第四話 危険には気を付ける様に
ファンダルグに案内されたのはホロヘイの路地裏。冬の寒さが身に染みる、じめじめとした家々の壁の狭間にある小路であった。
(最初、刃物を持って脅された時も、こういう場所に案内されたっけ? 好きなのかな?)
今回はまだ刃物をチラつかせていないため、ルッドの思考には余裕がある。すぐにでも無くなりそうな余裕であるが。
「さて、ここらで良いでしょう。あまり人通りもありませんし、あったとしても、まあ一般的な方々では無いでしょうから、口封じも楽です」
恐ろしいことを簡単に口にするファンダルグであるが、実際に行動するのはもっと容易いのだろう。
「それで、僕はいったい何をしでかしたんですかね。あなた達に関わりそうな事をした覚えは無いんですが………」
ただ、ブラフガ党が何の意味も無くルッドの様な人間に接触して来るとも思えなかった。恐らくはルッド自身の気が付かぬうちに、ブラフガ党の行動に重なる形で、彼らとの関係が出来てしまっているのだろう。
「まずあなたの認識を正しておきたいのですが、我々にとって、あなたはそこらの一般人とは違う存在というのは理解していますか?」
「………それは、何度か僕があなた達に関わってしまっている件ですか?」
「その通り。あなたが気付いているものと、いないものも含めて、もう何度もあなたは私達に関わりを持ってしまっている」
「単なる偶然だと思うんですが………」
ルッドから積極的に関わろうとした事は一度として無いはずだ。ならば不運が重なったということか。
「縁とも言えます。我々とあなたの間には、どうやら何がしかの縁がある様な。その縁がどの様な結果を生むか。そういう興味が我々側にあるという前提の元に話を聞いていただきたい」
いらない注目を向けられるというのは、喜びとは正反対の感情が心に浮かぶ。相手が厄介を通り過ぎて災害染みた存在であるならば尚更だ。
「興味があるということは、自然とその対象が気になってしまうもの。例えば、この町に派遣された際に、まるで計ったかの様にあなたの姿があれば、話し掛けてみようと思うでしょう?」
「………あなたの派遣された理由というのが、もしかしなくてもソルトライク商工会関係の仕事だったということですか。そして何故かそこに僕がいたと」
「有り体に言えばそうです。あなたはまるで跳ね石の様な人だ」
ファンダルグが口にする跳ね石の様なという表現は、この国ではどこにでも現れるという意味がある。
何故かルッドがブラフガ党と何度も、そして今回も関わっている事実をそう表現しているのだろう。
「ということは、まだ本格的にブラフガ党と関わっていないかもしれないわけですね。今回に限っては」
「果たしてそれはどうでしょうか? お互い、自分達がこの商工会に赴いた理由を話し合ってみませんか? 勿論、他人に漏らすのは厳禁ですがね」
ファンダルグの提案をどう考えるべきか。ルッドは暫し黙考した後に口を開いた。
「わかりました。とりあえず僕の仕事から……で、良いですか?」
「ええ、勿論」
ブラフガ党の意向を見極めきれず、彼らと敵対するのも酷な状況だ。彼らがいったいどういう目的で動いているかは知っておいた方が良いと考えた。例えこちらの情報を明かしたとしても。
つくづく、自分の立場はどうしようもなく弱いのだと確認させられる。
「ソルトライク商工会が、造船業への支援に乗り出しているのは知っていますか?」
「はい。私の仕事も、それに関わることですからねえ」
「………」
ファンダルグの言葉に何か不吉な色を感じてしまうルッド。どうかこの予感が外れています様に。
「同じ支援をこの国も行っている。何かあるんじゃあないかって思うじゃないですか。動く権益や金銭は莫大な物になりそうな。商人としては関わりたいと思うってもんです」
「だから直接ソルトライク商工会へですか。まあ、国側に接触するよりかは容易いですから、間違いでは無い」
一介の商人が会いたいと望み、実際に会える相手は政治に携わる者で無く、商売に関わる相手だ。だからルッドはソルトライク商工会にやってきたのである。
「僕が行動する目的は、ラージリヴァ国とソルトライク商工会の間で、どれだけの利益を得られるかを探るってことになると思います」
実際に得たいのは情報なのであるが、ついでに儲けも出ればと思っているのは嘘では無い。
「さて………これは参った」
困り顔を浮かべるファンダルグ。彼が浮かべる表情の理由は、ルッドにもなんとなく分かってしまう。
「もしかして、ブラフガ党も同じ理由で?」
「別に利益を得たいと考えているわけではありませんが、概ね、あなたと同じ目的で動いていると思いますよ。支援事業の裏側にある実態を知りたい。こちらとしては、ちょっと気になることがありましてね」
「気になる?」
なんだろう。もしや、ルッドの知らぬ情報をブラフガ党が知っているかもしれない。多少の危険は承知で、ファンダルグから聞き出すべきか。
「おっと……これ以上に何かしらを話すのであれば、お互い、さらに手札を見せ合うべきじゃあありませんか?」
聡い相手である。お互いの目的を話し合うという交渉は終わったのであるから、次に何かを口にするなら、さらに別の交渉を開始しようと提案してくる。
「別に……あなた達が喜ぶ情報を僕が知っていないかもしれませんよ?」
「ソルトライク商工会の関係者とは会ったのでしょう? 私の様な人間はそれも難しいですからね。その時に話した内容を聞かせていただければ、こちらだけが持つ情報を話しても良い」
ルッドはファンダルグの提案に頷いた。この後に何か新しい情報を得られるアテが無かったからだ。
ソルトライク商工会との話し合いの後は、ラージリヴァ国側の状況も探りたいと考えていたが、そのためにどうすれば良いのかは思い付いていないままだった。
そんな状況で、ブラフガ党のファンダルグと出会ったのは幸運だったのかもしれない。ただしそれは、悪運と呼ばれる類の物なのだろうが。
「とまあ、ソルトライク商工会側の狙いは解りかねますが、国が何を考えているかについては、大凡、見当がついてきました」
ソルトライク商工会との話し合いの中で手に入れた情報を、ルッドなりの解釈でファンダルグに伝える。老人は興味深そうに頷いていたり、面白そうに笑う時もある。
「私には、その国側の考えと言うのも、まだはっきりと掴めませんが」
「なら自分で考えてください。僕が提供するのは、商工会との会話内容だけですから」
ブラフガ党だってルッドにとっては危険な組織だ。不必要に何もかもを話すことは無い。
(国側の狙いっていうのは、恐らくソルトライク商工会が売って来た喧嘩を買うってことなんだろう。自力は国側が上なんだからさ)
これは商工会との話の中で核心を得た情報だった。国との支援合戦を先に仕掛けたのはソルトライク商工会の方なのだ。そうしてラージリヴァ国はそれに受けて立った。
多くの組織や人間に支援を続けていれば、それだけ組織の力を消費することになる。その結果はと言えば、最終的に組織として大きな方が残り、小さな方が組織としての力を消耗するか、瓦解するかだ。
(いくら商工会が大きく力を持った組織と言えども、国そのものには敵わない。だからこそラージリヴァ国は、支援対象がソルトライク商工会と競合したとしても、気にせず支援を行うつもりなんだ)
国の狙いは、邪魔な商工会の力を削ぐことだろう。とても簡単な行動指針のため、こちらに関してはすぐにルッドは気が付いた。
(ブラフガ党も、情報を集めればそれくらいは分かるんだろうけど、わざわざ僕が教える必要は無いよね)
ヒントに成り得る商工会との会話内容は話したのだから、義理は果たしたと見るべきである。
(問題は、負け戦になるのがほぼ確定しているこの状況で、それでもソルトライク商工会が支援を続けるつもりでいることだ)
ソルトライク商工会のベイロンウンド・ランという事務員は、国とだって戦える力があると口にしていたが、いったいそれは何なのか。正面切っての戦いでは勝てぬだろうから、何らかの搦め手を狙っているのは確実だろう。
(だけどそれが分からない。この老人が明かす情報の中で、それの片鱗でも掴めれば良いんだけどさ)
ルッドは、次はそちらの番だとファンダルグを見る。彼はルッドが今まで話した内容について、色々と思案しているのだろう。口を手で隠したまま、目線をルッドから少しズラしている。
ただその恰好も、ルッドが話を促したことで崩れ。相変わらずの笑顔で口を開いた。
「私があなたに話せること……そうですねえ。ディドル・ミースについて、と言えば面白くなりますか?」
「………!」
またもやその名前が出て来る。キャル・ミースの父親で、ルッドは彼が残した物を利用させて貰っている側であるが、彼本人には一度も会ったことが無い。
そんな男の名が、ここ最近の内に何度も登場していた。
「その顔からは、やはり聞きたいと言う感情が見て取れますねえ。ディドル・ミースという男は、我々と無関係ではありません。だからババリン団に彼の家が占拠されているという情報を聞き、私が動いたのですよ。でなければ、あのようなチンピラ連中に対して、我々が本格的に動くと思いますか?」
確かにキャルの家がババリン団というチンピラ集団に奪われた際、彼らに制裁を加えようとしていたブラフガ党の動きは、些か過剰の様に見えた。
(結果的にババリン団を倒したのはこの町の自警団だけれど、その後、町中にすぐさまブラフガ党が無関与の噂を流した手筈には、相当の人員を必要としたはずだ。つまりあの時、既にブラフガ党の人員の多くがこの町に集まっていたということ)
家を占拠するチンピラをどうにかするだけにしては、少々大袈裟な戦力が存在していたのかもしれない。その理由が、家の元家主にあったとしたら。
「ディドル・ミースという人間は、いったい何者なんです?」
「さて……あなたも色々と私達に隠し事をしている様に、私達もあなたに何もかもを話すつもりはありません。ただ、探ることはできるでしょう? あなたは現在、ディドル・ミースの家に住んでいるのだから」
こちらの状況は既に幾らか知っているということか。ディドル・ミースに関する情報については、言われなくとも調べるつもりだったが。
「彼の家に残された資料を探れば、彼が何者であったのかが分かると思いますよ。同時に、私達との繋がりもね? それが分かった時、またここでお会いしませんか? その時は、さらに有意義な交渉ができそうだ」
ファンダルグは一方的にそう告げると、この小路から去って行った。残されたのはルッド一人。
「何時かはあんた達とも関わらなきゃなと思っていたけど、何の事は無い。最初から縁のある相手だったってことか」
ルッドはファンダルグが去った後の小路を見て、そう呟いた。
予告通り短い時間で用を終えたルッドは、ミース物流取扱社に戻った。キャルが疲れた様子で出迎えてくるも、挨拶はそこそこにルッドは社屋の奥へと足を進ませる。
「なんだよ。まだ何か仕事を続けるつもりなのか?」
「お父さんが残した資料の整理は、結構終わってるんだよね? それを確認しとこうと思ってさ」
「熱心だなあ。そうまでしないと、商売で利益が出せないもんなのかねえ………」
キャルの言葉に対しては頷いておく。自分の頭と体を働かした分だけ、他人よりも先に進めるのがこの業界だろう。そうして情報という物にも同じことが言える。
「やれることがある内は幸運だよ。あとはただ頑張れば良いんだからさ」
ルッドは資料室となっている一室に入って、真新しい資料に幾つか目を通していく。
「何か新しい商売でも思いついたのかねえ」
一旦はルッドに付き合う形で資料室に入ったキャルであるが、付き合いきれないと言った様子で資料室から出た。
今回のルッドの行動は、実を言えば商人としての行動で無いため、仕方あるまい。
(そもそも、こっちの仕事に関しては、手伝って貰うわけにはいかないしね)
ディドル・ミースの過去を探る。それは商人としてより間者としての行動であった。彼はいったいブラフガ党とどの様な関係にあったのか。それを調べて行けば、ブラフガ党やソルトライク商工会の動きの謎について掴めるかもしれない。
(ふん………それにしてもこの資料の内容。言われてみると、妙なところがある)
幾つかの資料を見て行く内に、妙な情報がまとめられている事に気が付く。ホロヘイの町の動向についてが、商人としての視点や一般人としての目線で書かれているのだ。他にも権力者側はどう見ているのかの考察や、今後の先行きなどに渡るまで、様々な事柄が、資料の端々に書き込まれている。
(単に情報を集めて商売に活かすためなんだと思っていたけれど、ディドル・ミースは町の外に商機を見つけるタイプだっていうのをあちこちから聞いてる………なんだ? じゃあなんで町の内側の情報を集めてるんだ?)
それが新しい商売に繋がる行為とでも言うのか。それとも………。
「直近の……そう、失踪直前に残した資料はどれだ?」
それを見つけられれば、ディドル・ミースの動きが分かるかもしれない。本棚に詰め込まれた資料の束を見ながら、より新しい物を探していく。
「これが一番最近のものかな? ダーマス造船社について………要注意って書かれているけど、その続きはまったく無い……メモ帳みたいだけれど、それ以降は白紙のまま」
このメモ帳が一番新しい物だと過程するのなら、ディドル・ミースの足取りは、ダーマス造船社という組織を探ろうとして、失踪したことになる。
(この組織に何かあるのか? 調べてみればわかると思うけど、危険かもしれない………)
万が一、危険性の高い行為だとしたら、ルッドもディドルと同様に失踪という結果を残すかもしれない。
(けれど、得る物も多そうなんだよな………どうするか)
ルッドはとりあえずメモ帳を自身のポケットに忍ばせて、他の資料も探ってみることにした。何か行動するにしても、今日はもう日が暮れ始めている。夜のホロヘイは酷く冷えるため、外に出るのは明日以降になるだろう。
それより先に、ディドル・ミースがどの様な人間だったのか。まだ山の様にある資料を見て判断しなければなるまい。ダーマス造船社とやらを探るかどうかはその後に決めるべきだろう。
「結局は、こうなるわけだけどさ」
ディドル・ミースの資料を読み漁った翌日。昼頃になって、ルッドはダーマス造船社があるらしいホロヘイの町の一画にやってきた。
中心街の比較的大きな建築物が並ぶ場所であり、種々様々な商売をする組織が、その行動拠点を置いている場所でもあった。
(ディドルさんが造船社の場所もしっかり控えてくれていて助かったよ。でなきゃ、まずどこにあるのかを探すことから始める必要があったんだからさ)
ホロヘイの町は広く、そこから一つの会社を名前だけで探し当てるというのは骨であるため、その労力を節約できたのは有り難い。
(残る問題は、向かった先にあるのが何であるかだ。ディドル氏の資料を探る中で分かった事だけど、彼は恐らく………)
真っ当な事をしていなかったという結論にルッドは達した。勿論、商人として儲けを出そうとすれば、何らかの形で道理に反することをしなければならないのかもしれないが、ディドル・ミースは明確な意思を持って、危うい行動を取っていることが分かった。
(そして僕も、今は彼と似た様な事をしているってことになるのかな?)
今日も挨拶回りを行うと言ってミース物流取扱社を出たルッドであるが、キャルは連れてきていない。危険な状況になる可能性もあるのだから、当たり前の判断である。
(自分の尻拭いだって万全にできるかどうか怪しいんだから、申しわけないけど、今回は留守番をして貰おう)
ルッドが一人で出かけると告げた時は、かなり文句を言われたものの、なんとか説き伏せてここに一人いる。何が出るかについては、これからのお楽しみだ。
「た、し、か。そう、この建物の3階が事務所だっけ?」
町中を歩き、目当ての建物を見つける。4階はあるかという高層の建築物であり、横に立つ建築物よりも頭一つ高い印象を受けた。使われている石材も頑丈そうで、白色のそれはまだ眩しさを感じるくらいに新しさを感じる。
(立派なもんじゃあないか。中に入っている事務所がどうかは知らないけれど)
ルッドは建築物に入り、階段を昇って行く。こういう幾つもの事務所が入った建築物というのは、階段がそれぞれの部屋の外側にあり、違う組織同士の事務所にはできるだけ関わらない様な作りになっているため、違う階の事務所同士は、面識が殆ど無いという状況も多々あるはずだ。
(例えば……そうだね。自分の事務所の上や下側にある事務所が不自然な状態だったとしても、それに気付かないとか)
ルッドは建築物の3階までやってくる。階段の踊り場には、3階の部屋へと続く扉があり、そこにはダーマス造船社という名前が書かれた、細長い板が張り付けられていた。
「鬼が出るか蛇が出るか……それとも扉が開かないか」
心のどこかで後者であって欲しいという願望が生まれる。もしこの扉が開かなければ、それ以上を調べることはできまい。ダーマス造船社については幾らか気になるものの、今回は諦めようと退くこともできる。しかし………。
(開いちゃったよ………)
扉には鍵も掛かっておらず、あっさりと扉が開いた。その先にあった光景。案の定というか、予想していた通りの不自然さがそこにはあった。
「誰もいない………やっぱりそういうことか」
ルッドは事務机とそれに合わせた椅子だけが並ぶ無人の部屋へと足を踏み入れた。床には埃が溜まり、そこに残る幾つかの足跡だけが、人の居た痕跡を残している。
「まさかこの真っ昼間から、従業員全員が休暇中ってことも無いだろうに………」
考えられるのは、最初からダーマス造船社の事務所には誰も働いていなかったという状況だ。最初から従業員など存在せず、ただ事務所に見える調度品だけがこの部屋に整えられていた。
「………この結果は、どういう意味を持つんだ? この会社はいったい………ディドルさんが残した資料を考えると、ダーマス造船社というのは―――足音!?」
部屋の外から階段を昇ってくる音がした。別の事務所の人間だろうか。ルッドは警戒して、事務机の下に一旦身を隠した。
そうして、その行動が正解だったことが分かる。足音の後には、ルッドがいる部屋の扉が乱暴に開かれる音が続いたからだ。
「………誰もいないみたいっすね」
「いや、どうだろうな。知らん人間が階段を昇るのは確認しただろ」
足音と話声から判断して、男が二人、部屋に入って来た。どうやらルッドがこの建物に入る姿を見て、ダーマス造船社の事務所を確認しに来たらしい。
(真っ当な人間ってわけじゃあ無さそうだ)
無人の事務所に人が近づくのを見て、侵入者かどうかを確認しに来た。普通の仕事に就いている人間がする行動では無いだろう。
ルッドは自分が来ている服に付属しているマフラーを使って、目だけを出した簡易的な覆面を作った。
隠れたままやり過ごせれば良いが、見つかって顔が知られてしまうのは危険だと判断しての行為である。
「もしかしたら、事務所のどっかに隠れてるかもしれん。ほらみろ、足跡が残ってるだろ」
男の一人は、床の埃に残ったルッドの足跡を目聡く見つけたらしい。一歩ずつ、ルッドが隠れている事務机に近づいて来る。
(隠れているのも潮時か………)
ルッドは事務机の下から這い出た後に立ち上がる。勿論、事務所に入って来た男二人と目が合った。
「やっぱり居やがったか。御大層に顔まで隠しやがって」
男の一人は長身の痩せた男だった。頬に傷があり、色の黒い眼鏡を掛けている。
「捕まえてひん剥きゃ良いんすよ。不法侵入者は直接捕まえる権利があるんですから」
もう一人は小太りの背が低い男。口調からして長身の方の部下が後輩だろうか。
(彼らを仮にノッポと小デブと表現しよう。ノッポの方は手強そうだけど、小デブの方は動きが鈍そうに見える)
逃げるために動くなら、小デブの動きが肝心だ。ルッドはすぐにでも走り出せる様、姿勢を低くした。




