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北風の道  作者: きーち
第八章 ルッド・カラサは大いに笑う
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第六話 釣り笑い

 元は同じ組織だったというのに、こうも雰囲気が変わるものなのか。ノースシー流通管理会の事務所へと入ったルッドは、ソルトライク商工総会とは大きく違っているその雰囲気に、少し驚く。

 人の動きと言えば良いのか、壁一枚の清潔度がそう感じさせるのか、どうにも酷く格式ばった堅苦しさを覚える。元々はこの事務所もソルトライク商工会所有の物であるはずなのだが、先ほどのソルトライク商工総会と同じ系統の組織だとは到底思えない。

(トップが違えば、こうも組織の雰囲気が違ってくるもんなのかなあ。ソルトライク商工総会の方にしても、前とはどこか違っていたし………)

 ソルトライク商工総会の雰囲気はどうだったかと言えば、どうにも無理に前商工会からの変化を隠している印象があった。事実は大きく変化している以上、そこにはどうしようも無い違和感が発生する。それが商工総会独特の雰囲気となっていたと思われる。

 一方でノースシー流通管理会はと言えば、逆に脱ソルトライク商工会を目指している様な形だろうか。

 どこか大らかな雰囲気があったソルトライク商工会に対して、あえて杓子定規な状態を作りだしている様に思える。

(だからなんだけど、より一層、今の状態が不思議に思える………)

 現在、ルッドがノースシー流通管理会のどこで何をしているのかと言えば、現会長であるカルシュナ・ストラーズの執務室にて、そのカルシュナ当人と面と向かっていた。

「さて、どうですか? うちの組織は。以前はソルトライク商工会と懇意にしていらっしゃった様ですが、随分と違うものでしょう?」

 カルシュナは紳士風で細見。老人一歩手前と言った年齢の男だった。背筋はしっかりとしており、さすがに組織の長と言った風貌なのだが、どこか疲れている空気を纏っている。今が一番面倒くさい時期なだけに、恐らくは本当に疲労しているのだろう。

(なんでそんな相手が、僕なんかに直接会おうとしたのか……だね)

 ルッドがここを通された理由というのは、ルッドが以前にソルトライク商工会で世話になっており、それが無くなった現在、どこか流通関係で頼れる組織があるかと尋ねたからだ。

 是非うちの構成員になりませんかとの勧誘に、なんと会長直々がやってきたのである。そこまでこの組織は切羽詰っているのかと驚いたものだが、今ではそれが真実であろうことが分かり、尚驚いた。

「違うと言えば違いますが…………どうしてわざわざ僕なんかに?」

 まず真っ先の疑問はそれである。他にも聞きたいことはあるものの、その答えを聞いてからでなければ始まらない。

「商人という立場ならば分かるでしょう? 要はシェア争いという奴でしてね」

「となると、僕の様な商人にまで会長が直接話し掛けなければならないくらい、切羽詰っている状況ということですか?」

「正直に話せばその通り。ある程度の組織力を持った状態で、ソルトライク商会から現在の形に移行することができましたが、その実、裏切り者の組織という目線で見られている部分もある」

 はっきりと言う人間である。どこか誠実さを感じなくも無いが、それが単なる演技であるという可能性も無いでは無い。

「裏切り者というのは些か言い過ぎでは? 別に前の組織から抜けたわけで無く、前組織が潰れたから仕方なくという部分があると思うのですが………」

 組織が潰れたので、後に残った人員で独立したというのは、それほど悪く見られる選択では無いとルッドは思う。

「もう一方の組織が正当性をうたっていますし、名前もあれでしょう? そこに来て前会長のご子息が後を継いでいると来たもんだ。これじゃあ、うちの方が邪道だと見られるのは当たり前です」

 それにソルトライク商工総会側は、ノースシー流通管理会の悪い噂を流しているし。とは続かない。そこらの分別はちゃんとあるらしい。

「一応、幾らか貸し馬車屋との提携はできているんですかね? こちらとしてはそれが心配で」

「ソルトライク商工会が提携を結んでいた貸し馬車屋とは大凡。修理や製造技術を持った職人への協力要請もしていますし、今のところは良い返事をいただいております」

「へえ。そりゃあ凄い! 実質、ソルトライク商工会と変わらぬ規模で商売ができるわけだ。悪評はありますが、これ、実質勝ったも同然なんじゃあないですか?」

 カルシュナの話を聞く限りでは、そういうことになるだろう。実際はどうか分からぬものの、まるっきり嘘では無いだろうという予想もできる。

 外面上、ソルトライク商工総会が正当な後継組織だというのに、ノースシー流通管理会が並び立つ形で存在しているのは、その組織能力が高いからだろう。

「そうも行かない。何はともあれ顧客を呼び込む必要がありますが、能力だけでそれをするとなると時間が掛ります。その間、提携や協力を結んだ貸し馬車屋や職人の方々が、それを維持してくれるかどうかも分かりませんし」

 確かに先行きが不安な組織に対して、変わらぬ関係を結んでくれる相手というのも少ないだろう。ノースシー流通管理会の流通網は、かなりのものであるが、暫くはずっと不安定な状態が続くと見て良い。

「だからこそ、会長自らが僕の様な商人と話をしてくれているのですね」

「ええ。まあ。ある程度の誠意というものを見せなければ、関係性というものが始まりませんでしょう?」

 とりあえず、目の前の男は有能そうであるとルッドは感じた。前商工会でも副会長としての任を担っていただけある。

「大変ありがたい話です。まだ実情が分からないので、はいそうですかと頷くことはできませんが、今後付き合いをするということを考慮する段階と言ったところで」

「それで構いません。とりあえずそのスタートラインにさえ立てるのなら、我々は我々と同じ仕事をしている業者には、絶対に負けぬつもりですから」

 大した自信だ。そうでなければ大した営業会話だ。そうして考える。目の前の人間は、どちらかと言えば善人寄りの人間だと。元、彼の上司であったザナード・ソルトライクにしてもそうだったのかもしれない。

(仕事に対して真面目ってことだ。それが良いか悪いかって言えば、個人で見れば良いことなんだよ。組織全体となると話は別だけどさ)

 問題はそれらを犠牲にしても良いかということか? 組織に関しては、ルッドは好きにしたら良いと思っている。世の中、人が集まれば集団が出来、組織ができる。そうして組織は化け物みたいに隣の組織と食い合いを始めるのだ。

 文字通りの弱肉強食の世界においては、どんなルールも無く、汚いことであっても正道になる。

 一方で、組織に属する人間は、個人の意思によってはどうしようもなくなったそれに翻弄される。責任がまったく無いわけではないだろう。組織を形作るのは、どこまで行っても人間なのだから、末端であろうとも、そのどこかに組織を動かす力を与えているのだし。

(ただ、それでも、大概が善意に近い人間なんだよ。多分。それを無視して、組織同士の抗争にルール無用とか言って犠牲を気にしなくなったら、もうおしまいか………)

 もしかしたら、それを権力者と呼ぶのかもしれない。だが、ルッドが今、なりたいものはそんなものだろうか。

「聞いた話なのですが………この組織を出て、商工総会の方で働こうとする人間もいるとか?」

 何故、そんなことを問い掛けたのかは分からない。やはり自分は、まだ、この組織に混乱を呼び込むための情報を欲しているのだろうか。ならば自分もまた、どうしようもない悪人か。

「働いている部下達も、働く場所を決めかねているのが実際でしてね。逆に向こうの組織からこちらへ移る者もいる。今はまだ止めもせず、受け入れる者は受け入れるという段階ですよ」

 ならば。ならばだ。ここに来る前に考えていたルッドの策が通用するかもしれない。本当に自分にそれができるかどうかは別であるが。

(組織同士の対立は明確なのに、人的交流は何の障害も無く行われている。事情を誤解させようと思えばできる状況だ………)

 やるなら近いうちが良いだろう。ソルトライク商工総会とノースシー流通管理会。どちらかの組織が安定した組織運営ができる様になれば、揺さぶりが不可能になるから。

(…………本当に、それで良いのか?)

 少し目を瞑る。相手に違和感を与えない程度の瞬間だ。だが、ルッドには長い時間に感じた。これからの行く先を、ルッド自身の人生すらも決める事だ。その選択は酷く重く、そして長い。

「ストラーズさん、変な事を質問させていただいてもよろしいでしょうか?」

「変な? いったいどの様な事を?」

 首を傾げるカルシュナ。時間の余裕も無いだろうに、わざわざ聞いてくれる点に、彼の人の好さが見え隠れしている気がする。

「前商工会の会長、ザナード・ソルトライク氏はどの様な人間でしたか? 今にして思えば、あれだけの組織を統率していたというのは驚きの念が絶えません」

「ザナードさんですか………ええ、まったく、優秀で豪快な方でしたね。世の中には商売の才能という物があるのはご存知ですか?」

「それは、まあ、商売に対する勘が効く人間は居ますね」

 本当に直感能力が優れているというわけではあるまい。情報や周囲の様子から、なんとなくであるが、良い商売方法を思い付いているのだろう。まあ、傍から見れば、超能力染みた才能ではある。

「個人的に商売を大成功と言えるまでに行えるには、3つの要素が必要と考えています。その1つが才能ですね。間違い無く、ザナードさんは飛び抜けたそれを持っていた」

 目の前の人物も、その才能がありそうに見えるが、その人間をしてザナード・ソルトライクは凄まじい存在だったらしい。

「あと二つの要素については?」

「次に必要なのは、精神性です。どれだけの才能があろうとも、それを使って商売を行おうとしなければ、結局は無駄に終わるでしょう? ザナードさんにはそれもあった。悪く言えば自己顕示欲が強かったと言えますが、そういう人間だからこそ、大きな組織を作り上げることができたと言えます」

 まあ、目的意識が無ければ、どれ程の才能でも発揮はされまい。確かに大事な要素である。

「そうして最後の3つ目。どんな物事にも言えますが、運というものがどうしたって必要になってきます。残念ながら、ザナードさんにはそれが無かった」

「あれだけの組織を一代で作り上げた方に、運が無かったと?」

「現在、彼は国によって拘留されています。もしかしたら、既に何らかの刑が執行されているかもしれない。平穏無事に人生をまっとうしている人間と比べてしまえば、どちらが良い運を持っているかは………火を見るより明らかかと」

 どれだけ波乱万丈で壮大な生き方をしたとしても、その幸運度合は一般人の平凡な人生に負けることもある。すくなくともザナード・ソルトライクはその晩年を汚している状態なのだ。確かに運が悪い。

「私は、ザナードさんに一つ目も二つ目も負けているでしょう………が、三つ目はどうか分からない」

 例え組織としての規模は縮小したとしても、組織は長続きさせてみせるという意思表示だ。それは同時に、組織にいる人間も守って見せるという考えであるのかもしれない。

「………そうですね。あなたの運が前会長に優っていることを祈りたい」

 そう返すしかないルッド。いったい自分に何が言えるというのだ。お前の組織を潰すつもりで話を聞いていたなどと答えれば良かったのか。

「お互い、商売をする者同士、そうでありたいものです」

 向こうが手をこちらに伸ばす。ルッドはそれを握り返すのに抵抗を感じたものの、そうしないわけにはいかなかった。




 そうして二つの組織を周ったルッド。まだ調べなければならぬことは幾らでもあるだろう。その準備もだ。

 だが、それより前に決めるべきものがあった。これから自分は何を目的に動けば良いかである。

(…………二つの組織を荒らし場にするのは簡単だ。すでに揺れている組織に、ちょっと手を加えれば勝手に倒れるわけだし、倒れた後にそこから価値あるものを探すっていうのも、まあできないことじゃあない)

 問題は、それを選べるかどうかだった。自分の手をそこまで汚せるのかどうかという問題では無い。そんな問題は、この大陸に来た時点でとっくに解決しているのだ。

(僕は単なる間者だから………何をするにしたって汚れる立場だ。そんなことは問題じゃあ無い。問題じゃあないんだけど………)

 ダヴィラスの言葉がまだ残っている。組織を統率する者を見てしまった。自分が選ぶべき選択肢に、新たな道筋が出来てしまっていた。

(………大きな組織を二つも潰して、自分やその周囲だけが得するなんてのは、正道じゃあない。そうさ。本当に大きなことをするっていうのなら、八方、上手く治まる形ですべきなんだ)

 手を強く握る。明らかに困難な道だ。国の関係者であるライズに対しても、十分な見返りを渡さなければならないし、そうして二つの組織も潰さない。そのためにはどうすれば良いのか。

(二つの組織を、もう一度一つにする。そうすれば、かつてのソルトライク商工会とは行かなくても、それなりに安定した組織が出来上がるはずだ………)

 事態を安定化させる前の方法の一つに、手っ取り早いものがある。要は、事が起こる前に戻してしまえば良いのだ。現ソルトライク商工総会の狙いとほぼ同じになってしまうが、商工総会とは違う点が一つある。

「一つになるんだったら、まったく新しい組織としての方が望ましい………」

 ミソギという言葉がある。人間というのは起きてしまった物事に対する応報として、変化を望むものであり、その変化によって、前段階の出来事を一旦終了したものだということにしてしまえる生き物である。

 現状は、ソルトライク商工会の崩壊が起こった事により地方との関係性が悪化し、商工会が二つの組織に分かれたという変化の最中だ。

 その変化の決着として、ソルトライク商工会に代わり、その地位に居座る存在を用意する。ルッドの考えはそれであった。

(前の組織の匂いを消さなくちゃあミソギにはならない。けどもし、さっぱり古い雰囲気を消し去れたのなら、もしかしたら………)

 今、この国に起きている混乱を、少しくらいなら治められるかもしれない。それは混乱を一番気にしている、ラージリヴァ国にとっても好ましいことだろう。

(問題はそのための方法と、レイスさんにとっての手柄を用意しなければならないってことか………)

 二つの組織を一つにするというのは、二つの組織を潰すよりも難しいことだろう。だが、組織で働く人間を潰すよりかは、まあ大分正道だ。だが、レイスは確か組織のスキャンダルを求めており、結局は二つの組織を揺さぶる必要が出てきてしまう。

(いや………けど………待てよ? むしろ、この状況を利用できないか?)

 手札をさらに求めるのでなく、今手元に残っているもので、上手く事を運ぶことが出来そうな。そんな気がして来た。

(ああ………なんだろうね。またダヴィラスさんに怒られるかな?)

 手が口に触れる。いつの間にか吊り上った片方の唇を抑え付けてから、ルッドは前を向いて歩き出した。見せてやろうではないか。自分の正道と奴を。




 ノースシー物流取扱社からソルトライク商工総会へと向かったダヴィラスは、徐々に暗くなる空を見上げてから、溜息を吐く。

「俺は何をやってるんだ………雇用主にあんな言葉を向けるなんて………」

 今更ながらに、自分の言動を後悔していた。まさか雇用主にあんな悪態を吐いてしまうとは。

 あれで今の仕事はそれなりに気に入っているダヴィラスだ。いくら雇用主のルッドが、自分のやって欲しく無いことをしていたとしても、そこはぐっと我慢をするのが世渡りの秘訣なのはず。

 相手の心象を悪くして、雇止めでもされたら、また今後の生活について頭を悩ます日々になってしまう。

「あー……うー………ちょっと…俺も…肩を入れ過ぎなのか………」

 普段ならば、絶対あんなことは言わない。自分の調子も、ミース物流取扱社で働く様になってから狂い始めたのかもしれぬ。

「ぐう……ちょっと、自分で自分を戒める必要が……あるやも………うん?」

 ソルトライク商工総会の周囲を歩いていると、近づいて来る人影を見つけた。3人連れだろうか。しっかりとした紳士服を着こむ姿を見るに、もしやソルトライク商工総会の関係者か何かか。

「…………あ、やばいかもしれん」

 ダヴィラスの才能の一つに、危機察知能力というものがある。危険な業界で仕事をする以上、顔付きだけで食っては行けても生きてはいけないのだ。

 ここでこの選択肢を選ぶと命の危険があるのだろうなという直感に近い予想。ダヴィラスはそれが良く当たるタイプの人間だった。

 その感覚がダヴィラスに訴え掛けている。近寄ってくる男達はどうにも危険だと。

(引き返して………ひっ)

 近寄る男は3人で無かったらしい。道を挟む様に、後方からも2人の男が近づいて来る。どうやら自分は取り囲まれているらしい。こういう状況になった場合、ダヴィラスはただ茫然とするしかなかった。

 走って逃げる以外の選択肢が自分の中に無いのだから。

「…………」

 いったい何の様だと警戒している自分だが、今にも腰が抜けそうな気分だった。

「……………」

(なんで………向こうも黙ってるんだ!?)

 ダヴィラスを取り囲んだ男達だが、何故か一定の距離を置いてから、その場で立ち止まり、ただダヴィラスを睨んでくるだけだった。

「………くっ」

「なるほどな………」

 男達はそんな言葉を呟きながら、じりじりと横歩きを続けている。丁度、ダヴィラスを中心に円を描く様に。何かの曲芸だろうか?

「…………おい」

 いい加減、何の真似だと尋ねたくなる気持ちが臆病さに勝ったため、口を開く。

「ひっひぃいいい!」

「やるか!? やんのかおら!」

「た、助け……!!」

 突然、男達の円が崩れた。口にする言葉は様々であるが、全員が円の外側へ移動しようとしていた。

(あれ………ビビられてる?)

 こちらが男達に対して震えていた様に、向こうも随分とダヴィラスを警戒していた様だ。なんだろう。傍から見ればどう映るのかが気になる光景である。

「………お前らは……なんだ?」

 素直な疑問をぶつけてみるのだが、男達の一名が泣きそうになっている。

「ま……まあ、落ち着いてください。我々は、何もあなたの様な方に喧嘩を売りに来たわけではありません」

 男達の中から、リーダー格らしく者が一歩だけ踏み出してくる。その一歩はかなり歩幅が小さいのだが。

 そうして落ち着くのはむしろあちらの方では無いだろうか。足の震えが止まっていない様子の男を見て、ダヴィラスの方が冷静になってしまった。

「…………だから……何が目的だ?」

 本当ならば、隙を見て逃げるべき状況だが、相手が妙に怯えるために、こちらの恐怖が無くなってしまい、少し好奇心が湧いてきた。

「あなたが我々ソルトライク商工総会を探ろうとしているのは分かっています」

「…………ああ」

 やはり、ダヴィラスを怪しんで探りに来たらしい。そんな人間達がこうも怯えて大丈夫なのだろうか。

「そうだな………確かにソルトライク商工総会の周囲を………歩いてはいた…な」

 正直に自分の行動を答える。歩いていただけだ。実際に探ったわけではないから、これで話は終わりだと伝えようとしたのだが、どうにも相手が曲解した様子。

「ふふふ。あなたの様な人が現れるのを、我々は期待していたのですよ」

「事務所の周囲を………うろつく人間をか?」

 随分と奇特な期待を持っている男達だ。なんだろう。浮浪者でも雇ってうろついてもらえば良いのでは?

「いつかは現れると思っていました。そうしてあなたの様な方が来たのです。見る限り、かなりの手練れなのでしょう?」

「…………どうだろうな」

 多分、喧嘩をしたら負けるんじゃないかな? そんな自分がおかしくて少し笑ったのだが、その表情を見て相手の顔が引きつっている。なんなんだ。いい加減失礼ではないか。

「た、大変失礼な言葉を申したのかもしれませんが、その……実は、もっと違う提案をしにきたのです!」

 大方、事務所から離れてくれといったところだろうか。ならばそれに従うのも仕事だ。あくまで事務所の周囲を歩き、怪しまれるのが仕事なのだから、これで十二分に仕事を果たしたことになる。

「で……どんな提案だ」

 相手の帰れという言葉を待つダヴィラスであるが、男の口から出たのは、とても意外な言葉であった。

「我々と……手を組みませんか?」

「は?」

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