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北風の道  作者: きーち
第七章 ホワイトオルドの調査
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第二話 調査報告:不審な状況が続いている

「観察されてるわねー」

 もうすぐホワイトオルドの村に到着するだろうと言った頃合いで、ふとレイナラがそんな言葉を口にした。

「観察って……誰かに監視されてるってことですか?」

 ルッドはきょろきょろと周囲を見渡す。目に映るのは馬車と同行者の3人のみ。後は背の低い草や荒れ地が存在するのみだ。

「あたし達以外はいないみたいだけどな」

 ルッドと同様に辺りを見渡すキャルであるが、これまたルッドと同じく、不審者を発見できずにいる。

「多分、距離を置いて、どっかの草むらに隠れてるのよ。普通の視力じゃあ見つけられないわよ」

「普通のって、じゃあどういうのなら見つけられるんですか」

「向こうに山が見えるでしょう? あそこに生える木の一本でも判別できるくらいの視力かしら」

 シルエットにしか見えない山を指差すレイナラ。ルッドがどう目を凝らしたところで、そこに存在する木々が見えることは無い。

「まったく見えませんね………」

「ですが、見える者もいるということです。例えばエルフとか」

 ファンダルグの言葉にはっとする。ここはそう言えば異種族の保護地区だったか。

「外見の相違以外に、そういう能力もあるんですか」

「ここって拓けた土地じゃない? 遠くを見渡せる以上、そこに住むエルフの視力って、かなり強くなってると思うわよ」

 どうにもレイナラは異種族に詳しいらしい。彼女はホワイトオルド自体にも来たことがあるそうなので、何かしら関係性があるのだろう。

「問題は、その異種族に観察されてるってことですよね? 何か狙いが?」

「余所者の監視ってだけじゃないかしら、基本的に閉鎖的だもの」

 保護区などと名付けられているのだから、内部で完結した文化や生活があるのだろう。外部からの人間は、当然ながら異端視や危険視される。

「じゃあ、特に気にする必要は無いのか?」

 監視されていること自体が嫌なのだろう。キャルは気を抜けない様子で、発見できぬというのに、それでもまだ視線をあちこちに動かしている。

「見られている事に気付いているぞって態度は良いかもしれないわねえ。初めて来た場所で舐められるっていうのは、癪じゃない?」

 一筋縄ではいかぬ人間達が来た。そう思わせておいた方が良い場合もあるだろう。

(商人としては、むしろ世間知らずだって思われた方が、相手の油断が誘えて良いんだけど、今回は良く分からない物の調査が主な目的だから、それで良いのかな?)

 気付いている素振りとやらはキャルに任せて、ルッドはホワイトオルドでどう振る舞うべきかについてを悩んでいた。




 本当に観察されているのかどうかは知らぬが、とりあえずホワイトオルドの村へとやってくる。

 並ぶ建屋は石材作りで、ホロヘイの町をかなり小規模にした印象であるが、建屋の意匠がどうにも違っていた。

「丸っこい形が多いですね。わざわざ削ったり磨いたりしたのかな?」

 角を極力少なくした作りは、どこか異文化を感じさせる物だ。だが実用的かと問われれば、そうも思えない。基本的に大陸の風土を考えるならば、石材を加工する手間と実際にそれを扱った際の利便性が釣り合わないからだ。

 角を丸くしたところで、ぶつかった時に痛くない程度の効果しかあるまい。

「そうねえ。多分、昔の文化の再現なのよ。かつてはああいう丸い石で家を作っていて、今でもそれを再現しようとしている。加工技術は随分と衰退しているそうだけれど………」

 異種族、とりわけエルフが最盛期の頃は、こういった形の家を造り、実際に利便性もある物だったらしいが、今ではその意味合いも薄れているそうだ。

「姉さん、やっぱり異種族に関して詳しいのな」

 キャルも感じていたことらしいが、レイナラはどうにも異種族に関して専門的知識を持っている様だ。単なる護衛業を営む人間の知識では無い。

「人生色々あんのよー。嫌でも身に付く知識ってあるでしょう?」

「昔の恋人がそうだったとかか?」

「近いわねえ」

 ルッドも詳しく聞きたいと思ったのだが、女同士の姦しい話に移行してしまったため、話に入っていけない。

「とりあえず、運んだ荷物をどこかの商店で卸さないと………ここに運んでくれって言う依頼の物だから、売る場所はどこかにあるんだろうけど」

「ああ、それでしたら、村唯一の店がこちらにありますよ。あまり規模の大きい村ではありませんから、すべての販売品はそこで扱うことになっています」

 村について詳しいのはレイナラだけで無く、この地域の調査を依頼したファンダルグも同様だった。

「依頼した時点で気が付くべきでしたけど、結構、この村と接点があったりするんですか?」

「というか、私はこの地方出身ですので」

「へえ……って、じゃああなたも異種族?」

 この地方が異種族の保護区であるとしたら、ファンダルグも保護対象だったということだろうか。

「異種族保護区と言えども、人間だって住んでいますよ? これから向かう商店の店主も、また人間です」

 そうファンダルグは言葉を返すと、ルッド達を案内する様に先頭へ立ち、歩いて行く。それを追うルッド達であったが、どうにもすれ違う村人達すべてが、ルッド達を見ている様な感覚に襲われる。

「監視って……村の中でも行われてるみたいですね」

 ルッドはレイナラに小声で告げる。

「というか、村に外部の人間が来ればそりゃそうなるわよ。今度は遠くからじゃあ無く、村人が直接見てくるってだけ」

 ルッドが外部の人間である限り、我慢するしか無いらしい。短期間の滞在であるため、別に問題は無いのであるが、それでも不快には感じてしまう。

「ぶっちゃけ、どういう態度でいれば良いんですか?」

「態度? 普通で良いんじゃない? むしろ変に気を使う方が敵意を持たれると思うもの」

 そういうものだろうか。この地方での経験はレイナラやファンダルグの方があるため、基本的には言われた通りに行動しようとする。

 勿論、もっと良い立ち回りができそうなら、遠慮せずに行うつもりであるが。

 そうこうしているうちに、目当ての商店までやってくる。そこそこの大きさの店で、店外には植物の繊維と毛皮で作った人形やら、変に曲がりくねった短刀などの変わった形の置物が多く飾られていた。

「これっていうのは………」

「この地方で作っている手芸品や工芸品ですなあ。あまり買いに来る人がいらっしゃいませんが」

 こういうのは外部から来た人間が興味本位で買うものだろう。閉鎖的な村の内部で売っていては、当然ながら売れない。

「異文化情緒っていうのは感じますけど、それだけと言えばそれだけの様な………」

「こういうのは作ることにこそ意味があり、売ることが目的で無かったりしますから。さて、私としては、早く荷を卸していただいて、仕事の手伝いを初めていただきたいのですが」

 店への案内はしたのだから、さっさとこちらの目的を果たせということだろう。そんなに時間の余裕が無いのだろうか。

「わかりましたけど……調査って、具体的には何をすれば良いんですか」

「既に街道を通った際に目にしたと思いますが、村の北側にはポートレイクという湖と、チェリーヒルと呼ばれる森が存在しています。両方共にそれほど大きくはありませんが、その二か所でドラゴンの目撃報告があったそうなのです。ですからその2ヵ所を分かれて捜索することになるでしょうねえ」

 捜索範囲が分かれるから、調査の手伝いを雇ったということだろうか。いや、それにしたって妙なところがある。

「そんなに急ぐ用事なんですかね? 今日来て、今日行うっていうのは、どうにも忙しい」

 体力的な問題もあるだろう。今日一日くらいは、この村のどこかにあるかもしれない宿で、ちゃんとしたベッドの上へ寝転びながら、ぐっすりと眠りたかった。

「まあ、早い方が好ましいのですが、旅の休息を取りたいというのでしたら仕方ありませんか」

 依頼主の許可を得た。これで今日一日、この依頼主がいったい何を狙っているのかを探る時間ができたわけだ。




 商品を村の商店で卸し、代金を受け取った後は、ファンダルグに村の宿へと案内された。店もあるのだから宿だってあると彼は言うのだが、外部を排除する様な保護区に、外部からの客が泊まる宿があるのは意外だった。

「じゃあ野宿でもするつもりだったのかと言われれば困りますけど、排他的な村には、こういう施設が無いとばかり思っていました」

 宿では二部屋を借り、男二人と女二人で分かれて泊まることになっている。現在は借りた一部屋にて、ルッドはファンダルグと村の様子について話をしていた。

「この村の住民は村の外部を嫌っていることは事実ですが、保護区として存在する以上、外部の者をすべて排除するなんて無理なのですよ。その名前通り、保護されている立場ですからねえ」

 保護と言う言葉には、保護される対象と共に保護をする存在がいることが暗示されている。

 異種族が住むホワイトオルドが保護区に指定されているのだとしたら、それを指定した側が必ず存在するのである。

「ホワイトオルドという地域名が付けられていますが、実質的には、北東にあるテミケミアという地方の領主が管理を行っているのです。土地柄としても、テミケミア地方の一部を切り取って保護区を置いている状態ですから」

 管理側が外部の人間なのだから、時たま、管理のための視察なども行われるのだろう。そういう時に、ルッド達が泊まっている様な宿が無ければ困るわけだ。

「なんと言えば良いのか………こういっちゃあ失礼かもしれませんけど………」

「飼われているみたいでしょう? 実際そうです。異種族というのは、既にこの大陸でも珍しい存在となってしまった。その血筋を守るために保護されている。笑える話ですよ。 かつては敵対までした間柄だというのに」

 笑みを絶やさぬファンダルグであるが、その言葉の端々には毒が混じっていた。誰に向けてのものなのだろう。人間か、はたまた異種族へか。

「それにしても、どうして元敵対者を保護するなんて真似をこの国の人間はするんです?」

「まったくですね。どういう奇態な理由があるのか。私にはさっぱりですけれど」

 保護区という物が認知されている以上、それが存在する理由も勿論あると思っていたが、ファンダルグは知らないらしい。この国の一般人にしてもそうなのだろうか。

「………とりあえず、日が暮れるまでは村の中を散策するつもりですけど、ファンダルグさんはどうします?」

 そう時間は無いものの、できるだけファンダルグと離れて行動したいと思っての発言だった。

「私ですか? ああ、私も少し用がありますので」

 幸運である。これで別々に行動できそうだ。ルッドはとりあえず部屋を出て、今日は何をすべきかを考えることにした。




「異種族を保護する理由? そりゃあ罪悪感からだろ」

 とりあえずキャルと出掛けることにしたルッドであるが、道中、さきほどファンダルグにした質問をキャルにもしてみると、あっさりと答えが返ってきた。

「罪悪感? 昔は争ってた相手にそんな感情を抱くの?」

「昔も昔だからだろ。あたしが生まれる前どころか、もう何世代も前に衰退し始めた種族なんだぜ? 恨みなんて残ってるはず無いし、正面対決する前に決着しちゃったから、憎しみも無い。今もまだ数が減ってるって話だから、なんか申しわけ無く思うんじゃねえかなあ」

 衰退どころか、滅びゆく種族という印象を受けた。そんな相手に抱ける感情など、悲しい物でしかあるまい。少なくとも敵意は持っていないのだろう。なにせ何時か消えてなくなる相手なのだから。

「わかりやすい話ではあるんだけど、じゃあなんでファンダルグさんは分からないなんて言ったんだろうか」

 何かをはぐらかされたのか、それとも本当に分からなかったのか。

「からかわれたんじゃあないか? だって悪い奴なんだろ、ファンダルグって爺さん」

「うーん。悪い奴というか………まあ、確かにそうなんだけどさ」

 ブラフガ党を悪い集団。その参加者を悪い奴という形で判断しているらしいキャル。それは違うのではと言いたかったのだが、実際、そういう連中であるため、特に注意することもできない。

「あたし、今回の依頼には絶対に裏があると思うんだよな。気を付けないと、兄さん、弱みに付け込まれるぜ」

 似た様なことをキャルも考えていたらしい。だからこうやって出歩き、何かのヒントが無いものかと探っている。

(僕らが怪しいと考えていることに、向こうが気付いてないわけも無いよねえ)

 既に騙し合いは始まっていると言える。だからこそ、出し抜ける何かが欲しい。

「ここらの詳しい地理が分かれば良いんだけどな。調査する場所がどんな場所かを知るだけで、大分状況は違ってくる」

「じゃあ、姉さんに聞けば良いんじゃね?」

「え?」

 キャルはレイナラの事を言っているらしい。

「いや、だって、ここに以前来たことがあるんだろ?」

「そう言えば、そんなことを言っていた様な………」

 盲点だった。自分の頭が回らなかっただけなのだが。

「ええっと、あの人、どっかの酒場で飲んだくれてたりするのかな?」

 キャルを散策に誘った時には、部屋にいなかった様に思える。となると、彼女も彼女なりの事情で出かけているのか。

「明日も色々と動くから、酒は飲んでないと思うけどなあ」

 そこらは彼女なりの仕事構えという奴だろう。であるならば、いったいどこにいるのか。

「村はそれほど大きく無いし、探せば会えるだろうけど、時間があんまり無い」

 明日までにファンダルグの狙いを探りたい身としては、レイナラを探すことだけに今日一日を消費するのは遠慮したかった。

「でも、姉さん以外にここに詳しい知り合いなんていないじゃん」

「そうなんだよなあ………」

 調査の開始日を明後日に指定しておくべきだったか。しかし、それを言えばファンダルグにこちらの行動を怪しまれてしまう。

「あら、二人してどうしたの? この村に観光するところなんて無いわよ?」

 他人の話をしていれば、その人物が寄ってくることでもあるのか、背後からレイナラの声がした。

「レイナラさん! ああ、良かった。これで探す手間が省けた」

「な、何よ。顔見られて喜ばれるなんて、あんまり無いわよ?」

 ルッドの様子を見て、レイナラは若干体を引く。いきなり会って、いきなり嬉しそうな顔をされればそうもなるだろう。しかしルッドは遠慮しない。

「時間が無いんですよ! いったいどこで何してたんですか!」

「何してたって………空いた時間があったから、さっきの商店でちょっと………」

 レイナラは左手に掴んだ酒瓶を持ち上げた。そこには勿論、中身が入っているのだろう。

「姉さん、明日仕事だっていうのに、やっぱり飲むつもりなのかよ」

 その様なことはしないだろうとさきほど言った手前、彼女の姿にがっかりしているらしいキャル。まあ、彼女らしいと言えばらしいとルッドは思う。

「ちょっ、勘違いしないでよね! 私のじゃあ無いわよ?」

 キャルの目線に気が付いたらしいレイナラは、慌てて手を振って、疑いを晴らそうとしている。

「村に知り合いでもいるんですか?」

 自分のため以外に酒を買うというのは、そういう事情以外は考えられない。

「似た様な物ね。なんなら一緒に来る?」

「良いのか?」

 レイナラの誘いにキャルが応じる。ルッドも村を知る良い機会だと思って頷いた。

「別に、大勢で押し掛けて迷惑を掛ける相手でも無いしね。ついてきて」

 レイナラはそう言うと、ルッド達を先導して行く。歩いている間は暇なので、とりあえず村周囲の情報について聞き出してみることにした。

「ファンダルグさんが言っていた、ポートレイクって湖と、チェリーヒルっていう森でしたっけ。ドラゴンが出てそうな場所なんですかね?」

「うーん。私もこの土地の人間じゃあないから詳しくは知らないけれど、二つともほんとに小さな場所なのよ。ドラゴンって言うと、大きなイメージがあるじゃない? 見間違いだとしても、そんな発見報告なんてあること自体が可笑しく思えるわね」

 調査自体もすぐに終わってしまうだろうとレイナラは答える。ならば、やはりファンダルグの依頼には裏があるのだろう。

「あのお爺さんには気を付けなさいね。絶対に後ろ暗いことを考えているから」

「それは知ってます」

 誰から見ても怪しいなんて状況になっている以上、ファンダルグの愛想笑いも、近しい者には効果は無いのかもしれない。

(問題は何を考えてるかなんだよなあ………捜索場所が二か所で、それぞれ小さい範囲なら、二組に分かれて行動することになるはずだ。何か狙いがあるとすれば、ファンダルグさんと同行する人間だけど……僕になるだろうなあ)

 野宿の際や宿の部屋決めでも、ファンダルグと組みになっているため、調査関連でもそういう形になると思われる。となると、ルッドに何かをさせるか、するつもりなのかもしれない。

(でも、何人で調査に向かうなんてのは向こうも予想できなかったはずだよ。単にミース物流取扱社へ依頼に来たという体なんだからさ)

 想定していたとしても、ルッドとキャル二人が調査に同行する程度のものであるはずだ。だからルッド個人向けの物では無いかもしれない。いやいや。

(くっそー、考えが纏まらない。向こうに地の利も知識もあるっていうのは、こうまで厄介か)

 こうなれば、何もかもを予測するのは止めて、どういう状況だろうと対処できる方法を考えるべきかもしれない。

「何か仕掛けてくるとして、森が湖、どっちになるでしょうね」

 手を口元に当てながら、ルッドはレイナラに尋ねる。

「森じゃない? 湖の方は視界が開けてるから、搦め手は使え無さそうだもの」

「じゃあ、僕が森側の調査を行います」

「ちょっと兄さん!」

 自分から危ない橋を渡るというのはどういうことだと、キャルが詰め寄ってくる。

「別に危険に飛び込みたいなんて奇特な考えをしているわけじゃあないよ。ただ、十中八九、向こうが何かを仕掛けてくるんだから、こっちも対策を立てる必要があるってだけさ」

 ルッドとて、一銭の得も無い事に労力を費やしたくは無い。しかし、既に状況はファンダルグの手の中にあるのだから、こちらができるのは自分の身を守ろうと努力をすることくらいだ。

「けれど、危険な側にあなたが行くことには変わりないんじゃないかしら」

「勿論、ファンダルグさんもそうでしょうね。ですので、湖を調査する側に監視は付きません」

「なるほどね」

 湖を調査する側になるだろうキャルとレイナラも、できれば隠れてこちらに付いて来て欲しいとルッドは考えていた。そうすれば、こちら側が逆にファンダルグの虚を突くこともできよう。

「二人は、できれば隠れながら、僕らに付いて来てもらえると助かります。そうすれば何かあった時の対処もできる。勿論、何にも起こらない可能性もあるから、対処の方法やタイミングは、キャル、君に任せるけど、良いよね?」

 ルッドを危険な目に遭わせない様にすると、以前、彼女はルッドに語ったのだ。であるから、身を守る術に関しては、彼女を全面的に信用することにした。

「わかった。任せとけって」

 さて、事前にできることと言えばこれくらいだろうか。まだ準備しておきたいことは幾らでもあるが、実行できるものと言えばあまりない

「それじゃあ明日は頼みますけど、結局、レイナラさんはどこに向かってるんです?」

 明日の対策について話し合っている間も、ずっと気になっていたことだ。てっきり、誰か知り合いの家に向かうのかと思えたのだが、何故かどんどん人気が無くなる場所へとレイナラは進んでいく。

「うーん。見ればすぐに分かると思うのだけれど………ほら、あそこよ」

 レイナラが指を差す方向には、石で出来たルッドの身長よりかは低い塔が、幾つも並んでいた。

 塔は成形した四角の石を組み上げており、石の重みと摩擦で、組み上げられた塔が崩れない様になっている。並びには規則性があり、両隣の塔とはある程度の距離があるため、塔が整然と隊列を組んでいる様にも見えた。

「あれらは……いったい?」

「分からないかしら? 国や地域が違えば、置いてある物も違うでしょうけれど、お墓なんて、どこも雰囲気は同じと思うのだけれど」

 自分はこの墓を目指して歩いていたと、レイナラは語った。


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