第三話 時には大胆に
「これはこれは。良くいらしゃいました。私、ソルトライク商工会の事務員のベイロンウンド・ランと申します。今回は会長のザナード・ソルトライクの代理という形で応対をさせていただきます」
貸し馬車屋の紹介によって、ソルトライク商工会の事務所へとやってきたルッドとキャル。予定通りの時間に来たおかげか、特に待たされもせず、このベイロンウンドという男の元へと通されていた。30も後半に届く年齢だろうか。手慣れた様子でルッド達を応対している。
「ミース物流取扱社、社長のキャル・ミースです。こちらこそよろしくお願いします」
貸し馬車屋の店主から、ソルトライク商工会に会う予定が取れたとの報告を受けるまで、一日の猶予があった。なのでルッドは、キャルに挨拶の練習をさせていた。
固くならず、不快感を与えない笑顔の挨拶というのは、案外、短期間で練習できるものなので、社交辞令であるが、今回は問題なく挨拶ができている。
(逆に言えば、それくらいの練習しかできなかったんだよね………)
しっかりと挨拶を終えたキャルであるが、表情が固まっている。次をどうすれば良いのかが分からないのだろう。
簡単な訓練で習得できるものと言ったらこんなものであり、これ以上先はそれ相応の経験を積まぬ限り、上達は難しいだろう。
確か13歳前後だったはずのキャルに、そこまでの要求をするのは酷である。だからこそ、次はルッドの出番になるのだ。
「僕はルッド・カラサと申します。彼女に雇われた商人でして、その関係から貸し馬車屋の馬車を良く利用させていただき、商工会には随分助けられていますよ」
「いえいえ。むしろこちらの方こそ、利用料を支払っていただいている側として、感謝の言葉もありません。ミース物流取扱社でしたな。名前の通り、物資の運搬を生業に?」
ベイロンウンドはルッドに向かって話しかけてくる。実務的な話はルッドの方がするのだろうと理解してくれたらしい。これでキャルが難しい話をする必要は無くなった。
「そうですね。現地に赴いて、そこで見合った商売をすることもありますが、生業は何かと問われれば、物資運搬が仕事になります。だからこそ、貴会には正式な形でお会いしたかった」
「社名からして、馬車の利用は頻繁にありそうですからねえ。ああ、しかし、お恥ずかしい話なのですが、ミース物流取扱社という名前を、私、初めて聞いたもので。社歴は古い方なので?」
短く髪を切り揃えた自分の頭を撫でながら、ベイロンウンドはこちらの組織について尋ねてくる。キャルの外見には反応しないというのに、社歴に関しての興味があるというのは、彼の仕事の性質に、彼自身が影響されているのだろう。
つまり個人でなく、組織を常に相手取る仕事だということだ。
「実は秋の中頃ほどに出来た会社でして………まだ随分と歴史は浅いし、経験もそうなんです。ねえ、社長」
適宜、答えやすい質問であればキャルにも話を振る。最初の挨拶だけで自分の仕事が終わったと思われては、成長に繋がらないのである。
「あ……ああ! そうです。父も同じく商人をしているんだけど、いや、ですが。それを継ぐ形であた、わたしが商売をはじめました」
戸惑いによって、言葉に纏まりが無くなってしまうキャル。ただ、言うべきことは言っているので、及第点ということにしておく。
「ほう父上の………いえ、ちょっと待ってください? ミース……ミース………もしやそのお父上というのは、ディドル・ミース氏の事では?」
「は、はい! 父さんの名前です!」
頷くキャル。自分の父親の名前が出てきた事に、驚き半分、喜び半分と言った表情を見せる。
(あー、感情は表情にあまり見せない様にって言っておいたんだけどな)
これは減点だ。ここでもまたディドル・ミースの名前が出てきたことには驚くものの、その驚きを顔に出すことをルッドはしない。出てきて当然だろうという態度こそが、相手との会話を発展させると考えるからだ。
「そうか……ディドル氏の。彼は優秀な人でしたからなあ。彼の仕事を継ぐということは大変でしょう」
(うん?)
ベイロンウンドの言葉に引っ掛かりを覚えるルッド。どうしてディドル・ミースについての表現が、過去形で飛び出すのだろう。
(昔に会って、最近は会ってないってだけかもしれないけど………考え過ぎか?)
もしくはディドルが失踪しているという事実を知っているのか。何にせよ、さらにベイロンウンドと会話を続けたくなった。
「大変どころか、彼女の父、ディドル氏は商売上の資料を多く残してくれましたから、むしろ僕達の商売の手助けになっていますよ」
「ほう……資料を? 彼は他の商人とは一風変わった商売をする方でしたから、その資料も変わった物が多いでしょう?」
ベイロンウンドから返ってきた言葉を聞いて、ルッドは確信する。
(何か探りを入れようとしている………やっぱり、ディドル・ミースが気になっているみたいだ。もう少しこの話を長引かせるべきか?)
この商工会に来たのは商船の建造支援に関わる話を聞くためだったのだが、新たに生まれた話題についても、ルッドは興味を持ち始めていた。
「変わった資料ですか………何かあったっけ? 社長」
この際、どういう話題に進むかを運に任せてみることにした。
ディドル・ミースが残した商売資料の多くは、キャルが整理を続けている。つまり、その資料内容の多くは、ルッドよりもキャルが知っているということだ。だから、彼女が残された資料についてどう発言するかで、今後の方針を決めることにしたのである。
「変わった? 各地方のお祭り行事に関する奴とかくらいだったろ、変わってたのって。後は帳簿関係くらいだったじゃん」
「ああ。そうですか。何か面白い物でもあればと思ったのですが」
途端に興味を失ったらしいベイロンウンド。
(つまり、ディドルさんが残した資料には何かがあるってことかな? 今度、僕も詳しく調べてみるか)
思わぬところで大きな変化をもたらす物が見つかるかもしれない。ただし、この場においてはこの話は終わりだ。ここで無理矢理ディドル・ミースの話題を続けたところで、得るものはあまりあるまい。
だから、造船関連の話をすることに決めた。
「面白い話と言えば、聞きましたよ。造船業を支援する発表をしたんですって?」
「ああ、その件ですか。やはり気になりますか? 物流に関わる者としては、関係性が深い話ですからねえ」
ディドル・ミースに関わる話で盛り上がった空気のまま、別の話に移ったため、むしろベイロンウンドの方が話を続けてくれる。
「それは勿論。なんでもラージリヴァ国側も同じ支援を持ち出して、競合する場合も貴会は支援を惜しまないとか。随分と心の広い話だなと思いましたよ」
支援内容の細かい話などは興味ない。後から調べようと思えばいくらでも調べられるからだ。
重要なのは、どういう意図を持ってソルトライク商工会が、造船業への支援へ乗り出したかである。
「あれはね、会長の発案なんですよ。この国は過渡期にある! 他国との頻繁な交流は、否応なく世界を変えてしまう! だからこそ、その交流の手助けをしてくれる人や物を、選り好みせずに支援になければならない! といったことを宣言しましてね。例え国から支援を受ける人間だろうとも、同じく支援をすることにこそ意味があるとも言っていましたね」
「それは立派だ」
言葉でそう表現しながらも、内心ではまったく思わない。大言壮語を糞真面目に吐く人間は商売人に向かない。商売である以上、懸かっているのは命や主義主張よりも金なのである。
そして金銭というのは搦め手の中にこそ存在するのであり、ただ前に突っ走る人間が扱いきれる物ではあるまい。
(そして、ソルトライク商工会みたいな組織を作り上げた人間は、搦め手の達人なんだ。真っ当な発言の裏には、必ず不気味なほど捻じれ狂った意図が存在するはず………)
それを垣間見ることが、この会話の中で出来るだろうか。ルッドは少しばかり不安になっていた。目の前の人間は、ルッドが話を聞きたい本人では無いのだ。
(相手がこちらの望む情報をまったく持っていないのかもしれない。そんな状態で、僕は有用な情報を引き出せるのか?)
自信は無い。しかしソルトライク商工会の情報を手に入れる機会は少なく、今回はその貴重な機会の一つであった。ならばやってみるしかあるまい。
「実際問題として、本当に実行可能なんですか? ああ、いえ、支援そのものは行われるでしょうが、国から支援が行われている者に関してもそれが行えるというのは、どうにも」
「つまり、こちらが支援を行ったとしても、ラージリヴァ国側が支援を実施しないやもと思っていらっしゃる?」
「率直に言えばそうです。貴会が正当な意見で持って支援を実施していることは分かりますが、国側までその意見に同意するとは思えませんからね」
もしや、あえて人を選ばず支援を行うことによって、国側の支援の評判を落とそうとしているのでは。そんな裏があるかもしれぬと、ルッドはベイロンウンドの返答を注意深く聞く。
「それがどういうわけか、ラージリヴァ国側も同様に、商工会の支援を受ける者に対しても支援を行う方針だそうですよ。これは会長の意思が向こうにも伝わったのではないかと、もっぱら会内の噂になっていまして」
「本当ですか?」
まさかラージリヴァ国までその様な方針を取っているとは思わなかった。商工会とラージリヴァ国は険悪な関係では無かったのか。
「やはり怪しいと思いますか? 噂は噂として、実のところ、我々も疑っています。この国を統治する方々には、何度か煮え湯を飲まされたこともありますし、今回もそうかと疑うのは当たり前の話ですからね」
ベイロンウンドの言に寄るのならば、何かしらの策謀を行っているのはラージリヴァ国側ということになる。あくまでソルトライク商工会は、それを探る側だと。
(有り得る話かもしれないけれど……だからって商工会側が何の意図も持っていないとは信じきれないな)
国と商工会、両者共に何かの狙いがあり、結果、奇妙な状況になっているのだと予想できる。
(さて、ここからは一歩踏み込んでみようか)
ルッドは触りだけの情報では既に埒が開かぬと判断し、相手に疑われるのを承知で、話を進めてみることにした。
「怪しいのは国だけ……じゃあ、ありませんよね?」
「おや?」
首を傾げるベイロンウンド。しかし、何のことか分からないと言った風でも無い。ここでそんな話題を口にするのかという疑問符を浮かべているのだ。
「ソルトライク商工会。あなた達だって、やっていることに幾らでも怪しさがある」
「おやおや。まさかその様な事を言われるとは思ってもみなかった。挨拶にいらっしゃったのですよね? またどうして………」
驚いたというか、小馬鹿にした様な表情を浮かべるベイロンウンド。商人としても経験の浅そうな小僧共が、ソルトライク商工会に対して唾を吐きかける様な真似をしたのであるから、そうもなるだろう。
勿論、ルッドとて本気でソルトライク商工会を敵に回す気は無い。あくまで挑発も演技の一つであるのだ。
「商工会はあくまで各地の貸し馬車の取り纏めであるはずです。それがなんで造船業なんて金の掛かる事業を支援できるんです? そんな余裕が商工会にあるんですか?」
商工会が大陸の流通をほぼ支配しており、その権益で莫大な資金を保有していることを承知で、ルッドはこんな言葉を口にした。
商工会の大まかな情報は知っているが、まだ詳しくは知らない。そんな若手商人の姿を相手に見せることができたのなら成功である。
「はは。なるほど。その程度の認識ならば、あなたの態度も納得だ。しかしですね、当会はあなたの想像以上に力を持っているのですよ。そして計画も。今回の支援とて、昨日今日作り上げた物では無い。支援金を用意できないのではなどと……当会を知らぬから言える台詞だ」
幸運なことに、ベイロンウンドは話に乗って来てくれた。会話自体が盛り上がっていたおかげかもしれぬが、随分と饒舌であり、これならば失言も多く期待できそうであった。
「力とは? 貸し馬車屋の活動を統括した結果にその力はあるとでも?」
「あたりまえです。あなたは貸し馬車制度を見縊っておられる様だ。国内の流通を制御するというのは、どれだけの利益を生むかを理解すべきですね。例えラージリヴァ国と正面から権益争いをしたとしても、五分に戦えるだけの力を我々は………いえ、それは言い過ぎでしたか」
興奮してきたベイロンウンドであるが、途中で我に返り、その興奮を押し留める。
(自分の言葉の中で、冷静さを取り戻せる内容があったってことだ。会話のトーンが下がる前には、ラージリヴァ国と五分戦えるって言葉を口にしてたっけ)
つまりその言葉に、ベイロンウンドが失言だったと思う意味が含まれているのだろう。
(ふん? なんとなくだけど、背景が伺い知れそうな気がして来た)
情報のピースが何も無い空間を埋めて、パズルに描かれた絵が分かり掛けて来た様な感覚。こういうことに興奮や楽しみを覚えている自分を、ルッドは受け入れる。
(なるほど、認めよう。僕はこの状況を楽しんでいる。この感情を上手く制御できるのなら、挑むべき物事に対して、気後れなく挑戦できるはずだ。きっと)
あくまで自分は失わない。興奮によって生じた頭の中の血の巡りを、如何に有効活用すべきか。
「国とまで? それは些か不敬な発言では………」
「………そうですね。我々とてラージリヴァ国という庇護の元で商売を続けている身だ。その場所にいる限り、迂闊な言葉を口にすべきではありませんでした。あなたに対しても、少々失礼な物言いをしたことを謝罪させていただきます」
頭を下げるベイロンウンド。そつの無さはらしいと言えばらしい姿だった。一度冷静さを取り戻せば、それ以上の失言は無さそうな雰囲気を感じる。
「こちらこそ、あなた方を見縊る様な発言をしてしまい、申しわけありませんでした。どうにもまだまだ経験が浅いもので」
「いえいえ。若い頃は何時も無茶をするものです。見た所、お二人とも十代もそこそこと言った様子。あれやこれやと口を出すのも、大人気の無い態度でしたなあ。ああ、あなた方が思いの外しっかりとしていらっしゃるものですから、ついこちらもムキになってしまいましたよ」
褒められているのやら貶されているのやら。そのどちらともとれる言葉をあえて口にしているのだろう。
(会話自体も落ち着いてきたし、今回の話はここらで終わりかな。まだ聞きたいことは山ほどあるけれど、あまり長引かせる物でも無いだろうし)
力関係は依然として向こうの方が圧倒的なのだ。下手に尾を踏んで、怒りを買うべきではあるまい。
「今回は僕らの様な出来たばかりの組織に、時間を割いて下さってありがとうございました。社長?」
ぽかんとしているキャルの背中をルッドは叩く。どうやらルッド達の会話に付いて来らなかったらしい。
「あ………はい! ありがとうございました!」
困った時はとりあえず元気よく。ルッドの教えはちゃんと守ってくれている様だった。
「ぷはっ。ああいうのを突然始めるの、止めてくれよ兄さん」
ルッドがソルトライク商工会事務所の玄関まで戻った瞬間、まるで今まで息を止めていたかの様に大きく息を吐くキャル。
「ああいうのって?」
「相手に喧嘩を売って、何かしらの会話をしようとするのをだよ! 心臓に悪いんだよな………」
「まだ喧嘩は売ってないさ。場を本格的に荒らそうと思うのなら、もっと挑発的な言葉を口にしてたよ。例えば……お前はとんだ無能だな。とかね」
商工会を敵にして立ち回れる自信が無かったため、その場で終わる様な、ちょっとした揉め事で終わらせていた。それにしたって危険な試みであったが。
「時々そういうことをするよな、兄さんって。何か狙いがあってしてんのか?」
「勿論そうだけど、無茶に挑戦した方がいろいろと面白くなりそうじゃあないか」
自分でも無鉄砲な行動であるのは承知しているのだが、どうにもこの大陸に来てからは冒険心に富む様になった。北風に当てられたという奴だろうか。
「面白いねえ……ぜんぜんそう思えなかったけどな」
「それはそれで正常な感覚だよ。別に僕の考え方が正解ってわけじゃあ無いんだしさ」
同じ組織に違う感性の人間がいるという状況の方が好ましくもある。キャルが自分の様な人間に成長して欲しいなどと、ルッド自身はまったく思わない。まあ、それでも何らかの成長はして欲しいと考えるが。
「危険な事は危険と判断できる事も、また貴重な考え方なんだ。物事には引き際というものがあって、それを間違えた人間が…………」
「どうした? 兄さん」
言葉が途中で止まってしまった。何故だ。どうしてあいつがここに居る。
(待て待て待て。確かに引き際を間違えると危険だって言っていたけど、あんなのが商工会の玄関近くにいるなんて、予想なんてできないじゃあないか!)
ルッドが言葉を止めた原因は、ソルトライク商工会の玄関近くに立っていた、一つの人影だった。
ルッドはその人影が誰であるかを知っている。忘れようも無い。確か名前も名乗っていたか。
(ファンダルグ………なんでブラフガ党の人間がこんな場所に!?)
背の低い初老の男で、一見して危険とは程遠い姿や表情をしているが、その実、危険な考え方や力をその身の内に秘めている。
そんな男が、ルッドを見て微笑んでいるのだ。
「キャル? 僕はこれからまた別の用事があるけれど、どうする? 付いて来る?」
「あのさあ……あたし、ここでの話だけでどっと疲れてるんだよ。っていうか、良く次の用事に向かおうって気になるな」
呆れた様子でルッドを見てくるキャルであるが、次の用事は残念ながら逃げることはできそうに無い。
「なら、先に社屋に帰って欲しいんだ。ちょっと向かう先が違うからさ」
「ああ、いいぜ。だいたいどれくらいで帰れそうなんだ?」
「多分、そう時間の掛かる問題じゃあ無いと思う」
何か危険があるのなら、すぐさまに襲ってくるだろう。長考する時間もくれ無さそうな相手であるし。
「わかった。じゃあ先に帰ってるよ」
キャルはそう言って商工会の事務所から出ると、ミース物流取扱社へと戻って行った。後に残るのはルッドとファンダルグだ。彼はルッドと別れたキャルは追わず、ただルッドと目線を合わせていた。
「…………僕に用ってわけですか」
ルッドは覚悟を決めてファンダルグに近づくと、さっそく何の用かを尋ねる。
「ああいう子どもは、私どもの世界に踏み込ませたくないと考えるのは、当然の考えでしょう?」
至極真っ当な意見であるが、危うい世界を作っている構成員が吐ける言葉では無いと思われる。
「僕なら巻き込んでも構わないと?」
「私の認識では、あなたは自ら巻き込まれている節がありますよ?」
「そんな馬鹿な」
誰が好き好んでブラフガ党になど関わるものか。
(いや、間者としてなら彼らとの接触を考えていたけれど、それはもっと準備が整ってからであって………)
とりあえず、今の段階ではブラフガ党には近づきたくないのである。だというのに、何故か向こうから接触してくるというのがルッドの認識であった。
「知らぬは本人ばかり………ということでしょうかねえ。まあ、今回の件については、ちゃんと話をしておかなければと思いまして、こうやって挨拶に参ったわけです」
冬の間は挨拶回りばかりをしていたルッドであるが、今度は挨拶をされる側に回ったということか。ちっとも嬉しく無い。
「挨拶だけで終わる話であれば良いんですけれど………」
絶対に終わらないだろうなという確信にも似た危機感があった。
「話の内容が少し込み入った物で、しかもあまり他人に聞かれたくない。少し場所を移しましょうか?」
「断ったって、無理矢理連れて行かれそうですよね」
ルッドの言葉に微笑みで返すファンダルグ。有無を言わさぬ圧力に、ルッドは震えそうになっていた。