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北風の道  作者: きーち
第八章 ルッド・カラサは大いに笑う
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第五話 苦笑い

「………なんとも暇だな」

 ノースシー流通管理会とやらの事務所周辺を歩くダヴィラス。うろつくだけで、それ以外を求められていないため、本気で暇だった。何か暇つぶしになるものでも無いものかとキョロキョロあちらこちらを見やるのであるが、目が合いそうになった人間が、顔を伏せる姿が映るのみだ。

(ふん。そういうのは慣れている………傷つきなんてしないぞ………)

 それにこうやって一般人に警戒されているということは、目当てのノースシー流通管理会の人間にも怪しまれているということだ。つまり、自分の役目は果たしているのである。傷つくことなんてまったく無い。本当だ。

(ま、こっちでうろつくのは………これくらいで良いかな? もう一方の組織周辺も………歩かなければならんし………あ)

 とりあえずこの場を離れようとするダヴィラスの目に、ルッドの姿が映った。どうやらこっちに向かってきているらしい。

(ああ………向こうの事務所の方に行っていたのか………。鉢合わせしたら困るだろうし………あ? なんで近づいて来るんだ……?)

 このまま何の関係も無いと言った風にすれ違うかと思いきや、ルッドの方からダヴィラスへ近づいて来る。

 雇用主側がそういう行動を取るなら、ダヴィラスがわざわざ無視することはないのだが。

「ダヴィラスさーん! あ、そっちは流通管理会の方に行っていたんですね」

「あ……ああ。良いのか? 人に見られると、俺達が仲間だってのが………バレるぞ?」

 近づくルッドに忠告をするものの、相手はへらへらと笑うのみである。一体何を考えての行動やら。

「まあ、社長を納得させるための方便みたいなところもありましたから。それに………」

 どうやら、ダヴィラスはルッドの危険性を下げるためというより、ルッドが今回の調査を行うために利用されただけらしい。

「それに………なんだ?」

「向こうで、ちょっと面白い情報を手に入れられたんですよね」

 向こう。つまりはソルトライク商工総会の方だろう。この男はどこかへ行く度に、何か面白い物を見つけ出している気がする。本人は厄介事と表現する場合もあるが、どうにもダヴィラスは、それすらもこの男が楽しんでいる様に見えるのだ。

 不安定な少年かと思えば、大胆なことを仕出かす男にもなる。詳しく聞きはしないとは言ったものの、気になる感情は無くならない。

「面白い………というのは……良い情報だった………ということか?」

「どうでしょうねえ………物事が動き出す情報だとは思います」

 嬉しそうにニヤニヤと笑うルッドを見て、ダヴィラスは溜息を吐きたくなる。恐らくルッドは、その内容をこちらに話したがっているからだ。

「はあ………詳しく聞かせてくれない……か」

 雇用主のご機嫌取りも雇われ者の勤め。聞きたくないから話すなとは言えない気苦労がダヴィラスにはある。

「それがですねえ……聞いて下さい」

 そうしてルッドが、ソルトライク商工総会で起こったことを話し始めた。




 ソルトライク商工総会の事務所に辿り着いたルッドが、まず向かったのは、とりあえず窓口にだった。

 若い女性が受け付けるその場所に向かった時、尋ねられたのはどの様な用件かについてであった。

「等会はソルトライク商工会の全権を受け継いでおります。各地への商品輸送に関する件でしたら、ソルトライク商工会当時の規則がすべて適用されていますので、ご安心を」

 とまあ、この様に固いことを言う。眼鏡を掛けたザ・堅物という出で立ちであり、まったく安心できないその台詞に、勿論ルッドは反論した。

「あのー。前の規則が適用されたところで、組織が前の状態じゃあ無いんですから、問題大ありなんですけれど。こっちとしては、貸し馬車なんかも利用する身ですし、そういう挨拶を前の商工会にもしてるんです」

 兎にも角にもクレーマーを演じる。世の中、声高に文句を言う人間が得をする構造だというのを、ルッドは良く分かっていた。

「ですから、前商工会に挨拶をしていただいているのであれば、当会では結構です。前商工会への挨拶は当会への挨拶も意味していますから」

「そりゃあご立派な姿勢かもしれませんけどね。じゃあソルトライク商工会と同じサービスをあなた達が与えてくれる保証って何かあるんですか?」

「私どもソルトライク商工総会と名前を変えるにあたりまして、前商工会から欠けたるものは何もございません。そのことが保証と言えますが」

 自信満々のその発言だったが、瑕疵が有り過ぎるので力が抜けそうになった。きっと、上司か何かから指示された内容を、そのままルッドへ伝えるに違いない。

「………話になりませんから、ノースシー流通管理会の方へ行っても良いですか? あそこの方が前の商工会がどうだったとか言われなくて済みそうだし」

 ルッドは目を細めてから、その場を去ろうとする。勿論、このまま帰れば、情報を集められず、困ってしまうのはルッドの方だ。しかし、止めてくれるだろうと確信していた。

「あ、お待ちください。今、ノースシー流通管理会と?」

「ええ。あっちも確か元ソルトライク商工会系の組織で―――

「いいえ。あちらの組織には前商工会の従業員が含まれてはいますが、その実、前商工会とはまったく関わりの無い組織ですので」

 まあ堂々と言えたものである。同じレベルの組織だろうに。自分のところは相手より上だと思っているのだろうか。

「なるほど。ならあっちの方が自由そうで良いや。これからはあっち系列の貸し馬車屋に―――

「お待ちくださいと申しました! あそこの組織を頼るということは、様々な不都合があるということを、お客様は理解しておりません!」

 再度呼び止められる。そうそう。こういう反応を待っていたのだ。

「不都合? 何かあるの、あっちの組織に?」

 ルッドが尋ねてみると。こっちに寄って来いと手招きをしてくる事務員。どうやら小声で話したいことがあるらしい。

「実はですね………ノースシー流通管理会ですが、前商工会解体に関して悪い噂がございまして」

 耳元で口を近づけて来て内緒話という体で話をしてくる。その実は、単なるライバル組織の悪口に過ぎない。つまりはルッドの望む話題であるということ。

「悪い噂? 解体に関してっていうと、向こうの組織が商工会崩壊に暗躍していたとかそういう?」

 それとなく、話題を誘導しようと試みる。ルッドが望む情報とは、商工会崩壊の責任が国以外にもあったという物であるから。

「はい、その通りです。ノースシー流通管理会の現会長をしているカルシュナ・ストラーズという男を御存知ですか?」

「ストラーズさんと言えば、ソルトライク商工会だった頃はその副会長をしていた人物ですよね? 確かその時は、ザナード・ソルトライク氏一極集中型の組織機構に対して、色々と物申していたという話を耳にした様な………」

 副会長という立場にありながら、ザナード・ソルトライクという男の城の中で、新たな家を作ろうとしていた印象だろうか。

 普通、そういう人間は閑職に追いやられる。強権者にとって目障りな存在として見られるからだ。

 だが、そうでも無かったというのは、ザナード・ソルトライク氏の度量の深さが感じられる。自分に反抗する者も許容できる人間だったということなのだから。

(組織運営が上手かったってことなんだろうね。去って影響力を残す人って、往々にしてそんな感じの人だけれど、去るタイミングをまずったのがなあ)

 順当に行けば、ザナード・ソルトライクがソルトライク商工会を去ったとしても、新たな組織運営がまた違った形で出来ていたかもしれない。そうなれば、組織の混乱は最小限に抑えられ、現在の様に組織が分解するということも無かっただろう。

 だが、寿命や衰えと言った物以外でのザナード氏の不在状況が、想定より早く発生したために、まだまだ不安定だった次代への組織構造が瓦解してしまったのだ。国に喧嘩を売ったからとは言え、手痛いという言葉では言い表せない程のしっぺ返しを食らったわけである。

「カルシュナ・ストラーズは、商工会に在籍していた時ですら、前会長のザナードのやる事に良く反対していました。今にして思えば、それも多くの人間を組織から離反させるための工作だったのではないかと」

 それはどうだろうかと思う。事実は国がザナード氏を捕えてから、組織が分裂したという事だけであり、カルシュナ自身はザナード氏に忠誠を誓っていた可能性だってある。

(組織内で、あえて対抗する勢力を作り上げることで、組織の流動性を作り出すっていうのは、ソルトライク商工会くらい大きな組織だと良くある話だ。それを生真面目に守っていたのだとしたら、むしろ、ザナード氏とは近しい存在だったのかもしれないよね)

 実際問題、彼は元副会長という立場だったのであり、現在はある程度の規模の組織を率いる人望も持っている。単なる裏切り者だとは思えない。

「………つまり、ノースシー流通管理会はストラーズさんが独断で作った、手前勝手な組織だと、そういうことですか?」

「有り体に言えばその通りです。ソルトライク商工会を潰した一因と言えるでしょう。その様な組織に頼るというのは、些か危険な行いだと忠告させていただきます」

 ルッドは事務員の言葉を反芻するものの、やはり内容は悪口の域を留まらないため、こちらが望む情報足り得ないと感じる。

 ソルトライク商工会を潰したのはノースシー流通管理会の現会長である。何故ならば、現会長がソルトライク商工会で副会長をしていた時、ソルトライク商工会の会長とは意見の対立があったからだ。

 そんな情報だけで、ソルトライク商工会崩壊の責任を負わせようとしても、あまり意味はあるまい。そもそも国がザナード・ソルトライクを拘束しなければ、その様な問題は起こらなかったと反論されるだけだろう。

「…………ノースシー流通管理会がストラーズさんの企みだけで作られた組織だとしたら、そこで働いている人達には責任が無いってことになりませんか?」

 これまでの話の中で、気になったことを尋ねてみる。事務員はずっとストラーズ氏の話だけを口にしており、組織全体の責任については追及していない。

「勿論その通りです。あくまでカルシュナ・ストラーズとその周囲の一部だけが組織分割の責任を負っています。末端の会員や事務員は、組織改編のごたごたに巻き込まれただけでしょうから、もし、こちらの組織に帰還したいと申されましたら、受け入れる所存です」

「へえ。そりゃあ太っ腹だ」

 面白いことを聞いたとルッドは笑いそうになった。ソルトライク商工総会とノースシー流通管理会は、その成立過程の中で完全に敵対していると思っていたのに、まだこんな繋がりがあったとは。

「ザナードの長男であり、現会長でもあるナスドル・ソルトライクの元で、前商工会を完全に復活させることが、我々の望みでありますから」

「わかりました。前ソルトライク商工会が戻ってくるというのなら、以前と同じ様なお付き合いをさせていただきましょう」

 まあ、絶対に前の組織には戻らないだろうが。ルッドはまた違う付き合い方をさせて貰おうと考えながら、次はとある確認のために、ノースシー流通管理会の事務所へと向かうことにした。




「とまあ、その道の途中でダヴィラスさんと偶然会ったわけです。そっちは流通管理会の周辺を歩いていたんですね」

 とりあえずルッドの説明を黙って聞いていたダヴィラス。一応、現時点までの状況というのは理解したつもりだ。

「………で、さっきまでの話が………どうして現状を動かす情報とやらに……なるんだ?」

 単に事務員と幾らか話をしただけでは無いのか。流通管理会にソルトライク商工会を潰した疑惑とやらがあるだけで、それも風聞の域を出ていない。まさかそれがこちらにとって有益な情報だとでも言うのだろうか。

「わかりませんかね? 商工総会と流通管理会。この二つの組織の状況如何によっては、面白い演出が出来ると思うんですけども」

「演出?」

 妙な言い回しをする。つまりは事実を捻じ曲げるということだろうか。どこか楽しそうなルッドを見ると、なんだか嫌な気分になってくる。

「最近は………悪巧みの方が多い……な」

「え?」

 ダヴィラスの言葉で、ルッドは驚いた様な顔をしてこちらを見てくる。

「権力者との繋がりを作るのに………少し汚い手を使った……というのは………まあ、良くは無いが、仕方の無いことだとは思う………」

 事務兵を偽の手紙で呼び出し、さらに上の地位の人間と接触するという手は、些か強引なものの、結果的にレイス・ウルド・ライズという総領主一族の一員との出会いを作ることが出来た。それはまあ、しなければならぬ事だったのだろう。

 だが、今回はどうだろうか。ソルトライク商工会自体は無茶をして、結果、今の状況があるわけだが、さらにそこへトドメを刺す様なやり方は、決して良いと思われることではない。

「あっちにもこっちにも………働いてる人間が……いるんだ。働くってのは………人生が掛かってること……だよな。大勢の人生を台無しにしてまで………しなきゃならないこと……なのか?」

 何度も言うがダヴィラスは雇われの身だ。雇用主が何を考えていたとしても、自分の仕事を全うするだけである。ルッドより性根の腐った様な雇用主に当たったこともあるのだし。だが、どうしてだか、彼には何となく、そういうことをして欲しくなかった。何故だろうか。別に信用している相手ということでも無いと思うのだが。

 もしかしたら、彼がこちらの性根を、簡単に見抜いてしまったからかもしれない。自分のことを理解する人間が、悪い人間であって欲しく無いという手前勝手な理屈だ。

「時間も無ければ手段もありません。何かを選んでいる余裕なんて―――

「国が滅びるのを止めるなんて………大それたことを……言っていた奴に、汚いことばかりして欲しく無い………そう思うんだが………」

 夢が大きな奴ならば、その夢を進む道も堂々として欲しい。今の状況をただ楽しんでいる様な奴に、そんな道は進めないと考えてしまうのはおかしいだろうか?

「…………やる事が大きければ大きいほど、できなくなる事も増えて行くんですよ。仕方ないんです………」

 さっきまでの楽しそうな表情はどこへやら。焦る様にその場から逃げ出すルッド。雇い主が逃げたいというのならば、雇われる側は眺めていることしかできない。ただ、一言掛けてはやりたくなった。これは、彼より年上の人間としての言葉である。

「お前は………きっと、デカくなる奴だ! せせこましい事ばかりしていると、それが台無しになると言ってるんだ!」

 去る背中にそれだけの言葉を掛けて、ダヴィラスはソルトライク商工総会の事務所へと向かうことにした。どんな理由で歩かされているとしても、まっとうするのが仕事人と言うものだ。




(なんなんだ! あの人は!)

 意識せずとも足が早くなる。あの場から早く離れたい。ルッドはそんな気持ちになっていた。

(何が悪巧みが多いだよ! 僕はそういうことしかできない奴だってのはとっくに理解しているはずじゃないか! 人の気も知らないで!)

 そうだ。自分はブルーウッド国からやってきたスパイで、商人の皮を被った汚い人間だ。そんな人間が、国をブラフガ党から守るなんて馬鹿な事を言い出したのだ。だったら、もっと泥に塗れるしかないじゃあないか。それを楽しいと思うことがそんなに駄目なことなのか。

(そうだ………もっと、もっと人を蹴落としてでも、上に昇ることが正当なはずだ)

 実家には兄が二人いた。貴族の家系にありがちな後継者争いをする二人を見て、自分はずっと思っていたはずじゃあないか。あそこに参加したいと。あれこそが貴族の、力を持つもののあり方だと。

(今はそこに参加できる状況なんだ。それを楽しみこそすれ、なんで罪悪感なんて覚えなきゃいけないんだよ!)

 心にダヴィラスの言葉が燻り続けた。それは大きなしこりとなってルッドを苛んでいく。

(それに………結果を残せることなんて、これくらいじゃあないか………)

 ルッドが考えていた作戦とは、ソルトライク商工総会とノースシー流通管理会の間で人のやり取りが存在するという点を突いた物である。

 勿論、組織間での個別的な事情というのがそこには存在するのだろう。だが、傍から見ればどう映るだろうか。

(分かれたはずの組織に、人的な交流がある。事情はどうであれ、それは未だに繋がりがある組織なのだと見られてしまう可能性があるということ。例えば、ソルトライク商工会の分裂が、意図的になされたものだという演出も可能なんだ)

 ソルトライク商工会は国に反感を向けさせるために、わざとその組織を分割させたのかもしれない。ルッドが知り合いの商人達へ意図的に噂を流せば、それほど掛らなくとも、そんな話が広まるまずだ。なにせ陰謀論というのは耳触りの良い説明のことを言うのだから。

(ただし広まる噂は単なる噂だ。実像を伴うことはない。だけど、合わせて商管室のあの室長が動けば、話が違ってくる)

 噂と同機して、実態のある商管室が何らかの動きを見せれば、虚像であろうとも、陰謀が実在している様に見せかけられる。

 その次の展開と言えば、国そのものが二つの組織間で発生した虚像を捻じ曲げ、国にとって有利な現実としてそれを一般人に周知させることになるだろう。

 ラージリヴァ国は、現在の状況をなんとか治める機会が無いものかと探りを入れている最中だ。丁度良い材料が目の前に転がって来れば、飛びついてくるはず。

 ここまで来れば、ルッドが介入しなければならない事など無くなる。後は自然な流れのまま、国が自らの地位を回復させるために、元ソルトライク商工会である二つの組織を徹底的に貶め、晒し、自らの責任の幾らかをソルトライク商工会の物として押し付けるだろう。

 その結果、二つの組織が瓦解することになる。ソルトライク商工会の時と同じだ。真実を曲げて、強き側がその都合により、敗北者を作る。

 以前と今回とで違うのが、二つの組織が国と対抗する意思を見せていないということと、そこにルッドが介入しているといこうこと。

 国に楯突いたソルトライク商工会はともかく、今の二つの組織は、必死になって自分達の立場を維持しようとしているだけであり、その組織を悪巧みで潰そうというのは、どうしようも無く悪いことである。

 そうしてその悪いことをルッドはやろうとしているのだ。ダヴィラスに忠告されるまで、それを楽しい事だと思いながら。

「…………ああ、くそっ!」

 つい苛立ち紛れに頭を掻いてしまう。デカい夢を持っているのなら、その過程で汚いことをするなという言葉が、どうやっても頭から離れないのだ。

 勿論、物理的に掻き毟ったところで、心の中からそれが無くなるわけが無い。

「痛っ!」

 鋭い痛みが頭に走り、咄嗟に右手を見ると、爪に赤い血が付いていた。どうやら強く掻きすぎたらしい。

「なんなんだよ……もう!」

 ソルトライク商工総会から出た時の気分はどこへやら、すっかり意気消沈してしまっている自分がいた。

 こんな状態で、自分はちゃんと動けるのだろうか。これから、ノースシー流通管理会の方へも向かわなければならないというのに。

(それとも………)

 やはり何か違うのか。自分のこの苛立ちをどうにかするためには、これまでと違った方法で、新たな選択肢を選ぶ必要があるのでは? 心の中で、そう問いかける自分が生まれ始める。その自分がどれほどの成長を果たすのか、ルッド自身にはまだわからない。

「………ここがノースシー流通管理会の事務所か」

 ルッドの眼前に、目的地の事務所が姿を現す。清潔感のある白石が積まれた、大きな建屋。例え答えが分からなくとも、挑まなければならない物事が存在する。今はこの組織の中で新たな情報を手に入れ、最善の策を考えなければ。

(それとも………ここでもっと違う選択肢を探せってことなのかな?)

 まだ血が付いたままの右手を強く握り、ルッドはまず第一歩目を踏み出す。その歩みが、また違う道を行くのではと期待しながら。


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