する機会があり、その本当の狙いを知ることになった。

 国の崩壊。それを狙うブラフガ党を、ラージリヴァ国がいち早く察知し、なんらかの警戒をしていたとしてもおかしくはない。

「お前もお前なりに、この国についてを学んでいるということか………むしろ、俺よりも知っているかな?」

「どうでしょうね。僕はラーサ先輩がどんなことを普段しているか、さっぱりわかりませんから」

 いつも情報のやりとりは一方通行だ。グラフィドの方から、ルッドにとって有益な情報をくれるというのは稀であった。

「今回は幾らかそれを明かす。というのもだな、ラージリヴァ国がブラフガ党を警戒する中で、ブラフガ党がモイマン山の魔法使い達と接触しようとしている動きが判明したらしい」

「それって、ラーサ先輩が知る事ができる情報ですかね? 普通」

 国の治安に関わる動きを、何故、他国から来た外交官が知っているのか。

「まあ、俺だって色々と動いているのさ。お前ほどじゃあなくてもな」

 なるほど。ルッドがグラフィドの手を離れて動いていることは、お見通しらしい。それでもまだ許してくれているのは、ルッドが有用だと判断されているからだろう。

「でだ、気になるだろう? モイマン山には何がある? 残念ながら、そっちの情報が、俺にはまったく入ってこない」

「この国は、魔法使いに対する偏見と言えば良いのか、そういうのが強いですからね。そりゃあそうですよ」

 生理的嫌悪とまで行かないものの、話の中で魔法使いという言葉を出さなかったり遠慮したりする。それは権力者層にも及んでいるためか、魔法使いという存在が自然と謎に包まれた存在となってしまっていた。

「だからお前に集めて貰いたいんだ。季節が冬に入ると、どうにも道が完全に閉ざされる場所らしくてな。今から急げば、なんとかなるんじゃないか?」

「今からって………理由はどうするんですか。僕が一応、こっちで商売をしているのは知ってるでしょう? おいそれと、そんな場所に向かえる立場じゃあない」

 ラージリヴァ国の秘境みたいな場所にどうやって向かえと言うのか。何はともあれ、一番の問題はそれだった。

 モイマン山の館は、ラージリヴァ国という社会からは隔絶された場所なのだ。

「で? それがどうかしたのか?」

 ルッドの言葉を素知らぬ風に流すグラフィド。こういう言葉が返ってくるのはわかっていた。彼にとってみれば、ルッドの本業は商人でもラージリヴァ国に生きる人間でもない。自分に従う部下なのだ。

「わかりました。わかりましたよ。適当な理由考えて動きます。で、とりあえず魔法使いの情報をなんでも集めれば良いんですか?」

「これぞと指定できれば良いんだが、こっちもそれほど詳しいわけじゃあないからな。とにかく、向こうがどういった場所で、どういったことをしているのかを知りたい。そうして、ブラフガ党の狙いが何なのかも………いや、まだそれは危険か」

「…………」

 そうだろう。ひよっこの間者に、国の裏側で暗躍する組織について探らせるのは危険な行為だ。それをさせるのは上司として看過できない。そんな感情がグラフィドから見て取れる。ならば、表向きはそれに従うまでだ。

「しかしモイマン山ですか。まだ夏場と言えますけど、どうにも寒そうだな」

「季節には気を付けろよ。向こうで万が一にでも冬を迎えたとなったら、移動ができなくなるんだからな」

「心配してくれるんですか?」

「情報の疎通ができなくなるってのが、一番痛いんだ」

 まあ、そんなところだろう。しかし、その心配とは別のところで、ルッドは危険に挑むつもりでいた。

(ブラフガ党が関わってるねえ。中々に面白い情報じゃないか)

 これから対決していく相手の動きが、これから分かるかもしれない。そう思えば、グラフィドの指示も、悪い物ではないと思えた。




 と、まあ、そういうことがレイスに呼び出される前日にあったため、その奇妙な偶然に、ルッドは頭を傾げていた。

 今は商管室からミース物流取扱社へと帰る道中であり、考え込む時間ならある。

「とりあえず、モイマン山へと向かう言い訳なら、レイスさんの依頼で済むから好都合なんだけど………」

 ルッドが間者であることは、ミース物流取扱社の面々には明かしていない。なので上司に指示されたからモイマン山へ向かうなどとは言えないのだ。それが今日、レイスにもそこへ向かう様に依頼された事で、表立ってモイマン山へ向かうと言える状況になった。それは良い。

(問題は、これが偶然なのかそうでないかってことだ)

 レイスとグラフィドが同じ場所に向かって欲しいと、同時期にルッドへと依頼した。これを単なる偶然として片づける程にルッドは考えなしではない。

(第一として、二人が裏で繋がっている可能性………はないな。第一として挙げる必要すらない)

 そもそも両者に接点が無い。他国の外交官と、窓際近くの権力者がどうやって知り合うと言うのか。むしろ重要になってくるのは、国そのものの空気なのかもしれない。

(何か………そう大きな流れの向かう先にモイマン山がある。僕は今、その流れの中にいるのかもしれない)

 ブラフガ党が動き、グラフィドが警戒し、レイスが関係性を結ぼうとする。今、ラージリヴァ国の中心はモイマン山になっているのかもしれない。

「ちょっと楽しみになってきた………かな?」

 気分は冒険者だ。未知なる物への探求というのは、どうしてこうも心を弾ませるのか。

「ああ、でも。まずは社長や他の二人にどう説明するかだなあ」

 いくらレイスからの依頼だったとは言え、まさか大陸の北端へ向かうなどという提案に、すぐに頷いてくれる相手ではないことはわかっている。

「まあ、なるようになるさ。これまでだってそうだったんだ」

 最近は自身の能力に対して、ある程度の自信が持てて来たルッドであった。




「反対だ!」

 どれだけ自分に自信を持てたとしても、変わらないものは変わらないままだ。例えば社長のキャル・ミースが危険な仕事に反対するのは何時ものことであり、一応の社長室として存在している彼女の部屋で、彼女がルッドに向かって大声で叫ぶのも、ルッドが成長したところで変わらないことだろう。

「でもさあ、頼まれちゃったんだよねえ。社長だって会いたくない? 魔法使いをさ」

「兄さんは相変わらずそういう興味で動くよな! けど、モイマン山がなんて言われてるか知ってるのか?」

「さあ。悪いけど、こっちの慣用句にはまだ疎いんだよねえ」

 恐らくは碌な名称を付けられてはいないだろうことだけはわかるが。

「神様の住居だ」

「へえ、驚いた。なんだか良さげな表現じゃあないか」

 もしかしたら観光地みたいな扱いなのだろうか。いや、そんな都合の良い話でないことくらいなら知っているが。

「あの世に一番近いってことだよ! 夏場でさえ、雪が降る時があるんだ。しかも道だってちゃんと整備されてるかどうか怪しいし、そんな場所に好き好んで住んでいる奴らがいるんだぜ。まともな連中じゃあねえよ」

 机をバンと叩くキャル。なるほど、やはりこの国の人間にとって、魔法使いは化け物みたいな存在らしい。

「僕もね、魔法使いについては殆ど知らない。だからこそ、僕自身が会ってみたい人種ではあるんだよ。手から燃料も無しに火を起こせたりって話を聞いたことはある?」

「村一つ消したとか、山を崩したとかそういう話もな。兄さん。下手すりゃ魔法の実験台にされるんじゃないのか?」

 キャルの話を聞く限り、魔法使いへの偏見はもう差別の域にまで達している様な気がする。異種族がそれほどでも無いというのに、同じ人間の方をこうまで忌み嫌うというのは、中々面白い状況だ。他国の人間としてルッドは、そんな感想を覚えた。

「僕の国でも、魔法使いは変人って印象だけど、聞く話じゃあ、国が率先して魔法使いを養成してる国だってあるらしいんだ。それくらい、世の中に影響を与える可能性がある人達ってこと」

 それがこの国では、社会に対してまったく影響を与えていない。なにやら勿体の無い気配がするではないか。

 その理由はいったい何なのか。ブラフガ党はそんな魔法使い達と何の目的を持って接触するのか。

「ねえ、社長。社長の方は本当に興味ないのかな? モイマン山の館に住む人達のことを」

「…………」

 ルッドはキャルの表情を見て、説得は成功したかなと感じた。彼女もまた、自分の好奇心を抑えられない人種であるらしい。



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