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北風の道  作者: きーち
第八章 ルッド・カラサは大いに笑う
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第四話 自嘲

 レイスと手を組んでみたい。ルッドの内心浮かんだ感情はそんな物であった。誰かに勧誘されるのはこれが二度目であるが、一度目と至った結論が違うのはどうしてだろうか。

(相手が同等の存在だからかもしれない。勿論、立場的には、外国の商人と国の統治者一族ってことで、天と地ほどに差があると思うんだけど………なんというか、他人に思えないんだよね)

 同等で互いを必要としているというのは、どんな関係性であれ良いものを築けるとルッドは思う。別に仲良くできるという話では無く、お互いの遠慮が無くなるのだ。

 どちらかがどちらかを一方的に使う関係では無くなる。それがルッドの望む権力者との関係であった。それに相手は女性として美形の類であるし。

「あなたの名声はいりません。けれど、あなたの力は貸して欲しいと言えば、どう答えますか?」

 ここでの交渉を諦めようとするレイスに向けて、ルッドはまだ始まったばかりだぞと返す。レイスが持っているカードは総領主一族としての名声しかない? そうでは無いだろう。

 ルッドの言葉に、レイスは明確に反応した。と言っても、何か驚きの声を上げたりはしない。ただ、一旦諦めかけていた目の色が急に輝きだした様に見えたのだ。

「………力か。ふむ、残念ながら、それはまだ無いな」

 顎に手をやってから少しだけ考えた後に、レイスはそう答える。だが力が込められた発言だ。

「“まだ”ですか」

「ああ、そうだな。まだまだだ。私には力が無い。年齢も若く、周囲からは舐められっぱなしだ。何時かはと思っているが、このままお飾り程度の意味合いしかない場所にずっといれば、その思いもどうにかなってしまうだろう。だから、もっと力を得たい」

「その力を得るための動きに、例えば商人なんかが手を貸したとすれば、きっと、大きな貸しになるはずですよね?」

 今は大きな力は無い。だが、上手くやればそれが手に入るかもしれない。総領主一族というのはそういう存在だった。現在だけの力関係で見てはいけない。

「力の無い権力者を、一商人が支える。そうしてお互いが大成する頃には、両者共に好ましい間柄になるというのは、古今東西どこにでもある話さ。なんというのかな、こういう関係をどう表現するのか………」

「盟友?」

 ルッドが呟く。対等な契約を交わすことによって生まれる一種の信頼関係。そういうものを盟友と呼ぶのではないだろうか。

「なるほど、盟友か。面白い。話の過程から察するに、その契約を交わすため、君らがまず動いてくれるということだね?」

「ええ。何はともあれ、多少なりともあなたに実権を持って貰わなくちゃ始まらない。できることなら何でもしますよ。今が恩を売る丁度良いチャンスだ」

 権力者に恩を売るというのは中々にできない行為である。なにせ権力者という人種は、むしろ他人に恩を与える側なのだから。

「はっきりとものを言う。いいさ。そういう相手だからこそ手を組む甲斐があるってものだ。だが、君らもまだ小さな組織だったな。高望みは禁物か」

 興奮しながらも冷静に物を見ている。やはり彼女との出会いは幸運だった。上手くやれば、お互いに成長して、良い結果をもたらせるだろう。まだまだブラフガ党には手の届かないちっぽけな関係であるが。

「………実権云々で言うのならば、この商管室から始めてみるのはどうでしょうか?」

 とりあえずはこちらから提案をしてみる。明確な計画は無く、ちょっとした思いつきによるものだが。

「うん?」

「名前だけとは言え、あなたはここの室長だ。それを名前だけで無くすというのは、余所から権力を得るよりかは手っ取り早くて容易という印象があるのですが」

 権力関係に限っては、ルッドはまだまだ未熟者だ。祖国でも見習い外交官が権力に関わるというのは、まったく無いわけでは無いが、なかなかに件数が少ないのである。

「実を言えば、準備なら幾らかできていたりする。切っ掛けが無いせいで、準備で終わっていたものだけれど」

 口角を片側だけで釣り上げるレイス。良い笑顔だ。こういう笑顔をする奴に、単純な奴はいない。

「ここの組織で、若い奴らには良く声を掛けることにしてるんだ。もっとも、それでも私より年上が殆どだが、まあ、仲良くできていると思う」

「組織の中で、ある程度の派閥ができているかもってことですね」

 その派閥が積極的にレイスを援護してくれるということも無いのだろうが、天秤が傾く時に、レイス側の皿に乗ってくれる可能性は高いだろう。

「さて、実権というのには行動が伴うものだ。何かしらの成果。それがあれば、私の元に何かしらの権利はやってくると思うよ。なにせ、そういう立場の人間だからさ」

 一応はこの商管室のトップとして存在する以上、そこでの成果はレイスに帰属するはずだ。今までそうで無かったのは、レイスが一切、仕事に関わらせて貰えなかったからかもしれない。

「成果ですか………」

 具体的には何があるだろうとルッドは考え込む。一方で、レイスは既にその点に関しても考え出していたらしい。

「さっき言った、ソルトライク商工会が滅んだ後にできた二つの組織」

 レイスが右手の人差し指と中指だけを立てて、ルッドに示す。

「ソルトライク商工総会とノースシー流通管理会の事ですね」

「その二つを構成する派閥だけど、ソルトライク商工会の崩壊に合わせて、幾らか不法行為をしたという噂がある」

「まあ……そりゃあ調べれば幾らでもそういうのは出てくるでしょうね。というか、崩壊に合わせじゃなく、何時もしてるから、組織崩壊の時も行っていたって表現した方が………」

 大きな組織だ。何から何まで真っ白なところではあるまい。そもそも国とは若干所どころでなく仲が悪かった組織なのだ。国の枠組みから離れて色々としていた可能性は十分にあったと言い切れる。

「いいや、組織崩壊前後で無ければいけない。こと、私にとってはね。二つの組織の……どちらか片方だけでも良いんだ。そういう動きがあったという証明が欲しい」

 レイスの狙いは何であるか。ルッドはそれを考え、すぐに答えをだす。

「ソルトライク商工会が崩壊した責任を、すべて背負い込ませるつもりですか?」

「全部じゃあないさ。どれだけしたって、国がザナード・ソルトライク氏を拘束したことに変わりないのだし。だが、二つの組織共にソルトライク商工会の後継を名乗っているのだから、幾らかそういう責任を負ってもらっても良いじゃあないか」

 現在国が混乱しているのは、ソルトライク商工会を国が直接的に潰したのが原因だ。だが、そこでソルトライク商工会の内紛が関わってくるとなればどうだろうか。国にも責任はあるが、商工会にだって。そういう風潮が生まれるのではないか。

「事実がどうであれ、現状の混乱を、ある程度収束させる方向へ向かうんじゃあないかい? 何にせよ、そうした方が国にとっては好ましい。その成果を出しさえすれば、見返りとして、ここの実権を手に入れるための工作くらいはして貰えるはずさ」

 例えば、仲の良い若い人員が急に立ち上がって、室長を担ぎ上げようとしたりだろうか。そこに関してはルッドの仕事では無いため、詳しくは聞かないでおく。

「今は向こうの組織も混乱期ですから、探そうと思えば幾らでも見つかるとは思いますけど………何か希望する情報はあったりします?」

「そうだな………できればスキャンダラスなのが良い。一般人がすぐ飛びつきたがるゴシップ的なそれが」

 人が好んで噂を立てたがる、そんな情報が望みらしい。なんとも悪趣味なご注文であるが、確かに効果はあるだろう。国への反感を少しズラす程度の効果は。

「わかりました。さっそく二つの組織について探ってみることにします。次は……そうですね、1週間後くらいにまた会いませんか? 適当な用で呼びだしてくれれば有難いんですが」

「なら、今回の話がまだちゃんと終わっていないので、次の機会という形でその予定を入れて置こう。それなら連絡を取り合わずとも、お互いが会える」

 次の機会に必ず会えるという約束を取り付ける。レイスのこちらへの期待値がかなり高いことを意味していた。

(藁にもすがるって感じなのかな。こっちとしても同じ気持ちさ。藁が藁にすがってる。酷く頼りない者同士だけれど、まあ、近い将来は大きな土石流になってやろうじゃあないか)

 他人が作る流れすらも飲み込む自分達だけの流れ。今回の出会いは、それを作り出すことができるだろうか。

「ああ、それと、そこの事務員君。緊張すると頬の左側かな? ちょっと震える癖があるから、意識して直した方が良い」

 仲間意識が生まれたのかは知らぬが、レイスがダヴィラスの癖を注意した。




「無茶苦茶だ………無茶苦茶だ………」

 商管室からの帰り道。呪文を唱えるかの如く、ダヴィラスはその言葉を呟き続けた。呪文と違うのは、自分自身へ訴えかける言葉で無く、聞かせる相手がいる点だろうか。

 ダヴィラスはひたすらに目の前を歩くルッドに向けて、その言葉を聞かせていたのだ。

「無茶苦茶って……何か変なことでもしました? 僕?」

 さっぱりわかっていないのか、それとも恍けているだけか。憎らしいことにこっちの言葉が理解できぬと言った返しをしてくる。

「さっきまで………、後ろ暗い……裏取引をしていた様に……見えるんだが?」

「いやだなあ。裏取引に後ろ暗くないものなんてありませんよ?」

「誤魔化すな……!」

 時々、ルッドはこの様な言い回しをする。そういう時は決まって、話をはぐらかそうとしている時だと、ダヴィラスは最近になって気付く様になった。

「………手段を選んでられないんですよ」

 そうしてさらに突っ込んだ返答を要求すると、途端に真剣な表情をするのだ。この変化は卑怯だと思う。

「ブラフガ党との………一件か」

 ブラフガ党が国を滅ぼそうとしており、ミース物流取扱社がそれに対抗しようとしている。最初から最後まで馬鹿みたいな話だが、社長のキャル・ミースを含め、ルッドもレイナラも本気の姿勢を見せている。

「早く事を進めなければ、時間が無いかもしれない」

「時間………? ブラフガ党が………すぐにでも動き出す……ということか? それはもう……仕方ないことだろ………」

 急に組織が強くなれない以上、ブラフガ党が早く動きだしてしまった場合は、どうしようもないことだとダヴィラスは思う。

 その時はブラフガ党とラージリヴァ国が何らかの形で戦うのを見守るしかあるまい。

「時間っていうのは、余所の事じゃあなくて、僕自身のことなんですよね」

「あんたの………時間が? そう言えば外国から来た商人だったな………確か…本国にあんたを雇ってる別の大商人がいるん……だったか?」

「ああ、そういうことになってましたね」

 そのルッドの返答に、ダヴィラスは大して驚かない。薄々、そんな言葉が返ってくるだろうと思っていたからだ。

「………つまり、大商人に雇われているというのは…………嘘なんだな?」

「そういうことですね。あれ、おかしいな。なんでバラす気になったんだろう………」

 ルッドは自分でも疑問に思っているらしく、首を傾げている。

「別の事情があって………この国に来た……ということか」

「ですね………その期限がだいたいあと2年かそこらです。そうして、この国でゴタゴタがいろいろあった以上、それがそのままの期限である保障もありません」

 もしかしたらもっと早く本国への帰還を命じられるかもしれない。だから焦っているのだとルッドは話す。

「………俺は単なる雇われ社員だ………あんたがどういう人間だとかは……賃金を払ってくれている限り、詮索しない………」

 怪しい人間だとは前から思っていたのだ。それが想像から事実に変わっただけのこと。

「有り難い話ですね………」

 ルッドはそういうが、嬉しそうな口調ではない。酷く自嘲的なそれだ。

「だが………社長には何時か、別れる時くらいは話してやれと……思わんでも無い」

「考えておきます」

 なんとも頼りない返事であった。この時になって、ダヴィラスは漸く気が付いたのだが、ルッド・カラサという人間は、どうしようも無く不安定な存在であるらしい。

 そのことを本人も実感しているのだろう。どこか不気味に思えていたこの少年が、今、この瞬間だけは年相応に見えるダヴィラスだった。




 ミース物流取扱社に戻ったルッドは、さっそく事の顛末を社長のキャルと、ついでに傍にいたレイナラへ報告することになった。

 その報告を聞いていたキャルであるが、途中から急に不満気な顔をする様になる。

「まーた危ない橋を渡ろうとしてるだろ、兄さん」

 ということであるらしい。

「単なる組織への調査なんだし、別に何も体を張った何かをするわけじゃあないんだしさあ………」

 とりあえずルッドは、言い訳にもならぬ抵抗を試みてみることにした。実際は他の組織の裏側を暴こうとする行為であるため、何がしかの危険はあるかもしれない。

「単なる組織の調査で、建物の窓から落ちたんだよな? 確かさ!」

 怒鳴られてしまった。調査を中止つもりはさらさら無いものの、こういう風に怒られると落ち込んでしまう。

「前回はソルトライク商工会が相手だったから、そういう危険もあったけれど、今回はその組織が分かれて弱体化してるんだよ? なら、まだマシじゃあないかなあ」

「混乱期の大組織を相手にするって、むしろ危ないわよ。向こうに手段を選ぶ余裕が無いってことだもの」

 ルッドの苦労もしらずに、椅子に座ってくつろいでいるレイナラが口を挟んできた。どうも愛用の剣の手入れをしているらしい。

「姉さんもこう言ってるぞ!」

 レイナラの言葉に勢いづけられたキャルが、再度怒鳴ってくる。さて、どうやって切り抜けたものか。

「わかった! わかったって! じゃあ安全策を取って、危険性を下げる! それで良いよね!」

「安全策? なんだよ、それ」

 疑わしげにこちらを見てくるキャル。百面相なのは見ていて飽きないが、それがすべてこちらに向けられているというのは、結構息苦しさを感じてしまう。

「ダヴィラスさん」

「お………俺か?」

 報告に付き添う形で隣に立っていたダヴィラスに援護を頼むことにする。別に口論の援護を希望しているわけではない。やはりというか、その顔頼みの案だ。

「ソルトライク商工総会とノースシー流通管理会。この二つの周囲をうろちょろしてください」

「それは………要は俺にその組織を調べろ……ということか?」

 なんでそんな向かない仕事をしなければならないと、ダヴィラスは反論したそうに見える。

「違いますよ。文字通りうろちょろしていただくだけです。二つの組織の事務所だったり、系列組織だったりの周囲を、なんとなくぶらぶらしてください。それだけで良いです。大丈夫、その間もちゃんと契約金は払いますから」

「何の意味があるんだ………それ」

 こちらの意図がわからぬらしいダヴィラス。ルッドが説明しようと口を開く前に、キャルがダヴィラスへ話しかける。

「ダヴィラスのおっさんが囮になるってことだろ? 怖い顔のおっさんと、兄さんじゃあ、どっちが怪しく見えるかってことだ。でも、それで危険性は薄まるって本気で思ってるのか?」

 さっきよりは多少なりともマシになったが、それでも睨むのを止めてくれないキャル。

「というか………俺にまで危険が及ぶんじゃないか……それ」

「うろついて回るだけで捕まえにくる組織がどこにあるんですか。実際に変な形で調べない限り、向こうから手を出してくることはありません」

 それだけでも、何か怪しい人間が嗅ぎまわっているのではと、意識がそちらに向かうだろうし。その隙に本命のルッドが二つの組織を調べて周るのだ。

「何もしないよりマシだと思うんだよね………。それにさ、社長。ブラフガ党に対抗しようって考えは、そっちだって変わらないはずじゃないか」

 今さら危険だから止めようなどと言われても、もう既にそういう気分では無くなっている。

「そりゃあそうだけどな。あたしが危ないぞって言わなかったら、さっき言った安全策もしないつもりだったんだろ?」

「………まあ、ねえ」

 反論の仕様も無い事実であった。そりゃあ多少の危険はあるが、それでもなんとかなるだろうと思っていたから。

「兄さんのやることを止められはしないけどさ、あたしはどこまでも口は出すぜ」

「………頼もしいよ」

 頭の痛いことであるが、それでも、彼女はルッドにとって欠かせない人間である気がした。




(さて………まずはどっちの組織から当たってみようか)

 次の日の朝。ダヴィラスにソルトライク商工総会とノースシー流通管理会の周辺をうろつく様に頼んだルッドは、機を見て、自分も出かけることにした。

 二つの組織は元々一つの組織であったためか、その事務所は比較的近い場所にある。ホロヘイの中心街。大きな組織の事務所となれば、大凡がそんな場所にあり、ソルトライク商工総会はソルトライク商工会の事務所をそのまま使い、ノースシー流通管理会は、元々ソルトライク商工会事務所の別館として用意されていた場所を事務所にしている。

(仲が悪くて分かれたんだから、もっと距離を置けば良いのにねえ………そうも行かないんだろうけど)

 二つの組織は、どちらがソルトライク商工会の後釜に座るかどうかで争っていると聞く。ならば、どちらもソルトライク商工会所縁の施設を立ち退こうとはしないだろう。

 距離を置くなら向こうの組織が。そんな風にお互い思っているはずだ。

(ま、向かう側にしてみれば楽さ。歩く先はほぼ一緒で済むんだから)

 道を歩き、中心街へと向かうルッド。石造りの町並みが、最近では慣れ親しんだ物に思えてくる。

 中心街と言っても、明確な境目があるわけでも無く、目に映る光景の中に民家から商店や事務所が増えだすことで、そこへ近づいていることが分かる。

(………決めた。最初はソルトライク商工総会の方だ)

 決めた理由は、目に付く商店の看板の色が黄色かったからだ。ノースシー流通管理会は、その語感から、どちらかと言えば青色だろうと、良くわからない理屈の中で、ルッドは選択した。どちらでも良い選択肢を選ぶ場合、ルッドはこういう直感にも似た発想で決めている。なんとなく、運が味方してくれる気がするから。

「ジンクスって奴なんだよ………うん。自分の手から離れた事に関しては、祈るか験を担ぐしかないんだ」

 何もせずただ祈るというのも性分で無いため、結局は後者の行動が多くなる。どっちにしたところで、あまり意味を持つもので無いのは確かだ。

(神様なんてのがちゃんといれば、祈りを捧げても良いんだけども)

 残念ながら、宗教の勧誘に来る人間とは縁が無かった。別にそういうものを嫌っているつもりはないのだが、こっちが信奉している神様について詳しく聞こうとすると、向こうの方が逃げていくのだ。

(別に嘘の神様だって構わないんだけどね。要は祈る対象として納得できる存在なら良いんだから。だのに、どうして詳しい設定を聞こうとすると、みんな嫌そうな顔をするのか)

 もしかしたら多くの宗教家は、神様を本気で信じているのかもしれない。信者であれば信じる事が普通であるものの、教えを説く側はそれが方便であることを了解していると思っていた。だが、そうでは無く、神様というのを本気で信じているからこそ、何かを意識の薄いベールで隠し、その存在を深く探ろうとしないのかもしれない。

(そんなのは勿体無いじゃあないか。本当か嘘か。どちらにせよ、面白くて利用できる存在なら、積極的に行動すべきだ)

 さっきルッドが行った験担ぎの様な物だ。店の看板が黄色いから、その色に見合った場所に向かおう。そんな直感のために看板を利用するのであって、その看板を神秘的な物として隠す必要はどこにも無い。

(そう言えば、この国で流行ってる宗教ってどんなだったかな? 確か随分と変わったものだったように…………ああ、考えるのは後にしよう)

 ルッドは考えと足を一旦止める。目の前にはまず一つ目の目的地である、ソルトライク商工総会の事務所が見えていたからだ。



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