第三話 調査報告:遭遇する
「お墓ですか……言われてみれば、それっぽく見える様な……って、何してるんですか!」
ルッドが石塔で作られた墓を眺めていると、隣に立っていたレイナラが、酒瓶の飲み口を地面へ向けた。
蓋も外されており、中身がドボドボと地面へ零れていく。大した量は入っていなかったのか、すぐに酒瓶は空になった。
「いえ、御供えってこういうので良いのかなと思ったのよね」
「誰かの墓を見に来たのなら、そこに酒瓶ごと置けば良いじゃん」
レイナラの行動を理解できないらしいキャル。てっきり、この国の風習か何かだと勘違いするところだった。
「誰か一人にってわけじゃあ無かったのよ。この地で死んでいった異種族達に、何かを捧げたくなったというか………」
レイナラ自身も、自らの行動に説明がつけられぬのであろう。墓参りという行動自体が、理屈とは別の部分にある物なのだから。
「あの………そうは見えないんですけど、もしかしてレイナラさんって―――」
「さあって! 辛気臭いことはこれで終わり! 明日の件は、危険があれば私もできるだけ何とかしてあげるわよ! だって雇用主さんだものね」
ルッドの質問は、レイナラの言葉によってかき消される。偶然なのか、それともわざとか。話したくないこともあるだろうとルッドは考え、質問はこれ以上しないことにした。
翌朝。さっそく出発することになったルッド達。村を出てドラゴンの発見報告があったとされる湖と森のある方へ向かう。
(昨日、僕らが色々と対策を練っていたってことは、この人も同じく、何かを準備する時間があったってことなんだよなあ………)
並んで歩くファンダルグを横目で見ながら、ルッドは考える。いったい彼が何を仕掛けてくるのか。それはもうあと少しで分かるはずだ。
「さて、ここからはそれぞれの調査場所へ向かうことにしましょうか。どこに向かうかは、さきほど決めた通りで宜しいですね?」
ファンダルグが立ち止まり、他の3人に向かって尋ねて来る。
「僕とファンダルグさんが森の方へ、キャルとレイナラさんは湖ってことでしたね」
案の定と言えば良いのか、やはりファンダルグの狙いはルッドらしい。命に関わる物で無ければ良いのだが。
「ドラゴンを発見した時は、あまり刺激せず、ゆっくりとその場で観察を続けてください。やはり相手は強大ですからね」
そんな忠告をするファンダルグであるが、ルッドはドラゴンの存在が、あくまでファンダルグの口からでた嘘であると思っている。なので、発見した際の行動云々の説明についても、なんだか茶番に聞こえてしまう。
「発見できなかった時はどうするんだ?」
ルッドとは別行動をする予定になっているキャルが、ファンダルグに尋ねる。彼女はこれからこっそりとルッド達を尾行して貰うことになるため、本当にドラゴンが存在していたとしても、湖で発見できないことは確定している。
「そうですねえ………丁度、あの太陽が頂点から少し落ちる程度の時間帯で、一旦、ここに戻ることにしましょう。そうして、今後の方針を再度決定します」
つまり正午を過ぎるまでに、ルッドの身に何かが起こる可能性があるということだろうか。
(森の中で、急に襲われるっていうくらいなら、まだ覚悟をしているさ)
キャル達だって助けに来てくれるだろう。問題は、もっと厄介な事態に巻き込まれることだ。
(例えば……実はブラフガ党への勧誘がまだ続いているとかだと、すっごく厄介だ)
ここだけで終わる話で無いとなれば、酷く胃が痛くなる。不安の種が心中に残り続けることほど嫌な物はあるまい。
「調査と言っても、地面を探ったり糞を探したり? 素人考えだと、それくらいしかできないけれど、それで良いのよね?」
「勿論ですとも。生物の調査は質で無く、量こそが大切です。一人でどれだけ頑張ったところで、調べられる範囲は限られていますから。人が多ければ、それこそ目で見るだけですら調査となる」
ドラゴンは大きいだろうから。むしろそれくらいの探索でも良いともファンダルグは口にする。
(これでますます怪しくなった。ドラゴン調査への真剣さが無いんだもの)
やはり何か別に目的があるらしい。その目的がわからぬままに、ルッド達は別行動を取ることになった。
ルッドとファンダルグはチェリーヒルと呼ばれる森へやってくる。幾ら小さい範囲とは言え森は森。注意しなければ、方角をすぐにでも見失ってしまいそうになる。
「こっちでも、こういう森林がちゃんとあるんですね」
故郷の森を思い出して、ルッドは少し感慨深くなった。子どもの頃は、こういう場所で良く遊び、迷子にもなった。
「大陸南部に限られていますがね。それに成長も遅いから、資材としてあまり有用ではありません」
かつてはこの森も、もっと範囲が広かったそうだが、伐採が始まるとすぐにその面積を減らし、歯止めが掛る頃には、現在の範囲しか残っていなかったそうだ。
「それでも、森を残したままにしているというのは良いことだと思いますよ」
先が見通せぬ地主が所有する森林などは悲惨だ。木々を取り尽くし、子孫に荒れた土地しか残さない。
かつてルッドの故郷であるブルーウッド国も、その様な危機に陥ったことがあるらしく、結果、植林事業が活発化したという経緯があるそうだ。ルッドが生まれるずっと前の出来事だと聞くが。
「已むに已まれぬ事情というものがありましてね。まあ、その事情も、徐々に意味の無いものとなっていますが………」
「はあ? その事情とは?」
木々の合間を抜けながら、ルッドはファンダルグに尋ねる。視線は向けない。余所見をすれば、それだけ自分の位置が分からなくなる。
「何から説明すれば良いやら……少々、ややこしい話になります」
「じゃあ別に良いです」
気にはなるものの、ファンダルグと長く話し込みたくないという思いがあり、ルッドはここで話を切り上げようとする。
しかし、ファンダルグの方はまだ話を続けたいらしかった。
「そう言わずに、まあ聞いてください。とある種族がね、この森に住んでいたのです」
「とある種族?」
土地に付随する話であろうから、異種族に関する話だろうか。こちらが話を促さなくても、ファンダルグは喋り続ける。
「緑と茶、そう例えばそこらに生える木々の様な色をした肌。体格は大きい者もいれば小さい者もいた様です。髪の毛は生えておらず禿頭で、鋭く伸びた耳だけが目立っていた………」
恐らくは異種族の外見を表現している様だが、聞く限りでは何かの化け物を説明している様にしか思えない。
「これから探すドラゴンの外見って言った方がまだ信じられる説明ですね」
「そうですか? 全体的には人型ですから、それはやはり異種族ですよ。頭だって悪く無い。むしろ、こういう森の中では人間などよりかは的確に判断して動ける」
ファンダルグは木々に囲まれた風景を見渡している。既に森のかなり奥まで来ているので、どこを見ても鬱蒼とした森しか存在しない。
「恐らくその種族は目が良いのでしょうな。遠くを見渡せるというより、木々が立ち並ぶ状況でも、立体的に状況を観察できる。足も勿論、障害の多いこの場所を踏破できる様に頑強で、小回りの利いた動きが可能だった様ですね」
これから森を抱きしめるかの様に手を広げるファンダルグ。ルッドと会話をするつもりも無いらしい。その一方的具合はまるで演説だ。
「歯も逞しい。力強い姿に反して、彼らは草食に近い雑食だった。肉類を食べる時はありますが、その食物の殆どが人の消化できぬ植物で、それを強靭な歯ですり潰してから飲み込むのですよ。食性は生き方も決めてしまうのか、恐ろしげな外見にそぐわぬ、慎重で穏やかな種族なのです」
広げる手を降ろし、だらんとぶら下げてから、ファンダルグは目を閉じた。
「随分と詳しく知っているみたいですね。その種族が本当にこの森で住んでいた姿を、自身の目で見ていたかの様です」
ファンダルグの説明は、空想の生物を語っている様にも思えた。その種族が本当に存在していたのだとして、その生息域であるこの森が随分小さくなった今では、既に血が絶えてしまっているであろうことは予想できる。
「自分の目で見たのです! ドラゴンよりかは現実的なそれをね? 彼らは今もこの森に潜んでいる。人とは違う種族として! 何と呼ばれているか知っていますか? 木々の名から取って、こう呼ばれているそうですよ? オークと」
草や木の枝を踏む音がする。それもあちこちから。まるでファンダルグの言葉に反応するかの様だ。ルッドは警戒のために、懐に何時も入れている短剣を取り出そうとした。
そのルッドの動きに合わせて、音がどんどん大きくなっていく。もしかしなくても、こちらに近寄ってきているらしい。
「私は知識としてでなく、実感としてオークを知っています。この森に侵入する者は、常にオークの監視下にあるのですよ。ほら、そこの草むらにも!」
ルッドはファンダルグの指差す方向を見る。そこには飛び出る人影が存在していた。そうして影はルッドに迫ると、その体に掴みかかってきたのだ。
「うあっ! って……レイナラさん!?」
ルッドに掴みかかってきたのはオークでもなんでも無く、レイナラだった。隣にはキャルも立っており、二人共、何故か汗を流している。随分と焦っているらしい。
「いい? 理由は後で説明するから、すぐにここから逃げるわよ!」
「おやおや、突然現れて何を言っているのやら。湖にはドラゴンがいませんでしたな?」
茶化す様に喋るファンダルグを、レイナラが睨み付ける。
「い、いったい何が………」
「いいから早く!」
レイナラに引っ張られて、ルッドはファンダルグから離される。隣のキャルは息も絶え絶えと言った様子であるが、それでもレイナラと共に走っていた。
「とにかくここから離れるわよ! あのご老人、想像以上に顔が広いみたいだから!」
もうレイナラはルッドの手を引いていない。彼女が警戒し、ファンダルグから離れろというのなら、それが正しいのだろうとルッドは判断した。手を引かれなくても、自分の足で彼女に付いて行く。
レイナラは走りながらも、周囲の状況を警戒し、進む方向を決定しているらしい。森の中をジグザグに走行しているが、ルッドにはわからぬ規則性があるのだろう。
暫く走った後に、レイナラはファンダルグがいた方を振り返った。こちらがただ彼から離れようとしたのに対して、彼はその場で立ったままなので、今では随分と距離がある。ファンダルグの姿が小さな粒程度にしか見えない。
「人を大勢で取り囲むなんて、趣味が悪いわね!」
小さな粒に向かってレイナラが叫ぶ。彼女の声に反応するかの様に、森の木々がざわめいた。
(いや、違う。これは多くの人間が、草木を踏みしめる音だ)
ルッドの予想通り、ファンダルグの周囲からは人影が現れ始めた。一人、二人、もっとだ。ファンダルグよりこちらに近い者もいた。
そうして、その近しい者の姿を見て、ルッドは驚愕した。
「緑や茶色の肌……禿頭に鋭い耳! オーク!?」
それは、先ほどにファンダルグが説明した種族の姿に酷似していた。ルッドが想像していたほどに人間離れしているわけでは無かった。
異色の肌はそれほどに濃くは無く、禿頭であるが、耳は一般人に比べれば鋭いと言った程度だ。
「まだ、これだけの変化を残した種族がいたのね………」
レイナラが良くわからない事を呟きながら、現れたオーク達を見ている。いったいどういうことなのかの説明がそろそろ欲しいルッドは、キャルを見た。
息を落ち着かせようとしているキャルは、ルッドの視線に気が付いて、口を開いた。
「姉さんが…あたし達と…おんなじように………兄さん達を…尾行してる…やつらが…いるって………言い出してさ」
「なんとなく事情は分かった。あまり無理に喋らなくても良いよ」
要は、ルッドがキャル達に尾行を頼んだように、ファンダルグも同じく、自分達を知り合いに尾行させていたのだろう。しかも十何人かの異種族に。
「とりあえず包囲は抜けたわ。私達の存在に気が付かなかったんでしょうね。呆気にとられている内に、行動することができたの」
「じゃあ、このまま逃げますか?」
「勿論よ。この数を相手に戦えるわけないものね。しかも相手は、森の住人オークだから」
「森の住人………確かに、彼らはそんな風にも見えますね」
彼らの姿は、恐ろしいほどに森の緑と馴染んでいた。まるでここにいるのが自然であると、種族としての血が証明しているかの様だ。
「また走るわよ。準備は良い? 相手がオークである以上、森の中での移動速度はあっちが有利なの。気を抜けば追い付かれる」
「わ、わかった」
まだ息が荒いままのキャルであるが、それでもレイナラの提案に了承している。ルッドも勿論そのつもりだ。
「逃げるつもりでしょうか! まあ、それも一興!」
遠くからファンダルグの声が聞こえる。それが合図となり、ルッド達は森の木々の間を走り始めた。
体力が続く限りそうしなければ、自分の命は無いと思える。そんな危機的状況だからこそ、途中でめげずに走り続けることができたのだろう。
隣で走るキャルも心配だったが、ここでは他人の心配をする余裕すら無かった。時々、少し離れた場所から石が木にぶつかる音がするのだ。
「投石よ! 気を付けて!」
走りながらレイナラが叫ぶ。オーク達は間違いなくルッド達を追ってきていた。投石による攻撃まで行いながら。
先導するレイナラは、相手の攻撃も加味して、オーク達がどこにいるかを予想しながら森の中を走っているらしい。
既にルッドの方向感覚は失われている。ただひたすらに、森の中をオーク達から逃げる目的で走り続けていた。そうして体力がそろそろ尽きるかもしれないと感じ始めた頃、ある嫌な予感が脳裏に走った。
(なにか……そう、誘導されてないか?)
オークとやらは森の住人などと呼ばれている点からして、この森を巧みに動ける存在のはずだ。
だというのに、走る体力が無くなりかけているルッド達に追い付く素振りも無ければ、時たま来る投石は、近い場所とは言え、ルッド達がいる場所とは見当はずれの方向に投げられている。
「………もしかしたら……やばいかも……しれま…せん…………くそっ」
声を出してレイナラに相談しようとするも、それで体力が尽きてしまった。足が動かなくなり、その場で立ち止まってしまう。
隣のキャルも同様で、彼女は既に地面に膝を突いていた。立ち止まるルッドとキャルを見て、レイナラも同じく走るのを止めている。彼女はまだ走る体力があるのだろうが、それでもルッド達の護衛を優先してくれたのだろう。
「確かに……ちょっと妙ね。敵の罠が待ち受けてるってわけでも無さそうだし」
レイナラの言う通り、森は妙な雰囲気だった。追ってきているはずのオーク達は姿を現さぬし、ルッド達が立ち止まるのに合わせたかの様に、投石による攻撃も無くなった。
「………少し行った場所にあるあそこ。見えるでしょ? どうにも拓けた場所があるみたい。あそこまで歩ける?」
レイナラが指さす方向には、木々が少なくなっているらしき空間が存在していた。もしや、あそこに誘導されていたのだろうか。
少々気になるものの、レイナラはそこに向かってみるらしいので、ルッドも付き合うことにする。走れはしないが、歩くことならまだできる。
心配なのはキャルだ。彼女は歩くこともままならぬと言った様子である。
「仕様が無いわね。彼女、あなたがオーク達に囲まれているのを見て、まだ少し様子見をしようって言う私の意見を押し切りながら、あなたを助けるべきだって飛び出したのよ?」
あの時、真っ先にルッドの方へ向かったのはキャルだったらしい。レイナラの動きが素早いせいで、ルッドの手を引く役は彼女になったが。
「兄さんが………危険な事を…するのを……止めるのが……………あたしの…………」
「はいはい。わかったわよ。ほら、これならまだ動けるわよね?」
レイナラがキャルに近寄り、肩を貸している。よろよろと立ち上がったキャルは、その状態のまま、とりあえず歩き出した。
ルッドも拓けた土地に向かって歩き出す。気を抜けば足の力が抜けそうであるが。
「………なんだ…これ」
木々を抜けた先にあったのは、苔むした土地だった。じめじめとしながらも、ある程度整備されている様子で、木々が生えていないというより、若木を定期的に抜いているのだろう。
レイナラが確か言っていたか。そういう場所は置かれている物は違えど、雰囲気は同様であると。
ここは墓場だ。失われてしまった命に祈りを捧げる場所。ただし置かれている物は、ラージリヴァ国風の石で出来た墓で無ければ、ホワイトオルドの村で見た石塔でも無い。ましてやルッドの故郷であるブルーウッド国風の、木材で出来たそれからはかけ離れていた。
「ドラゴンの……骨?」
木々に囲まれながらも、拓けた土地になっているこの場所で、ただ巨大な骨となったドラゴンらしきそれが、土地の中央に配置されていた。
角から頭蓋骨にかけての輪郭は、ホーンドラゴンと呼ばれるブラフガ党のシンボルマークを彷彿させる形だ。強靭そうな背骨と、そこから生える四肢の先には、鋭い爪が残っているものの、体を支える筋肉などはとうに存在していないため、ただ地面に伏せるのみだ。
背中からはかつては羽として機能していたのだろう四肢とは別の骨が生えており、これもまた重力に従い、地面に垂れていた。背骨の先には尾の骨もあり、長いそれは体全体を包むかの様に丸まっている。
「かつて絶滅した動物のお墓ってところかしら? ほら、不自然な花が置かれてる」
レイナラはドラゴンの腹にあたる部分を見る様にルッドへ促した。確かにそこには、森林内部では生えない様な、鮮やかであるが、どこか薄い色をした花が幾つも置かれていた。
「ドラゴンの墓かよ……え、これって、ドラゴンの発見報告ってことになるのか?」
なんとか息を整えたらしいキャルは、ドラゴンの骨を見てそんな意見を述べる。どうにも、まだファンダルグの依頼内容を引き摺っている様だ。
「その通りですよ! あなた達は私の希望通り、ドラゴンの調査を行って、見事発見したのです!」
ドラゴンの墓に声が響く。どうやら、一足遅れてファンダルグも到着したらしい。それも多くの仲間を連れて。
「あっちゃー。もう完全に囲まれてるわよ? 今度は隙を突いて逃げることもできそうにないわねえ」
ファンダルグがルッド達の目の前に現れると、タイミングを合わせたのか、緑と茶の肌の異種族達も姿を現した。丁度、ドラゴンの墓ごとルッド達を取り囲む様に。
「森の中じゃあ、逃げようも無いと思いますよ。逃げる獲物をここにおいやることができるくらいの技術を持った人達からは………」
ルッドは漸くファンダルグがしたかったことが分かった。狙いについてはまだ皆目見当が付かないものの、ルッドをこの墓まで連れてきたかったのだ。だからドラゴンの調査などという依頼をミース物流取扱社に持って来た。
最終的に、ドラゴンの墓を発見する様に仕向けるため。
「ええ。逃げられると双方ともに労力と体力を使いますから、ここでじっとしてくれるのがもっとも助かります」
おどける様にファンダルグが話す。まるでこちらが恐怖している姿を楽しんでいるかの様だ。
「何が狙いなんです? わざわざこれだけの人員を用意して、まさか僕らを嬲り殺しにするためだったとかじゃあありませんよね?」
「実はその通りなんです……っと、冗談ですよ。ですから、特にレイナラさん。腰に下げたそれから手を放してくれませんか? 私も他のオーク達も、あなたの剣が恐ろしいのですよ」
隣でレイナラが殺気立っているのが分かる。逃げられぬ上に、こちらを殺しに来ているというのなら、反撃するのに些かの戸惑いも無いと言った様子だった。
「さて、私の狙いですか。それを話す前に、紹介をしたい方がいます」
ファンダルグがそういうと、彼の後ろから一体の人影が姿を現した。