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北風の道  作者: きーち
第七章 ホワイトオルドの調査
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第四話 調査報告:対象と接触中

 ファンダルグの背後から現れた人影。それもまたオークだった。だが、他のオークとはその容貌が大きく違っている。

 なんというか、おかしな表現になるのだが、他のオークたちよりオークらしいのだ。肌の色はより色濃く、耳もより鋭い。頑強そうな歯は頬の上からでも判断できるし、その四肢は太く長い。服は着こんでいるものの靴は履いておらず、そんな状態で森の地面を踏みしめることができるというのは脅威であろう。

「彼の名前はドードリアス・ベイグン。この森に住まうオークたちの長です」

 そう言ってファンダルグは一歩下がる。代わりにドードリアスと呼ばれたオークが一歩ルッド達へ近づいてきた。これから話すのは彼だということか。

「………ファンダルグが連れて来た、他国から来た商人というのは、君か」

 ドードリアスの口からは、想像以上に知的な声質が飛び出す。偏見まみれの見方なのだが、彼の様な外見で森の住人ともなれば、もっと野蛮な存在だと思っていた。

「ファンダルグさんが何を狙っているのかは分かりかねますが、確かに僕はブルーウッド国から海を渡ってこの国まで来ました」

 ここで反抗したって仕方あるまい。正直に自分の身分を明かす。

「名前はルッド・カラサ。それも知っている。中々、変わった考え方をする人間だともな」

 ぎろりと睨みつける様な目をしているドードリアスだったが、何故かそこから穏やかな感情が見て取れた。オークは温厚な種族であるとファンダルグが話していたが、事実なのかもしれない。

(だったら、こうやって取り囲むのも止めて欲しいんだけどな………)

 未だに周囲から圧力を感じる。今、ここにいる者すべての目線が、ルッドとドードリアスの会話に注目しているのであろうことは良くわかる。

「それで、僕のことをそんなに知った後に何を話すつもりなんです?」

「幾つか質問を……だな。まずは最初に言っておきたいことがあるのだが、この度の非礼を詫びさせてもらいたい」

「え?」

 突如、頭を下げるドードリアス。一体何のつもりなのか。

「ファンダルグの奴には、気になった者をここへ連れてくる様に頼んでいてな。手段は問わないとも伝えてあった」

 その結果がこれか。人を案内するにしては、些か乱暴が過ぎる様にも思える。それほどまでに、この場所に人を連れてくることが重要だという事か。

「ここにはドラゴンの骨しかありません。人によっては大切な場所となるかもしれませんが、僕にとっては、ただそれだけの場所です。そんな場所と僕に、いったい何の関係が?」

「そのままだな。その骨を見て、どう思う?」

「どうって………いったい何を聞きたいんですか?」

 骨は骨だろうに。そりゃあドラゴン程巨大な物であれば、骨であろうとも見応えがあるものの、何か面白い感想を口にできる様な物ではあるまい。

「そのドラゴンは、かつてこの森に棲んでいた。ホーンドラゴンと言い、ただ一体だけが長らくここで生きていたのだ。仲間は誰もいなかった」

「一体だけ? ドラゴンだって生き物でしょう? 一体だけじゃあ、繁殖もできない」

 まさか単体で増えることができる生物ということでも無いだろう。

「その通り。ドラゴンだけあって、その寿命は長かったそうだが、つがいを見つけられず、その半生を無為に過ごすことになったそうだ。そしてこの場所で今は眠っている。そのことをどう思うね?」

 ドードリアスの質問が意味する物が分からず、ルッドは考え込む。どうせ向こうもすぐ答えを返して欲しいとは思っているまい。だからこそ、良くわからぬ質問をしているのだ。「…………そういう運命だったんでしょうね」

 考えたところで、そういう答えしか出て来なかった。

「運命?」

「はい。どこで何かをしておけば良かったとか、もっと違う選択肢があったとか、そういうのじゃあ無いと思うんですよ。だって、このドラゴンはこの森に棲んでいて、相手がいなかったというのは、仕様が無い状況じゃないですか」

 理不尽な状況だろう。知恵があるなら、この世を恨む叫びでも上げたかもしれない。だが、やはりどうしようも無いのだ、それは。だれかのせいでも無ければ、自身のせいでも無い。巡り合わせが悪かったと神様や運命を呪うのがもっとも健全に違いない。

「ならば、あのドラゴンの一生そのものが無為だったとお前は言うのだな?」

「そんな馬鹿な」

 どうしてその様な極端な結論に至ってしまうのか。ルッドにはそれが分からない。子孫を残さずに死んでいくことになったのは事実であるし、それは仕様が無いことだろう。だが、それだけで一生が無駄になるというのは、随分と可笑しな理屈だ。

「ドラゴンはこの森を出て行くことだってできたでしょう? 周囲に当たり散らすことだってできたはずだ。けれど、今、ドラゴンは森の中心で、こうやって骨になっている。その尾はまるで、自分の運命を受け入れてる様にも見えます」

「ドラゴンは………何も残さず死に行くことを受け入れていたと?」

「骨なら残ったじゃあないですか。そうして、あなた達がやっていることなんでしょうが、こうやって、死した場所を奉る人もいる。それって、十分、何かを残したってことじゃあないですか?」

 別に自らの血を残すことだけが生きた証というわけでも無いだろう。確かに生きる上で大事な物の一つは絶対に残せないかもしれない。だが、他に残せる物だってあるはずだ。

「血を残せなくとも、また別に残せる物はあるはず………か」

 まあ、ドードリアスの言う通りの結論になるだろう。あのドラゴンの骨を見て、言えることはそれくらいだ。

 だが、まだ話せることなら別にある。

「で、そのドラゴンについての話と、あなた達はどう関係するんです? さっきまでの質問は、まるでドラゴンに感情移入したあなた達の事に聞こえたんですけど」

 血を残せずに、ひっそりと森の中で滅ぶドラゴン。それは事実だったのだろうが、今、ここにいるオーク達の比喩でもあったのだろうとルッドは考える。

「………確かに、ファンダルグが連れてくるだけのことはある……か」

 ドードリアスのその言葉は、ルッドが彼の質問へ正当に答えたことを意味していた。彼らの狙いが何であるかはまだ分からぬのだが。

「でしょう? まだ若いというのに、独特の観念を持っていらっしゃるのですよ、彼は。さらに他国の人間だというのもまた面白い」

 ファンダルグがドードリアスの横に並びながら話している。どうにも試験を受けている様で居心地が悪い。試されるというのは、試す側と試される側で上下関係ができてしまうからだ。

(僕は別に、あなた達に選別されたいわけじゃあないんだよ)

 苛立つものの、それを表には出さない。まだルッド達は危険から解放されたわけでは無いのだ。ドードリアスは謝罪したものの、こちらの命を狙っていないという保証にはならない。ルッドは話し相手のことについて、まだ何も知らないのだから。

「商人よ。今、どうして自分がこの様な質問をされたのか、と思っているな?」

「考えを見抜かれたって驚きませんよ。誰だって、こんな状況になればそう思うものですから」

「ふっ。生意気に物を言える胆力もあるか。良いだろう。我々がどうして君の様な人間をここに呼んだかを話そう。それと言うのもな、君の言う通り、異種族に関わる話なのだ」

 ルッドは別に勇気があるわけではない。この程度ならば、まだ相手を傷つけぬ言葉だという打算があっての言葉だった。そのことが分からないのか、それとも分かったうえで評価しているのか。とにかくルッドは、ドードリアスに認められ、次の段階へ話を進めることになったらしい。

「異種族……あなた達、オークに関わる話ですか?」

「オークだけじゃあ無い。異種族と言うのなら、エルフも含むべきじゃあないか? まあ、そう意味は変わらんが………そうだな。私とそこの者を見て、どういう風に見える?」

 ドードリアスは自らを指差した後、次に彼の近くに存在する別のオークを指差した。

「こう、失礼かもしれませんが、どうにも彼の方が人間に近く見えるというか………あなたの方がオークらしい」

 ルッドがそれを伝えると、指差された男のオークが、何やら複雑な表情を浮かべる。その表情はどういう感情が含まれているのか。

「そうだ。これを言うのは、我々にとって酷く侮辱的な表現になるのだが、他国の人間である君に分かりやすく言うぞ? 彼は人間化しているのだ」

「は?」

 言葉の意味が分からなかった。人間化とは言ったどういうことだろう。

「我々は異種族と呼ばれている。そしてその事に誇りも持っている。我々は人間とは違う外見と力を持った、確固たる種族であるとな。実際、その自負こそが過去の軋轢を生みだした」

 過去とは、かつてこの大陸であったという人間と異種族の対立のことだろう。

「異種族であるという自負が、衰退していく種族であるという現実に耐えきれなかったって感じでしょうか?」

「端的に言えばそうなのだが、事態はもっと深刻だった。我々は異種族であったが、その実、人間と変わらなかったのだよ」

 人間と変わらない。それは生活様式や文化の本質が変わらないという意味かとルッドは問い掛けようとしたが、ドードリアスは先にそれを察して、首を振る。

「もっと直接的な意味だ。我々は、根本的な部分で人間なのだ。そして、人間もまたオークでありエルフでもある」

「ええっと」

 まるでなぞなぞだ。勿体ぶらずに教えてくれれば良いのに。

「血の話だよ。異種族というのは、元は人間なのだ。種族としての機能を極端化させた人間。それを異種族という」

「本気で言ってます?」

 目の前のドードリアスは、どこをどう見ても、人型であるという以外は人間とは違う要望をしている。

(いや、でも待てよ? 他のオークがそう言うのなら、少し納得しそうな気もする)

 ドードリアスは他のオークを人間化していると表現したが、つまりはそういうことなのかもしれない。

「その証明が確かにある。異種族と人間は混血できるのだ。ハーフエルフという異種族との混血を現す様な言葉が、この大陸には存在しているからな。そうして、血は人間の方が圧倒的に濃い。というか、血の混じりによって誕生するのが人間と言うべきかな?」

 異種族というのは、人間が交配する中で選別された結果、その姿を変容させた者達であるとドードリアスは説明する。

「それって、随分と人間側に有利ですよね」

「事実そうだ。接触が多くなるほどに、異種族は人間と交わって行く。結果、起こるのが衰退だ」

 その流れは止めようが無いという。混じりあった血は分けることはできず、種族の奥底に留まり続ける。

「接触当初なら、血の混じりあいをなんとかできたかもしれない。しかし、衰退の兆しが見え始めた時には、引き返せぬところまで来ていたのだ。我々とてオークと呼ばれているが、その血の幾らかは人間だ」

「素人考えで申し訳ないんですけど………血の選別を行うことができないんですか? そりゃあ少し強引かもしれませんが、種族を残すって目的なら、そういう方法も………」

「無駄だったのよ。それも」

「レイナラさん?」

 何故かルッドの質問にレイナラが答えた。表情は酷く険しい。不機嫌になっていることが見るだけでわかる。

「どれだけ血が混じりあっているかなんて、外見だけじゃあ判断できないし、どう考えたって異種族同士だっていう両親の子どもが、人間に近しい姿だったこともあるわ。本当の意味で純潔なんてどこにもいない。ただ衰退し、消えていく過程の種族があるだけなの」

 表情がますます険しくなる。そうして睨み付ける様にオークのドードリアスを見ていた。

「けど、そんなことは異種族なら誰だって知ってるわ! わざわざ、人様をこんなところに連れてきて、長々と語る様なものじゃあない!」

 苛立ちをドードリアスにぶつけているレイナラ。今までの会話のどこに、彼女を怒らせるものがあったのだろうか。あまり昂ぶる様ならば、ルッドが止めなければなるまい。ここでオーク達と敵対すればことである。

「ふむ……その通りだが………そうか、なるほど。君もか」

 ドードリアスはレイナラの怒りの意味を理解したらしい。口では語らぬ以上、それがどういうことなのか、ルッドには完全に把握できない。

「ルッドさん? 手っ取り早く教えてあげる。異種族の衰退がどういうものかを。あなたが今話しているオークと、その隣に立つ人は同族よ。恐らく血だってそれほど離れていないはず」

「え?」

 レイナラが示すのは、ドードリアスともう一人。ファンダルグだった。彼ら二人は同族である。とてもそうは見えぬのだが、レイナラはそう説明した。

「ええ。その通りですよ。私、一応はオークです」

 ファンダルグはその人間にしか見えぬ姿で、レイナラの言葉を肯定する。

「オーク? ファンダルグさんが?」

「はい。と言っても、こうまで人間に近しい姿になると、ゴブリンなどと呼ばれたりするのですよ。だってオークとも呼べぬ姿でしょう? けれど、人間とも少し違うのです」

 ファンダルグが両手を広げる。自らの姿をちゃんと見ろということか。

「ゴブリンですか? どうにも……そういう特徴が見えてこないというか………」

 ファンダルグは不気味な相手ではあるものの、人間の姿はしているとルッドは思う。

「私……幾つに見えますか?」

「幾つ? 年齢のことですか? 正確には分かりませんけど、60代は越えているのではないかと………」

 ファンダルグは老人だという認識がルッドにある。だからこそその動きが不気味なのであり、その行動一つ一つが何かを企んでいる様にも見えるのだ。

「残念ながら外れです。私、これでも34歳でして。いやはやお恥ずかしい」

「マジかよ!?」

 ルッドも驚くが、キャルも同様に驚いた様子。皺の多さや腰の曲がった背など、どう見ても老人のそれであった。しかしそれは認識違いということか。

「混血の具合によるのでしょうが、皺が目立つ様なのです。背も低いままだ。体勢だって変です。人間化がすすんだオークの典型的な外見でしてねえ。それをゴブリンと呼ぶ。もう随分と人間寄りの姿なのですが………。ちなみにドードリアスさんは私の叔父に辺り、私の姓も同じくベイグンです。つまり、彼と私はその程度しか血の隔たりが無い」

 例え外見的に異種族として保っていたとしても、その実、どれほど人間の血が混じっているかわからない。周囲のオーク達を見れば、既に万遍なく人間の血が混じっているのだろうことが分かる。そうして、これまでの話から考えるに、それは日を追うごとにより酷い状況になってきている。

「種族の衰退理由なんて今さら説明するために彼をここまで案内したの!? いい加減にしてちょうだい!」

 レイナラの怒りは既にヒステリックな物にまで発展している。これまでの様子を見れば、事情を知らないルッドでも、彼女が何に怒っているのかが分かり始めてきた。

「異種族の衰退の説明は、これから話すことに必要な知識だからだ。苛立つ話なのは私とて同じだよ。お嬢さんは少し黙っていくれないか」

 ドードリアスは威圧感のある目と声でレイナラを牽制する。彼女はその声に負けずに睨んだままだが、黙りはした。

「さあ、これからが本題だ、商人よ。ブラフガ党については、勿論知っているな?」

「………またそれですか」

 事態にファンダルグが絡んでいる時点で、そうだとは思っていた。何が今回の仕事はブラフガ党の仕事とは無関係だ。どう考えても関係する話ではないか。

「あなたの隣にいる人物が、ブラフガ党の構成員であることくらいですかね。僕が詳しく知っていることと言えば」

 ルッドはファンダルグを見る。これは契約違反だぞと目で牽制する目的もあった。見る対象は涼しい顔をしたままであるが。

「そうか。ならば、私も元ブラフガ党員だったというのは知らないわけだな」

「あなたが………ですか?」

 疑問を返したものの、この状況ならば意外では無い。ファンダルグとドードリアスの結びつきが、血族であるという以外にもあっただけの話だ。これだけの人員を動かす理由にもなるだろう。ブラフガ党関係の仕事ならば、人だってそれなりに動く。

「私が保証しますよ。彼はブラフガ党員でした。それも、元幹部という立場だったのですよ。確か『岩喰らうドードリアス』などと呼ばれていましたっけ?」

「止めてくれ。ああいうのは呼ばれている時はまだ良いが、過去のこととして見ると、随分と恥ずかしくなる」

 まあ、あだ名を付けられるというのは恥ずかしいものだろう。しかし、今ここで聞かされている側としてはどうでも良い話だ。

「それで、ブラフガ党の元幹部が、ただの商人を呼び出した理由というのは?」

 早く続きを話せという文句を含ませて、ルッドは質問をする。

「話の主題は、何故、私がブラフガ党を抜けたのか……だな。ま、直接的に言えば、現在のトップとそりが合わなくなったという事なのだが。それと言うのも、現在ブラフガ党の党首が推し進めている一大作戦について、私が反対したのだよ。結果、組織を抜けることになった」

「その一大作戦というのが、僕らと関係しているってことですね」

「君らがというより、この大陸中が、だな。勿体ぶって悪かったが、今のブラフガ党の狙いを話そう。それはラージリヴァ国を滅ぼすことだ」

 一瞬だけで無い。数秒間、ルッドの思考は停止していた。いや、停止したというより、ドードリアスの言葉を理解するために、全機能を使っていたと言うべきか。

 それだけ、ドードリアスの口から出た言葉が突拍子も無い物であったのだ。真っ先に返答できたのは、頭の柔らかいキャルであった。

「それってさ……国家…転覆を狙ってるってことか?」

「ああ、そっちの方が手っ取り早い表現だったな。そうだ、それを狙っている。なんだ意外そうに。ブラフガ党にはそういう動きもあるという噂くらい、聞いたことがあるだろう」

 確かに、ブラフガ党には国家と敵対する意思を持った動きがあるとは聞く。例えば国の中にもう一つ国を作ろうとしているなどがそれだ。ラージリヴァ国が決めたルールとは違う決まりで動く。それはそれで国家と敵対する危険で大きな行為であるが、ラージリヴァ国自体を滅ぼすまでは行かない。

「………正気の沙汰とは思えませんが」

「同感だな。だから私はブラフガ党を抜けたんだ。しかし、そうでない構成員も大勢いた。こいつもその一人だな」

 ドードリアスがファンダルグへと顔を向けた。ファンダルグの方はと言えば、笑って頷くだけだ。

「私も色々と思うところはあるのですが、今の党首の意向には従うつもりでいます」

「狂ってる! 国を滅ぼそうなんてすれば全面的な戦いになるし、いくらブラフガ党が大きな組織と言っても、それはラージリヴァ国という器があってのものだ! 簡単に潰される」

 まるで彼らに誑かされている様だとルッドは思う。そんな馬鹿な選択をする組織が存在するものか。一方で、この話が真実で無いとするのなら、わざわざこんな回りくどい方法で呼び出すだろうかとも思う自分がいた。

「丁度、私も党首に対してそう言った。だが、彼の意思は変わらなかったなあ………。それに、党首の意向を知らぬままに動く党員も多くいる。指揮系統の意思統一と末端には動かしやすい人員を配置。例え突拍子も無く狂った考えであろうとも、今のブラフガ党はそれを実行するよ」

 党首の狙いが分かりながらも、従う人間がいるというのなら、それなりに実行力のある作戦を練っているに違いないのだろう。だが、それでも分からぬ判断だ。

「万が一、国を滅ぼしたところでどうなるんです? ブラフガ国でも建国するつもりなんですか? 馬鹿らしい。ブラフガ党は所詮、非合法な組織だ。あくどいことだって幾らでもしてきたはずです。そんな組織が国を作ったところで、まっとうな物を作れるわけが―――」

「考え違いをしてはいけないよ、商人。党首は国を滅ぼすことが目的であって、その後に何かをするつもりはまったく無いのだ」

「………え?」

「理解できないだろうなあ。元幹部であった私も、彼の意向をすべて理解できたわけじゃあなかった。だが気持ちは分かる」

 ドードリアスは何を言っているのだろうか。国を滅ぼすこと自体が目的? そんなのは人を殺すことが目的で人を殺したと言っている様な物だ。人であれば殺人鬼であるが、国であればなんだ。魔王か。

「党首の考え。それを理解するためには、やはりそこの骨が重要になってくる」

 ドードリアスが指差す方向をルッドが見れば、そこにはドラゴンの骨が存在している。異種族の衰退を語る上で利用された、ドラゴンの骨が。

「党首はな。あの骨を見て、君とまったく同じことを言ったのだ。滅び行く種族でも、残せる物はあるとな」


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