第一話 調査報告:現地にまだ着かず
春先のミース物流取扱社はとかく忙しかった。どこから存在を聞きつけたのか、あちこちの商人が商品や物資を輸送してくれという依頼にやってきていたのだ。
「特に多いのが、僕みたいなブルーウッド国から来た商人からの依頼みたいだね。せっかく新たな土地で商売を始めようとしたら、今回の事件で上手く商品を流通させることができなくなるなんて、悲惨としか言いようがないよなあ………」
「兄さんはこうなることが分かっていたから、事前に社有の馬車を買ったってことで良いんだよな?」
現在、集まった仕事のどれを扱うかについて、ルッドは社長のキャルと会議を行っている。会議と言っても、リビングの机を挟んだ世間話みたいな形であるが。
「ラージリヴァ国とソルトライク商工会が明確に対立し、ソルトライク商工会側が潰されるだろうなっていう予測はできていたね。そうなった場合、商工会が扱う販路が機能不全を起こし始めるのは当たり前だ。そうしてラージリヴァ国が強権を発動すれば、他の土地の領主が反発し、流通路に関所を置く事態に発展するのも、当然と言えば当然だからね」
現在、ラージリヴァ国は各地への流通路に不備が生じている状態である。ただでさえ冬の間は雪で不通続きだったというのに、春が来てもその状態が続くというのは不満以上に現実問題が多く発生する。
そんな時に注目が集まるのは、国と商工会への関係性が低く、尚且つ独自の輸送手段を持っている組織だ。
「結構しっかりした馬車を買ったから、元を取れるか不安だったんだけど、この調子なら大丈夫だな」
キャルが今後どの仕事を受けて行くべきかを決めた予定表を見る。そこにはびっしりと各依頼内容が書かれていた。
「僕らみたいな小さな組織なら、関所の方もそれほど詳しく調べもしないで通してくれるだろうから、その分、他の商人から運搬を頼まれたのかもねえ。だからこそ、どういう物資の運搬任務なのかだったり、期日や代金、輸送先の管理はしっかりして置かないと」
今は寝ていても仕事が舞い込む時期であるが、こういうのは一時的な物であろうとルッドは考えている。こういう慌ただしい状況の中で、しっかりと仕事を行うことにより、初めて固定客という存在が生まれるのだ。
「運搬任務が主ってことは、物資も預かり物が多いんだよな。盗賊なんかに遭ったら大変だ」
他人から預かった物資を運搬する場合、事前にその物資を幾らで売るかの取決めをする。その額は実際の相場の売り賃よりも随分と低い物であり、発生する差額が運搬をする側の取り分となるのだ。本来は運賃も取るのが普通であるが、今は仕事量が重視しようとかなり安い額で注文を受けている。
だから途中で物資を失ったり、取決め以下の金額で売ってしまえば、それだけでこちらの損になってしまう。
「雪が溶けて、彼らも動き出す時期だろうから、護衛はきっちりと雇わないとね。まあ、何時も通りの人になりそうだけど」
つまり女性用心棒のレイナラ・ラグドリンを雇うつもりである。それも一度きりで無く、仕事の予定が入っている一定期間をずっと。
「他の護衛を雇うにも、信用できる相手が居ないしな。あの姉さんなら、その点は大丈夫じゃね」
ちまちまと作り上げた人間関係が、やっと花を開き始めた気分だった。まだまだ小さい関係性であるが、これからももっと広げていきたい。
「とまあ、あれこれと細かい部分の決定が素早く進むのは良いことなんだけど………問題はこれか」
予定表の中にある直近の仕事をルッドは指さした。ホワイトオルド近辺の調査と書かれており、他が運搬や輸送と言った仕事が書かれているのに対して、その部分だけが異なって見える。
「ホワイトオルド地域ねえ。そこにある村に商品を運んで欲しいって依頼もあるから、一緒に受ければ損にはならないと思うけどよ………やっぱり、受けなきゃ駄目か?」
「一応、そういう取引だったから………」
この仕事を持って来た人物。それはブラフガ党のファンダルグという男だ。ラージリヴァ国と商工会に関わる話の中で、彼とは幾らか交渉を行っていた。
色々あったそれであるが、結果として、対価に彼の仕事を引き受けることという契約を結ばされた。
春先になって、大陸内の移動の際に障害となる雪が溶け始めたため、さっそくミース物流取扱社へと仕事を依頼しに来たのだ。
「その地域に関してはあんまり知らないんだけど、どういう場所なの?」
一応、ホロヘイから街道をまっすぐ南側に進んだ場所にある地域だとは、ルッドも知っている。大陸の外縁部付近の地域であるため、あまり良い土地柄では無いらしいが。
「あたしだってそんなに知らねえよ。ホロヘイから出たことなんて殆どないし。ただ、異種族の保護区になってるって話だな」
「異種族?」
聞き慣れない単語が出てきたため、ルッドは聞き返す。キャルにとっては当たり前の言葉らしい。
「なんだ、兄さん知らないのか? エルフとかオークとか、そういう種族が住んでる場所だよ。あんまり立ち入ると向こうの文化を破壊するからとかで、一般人は許可が無いと立ち入れないらしいぜ。まあ、商売目的なら大丈夫だろうけどな」
「いや……まあ、こっちにはそういう種族がいるってのは知識としてあったけど………」
人間以外に文明を持った種族がいるというのは、耳で聞くだけでは信じ難い話だった。ノースシー大陸には、そういう種族が人間と同様に暮らしており、独自の文化を営んでいるそうだが、ルッドの出身地であるホルス大陸には、そんな種族は存在しない。
「エルフは耳が長くて尖がってるんだよ。あとは普通の人間と同じだぜ? オークはもう全体の外見からして違うそうだけど、あたしは見たこと無いな」
人間とは明確に違った外見があるからこその異種族らしい。どうしてファンダルグはそこの調査などという仕事を頼んできたのだろう。
「異種族の調査ってことなのかな? 依頼主自身も参加する意向だそうだから、本人に聞くのが一番なんだろうけど………」
あまり関わりないになりたくない相手であるため、詳しく話を聞くというのも遠慮したい気分だった。
「同行してくれるってのなら、盗賊に襲われる可能性はぐっと減るよな?」
「それは確かにそうだけど、単に盗賊仲間は襲わないかもしれないってだけだからね」
大陸に存在する盗賊の中には、ブラフガ党の関係者も少なからず存在しているはずで、同じブラフガ党員であるファンダルグならば襲われないのではという予測はできるものの、それはつまり、盗賊の仲間がずっと同行するという事でもあった。
「………今さらながら怖くなってきたんだけど」
「僕はずっと怖いままだ」
互いに溜め息を吐いてから、これもまた商売のためだと諦めることにした。
「へえへえ。これが買った馬車なのね? 中古? それとも新しく作らせたの?」
ホワイトオルドへと向かう当日。ホロヘイより出発するために町の外へと待機していたルッド達。そこに護衛役としてやってきたレイナラが、興味津々といった様子で馬車を見ていた。
「新しいのだよ。兄さんが一から作った方が長持ちするって言ってさ」
「うちの仕事に見合った用途の馬車を作った方が、結果的には社の利益になると思ったんだよ。馬の方はレンタルするから、一から作るなんて無理だけれども」
馬車については一度購入すれば、その後は保管し、逐一整備や修理を行えばなんとかなるものの、馬については生き物であるため、商売の旅にホロヘイ郊外に牧場を持つ業者から借り受ける必要がある。もし馬に何かあれば、弁償はルッド達がしなければならないため、それもまた旅の中で注意しなければならない事柄の一つだった。
「特注品ってことね。新品の馬車なんてどれもそんなものだろうだけれど」
興味深そうというか、金が掛かった物に対する好奇心で、レイナラはミース物流取扱社の馬車を見ている。
「高い買い物でしたから、無事守り通してくださいね」
「勿論よ。そりゃあもう暫くは仕事を探さなくても良くなったんだから、張り切っちゃうわ」
彼女を雇うのは今回だけのことで無く、これから暫くはずっと雇い続けることになっているため、レイナラの意欲はそれなりに高い様だ。
「目的地はホワイトオルドだっけ? 近いし行ったことあるから、頼りにしてちょうだい」
「姉さん、あそこに行ったことあるのか? 一般人はあんまり行かないところって聞いてたんだけど」
「ちょっと用事があったのよねえ。個人的な理由では、もう行くことも無いと思ってたんだけれど、仕事なら仕様が無いわね」
どうにもレイナラは目的地のホワイトオルドに関して、あまり良い印象が無いらしい。いったい何があったのか。深く詮索するのは些か無礼というものだろう。
「後は……依頼人を待つだけか」
そろそろ出発の時間になる。相手が時間にルーズなタイプでは無さそうであるため、もしやまた虚をつく形で現れるかもと、ルッドは辺りを見回した。
「ファンダルグさんって言う名前だったかしら。どういう人なの?」
名前だけしか依頼人を知らないレイナラ。彼の身分については、あまり話さない方が良いだろうと、レイナラには黙っていた。
「いろいろとある相手なんだよ。うん」
レイナラに答えながら頷くキャルは、既に今回の依頼人がブラフガ党関係者であることを知っている。以前までは危険に巻き込むまいと隠していたのだが、今では彼女と情報を共有するのは必要なことであるとルッドは考える様になったため、ルッドが伝えたのだ。
「へえ……確かに、あなた達みたいな組織にお仕事を頼もうなんて、いろいろ理由が無くっちゃあ有り得ないわよね」
「おい、どういう意味だよ」
レイナラをキャルが睨んでいる。相変わらず仲が良いのか相性が悪いのか良くわからぬ二人である。
「あ、来たみたいだ」
そうこうしている内に、今度は普通にファンダルグがこちらへと歩いて来るのが見えた。頭に帽子を被り、服装もしっかりとした紳士風で、一見するだけならば、裏の仕事をしている人間には見えない。
「…………ちょっと、どういうことよ」
ファンダルグの姿を見て、急に眉を曲げるレイナラ。この表情を、ルッドはどこかで見たことがあった。
「なんですか?」
「あんまり真っ当な依頼人じゃあ無いみたいじゃない」
「………わかるもんなんですねえ。ダヴィラスさんも似た様な顔をしてましたよ」
護衛業を生業にしている人間というのは、相手の職業に対する見識が鋭いのかもしれない。ルッドなど、外見だけでファンダルグがどういう人種かを判断できない。
「ダヴィラスの奴も、あの依頼人に会ったの?」
「ええ。別に逃げもせず、仕事に付き合ってくれましたよ? レイナラさんはどうなんです?」
まさかここで仕事を放り出さないだろうなという、牽制を含んだ言葉をルッドはレイナラに向けた。
「………勿論、罪になる様な仕事で無い限り、一度受けた仕事は捨てないわよ。お得意様なわけだしね」
どこか拗ねた様子でレイナラが答える。もし彼女の言う通り、何らかの犯罪になる仕事ならば、ルッド自身が断っている。
「これはこれは。お待たせしてしまった様ですね。もう既に出発の準備を?」
ファンダルグはルッド達に近づくと、一礼をしてから、ルッド達一人一人と目を合わせて行く。
「今すぐでも大丈夫ですよ。あなたの方はどうなんです?」
「ええ。私も今すぐに出発できます。いやいや、立派な馬車も用意していただいて。旅が楽になりそうですな」
ファンダルグはさっそく社有の馬車に興味を示した様だ。ただ、どうにも勘違いしている様なので、注意をしておこう。
「馬車は荷物を運搬するために使います。野宿なんかで馬を休ませる時は、中で寝るスペースがありますが、旅は歩きで向かいますよ」
物資運搬の仕事が山の様に入ってきているのだ。人間を運ぶ隙などあろうはずが無かった。
ホワイトオルド到着までは2日間ほどかかるという予想であるため、途中で宿が無ければ野宿をするしか無い。
街道には必ず宿場があって然るべきなのだが、どうにもこの国ではそういう物が少ない様にルッドは感じていた。
「地方同士の仲が良く無いのよ。ラージリヴァ国って言っても、統領が直接治める地域って、ホロヘイの周辺くらいじゃない。後は別の領主がいて、お互いがお互いの権益を奪い合ってる状態。その間に宿場なんて開こうものなら、とたんにどっかの力を持った人達に潰されちゃうわよ」
丁度良い宿が見つからなかったため、今夜も野宿に決定してしまった理由について、レイナラが幾らか説明をしていた。
「そんな風に仲違いしてるのなら、国として纏まってる意味があんまり無いですよねえ」
野宿を決めた広場にて、馬車を止めた後にテントを張る準備をするルッド。馬車自体にも野宿の際に泊まり込める機能はあるのだが、4人全員が入り込める余裕が無いため、結局はテントを用意する必要があった。
「歴史的な意味合いもあるのですよ」
同じく、テントを張る手伝いをしているファンダルグが口を挟む。怖い相手であることは十分承知しているのだが、外見だけは人が良さそうであるため、迂闊に世間話をしてしまう時が多々あった。
「歴史っていいますと?」
「これから向かうホワイトオルドもそうですが、かつてこの大陸の支配者は人間だけで無く、異種族もそうだったのです。エルフ、オーク、ゴブリン、ランドファーマー、ドワーフなど。人間もその中の一つでしかありませんでした。今はぜんぜん違いますけどね」
「………その異種族達ですけど、今はそういう状況じゃあありませんよね?」
興味深いというか、この国の成り立ちを知るというのは今後の仕事に活かせそうだとルッドは考える。
「幾つかの種族は既に滅んでいます。血が絶えてしまったのですね。様々な説はある様ですが、人間以外の種族が衰退してしまった様なのですよ。一方で人間は増え続けた。結果、ある時、人間とそれ以外の種族とで諍いが起きた」
生存圏の重なり合いというのが、もっとも戦争が起こりやすい状況だということだろう。お互いの力関係が崩れた時なら尚更だ。
「幾ら衰退の過程にあるとは言え、人間とそれ以外とでは数が違いますからね。結果、人間同士で多少の意見の違いはあれ、手を取り合うことになったのでしょう。そうしてそのまま自分達の力で他種族を圧倒できれば、それで良かったのでしょうが………」
「他種族の方が勝手に衰退したせいで、相互の問題が解決しないまま、形だけ纏まってしまったってことですか」
同じ種族と言えども、住む場所や文化によって差異と言う物が存在している。結果、国や地方などで人が分かれて住むことになるのだが、それを一つの集団として纏めようと思うのなら、共通の認識を十分に用意しなければならない。
例えば共通の敵であったり、同じ国に住んでいると言った認識だ。
「明確な決着が無いままに争いは終わってしまった。残ったのがラージリヴァ国という大枠ですが、枠を用意したって中身が変わるわけもありません。地方ごとに統治方法や文化すらも違う部分があり、現在の状況となるわけです」
地方の毎にそこの領主の力や独立心が強いというより、別の国を同じ国だと言い張っているに過ぎないのかもしれない。そうしてこの混乱期になり、それが顕著化し始めた。
「地方毎の関所が立てられ始めたと聞きます。一時的な物だと思っていましたが、実は今後、ずっと続く物かもしれません」
混乱が拡大を続けている。もし何かを間違えれば、内乱にも発展しかねない状況にラージリヴァ国はあるのかもしれない。
その事についての感想を述べるのはレイナラだった。
「良いことだと私は思うわよ。ややこしい事柄から、建前を全部取っ払わなきゃならない時機っていうのがあると思うの」
「それもどうなんですか? 国なんて、どこも建前を大事にして成り立っている部分がありますし………」
面倒だからと何もかもを放り出せば、人間個人が残るだけで、人の集団などは無くなってしまうとルッドは思う。
「あのさあ………話を続けるのは良いけど、本格的に日が暮れる前に、テントの準備を終わらせようぜ」
一人、会話に参加せず作業を続けていたキャルからの注意で、一旦、この話は終わることになった。
テントの準備が出来る頃には、すっかり日が落ちていた。しっかりとした馬車にはレイナラとキャルが泊まり、テントで眠るのはルッドとファンダルグだ。
と言っても、常に一人が火を焚き、見張り役として起きていた。今はレイナラの番であるため、ルッドはファンダルグと並んでテントの天頂部分を見ている。
「で、結局何の目的があって、僕らをホワイトオルドに向かわせているんですか?」
隣にいる男は危険という言葉が似合う男であるため、安心して眠ることができずにいたルッドは、なんとなく彼に質問をしてみる。既に眠っているのならば、答えは返ってこないだろうが。
「調査だと出発の時に説明しませんでしたっけ?」
どうやらまだ起きていたらしい。向こうも向こうでこちらを警戒しているのだろうか。それとも単なる気まぐれか。
「ドラゴンの調査でしたっけ? そんな生き物がいるんですかね?」
ホワイトオルドの村周辺で、ドラゴンらしき存在が見つかった。興味があるのでその調査を手伝ってほしいというのがファンダルグの依頼だった。ブラフガ党の仕事とはまったく関係ないから、自分と自分の知り合いくらいしか頼るアテが無いとのこと。
「おや? ホルス大陸にはまだドラゴンが生息していると聞きますが」
「人の居ない山や森の奥に潜んでるって話ですけど、僕は見たことありませんねえ。それに、大きいだけでそこらにいる野獣とあまり変わらないと聞きます」
わざわざ探し出そうとする生き物ではあるまい。例えば村が襲われそうだからと言うのであれば話は別だろうが、それを依頼するのはそこに住む人間だろうし、商人に頼る物でもあるまい。
「その潜んでいるドラゴンの中には、ホーンドラゴンが含まれてはいませんか?」
「いえ? というか、ホーンドラゴンという種類のドラゴン自体、こっちの大陸にかつて棲んでいたとしか知りません」
もしかしたらホルス大陸にいる同種のドラゴンが、別の名前で呼ばれているだけかもしれないが。
「そうですか………今回、調査して欲しいというのはホーンドラゴンのことなのですよ」
「既に絶滅したと聞きますが」
「その発見報告があったのです。気になりませんか? もしかしたら死んだと思われた存在が生きているかもしれない」
動物学的な好奇心から出た依頼ということだろうか。相手が相手だけに、些か信じ難い理由であった。
(趣味なんてのは、人それぞれだっていうのは分かるけどさ)
ホーンドラゴンを発見したいから、ちょっと最近知り合った商人を脅して手伝って貰おうなどと考えるだろうか。
「ホーンドラゴンというのは、ちょっと特殊な生き物なのですよ。外見がドラゴンに似ているが、実はドラゴンの仲間では無いという話もあります」
「随分と詳しいんですね。案外、そっちの道に進もうとしていた過去があるとか?」
「ああいえ、ホーンドラゴンについてはむしろブラフガ党に入ってから興味を持ちましてね?」
そういえばブラフガ党のシンボルマークはホーンドラゴンだったか。その刺繍がされているハンカチをルッドはまだ持っていた。隣の男から貰ったものだ。
「じゃあ、今回の仕事も実はブラフガ党関連の?」
「あなたも疑い深いですねえ。何度も言いますが、組織とは無関係の仕事ですよ。あくまで興味から来る仕事ですので」
まだまだ信用できる言葉では無い。絶対に何か裏があるはずだと、話もいちいち探り合いになってしまう。
「…………そろそろ交代の時間ですから出ますけど、他を巻き込む様な仕事なら、すぐに放り出すつもりですから」
ルッドは起き上がりながら、ファンダルグを見て話す。
「あの小さな社長であったり、護衛の彼女とかのことでしょうか? どちらかと言えば冷血なタイプに思えたのですが、かなりの人情家ですねえ」
寝転び、目を閉じるファンダルグであるが、こっちの言葉はしっかりと聞いている様子。
「人間関係っていうのは、状況を面白くしてくれるじゃないですか。それを大事にすることはおかしな事ですか?」
「信頼とは程遠い言葉に聞こえます」
かもしれない。だが、ルッドにとってはそういう関係こそが自分と他人を繋ぐ物なのだ。