第五話 船は遂に別大陸へ
船に乗ってから4日目は、基本的には何も起こらずに時間だけが過ぎた。寒さはより酷くなり、これから向かう大陸への不安感を、商人達が覚え始めた頃合いであるが、それでも別に反抗を起こす人間というのはいない。只々、船が目的地へと到着するのを待つだけだった。
ルッドにしてもそれは同様で、交換された船長室は比較的過ごしやすい場所というのもあり、不安や不満は未来にしか感じていない。
(向こうに着いたら、まずはラーサ先輩に接触しないとだね。船が港に着き次第、向こうから接触するって話だから、こっちが何かする必要は無いんだけど………)
そこまでは良い。決まりきった仕事と言える。だが、それからが問題だ。ノースシー大陸での潜入調査であるが、まず何をして良いのやらが未定のままだ。
そもそも、ブルーウッド国側からして何から調べて良いのか把握していないのかもしれない。ならばルッドは、ノースシー大陸での3年間、どうやって過ごせば良いのか。それがまだまだ分からないままだ。不安を感じないわけが無かった。
(こうなってくると、何もしない時間っていうのが一番問題かな)
船は刻一刻と目的地に近づいている。その先には本当に栄光があるのだろうか? そうであると信じることだけがルッドの希望であるが、そんな希望も今や薄れそうだ。
(駄目だ駄目だ。深く考えすぎちゃあいけない。船が目的地に着けば、まずやらなきゃならない仕事があるんだから、ここで腐ってても仕方が無い)
何をすれば良いのかと迷うのは、やるべきことをすべて終えてからだ。そう考え直して、ルッドは船長室を出た。
そもそも、この部屋自体が問題なのかもしれない。この部屋の主であるところの船長は、目下のところルッドの敵であろう。そんな人物の部屋にずっといれば、気分も滅入ってくるというものだ。
部屋を出て、また甲板からの景色を見ようと考える。部屋の外にある廊下を歩いていると、どうにも人の動きがある様に感じた。
部屋に籠っていることが多い商人達が、ルッドと同じ様に甲板に出ようとしているのだ。
(何かあったのかな?)
甲板に出ればわかるかもと歩くのを早めるルッド。甲板へと昇る階段に辿り着き、そこを登ると、階段の近くの甲板に見知った背中を見つけた。
「今度は僕から話し掛けることになりましたね」
エルファンの背中を発見したルッドは、さっそく話し掛けてみる。エルファンは少し驚いた表情をして振り返るが、ルッドの顔を見て笑みを浮かべた。
「ええ。その様ですな。あなたも、海を見に?」
「海ですか? いえ、とりあえず甲板に出ようとしただけですけど、何かあったんでしょうか?」
商人達の動きに何の意味があるのか。それが漸く判明するかもしれないと、ルッドはエルファンに尋ねてみた。
「実際に見てみればわかりますよ。ほら」
甲板に出れば、どこからでも海は見える。そうして他の商人達が見る方向にルッドも視線を合わせると、そこには青い海と曇りがかった空。そうしてその狭間に存在する、長いデコボコとした線が見えた。船はその線に向けて進んでいる。間違いない、未だ細く見えるそれであるが、その線はノースシー大陸と呼ばれる大地であった。
「そうか。漸く辿り着いたんだ………」
その大陸はルッドにとって、どの様な意味を持つのだろうか。それはまだ分からない。しかし自分の人生にとって、大きな変化を及ぼす存在であることは、今の時点でもわかってしまう。
「大陸の港には、明日の朝方頃に辿り着くそうですな。つまり、その時こそが私達の作戦を実行するタイミングと言えます」
「そうですね……明日は早起きしないといけません」
大陸が見えたことで遥か未来に考えを伸ばしていたが、とりあえずは目先の仕事だ。ルッドは一度だけノースシー大陸を強く睨み。そのすぐ後には自分の部屋に帰ることにした。どうやら大陸付近は波が荒いらしく、船の揺れが強くなった結果、船酔いが酷くなってきたのだ。
気分が最悪な5日目の朝。重い体と気分をなんとかベッドから引きずり出して、頭を覚醒させる。
寒さというのは、どういうわけかベッドに体を縛ろうとするが、一度そこから出てしまえば、ただひたすらに目が覚める。
ルッドは素早く服と身だしなみを整えてから船長室を出た。この部屋ともこれでお別れだ。向かうのは幽霊騒ぎのあった部屋である。
今現在、船長があの部屋で休んでいるかは分からぬものの、エルファンとの待ち合わせ場所はあそこを指定していた。
(さて、船長に会ってからはどう攻めたものかな? 場所は物的証拠がその場にある幽霊騒ぎのあった部屋が望ましいんだけど………)
部屋に向かうまでの間に、幾らか船長に会った後にどうするかを考えておく。別に無策のまま今までを過ごしていたわけでは無い。事前にどうやって船長と話し合うかは当然ながら考え続けていたのだが、確定した案は定めていなかった。
こういうことは、絶対に正解というものは無く、その場その場で最善の方法が変わって行く物なのだ。臨機応変に柔軟さを持たせたまま話を進める。そのためには、事前に対策を考えつつも、ぶっつけ本番で事に挑まなければならない。
「あれ、待たせちゃいましたか?」
ルッドが例の部屋に辿り着くと、部屋の扉の前にはエルファンが立っていた。これでも早起きをしたつもりだったのだが、エルファンの方が早かったらしい。
「見張りついでと、待ちきれない気分のせいと言ったところですな。ちなみに、まだ中にいる様ですよ」
エルファンは小声で話しながら扉を指差す。好都合なことに、船長はまだ部屋で休んでいるらしい。他の船員の中には、既に港への接岸作業を開始している者もいるのであるが。
「なら、さっそく行きましょうか。早く着いたってことは、用意は良いですよね?」
エルファンが頷くのを待って、ルッドは部屋への扉をノックした。
「すみませーん。船長、居ますか?」
世間話でもしてきたかの様に自然さを演じながら、部屋の向こうの人間に話し掛ける。まだ警戒させるには早い段階だ。
向こうに敵意を向けられるのは、こちらが牙を剥いたその瞬間こそが相応しい。
「その声は! もしや部屋を交換した少年かね?」
扉が開くと、声を張り上げて喋りながら、すぐさま船長が姿を現した。大柄な体であるため、小さめのこの部屋がさらに狭く見える。
「え、ええ。はい、そうです」
「威圧感がありますからなあ」
現れた船長から少し距離を置くルッドを見て、エルファンは仕様が無いと言った風に頷く。これをこれから相手にしなければならないというのは、中々に胃の痛い話である。
「どうやら他の客人も連れている様だが、何か話でもしに来たかね? もしや! 海の男の冒険譚でも聞きに来たとか!」
嬉しそうに笑う船長。口元から見える歯が、むかつくくらいに白い。
「いえ、そうでなく、そろそろ船が港に到着しそうですけど、仕事はしなくて良いんですか?」
とりあえずはなんでも無い様な話から始める。船はそろそろ忙しい状況になりそうだが、部屋に籠っている船長はいったい何をしているのかという疑問をぶつけてみた。
「勿論、大陸付近というのは暗礁も多く、港に近づけば船の乗り付け作業も指示しなければならない! だが、この船は優秀な海の男が大勢いるのだ! 私の指示を聞かなくとも、大まかな作業は勝手にしてくれるのだよ!」
つまり船長はほぼお飾りであると自分で言っている様な物だ。恥ずかしく無いのだろうか。きっと恥ずかしく無いのだろう。
「まあ、あなたの仕事に関しては別にあーだこーだ言いませんけど………そう言えば、幽霊については結局どうなりました?」
「幽霊かね? ああ、残念ながら現れなかったよ。現れたら海の男らしく退治してやろうと思っていたがね!」
何を偉そうにと言いたい。幽霊の正体はこの目の前の男だというのに。自分で自分を退治するつもりか。
「本当に出なかったんですか? 僕なんか、直接襲われたんですよ?」
「本当かね? それは大変だっただろうが、私は見なかったな。きっと、海の男を恐れて現れなかったのだろう!」
胸を張る船長を少し睨んでから、次に部屋の中へ視線を向けようとする。
「なら、ちょっと部屋の中を見せてくださいよ。もしかしたら今、居るかもしれませんし」
「ま、待ちたまえ! そんな都合良く居るわけが無い! ちょっと、何をしているのだ君は!」
小柄な体格を活かして、船長の脇下を潜って部屋の中を見ようとするルッド。それを船長は止めようとするが、なんとか顔だけは部屋の中を覗ける状態になった。
「なんだ。やっぱり居るじゃないですか、幽霊」
「な、何!?」
驚き部屋の中を見ている船長。冷や汗らしきものが流れているため、大層驚いているのだろうが、次の瞬間には驚愕の表情が安堵のそれへと変化する。
「……何もいないじゃあないか。驚かしは無しにして貰いたい」
なるほど、船長の目には幽霊が映らないらしい。ただ何時もと変わらぬ部屋が映るのみなのだろう。しかし、ルッドの目には確かにそこに幽霊が見えていた。
「幽霊って言うのは、そこにあってはならない存在が、何故かそこにいることを言うんですから、やっぱりこの部屋には幽霊が居ますよ。ねえ、ローマンズさん」
ルッドは部屋から顔を出して、エルファンにそう尋ねる。するとエルファンの方も頷き、船長の脇の下から部屋を眺めた。
「確かに。あれらは幽霊以外の何物でも無い。もし幽霊でなければ、船長、あなたは犯罪者になってしまうが」
顎に手をやって悩む素振りをするエルファン。その言葉を聞く船長は、心当たりがあるからだろう、冷や汗を再び出し始めた。
「い、いったい何を言っているのかな、君たちは。人を犯罪者などと……私のどこにその様な後ろめたい物があると!?」
「あれ? 幽霊云々については何も疑問に思わないんですか? それとも、僕らが何を幽霊と呼んでいるかは、もう既に気付いているとか?」
本当に何も分からなければ、幽霊とは何かついて聞くはずだ。犯罪者云々も、幽霊に掛った言葉のだから。
「これはね、船長、親切心です。僕らはそれを幽霊と呼びます。あってはいけない物でも、それが幽霊であるなら、その存在を許される」
売買禁止物品の存在は、未だあやふやな物である。そういうことにして、あえてその罪を問わないという旨を暗に伝える。
「アレらの存在について、目を瞑ってくれると?」
ルッドは船長の顔を見る。そこに見えるのは恐怖が半分。そして怒りが半分だ。追い詰め過ぎれば何をするか分からない。そういう部分がこの船長にはあるのだろう。だから、あえて踏み込まず、こっちからこの状況の打開策を提案してみる。
「罪をバラしたって、別に僕らの利益になるってわけでもありませんからね。ちなみに幽霊の正体について知っているのは、僕とそこのローマンズさんの二人だけです。それ以外の人間が知っているということはまず無いと思いますよ。おっと、その手はとりあえずそのままに」
船長の手が持ち上がるのを制止する。その手で何をしようとするのか。もしかしてルッド達を口封じにしようとでも思ったのだろうか。ならばその手は愚手だ。こんな場所で死体が発生すれば、それこそ幽霊どころの騒ぎで無くなる。
「一方で、金銭とかも必要無かったりします。いえ、欲しいと言えば欲しいですが、そういうのは一時的な金じゃないですか。商人の僕らにとって、そういうのはあまり魅力を感じないんです。あと、幽霊の一部を分けてくれとも言いません。今のところ、向こうの大陸でアレを売りさばける自信がありませんから」
はした金など必要無い。いや、正直に言えば貰えるのなら貰いたい物であるが、今はもっと価値のある物が手に入りそうなのだから、それを重視する。それを餌にエルファンを巻き込んだのだから、別の何かを要求するわけにも行かないのだ。
そうして、船長から引き出そうとするのは、そのエルファンから教えて貰った物だ。
「いったい、君は私に何をさせたいのだ。金も物もいらないと?」
商人は目先の金銭より、将来の利益になる情報こそが重要だと、商人のエルファンが言っていた。そうして、ルッドも今は商人だ。
「僕らが欲しいのは、あなたが知っている物。つまり、あの幽霊達を売り込む相手ですよ」
売買禁止物品は、いくら他の場所よりも管理が緩い状態とは言え、通商協定を結んでいる以上、ノースシー大陸でも大々的に扱えない商品のはずだ。
そういう物を売り込もうと考える以上、ノースシー大陸に一定の販路やコネが必要になってくる。それは、今までノースシー大陸に足を運んだことの無いルッドやエルファンにとっては貴重な情報だ。きっと、他の多くの商人にとってもそうであろう。
その情報を知ることで、他の人間よりも上手く商売ができる可能性は大いにある。
「………相手がその筋の人間だとしてもか」
持ち上げるのを一旦止めていた船長の手が、そのまま降ろされる。とりあえずは話し合いをする状況になってくれた様だ。
「人を脅してまで手に入れようとする情報です。そりゃあ、そういう筋者が出てくるのは覚悟してますよ。そこはほら、僕らは海の男で無く商人ですから、頭の回転でなんとかするつもりです。船長の迷惑は掛けない。どうです?」
こちらから聞いてみるが、ここまで来れば帰ってくる答えはほぼ決まった様な物だ。船長にとって、もっともダメージの少ない選択肢は何か。
「これから港に着いた先に、茶色い屋根の建屋がある。そこでアレらの取引きをする予定だ………。その場所はそういう非合法な取引きを良く扱う溜り場の様な場所で、顔を売りたいと思うのなら、足を運んでみることだ。私の紹介だと言えば、とりあえずは中に入れるはず………」
素直にこちらの要求に答え、情報を開示する船長。やはり交渉事は上手く無い様子だ。あっさりと自分の手札を渡してしまえば、相手に足元を見られるだけだと言うのに。
(と言っても、あまり要求し過ぎるのもな………気分じゃあないよね。仕事の始まりが意地の悪い交渉事になるっていうのは)
あまりこの船長を追い詰めるのは良く無いことだろう。相手のためにも自分のためにも。ただ、隙があるのに何もしないというのも性に合わない。
「わかりました。これで交渉成立ってことで。ローマンズさんもそれで良いですよね?」
「うん? ああ、私はそれで良いよ。そうか……非合法な取引所を紹介されたことになるのか………」
エルファンの方はと言えば、与えられた情報をどう扱えば良いかを悩んでいるらしい。他に先だって、ノースシー大陸に存在する販路についての情報を得ることが出来たこの交渉。彼はその話に乗ってルッドに力を貸してくれたからか、今では手に入れた情報に夢中の様だ。
「というわけで、僕らは幽霊を見ましたけど、その正体については判明しませんでした。と、こっちの話は本来ここで終わりなんですが………」
「な、なにかね。まだ何か?」
すっかり元気を無くしている船長。海の男はどうした。
「いえ、幽霊を船に持ち込んで別大陸に売るっていうのは、船長が考えたことなんですかね?」
「も、勿論、ノースシー大陸でそういう商売があると提案したのは私だ!」
胸を張って答える船長を見て、なんとなく話の裏が見えてきたルッド。今回の交渉はこれで終了である。詳しく知りたいという欲求はあるものの、今以上の情報を望むというのは、欲張り過ぎであろう。
船長がいた部屋を離れて暫く。船が港に着くための作業が行われる中。自分達が船を降りるまで、まだ暫く時間が必要になるだろうことが予想されるので、ルッドはエルファンの部屋に向かい、幾らか世間話をすることにした。
「それで、最後の質問に関しては、いったいどの様な意味があったのですかな?」
「あれ? 聞いてたんですか?」
船長へルッドが質問をしている間、エルファンは考え事を続けていたため、てっきり話の内容を聞いていないのだと思っていた。
「これでも耳聡い方ですからな。周囲の話に関しては、嫌でも耳に入る様に鍛えているわけです」
それもまた商人としての才能と言ったところだろうか。ただ、似た様な技能ならルッドも持っている。というより、外交官としての訓練や勉強の中で学んだ物だ。エルファンにしてもそうなのだろう。
「で、最後の質問に関しては、幽霊騒ぎの背景を少しは知っておきたいと思ってのことです」
今の時点でわかっていることは、あの船長が不正な取引きを行おうとしており、そこにルッド達が付け込んだ程度のことであるが、船長への質問のおかげで、その背景というのがある程度は伺い知れる様になった。
「ふむ。船長が売買禁止物品を持ち込んだ。というだけの話では無いのですかな?」
「あのですね、あの船長が、あれこれ細かい事を考え付きそうな人に見えますか?」
エルファンは考える素振すら見せずに首を横に振る。あの性格が微妙な船長が、こすずるい商売をする様な人間には思えないのだろう。ルッドも同感だ。不正をするにしても、あの船長であれば、誰しもが怪しいと思うバレバレの方法で行うに違いない。
「つまり、船長に取引きを持ちかけた別の人間がいると?」
「そうですね。船長は提案したのは自分だと言っていました。つまりその提案を許可した人間がいるということ。そうしてそれは、この船の持ち主だと思います」
船長以外に、船室の調度品に細工をできるのはそういう人物くらいだろう。それに、売買禁止物品はどれも高価な物であるのだから、それを扱える人物も、それなりに金銭を持った人間で無ければならない。
「この船はライエフ商会の所有船ですからな。商会の会長の名前は確かニコラ・ライエフ。私など足元にも及ばない大商人ですから、黒幕には相応しい人物と言えますが………」
「ここからは僕の想像です。例えばあの船長。どうして船長なんて地位にいるのかが甚だ疑問に思える人物ですけれど、もしかしたらノースシー大陸との繋がりを、以前から持っていた人物なのかもしれません」
ノースシー大陸との交流は、ブルーウッド国が安定した航路を見つける前から、個人単位で、しかも数少ないだろうがあったはずだ。そういう数少ない交流を行っていた人物があの船長だったとしたら。
「そうか。あの船長が別大陸での販路を知っているのは、そういうわけなのですね。自分で実際に足を運んだことがあるから、向こうでの取引きについて、他者の知らぬことを知っている」
「そうして、その知識を後ろ盾にこの船の船長になった。航路自体は安定しているんですから、他の船員がしっかりしていれば、能力不足でもなんとかなる。一方でこの違法取引を仕組んだ側からしてみれば、違法取引のために必要な知識を持った人物が、そこへ向かう船の管理者になっているというのは、これほど心強いことは無い」
だからあの船長は船長などという職に就けているのだ。裏で後ろ暗い遣り取りがあったということ。
「ふむふむ。そういう話なら、状況がすっきりとして分かりやすい話です。いや、私も、あの船長がそういう職にあるというのは、どういう仕掛けだと思っていたところなのですよ。そのわけが分かっただけでも、最後の質問には意味がありましたな」
そうだろうとも。最後の質問にはちゃんとした意味がある。違法取引の仕掛け人が、あの船長であるという話に納まらなくて良かった。
国がやっと築き上げたノースシー大陸との交流で、違法行為を働こうとする人物がそれなりの大物であるというのは、恐らく、それなりに価値のある情報となるはずだ。そしてその情報を交渉材料とすることもできるはず。
勿論、その様な交渉をするのは、これからノースシー大陸で長期間過ごすルッドでは無く、また別の外交官であろうが、ルッドがそういう情報を持って来たというのは、ルッド自身の成果と見られるだろう。
(幸先は良いってことかな。まだ肝心のノースシー大陸には立っていないけど、僕もそれなりにやれそうじゃあないか)
今回の仕事は、ルッドに自信を呼び込む結果となった。これからどの様な成果を残せるかはわからぬものの、未知の大陸に足を踏み入れる以上、自分への信頼だけは持っていて損は無いだろう。