第二話 愛想笑い
「なんと言うか………予定されている通りに事が運ぶというのは、怖い物があるな………」
タックス事務兵が去った後のミース物流取扱社のリビングにて、彼が去った玄関の方を眺めながら、ダヴィラスがぽつりと呟いた。近くで椅子に座りながら、笑みを浮かべているルッドに向けての言葉である。
「撒いた種が目を出したってだけの話です。まだまだそれがどれだけの物かはわかりませんよ」
気を緩めるのはまだまだ早いとルッドは思う。ただし、今のところは順調に行っているので喜ばしい。何が喜ばしいかと言えば、ミース物流取扱社に国の関係者が監査にやってきたことだ。
「兄さんが以前に投書した手紙で来たって解釈で良いんだよな?」
最終確認のためか、キャルが尋ねてくる。
「多分ね。石椀が不正取引に使われてるかもって内容で送った分だから、間違いはないと思う」
そう、ミース物流取扱社が不正な取引が行われていると国へ通報したのは、他ならぬルッドだった。目的は勿論、タックス事務兵の様な人間を社へ呼び込むことであり、それを足掛かりに、国との関係を深めることであった。
「表立って国を頼るっていうのは、国との関係性が薄いっていう理由で利益を得ているうちとしては、あんまり好ましくないからね。調査目的で来てくれる方が、都合が良かったんだよ」
そうしてタックス事務兵との会話で、彼の上司か上役を引き出すことができた。国の関係者で、新米よりかはもう少し立場が上の人間との接点ができたわけである。
「だからわざわざ自分から不正取引があるぞなんて手紙を匿名で出したのねえ………。大丈夫なの? いくら接点が出来たからって、良い印象は持たれてないわよ? きっと」
レイナラから見れば、かなりの強硬策に映っているのだろう。わざわざ不正取引の疑惑まで自演して、組織へ国の注目を向けさせようとするのは、些か無茶だったのではないかと。
「けれど、向こうが絶対にこちらとの接点を断ち切らない保障があるのは、この方法しかありませんでしたから。それに、まさかこっちが望んでこんな形の接点を作ったなんて、誰も思わないでしょう?」
こちらの意図が気付かれないままに相手と交渉を行えるというやつだ。交渉までに漕ぎ着ける方法は些か荒っぽいものの、こちらにとっては望む状況を作り上げることができたと考える。
「………しかしだ。もしその交渉に失敗したのならどうする? ことは社の信用に関わってくるのでは………」
心配性のダヴィラスが水を差す。なるほど、確かにそういう危険はあるだろう。しかし………。
「その時はその時です。また一から商売を始めましょう」
まだまだ小さな組織なのだ。ぶつかることを恐れる時期ではあるまい。それに、ブラフガ党の狙いが達成する前に相応の力を手に入れるには、これくらいの事を何度もしなければ不可能である。
「やれることはなんだってやりますよ。ダヴィラスさんも、是非手伝ってくださいね」
そう言って、ルッドはダヴィラスを見た。
自分、ダヴィラス・ルーンデは、現在、護衛業や用心棒で生計を立てている。お世辞にも向いた仕事とは言えないが、親が与えてくれたこの顔で、まあなんとか食べていける程度の金銭を稼いでいるのが実際だ。
腕っぷしには自信が無い。さすがに何度か荒事に揉まれれば、一般人よりかは喧嘩慣れしてはくる。
だが、それでも二人より多い人数に一人で挑める自信も能力も無かった。刃物をチラつかされればもう駄目だ。震える体を止めるのに必死で、周囲を警戒する余裕なんて無くなってしまう。緊張が限界に達した時など、そのまま気絶したことさえあった。
(つくづく思うんだが………なんでこの仕事をしてるんだろうな………)
他人に言われるまでも無く、ずっと自分に問いかけている。答えは簡単だ。親からもらったこの顔は、利益よりも不利益の方が大きい物だったのだ。
まっとうな客仕事には向いていない。農作業を手伝わせてくれと言えば、土地を狙っているのかと勘繰られる。どこかの事務所や工房で働かせてくれと頼みに向かえば、金なら期日通りに返すと何故か泣かれた。
一方で反社会的勢力には良く勧誘された。良い面構えだ。才能を感じる。何人殺った。どうやって牢屋を抜け出したのか。
冗談では無い話だった。外見にそぐわず、ダヴィラスは小心者なのである。そんな世界に足を踏み入れる度胸などこれっぽっちも無い。ただ、何時も人を脅かし、自分の足を引っ張るこの顔を、好ましく思う人種がいることだけは理解することができた。
暴力が関係する仕事ならば自分でも。そんな思いがあったのだが、国の兵士は体力テストや能力試験がある。これでもごく普通の一般家庭で育った我が身は、残念ながら顔ほどに体力的な才能が備わっていなかったのだ。
しかし経験を積めばそうでも無くなるのでは。そんな思いから、酒場で怖い顔をしていれば向こうから客が来るという用心棒の仕事を始めてみることにしたのだ。怖い顔だけならば自信があったから。
(最初の仕事は、確か酒場に入ってすぐに依頼されたな………。どこかの成金が、恨みを買ったから助けが必要だとかいう話で………)
なんでも殺し屋に狙われているとか。結構にエラそうな性格なので、誰も依頼を引き受けてくれないという泣き言を口にしていた。可哀そうだったし、立っているだけでも十分という話だったから、引き受けることにした。
仕事結果はと言えば、殺し屋が夜闇に乗じて襲い掛ろうとしたところ、突然、ダヴィラスの顔を見て驚き逃げ出した。こりゃあ敵わないと思われたらしい。
ダヴィラスの方はと言えば、殺し屋が鈍く光る短剣を持ってこちらへ向かってきたのに驚き、恥ずかしながら気絶してしまった。相打ちということになるのかもしれない。
ただ残念なことに、護衛の依頼はそこで打ち切りとなった。幾ばくかの報酬と共に、ダヴィラスは酒場へと戻ることになる。護衛が先に気絶したらこっちは何をすれば良いんですかとは、護衛対象の成金が言った台詞だったと思う。
結果的に顔だけで日々の糧は稼げそうだと考えたダヴィラスは、最近までそんなどうしようも無い仕事を続けていた。変化が訪れたのは、若い商人の少年に呼び出されてからだろうか。
少年と言えども、働いている人間がいてもおかしくはない年齢だった。商売のために護衛を雇いに来たとしてもやはりおかしくない。ただ変わっていたのは、本当の意味で、この顔付きが目当てでダヴィラスを雇ったという点だった。
交渉のためには戦いの腕でなく脅しになる外見こそが重要だ。そんなことを話していた少年、ルッド・カラサは、今でもダヴィラスの雇用主となっていた。
「………いや、正確には社に雇われているんだったか………」
「はい? 何を今さらなことを言ってるんですか」
ダヴィラスは現在、総領館商管室と言う場所へと向かっていた。ホロヘイとその周辺地域で行われる商売を、法の観点から管理する仕事を担っている公的組織らしい。
「…………ちょっと考え事だ」
先頭を行くルッドに着いて行くだけなので、ぼーっとしていた。つい思索に耽り、いらぬ言葉まで口にしてしまった様だ。
「なんというか………あれだ」
ダヴィラスは話すのが苦手である。家族以外とは人生においてあまり話したことが無いのだ。別に人見知りをしたわけでない。向こうが人を選んで話しかけてこないだけである。
「あれって………良くわかんないんですけど」
ルッドはダヴィラスに物怖じせずに話しかけてくる数少ない他人だ。別に彼の肝っ玉が優れているわけではあるまい。あくまでこちらの見た目が、外見だけに留まる物であり、実際の性格がどの様であるかを、彼はよく知っているのだ。
ただ、驚くべきはその観察眼である。一般人ならばダヴィラスの外見に騙され、その行動一つ一つに深く危険な意味があるのだと勘違いするのに対して、ルッドは早々にこちらの本質を理解していた様なのだ。
「こう………戦わなくて良いのは好ましいんだが、嵌められた様な気がしてならない………」
「いやだなあ、まるで僕がダヴィラスさんをこっち側に引きずり込んだ様な言い方になってますよ?」
「そういう意味で言ったんだが………」
ダヴィラスはミース物流取扱社に雇われていることを、概ね好ましく思っている。ダヴィラスに戦闘行為を要求しないというその一点で仕事を行えるというのは、中々に良い待遇だとすら思う。
だが一方で、泥沼に嵌っていく感覚に襲われる時があった。今回の仕事でもそうだ。国との関係性を持ちたいから、わざわざ自らの組織を通報するなど、まともなやり方ではない。
そんなやり方をするうえで、何故だかダヴィラス自身が巻き込まれている。交渉の際に一筋縄では行かぬ相手であると印象付けるのは、この顔の威圧感が必要なのだと言われた。だからルッドに連れ添って歩いているわけであるが、なんとも言えぬ怖さを感じてしまう。
(だいたい………ブラフガ党と対決するとかいう目的からして、なんで俺にそんなことを話すんだ………)
ブラフガ党が国家転覆を狙っているという話を、ルッド達がとある人物の依頼で聞かされたというのは、別のどうでも良いことだ。いや、どうでも良くは無いが、まだダヴィラスは無関係でいられたのだ。なにせその仕事でルッド達が出払っている最中、ダヴィラスはずっとミース物流取扱社の社屋で留守番をしていたのだから。
ルッド達に事の顛末を聞かされなければ、そんな重大な事実を知ることも無かったはずだ。
「ダヴィラスさんだって、なんとかしたいって思うでしょ? 近い将来、国が無くなるかもなんて状況は」
この言いぐさだ。これに何時も騙されている気分になる。そりゃあ確かになんとかしたいと思う。だが、そう思うのはブラフガ党に関する話を聞かされたからであって、もし聞いていなければ、その時が来るまでは平穏無事に過ごせたはずだ。
「なんとか………できるのか? 相手は強大な組織だろ………。総勢4人の組織が、一朝一夕で相手にできるものじゃあない」
ダヴィラスは不可能だと思っている。世の中、気概だけで乗り越えられる物など、そう多くは無いというのを知っているからだ。
ルッドはどうなのだろうか。彼だって、現実をただ見据えるタイプの人間だと思うのだが。
「一朝一夕に行かないから、今からなんとかしようとするんです。猶予ならまだある……まあ、その保障なんてどこにもありませんが、そう思って、地道にやっていくんですよ」
「ふうん………ああ、いや………」
危うく納得しそうになるダヴィラス。いやいや騙されてはいけない。彼の行動はそれなりにしっかりしたものであるが、それにしたって無茶に変わりないのだから。
(できる限り………巻き込まれたくは無いんだよなあ………)
なんとかして危険からは抜け出せないものか。ダヴィラスは歩きながら、そんなことを考え続けていた。
頭で考えたところで、実行しなければ何も始まらない。そのことに気付かぬままのダヴィラスは、結局、総領館商管室とやらがある場所までやってきてしまった。
場所はホロヘイの中心地にあり、この地区は行政関係の公舎が数多く立ち並ぶ、まさに総領宅と呼ばれる場所であった。総領館商管室もそれら公舎の一つとして存在しているらしい。
「確かここです。呼び出しを受けたのは」
ルッドがとある公舎の前で立ち止まる。そこには総領館商管室の正式名称である、『総領館付商業及びそれに伴う各事項管理室』の名が刻まれる、しっかりとした石看板が飾られていた。
(国の機関と比べるのはあれだが………うちとは大分違うな………)
ミース物流取扱社の看板は、どうにも安っぽく既にボロボロだ。儲けも出始めたのだし変えたらどうだと、社長のキャル・ミースが提案していたが、基本的な取り決めをしているルッドが、名前が判別できなくなるまでは同じ看板を使う方が良いだろうという意見を口にしたため、取り止めとなった。なんでも彼の国での縁起担ぎらしい。
(ああ………胡散臭い理由の一つに、彼が他国の人間だっていうのがあったか………)
最近、この国と交流を持ち始めたブルーウッド国からの商人がルッド・カラサだ。そんな彼が国家を左右する事柄に首を突っ込もうとしている。しかも国が転覆するのはいやだろうと言った理由で。胡散臭く無いはずがない。
(言ってしまえば……彼は部外者なわけだ………。なのに……なんでブラフガ党と敵対する様な危険を冒してまで、動こうとする?)
考えれば考えるほどに怪しく見える。なんでも無い様な少年だが、その実、ダヴィラスの思いも寄らぬことを考えている相手なのだから尚更である。
「何してるんですか、ダヴィラスさん。入りますよ」
「あ………ああ。そう…だな」
考え過ぎていたため、総領館商管室の玄関前で立ち止まり続けていたダヴィラスを、訝しむ様にルッドが見つめている。
付いて行かぬ理由も無いため、ルッドの後に続いて商管室へと入っていく。
「こんにちは! 失礼します!」
大きく元気の良い声でルッドが挨拶をする。他人が好む振る舞いをするのが、彼はどうにも得意らしい。
商管室の玄関を入れば、そこはすぐ事務の窓口になっていた。存在するカウンターの向こう側には、何人かの人間が恐らくは事務作業を続けており、ルッドの挨拶に反応して、ほぼ全員がこちらを見ていた。いや、睨みに近いか?
そしてすぐに、そのうちの一人が声を上げて立ち上がった。
「あ、時間通りですね。良く来てくれました」
声の主は、先日、ミース物流取扱社へ監査にやってきたタックス・クスラトラという青年だった。彼はそのままカウンターを挟んで、ルッド達の前まで歩いてくる。
「はい、ミース物流取扱社から来ました、商人のルッド・カラサです。こちらは事務員のダヴィラス・ルーンデ。本日はよろしくお願いします」
ルッドに自分のことも合わせて紹介される。今回の相手は、見る限り荒っぽい人種では無さそうであるため、安心できた。まあ、向こうはこちらの顔を見て怯えている人間もいるみたいだが。
(確かに……威圧や脅しの効果は期待できるみたいだな……酷く不本意だが………)
これがダヴィラスを連れてきた意味だろうか。まあ、事務員として書類関係の質問があれば答えて欲しいとも言われているから、そっち方面の能力も期待されているのだろうと思っておく。
「それでは上役との話のために部屋を用意していますから、そこへ案内させていただきますね」
事務兵のタックスがカウンターを周ってこちら側までやってくると、玄関近くのこの場所より、さらに奥の部屋へと案内された。
案内された部屋は、比較的こじんまりとした物である。3人用のソファが二つ、長机を挟む形で用意されており、それがこの部屋の許容人数であることが分かった。
「こちらにお座りになってお待ちください。すぐに上役を呼んで参りますので」
タックスはそう言って部屋を出た。残されたのはダヴィラスとルッドの二人だ。
「よっと……あんまり歓迎されてないって感じです」
タックスが部屋から出るのを待っていたのだろう。ルッドがソファに座りながら、ダヴィラスに話し掛けてくる。
ダヴィラスもルッドの隣に座りながら、その言葉の意味を尋ねてみた。
「普通の応対だったと思うが……歓迎されていないと………どうしてわかる?」
「こっちが大声で挨拶したのに、さっさと案内されるだけだったでしょう? どんな来客だろうと、普通、挨拶には挨拶で返しますよ。歓迎されていればですがね」
どうやらそれを探るために、大声で挨拶をしたらしい。
「いや……そうとも限らないだろう……挨拶をすることに慣れていない場所だとか………」
「商人を相手にする組織がですか? まあ、そうだったとしても、カウンターの向こうに居た方々の目を見れば、だいたい察しがつきます」
「目を?」
ダヴィラスにはさっぱりわからなかったが、ルッドには人の表情を見ただけで、なんとなくの感情を読み取る技能があるらしい。
「うんざりした様な目でしたよ。多分、僕らの来訪は想像以上に気に入られていない」
「まあ……それはゴネた側なんだから、仕様が無いんじゃあ……ないか?」
実際問題、ダヴィラス達は厄介者だろう。彼らの仕事を増やしているのだから。
「その迷惑については既に想定済みです。問題は、もっと厄介な人間だと、僕らが思われていることです」
厄介に大きいも小さいもあるのだろうか。まあ、ルッドが言うのだから有るのだろう。しかし、だからなんだという話である。邪険に扱われるのには慣れているのだし、大した問題に思えなかった。
「わかりませんか? こっちにそこまで迷惑がられる事情が無い以上、別の事情が向こうにあるってことです。なんでしょうね? 僕らの商売に関わるものなのか……それとも………」
なんでしょうねと聞かれても困ってしまう。それを考えるのがルッドの仕事なのだから。いやしかし、ここで自分も頭を動かさねば、様々な事柄に巻き込まれてしまう現状を変えられないのではと、ダヴィラスはいったい何が妙なのかを考えてみることにした。
「案のその一………実はみな、人相が悪いだけである………」
「そんな職場なら、ダヴィラスさんが真っ先に雇われそうですよね?」
すぐに否定された。しかも皮肉交じりで。まあ確かに、事務仕事が主な仕事で、尚且つ人相が悪い人間が選ばれる仕事なんて、ダヴィラスにとっての理想でしかなく、そんな場所は中々に無いだろう。
「では案その二………俺達が不倶戴天の敵であったりする」
「国の関係者に、そんな恨みを買ったことは無いと思いますけどねえ………ダヴィラスさんはどうなんです?」
「………俺か? 俺は………品行方正に生きてきた……つもりだ」
疑わしげにこちらを見てくるルッド。まっとうじゃあ無いのは外見だけで、内面は臆病なのを知っているだろうに。
「最後の案だが………こうなったら、もう単純に……今日の機嫌が悪かったってだけしか思いつかない………」
「そうですね。それでしょう、多分」
「………は?」
投げやりな言葉が肯定されたので呆気にとられる。そして深く考えるべきでないことをあれこれと考えさせられたことに苛立った。
「ちょっと待て………機嫌が悪かったで終わるのなら、それで済む話じゃあないか………何をいちいち気にしているんだ……」
「だからその機嫌の悪さに僕らが絡んでるってことが気になるんですよ。こっちには心当たりが無い。となると、これから僕らが会う人間側に、周囲の機嫌を悪くする要素があることになりますよね?」
つまり、ダヴィラス達がこの商管室にやってきたことで、嫌な奴が同じくここに来ることになってしまった。だからみな機嫌が悪いということか。
「性格の悪い人間を……相手にする必要があるわけか………」
これからの事を思えば、ルッドが深刻な顔をするのもわかる。話し相手にするのだって嫌だろうし、これから国との関係性を作ろうと考えている彼ならば、そんな相手に何度も会う必要があるからだ。
「問題が性格についてだけだったら、まだマシなんですが………」
「マシ……じゃあない場合というのは………なんなんだ?」
ルッドが一旦目を閉じた。瞬きよりかは長いそれだが、すぐに再び目を開く。
「嫌われる要因が外見じゃあ無く、立場や地位に関わるものだったとしたら―――
話の途中で扉がノックされる。どうやらこちらの話が終わる前に、答えとなる人物がやってきたらしい。
「はい、どうぞ」
扉の向こう側にいるであろう人物に、ルッドが入室の許可を与える。そもそもこちらが来客側なのだし、いちいちノックも必要無いのではないかと思えたが、これもまた社会の礼儀という奴だ。お互いを尊重し合っているぞと、逐一行動に示さなければならない。
そうしてこちらの許可を待ってから、部屋の扉が開かれる。
「失礼。ミース物流取扱社からいらっしゃった方々、ということで宜しいかな?」
現れた人間に驚いた。そうして、どちらなんだろうと疑問に思う。
(嫌われている理由が……外見なのか、それともその立場なのか………わからない………)
若い、そう、とても若い少年だった。亜麻色の髪を少し短めに切り揃え、かなり質の高い仕事着に身を包んでいなければ、明らかに場違いな相手。ルッドと同じかそれよりも下か。少なくとも、この部屋にダヴィラス達を案内したタックスよりかはさらに若く見える。
そんな少年が、部屋の中に入ってきたのである。