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北風の道  作者: きーち
第七章 ホワイトオルドの調査
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第五話 調査報告:異種族について

 昼前だと言うのに、どこか薄暗くなった森の中。鳥の声が時たま聞こえて、ルッドにはそれが話を続けるための合図の様に思えた。

「残せる物がある? それと国を滅ぼすことに何の関係が? そもそもブラフガ党の党首は―――

「党首もまた異種族だ。ドワーフと言うらしく、我々オークとはまた違った外見をしているがね。そうして我々と同じく滅び行く種族でもある。いや、彼の方がより深刻か。なにせ、自分以外のドワーフを見たことが無いと語っていたから………」

 たった一人の種族。それがブラフガ党の党首であるとドードリアスは語る。本当の意味で、このドラゴンと同じ存在であると。

「君は血では無くとも残せる物があると言ったな? ではそれはなんだ? 子を、子孫を残し、次代を育むという物に代わる何かとは何だ?」

「それは………」

「答えられないか? 党首はこう答えたぞ? 証を残すことだとな」

 例え種族が滅びようと、その種族が存在したという証。それを残すことが、子を残す代わりになるのではとドードリアス、いや、彼の口を借りたブラフガ党の党首が語っている。

「国が滅びようと人は残る。そして人は永らく語り継ぐだろうな。国を滅ぼした異種族の存在を。党首はそれを自らの墓標にしようとしている。」

「そんなのは―――

「無為だとでも言うのかね? それは種族として繁栄する側だからこそ言える傲慢だよ。このままでは、我々は何も残せないままで終わる。ただ消えて行った種族として、君ら人間からも忘れられてしまうのだ。無論、他にやり様があるかもしれないと私は言ったよ。だが、党首の決意は確かなものだった」

 そうだった。ドードリアスにどれだけ反論しても意味が無いのだ。彼はあくまで、ブラフガ党の党首の言葉を代弁しているだけなのだから。

「………そんな事を話して、僕にどうしろって言うんですか? 僕は……あなた達が知っている通り、余所の国から来た商人です。ブラフガ党や一国家に比べれば、何の力も無いに等しいんですよ?」

「さあ。何だろうな。私にもはっきりと言えん。ここに呼んだのは、何も君だけでは無いのだよ」

 顎に手をやって、ドードリアスはしげしげとルッドを見つめていた。

「今の話を聞いて、何がしかの行動を取れる者。それも、我々に予想ができぬ形で。そんな人間を連れて来てくれとファンダルグには頼んだのだ。そうして君が来た。これで何人目か…そう多くは無いし、あまり大勢に話せる内容でも無い。君らで最後になるかもしれんな」

「それであなたは何を手に入れると?」

「変化だ。党首の行動は理解できる。だが、あまりにも悲しすぎるじゃあないか。元幹部としては、その状況に一石を投じてやりたくなった。それだけが理由だ」

 そう言って、ドードリアスは口を閉ざした。話はここで終わりと言うことか。彼の言う通り、ブラフガ党の目的を伝えることだけが、今回の依頼の真実だったのだろう。

「あなた達の言うブラフガ党の党首。彼はいったい何者なんです?」

「言ったろう? ドワーフと言う異種族だと。それ以上は言えんな。言えば、隣のこいつに私は殺されるだろう」

 ドードリアスはファンダルグを見て話す。ファンダルグはまだブラフガ党員で、ブラフガ党にとっての明確な敵を排除する存在だ。

 今回の一件は、ブラフガ党のためにこそドードリアスが動いたから、ファンダルグも協力的なのである。迂闊な事を言えば、元幹部だろうとも危険ということなのかもしれない。

「さあ、ここまで聞いてくれれば君らは自由だ。これ以上を私は望まんし、これらの情報を持って、君らがどうするかについても別に関わらん。ただ流れが変われば良いとだけ思い、夢想する。私はそれだけの存在だからな」

 自分はもうすべてを諦めた蛙だとドードリアスは口にする。池の濁りに耐え切れず、陸地に飛び出した蛙なのだと。

 濁りの中には怖くて戻れず、ただ濁りが晴れてくれればと池に石を落とす臆病な蛙。そうして池に戻れない蛙は、干からびて死ぬだけだとも。

「実を言えば、君らには私の憂さ晴らしに付き合って貰っただけという事だ。すまんな」

 そんなドードリアスの謝罪に対して、ルッドが返せる言葉など、どこにも無かった。




「違約金を上乗せで払うということでどうでしょうか?」

 ホワイトオルドの村へと帰る道の途中。どこか気まずい雰囲気を残すルッド一行に、ファンダルグがそんな言葉を口にした。

「………どういうことでしょうかって、あなた、さっきまで何してたかわかってるの?」

 真っ先に食って掛かるのはレイナラだった。彼女で無ければキャルが、キャルでなければ最後にルッドがそうしていたことだろう。それくらいファンダルグは空気が読めていない。というか、読むつもりが無いのだ。

「何とは? そこのルッドさんを私の知り合いに合わせただけなのですが………まあ、ブラフガ党に関わらないという話だったのに、この様な形になってしまいましたから、違約金を払わせていただきたいと申しています」

 この老人、いや、確か34歳だったか。つまり彼は、今回の話が金銭の受け払いで終わる話だと考えている様だ。

「あのですね……さっきまで僕らはあなたの企みに巻き込まれて、この国の存亡に関わるかもしれない話を聞いてたんですよ?」

「ええ。巻き込んでしまったことは謝罪します。契約違反ですからね。おや? そのことでは無いとでも?」

 こちらの不満気な表情に首を傾げるファンダルグ。わざとなのか、それとも本当にわかっていないのか。

「だからですね、さっきまで途轍もなく重要な話を聞かされて、すぐに感情の切り替えができないというか―――

「おやおや。まるで、さっきの話について、何がしかできる様な言い方をしますね?」

「いえ、だから無関係の話じゃあ………」

 そこまで言いかけて、ファンダルグの言わんとしていることが理解できた。例え問題が国家規模の物事だとしても、ルッド達に何かできるだろうか。

「あんなデカい話聞かされたって、あたし達には何にもできないって言うんだろ。わかってるよ、んなことは」

 キャルは最初からファンダルグが言おうとしている事をわかっていたらしい。それでも、ファンダルグへの不満を消すつもりは無い様だが。

「それでも、この国起こる事なのは変わり無いだろ? だったら、何したって無駄だとしても、無関係ではいられないじゃねえか。深刻にもなるだろ」

「まあ……その通りの話です」

 なんと、キャルがファンダルグを論破してしまった。この国を左右する出来事には、例え無力であろうとも、どこかで関係しているというキャルの言葉には、確かに説得力があった。

「そうですねえ。この国の人間ならば、これから起こり得ることに多かれ少なかれ関わっていくことになるのでしょうねえ………ところで、そんな時、他国の人間はどうするのでしょうか」

 なるほど、そうきたか。ルッドはファンダルグの言葉に感心する。この場で他国の人間はルッドだけだ。国とも関係無く、大きな組織に介入する力も無い。そんなルッドがどうするのかを、ファンダルグは尋ねたいのかもしれない。

「どうするって……何もしませんよ」

「何も?」

 意外そうにこちらを見るファンダルグ。なんだその目は。

「本当にブラフガ党が国家転覆なんて企みをしているのかどうかも、疑っている段階ですからね。この状況で、あれこれと動くべきじゃあないと思います」

「動けるとしたらどうします?」

 あれやこれやと聞いて来る相手だ。しかも返し難い質問を。

「仮定の話なんて幾らでもできますから、あんまりするのは好みじゃあ無いんですけど………」

「ですが、もしの話から始めなければ、何も始まりませんよね?」

 まったくだ。誤魔化しもできやしない。ルッドは観念して、自分がドードリアスの話を聞いて、どうしたいかを答えることにした。

「好き勝手したいですね」

「好き勝手?」

 今度は向こうが疑問に思う番だ。訳のわからない答えを返して、こっちの真意を探らせてやる。

「この国の人間じゃあないってことは、いろんなしがらみが他より薄いってことなんですから、そりゃあ自分の感情の赴くままに、事態を無茶苦茶にしてやりますよ」

 そうだ。国家転覆などという大きな出来事は、それだけ物事が大きく動く時ということだ。それが本格的に発生した時、もし、手を加えられる力が自分にあれば、自分の利益を最大限、得られる様に行動するだけである。

 自分とラージリヴァ国を繋ぐものなんて、今はそれくらいなのだから。

「なるほど、だから好き勝手……ですか」

 見世物でも楽しむかのように、ファンダルグは笑いながらルッドを見る。そういう顔をするのは止めて欲しい。どうにも居心地が悪くなるから。




 ドードリアスとの出会いから一夜明けて、一通りの仕事が終わった後は、ホワイトオルドとホロヘイを繋ぐ道を、再度進むことになる。まだ溶けかかった雪が残るその道だが、ファンダルグは同行していなかった。さすがの彼も、帰りまでルッド達と共にいるのには気が咎めたのだろうか。まあ、ホワイトオルドにまだ用があると言っていたので、実際はその用を済ませてから帰るつもりなのだろう。

「なあ、兄さん。ブラフガ党が国家転覆を狙っているって、本当のことなのかな?」

 ファンダルグが居なくなったとて、空気が良くなるということも無い。聞かされた言葉の重みが漸く実感しはじめる分、森からの帰り道よりも深刻な気分になっているのだろう。

「どうだろうね………裏付けなんて取れるわけないって思ってるから、ああいう風に話したんだろうけど、雰囲気的には、大凡の事実を語っていたと思うんだよなあ………」

 ブラフガ党の行動目的。ラージリヴァ国を滅ぼすなどという荒唐無稽な話なのだが、それでも、実行してしまえそうな力をブラフガ党から感じるのだ。

 今日、明日ということでは無いのだろうが、それでも、ルッドがこの国に滞在する間に、本格的な動きがあるかもしれない。

「で、実際問題、ファンダルグさんにはああ言っていたけれど、あなた、どうするつもりなの?」

 ブラフガ党の狙いに対して、ルッドは好き勝手をすると返答したが、あれには強がりが混じっているのだと、レイナラは気付いていたのかもしれない。

「どうしようも無いっていうのが実際ですよ。国家転覆なんて事態に無理矢理関わろうとすれば、国かブラフガ党かを敵に回すことになるでしょう? そんな状態で上手く立ち回れる自信は、まだありません」

「国に直接訴えるのは駄目か? 悪い組織が悪い事企んでるって言えば、動く人間はいるんじゃねえの?」

 キャルは本当に国が滅んでしまうかもと心配しているらしい。自らが生まれ育った場所が無くなるかもしれないという恐怖は相当なものだとは思う。

「僕らみたいなのにも話してるくらいだから、実際にそれを企んでいる場合、ラージリヴァ国側も既に勘付いていると思うよ。逆に企みに気付いていないっていうのなら、僕らが何を訴えても無駄さ」

 要はラージリヴァ国側にブラフガ党と戦えるだけの有能性があるかどうかの問題なのだ。有ればとっくに対策を立てているし、無ければどんな具申だって馬鹿な話だと無下にされる。どっちにしたところで、ルッド達が入り込む余地などどこにも無い。

「じゃあ、兄さんの言う通り、どうしようも無いから何もしないってのが一番なのか?」

「………何かをしたいとは思うよ?」

 ただ、それが何であるかすら、今のルッドには分からなかった。やはり自分は未熟だ。この未熟を補うためにはどうするべきか。恐らく、これからはその事に悩む日々が続くだろう。

「多分ね、あなたには出来ることがあるだろうと思ったから、ファンダルグさんは、ここにあなたを連れてきたのだと思うわ」

 気落ちするルッドを見て、励ますつもりなのだろうが、レイナラはそんなことを口にする。

「出来ること? 単に知り合いの頼みを聞いただけだと思いますけど………」

 それも暇つぶし程度の頼みだ。ドードリアスというオークだって、ブラフガ党の狙いだけを話して、何をして欲しいかなどは一切話さなかった。既に出た組織への心配を、他人にぶつけているに過ぎないのだ。

「本当にそうかしら? 単なる頼みごとで、あそこまで用意周到に事を運ぶなんて、それなりの意欲が無ければ無理よ? きっとそれをするに見合った期待があなたにあるのだと思うの。商人さんだって言うのなら分かるはず。ファンダルグさんは、あなたに依頼料と違約金まで払うって言っていたんだもの」

「そうかも……しれませんね」

 商人に何かをさせるには相応の対価が必要である。そうして今回の依頼については、終わってみれば、依頼に見合わぬ対価を支払われた事になる。何せ、人の話を聞くだけで終わったのだから。

 だから、ファンダルグが払った依頼料は、何か行動してみせろと言うファンダルグなりの後押しだったのかもしれぬ。

「姉さん、随分と優しいことを言うじゃん」

 茶化す様な態度で、キャルはレイナラへ話しかける。確かに、何時ものレイナラらしくない態度だった。

「期待云々であれば、私だってあるのよ。オークさんが言っていたでしょう? ブラフガ党の党首の目的は、消え行く異種族の名を人々の間に残すことだって。確かにそういうことが出来ればと思うけれど、だからって他人を巻き込むのはうんざり」

 レイナラの言葉でルッドはある確信を得た。というか、ルッドに気付かせるための言葉だったのだろう。

「レイナラさん……あなた、もしかして………」

「そうよ。私も異種族。もう随分と人間寄りになっているけれど、エルフと呼ばれる種族の一員なの」

 そう言ってレイナラは自前の長い黒髪を掻き分け、髪に隠れていた耳を露出させる。人間よりかは多少尖って長い耳が、そこには存在していた。




 来る時も野宿をしたのだから、帰る時だって野宿をしなければならない。ホワイトオルドからホロヘイへの帰途において、日が落ちれば進む足を止めて野宿の準備をする。同行者が一人減り、馬車に乗せている荷物も空いたため、今回はテントを張らなくて良いのが楽な部分だった。

 ただ暖を取る必要はあっため、馬車の近くで火を焚く。見張り役になった人物は、この火の近くで、ひたすらに交代を待たなければならなかった。

「………交代の時間にはまだ早いわよ」

 夜の闇に対して小さな火が辺りを照らす中、馬車から出たルッドは、焚き火の近くで見張り番をしているレイナラへと近づく。

「まあ良いじゃないですか。次は僕の番なんですし」

「そうね……ただ、暫くは私の時間なんだから、それまでここに居させて貰うわよ」

 どうやらレイナラは、こちらの意図に気付いてくれたらしい。ルッドは彼女と少し話をしたかったのだ。

「昼間のエルフだってカミングアウトには、結構驚きましたよ」

 焚き火近くに置いた折りたためる携帯椅子にルッドは座る。焚き火を挟んで正面には、同じようにして座っているレイナラの顔があった。

「本当に? あなたなら、とっくに気が付いてたんじゃないかしら?」

 そんな予感はしていた。ホワイトオルドに来てから、レイナラの様子は明確におかしかったからだ。

 何時もみたいに旅先で酔っぱらわないし、異種族の墓参りなどをするかと思えば、ドードリアスとの会話では、突如として感情を昂ぶらせて怒るなど、護衛として優秀な彼女らしくも無かった。

 そしてなにより、異種族に関して詳しいという点があった。この大陸に住む人間なら誰でも知っている事以上に、彼女は異種族についての知識を持っていた。キャルが持つそれとの差を比べれば良くわかる。

「薄々はって感じですね………失礼かもしれませんけど、やはりエルフも他の種族と同様に?」

「ええ。というか、異種族の中でも代表格として扱われてるわ。異種族衰退の象徴としてね」

 かつては大陸でもっとも繁栄した種族であったのだと、レイナラはエルフについて語る。もっとも、その繁栄によって他種族との繋がりが出来た結果、衰退が始まったのであるが。

「オークと同じように、純粋なエルフはもうこの大陸のどこにもいないの。みんなハーフエルフって事ね。知ってる? オークとエルフって、実はそんなに違う種族じゃあないのよ」

「それは人間よりも近いって意味ですか?」

 レイナラの外見と、あの森で出会ったオーク達は、かなり違っている様に見えるのだが。

「ええ。エルフという種族はその土地の気候や状況に大きく適合するの。何代か経てば、体の外見まで変わってくるそうよ。オークっていうのは、森林地帯に完全に適合したエルフってわけ」

「なるほど、驚くべき話です。今でもそういう特徴は?」

 どんな環境でも適応できるというのは、生物にとって重要強みとなる機能だ。大陸で一時とは言え繁栄した理由も分かる。

「殆ど残っていないわ。気候が大きく違う場所に行ったら、その特性の副作用なんでしょうけれど、ちょっと気分が悪くなるくらい。お酒で紛らわす事ができる程度よ。伝え聞く話なら、高熱を出して寝込むほどの反動があったそうだから、随分と血が薄れていることがわかるわね」

 だから旅先ではいつも酒を飲んでいたのか。いや、それ以外の場合でも酒場に入り浸っているため、単に本人が好きだというのもあるのだろう。

「………エルフは……異種族は、人間を恨んでいたりするんですか?」

「随分と大胆な事を聞くのね。ブラフガ党の党首が国を滅ぼすって話から、そんなことを想像したの?」

 薄ら笑いを浮かべるレイナラ。どこか自嘲的な感情が込められたそれを感じるのは、気のせいだろうか。

「………私が生まれた場所はノースシー大陸の西側にあるクウシルという地域でね、ホワイトオルドほどじゃあないけれど、異種族の保護区があるのよ」

 さっきまでの話に何の関係があるのかとは聞かない。きっと、彼女にとって重要な話なのだろうし、既に独り言に近い話であったから。

「保護区と言っても、宿場町としても機能していたから、外来の人間も多かったわ。宿を取る人達には、伝統芸とかを見せたりしたわねえ。この剣の技術も、そういうので身に付けたの」

 レイナラは腰に下げた剣を鞘ごと膝に乗せる。その動きだけでも滑らかで美しさを感じた。戦闘だけの技術でなく、人を魅せるための物でもあるからか。

「一族の伝統って感じでね。私、弟がいるのだけれど、二人そろって両親に剣の扱い方を教わるの。随分と変でしょ」

「生きるための糧であれば、別に不自然なところはないと思いますけど………」

 家系が残す伝統の技術とは、その一族が生きるための術であるはずだ。ならば、どれだけ変に見えようとも、受け継ぐだけの正当な理由があるのだ。

「それがね……違うのよ。なんというか、私達が学んだ技術もエルフと一緒なの。古臭くって、見ていてもそれほど面白いものじゃあない。多分、私達を保護する名目に使われてるのね。いくら滅びゆく種族だって、ただ守ってあげるために支援するのは気が咎めるって話なのよ、きっと」

 実際、剣を芸に使わなくても、生きていけるだけの蓄えは何故かあったらしい。恐らくはその地域の領主が支援してくれていたのだろうとレイナラは語る。

「一年に一回は、その領主様が芸を見に来るの。剣で舞を踊るって言えば良いのかしら。そういう芸をするのだけど、嫌でも観客の顔が見えるのよね。ちっとも面白そうじゃあ無かったわ。でも、真面目にこっちを見ているの。多分、それが仕事だったのよ」

 ちゃんと技術が継承できているかの確認だ。その技術が何の役にも立たない物だとしても、それを名目で支援をしているのだから、受け継いでもらわないと困る。そんな意思が背後にあったそうだ。

「いったい何のためにこんな技術を学んでいるのか……わからなくなる時が何度もあったわ。弟はそれに耐え切れず、家を出て行った。そうこうしているうちに、両親が流行り病で倒れて、残ったのは私一人」

 結局、レイナラは弟と同じ道を選んだらしい。そうして、今は護衛業を営んでいる。碌な仕事で無いものの、剣の技術が活かせるのはどこか喜ばしいところはあったそうだ。

「憎まれるのは良い。蔑まれるのだって構わない。恨まれるのもまた一興よ? 罵倒されたって我慢できる。けれど、憐みの目で見られるのは耐えられない。それだけなのよ」

 こんな考えが異種族全体に広がっている。だからこそ、ブラフガ党の党首の狙いが、たまらなく魅力的に見えてしまうのだろうとレイナラは語った。


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