第一話 呼び出しは突然に
冬のラージリヴァ国は人の動きが鈍くなる。寒さとは人の活動を阻害するものであり、この国はそれがより顕著だ。
ただ家に籠って備蓄した食糧や燃料を消費する。たまにの買い出しは纏めての物であり、必要以上の量を買い込んで春を待つ。
なんとも怠惰なお国柄だと思われがちだが、これだって長い歴史の中で培われた風習なのだ。冬に何か行動を起こしたとしても、得る物より失う物の方が多いという事実を、世代を越える経験によって学んだのである。
だから、もし冬の間でも大きな益を得る確証があるとしたら、ラージリヴァ国に住む人間でも積極的に動くというものだ。
外来人のルッド・カラサにしてもそうである。この冬、一度だけ商売をして利益を得た結果、とりあえず冬を越しても商売に赤字は出ないという結果を残した。
そうして、そこで終わるつもりも無い。命の危険がある、町を出ての商売は引き続き行うつもりは無いものの、冬の間、じっとしているつもりは無かった。
冬は人の動きが鈍くなるということは、違う季節の間は大陸中を動き回っている人種が、ホロヘイの町に長期間滞在することでもある。
例えばルッドと同じ商人だ。大陸に物資を流通させる行商人の多くは、中心都市のホロヘイで冬を越す。そんな彼らに同じ商人として顔見せすれば、多くのコネを作ることができるはずだ。
ルッドはそう考えて、ホロヘイの町に滞在する商人達と交流を続けていた。
「へえ。噂の白霧の村に行ったって言うのかい?」
「ははは。本当にそうだったかはわかりませんけどね。もしかしなくても、僕が辿り着いた村を勘違いしている可能性が大です」
ホロヘイには冬の間の滞在者を主要客にしている宿が幾つもある。ルッドはそれらの宿を周り、自分と同業者の人間を見つけては、こうやって尋ねて話をしていた。
話題は相手の興味を惹きそうな、先日会った奇妙な商売についての物であった。同業者同士の自己紹介という形で尋ね、そういう話題で盛り上がる。結果、ある程度の好印象を相手に与えることができるのだ。
勿論、大それた事ができる関係性が生まれるわけでは無いものの、将来に向けては、ちょっとした助けになるかもしれない。
数多くの商人と交流を持って行けば、それらの助けは馬鹿に出来ない影響力を持つものだろう。
「いやあ。こりゃあ末恐ろしい同業者が生まれたもんだ。ミース物流取扱社だったかい?」
今日尋ねた商人は、町の東側にある宿に泊まるベイトラン・レイトという若い男だ。彼は話の展開の中で、ルッドが所属する組織について興味を持ってくれたらしい。
「ええ。冬の前に出来たばかりの社です。だからこそ、あなた達の様な経験者との関係も多く持ちたいのです。なにせ新参者も新参者ですから」
「なるほど、豆だねえ。ま、困ったことがあったら、報酬次第で手伝ってあげなくも無いよ」
「はい。よろしくお願いします」
笑顔で返答しておくも、結構、舐められた発言だった。金さえ用意するなら、商売の尻拭いくらいならしてやるという意味が込められているのだから。
(まあ、今の僕らの評価ならそんなものさ。どんな内容だろうと、機嫌よく返答してくれていることにこそ意味があるんだ)
あくまで自分を小さく相手を立てる会話を努める。実際、現状の立場もルッドの方が弱いのだ。何時かはそれを逆転させるとして、今は相手に媚び続けるのが、結果的に多くの利益を得られる。
「しかしミースか……もしや、ディドル・ミースさんと何か関係が?」
ベイトランが口にするディドル・ミースという名前を、ルッドは聞いた事があった。というか、ミース物流取扱社の社長をしているキャル・ミースの父親だ。
そもそもミース物流取扱社も、ディドル・ミースが行方不明になっている間に、娘のキャルが仮で始めた物であった。
「事情は色々とありますが、関係は大いにあるとだけ」
詳しく話しても良かったのだが、あまり聞きたそうでも無かったため、曖昧に答えておく。
「ふうん。まあ、ディドルさんの関係者なら、こちらとしても仲良くしたいね」
「実を言えば、そのディドルさん本人には会ったことが無いんですよね。うちの社長の方が関係者でして……いったいどういう人物だったのですか?」
どうにもベイトラン氏はディドル・ミースの人となりを知ってそうであるため、ここで聞いておく。ルッドはディドル・ミースについて、キャルから幾らかどういう人間だったかを聞いてはいるのだが、それはあくまで父親としてのディドルであり、商人としてのそれでは無かった。
ディドル・ミースはいったいどの様な商人だったか。家を間借りさせて貰って商売をしている身としては、知っておくべき情報だと思う。
「そうだねえ。嗅覚が鋭い人だったかな?」
「嗅覚?」
「勿論、本当の鼻の方じゃあ無くて、商売事を素早く発見できる勘の様な物さ。独自の情報網を、あちこちに作っていたって噂でね。なんでそんな地方に向かうのかって周囲が思ってる中で、いち早く金を稼いで来るんだよ。他の商人は何時も彼の後追いさ。だからあちこちの商人に貸しを作っていたなあ」
町の外から商機を見つけるタイプだったというのはキャルからも聞いていたが、その才覚は他の商人も認めるものだったらしい。
(金銭面に余裕のある暮らしをしていたところを見るに、商人として成功者の部類にはあると思ってたけど、予想以上だったってことなんだろう。それにしても、情報網か………)
いち早く商機を見つける情報網というのはどういうものだろうか。是非とも知りたいが、目の前の商人に聞くわけにも行くまい。知らないからこそ話題にしているのだろうし、もし知っていたら、誰がその便利な情報網を他者にバラすものか。
「彼の名前に関係する立場としては、見習いたい話ですよ」
「だねえ。まあ今後とも、お互い頑張っていれば、彼の様な商人になれるかもしれない」
話は深くまで進まず、社交辞令程度で終わった。最初はこの程度で十分だろう。もし、他の商人とさらなる関係を結ぼうとするのなら、それは商売の話になってしまう。
そうして商売となれば、彼らはルッドに向ける笑顔を消して、真剣に勝負を挑んでくることになるのだ。
頭や肩に掛った雪を玄関で払ってから、ルッドはミース物流取扱社に戻った。玄関に掛けた看板は、安上がりに仕上げた結果、既にボロさが見え始めているものの、年季が出てきたということで暫くは誤魔化しておく。
「ただいまー」
「おかえりー」
会社と言っても民家をそのまま利用しているだけのため、玄関を開けた先で声を出せば家の奥まで聞こえる。
ルッドの帰還の挨拶に答えるのはキャルだろう。この時間帯であれば、社長室というか、元々の彼女の部屋にいるはずだ。
彼女はルッドの帰還を知るや、部屋からドタドタと足音を響かせてやってくる。どうにもルッドに用があるらしい。
「どうしたの、慌てて?」
ルッドが冬の間、あちこちの商人と面談に向かっていることを彼女は知っているはずだし、こうやって今の時間帯に帰ってくるのは、ここ最近の日課だ。
ルッドが外に出ている間、彼女は彼女の父が残した資料の整理や、春が来てからの商売の計画などを立てている。だからルッドが帰ってきて、すぐに顔を合わせに来る事態というのは中々に無い。
「兄さんが居ない間に、兄さんに会いたいってお客が来たんだよ。丁度出てるって言ったら、これを渡してくれって」
キャルはそう言うと、手紙らしき物を渡してくる。
「なんだろ……最近知り合った同業者の人かな」
「うーん。そんな風の人間には見えなかったけどな」
いったい誰が持って来たのだろうか。それを確かめるため、キャルから受け取った手紙をルッドはさっそく読んでみた。
「………やっぱり、最近知り合った商人さんからだよ。また話がしたいってさ。代理人にこれを預けたから、本人が来たわけじゃないらしいけど」
「なんだよ、今はホロヘイにいる商人なんだろ? なら直接来たら良いのに。どれどれ」
キャルもルッドが持った手紙を覗く。商人のグラーサ氏が指定した時間と場所で、ルッドとまた話がしたいという旨の内容がそこに書かれている。
「明日の昼頃だな。行くのか?」
「勿論、人との繋がりは大事にしないとね」
冬の間は、人間関係構築以外に仕事が無い。人からの呼び出しはまめに答えておくべきだ。ただ、今回、この手紙に限っては、また別の仕事なのであるが。
次の日の昼頃。手紙によって呼び出された場所である、ホロヘイ西側の小さな昼食屋へとやってきたルッド。こじんまりとした店ではあるが、内装は清潔感があり、尚且つ冬の薄暗さを利用して灯りの調整を行っており、なかなか雰囲気が良い店だった。
(なるほど。ここで昼食を取りながら話し合いってことか)
値段的にはかなり高そうな店である。冬に外食をするとなると、ただでさえこの国では割高になるのだから、呼び出した相手には随分と金銭的余裕があることが分かる。
(まあ、そうでなきゃあやってられないよね。他国で外交官なんて仕事はさ)
ルッドは店に入って、自分を呼び出した人間を見つけた。目当ての相手、グラフィド・ラーサは、昼食屋の二人用のテーブルにて既に昼食を始めており、ルッドを見つけると手招きをしてくる。
「そっちから呼び出しなんて、珍しいじゃないですか、ラーサ先輩」
グラフィド・ラーサは、ルッドの外交官としての先輩であり、このラージリヴァ国と、ルッドの故郷であるブルーウッド国との交渉を進めている主要外交官でもある。つまりルッドの上司だ。
ルッドは昨日の手紙にて、彼に呼び出されたのである。
「同居している女の子に気付かれない様に気を使ってやった。ありがたく思うんだな」
笑うグラフィド。そうしてまた昼食を再開する。分厚い肉から甘酸っぱいソースの匂いがして、ルッドの食欲をくすぐってきた。同じ物を頼もうか。
「気を使ったわりには、グラーサなんて名前を使って………。単に姓と名前を縮めただけじゃないですか。もうちょっと、名前を並べ替えるとかできなかったんですか?」
ルッドはグラフィドの目の前にあるテーブルを挟んだ、昼食屋の椅子へと座る。さっそく店員がやってきて、ルッドに何か注文するかを聞いて来る。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」
「目の前の人が頼んだ肉料理の肉を使った、別の料理ってありますか?」
「それでしたら、馬の後ろ足近くの肉を使った骨付き焼きなどはどうでしょう? ボリュームがありながら、さっぱりとした味わいで、昼食として食べるのなら最適ですよ?」
「じゃあそれで」
店員はルッドの返答を聞くと厨房へと向かった。すぐに奥から美味しそうな肉が焼ける匂いがしてきた。
「馬って……毛長馬の肉ってことだよね」
確かこの国では馬と言えば、あの馬にまったく見えぬ毛長馬のことだったはずだ。
「中々に美味いぞ。牛に近いが海獣的な風味もあって、面白い味だ。このソースもティンベントとか言う植物の樹液を使った、この国らしい味わいだな。最近は飽きてきたが」
食事を続けながら、グラフィドが自分の食べている料理についての感想を述べる。とりあえず食べられない物では無いらしいので、ルッドは安心した。
「そう言えば、食用にも使われてるって話でしたっけ」
「ああ。寒さに強い家畜っていうのは、この国じゃあ何よりも重要なんだろうさ。それと話を元に戻すが、名前の件は凝った名前にしても意味が無いと思ったからだ。どうせ、俺の名前を知ってる奴なんて、この国じゃあ限られてるんだからな」
グラフィドはホロヘイ以外の場所ではあまり行動しないらしく、ラージリヴァ国での人間関係もあまり広く無いそうだ。
「つまり、僕がラーサ先輩に会うっていう事実さえ隠せればそれで良いと」
「そういうことだな。ちなみに俺は知り合いの商人に偶然この国で会ったから、世間話ついでに昼食へ誘ったってことになっているから、話は合わせろよ」
グラフィドは固そうな肉の端をナイフで必死に斬りながら話している。傍から見れば、手でも斬らないものかとハラハラだ。
「手紙にも、先日会った商人が昼食を一緒に取らないかって誘って来たことしか書かれていませんでしたからね」
「ああ。ちなみに手紙は俺以外の人間に書かせたから、筆跡を見て俺を特定するのは難しいぞ?」
「わかってますよ。どう見たって先輩の字じゃあありませんでしたからね」
兎にも角にもラージリヴァ国において、ルッドとグラフィドの関係性は、他者にバレぬ様に注意をしなければならない。
その事の確認を今回の話し合いの前口上としていた。まさか本当に昼食に誘ったわけでは無いだろう。本題はここからだ。
「ふう…………うん………じゃあ、ここからが呼び出した理由の説明だ。良いか?」
「どうぞ」
漸く肉の切り分けを完了したグラフィドは、肉切れを口へ運び、咀嚼し、飲み込んだ後、話を始めた。
「直接呼び出したのは頼みたいことがあったからだ。というのも、お前がこの国に来た理由と大きく関係がある」
間者の仕事についてだろう。普段のルッドは、どんな物でも良いからラージリヴァ国の情報を集めるという命令に従っているが、直接呼び出されたということは、特定の情報を間者として集めろと新たに命令されるに違いない。
「そっちで何か変わったことでもあったんですか?」
「変わったことと言うなら、今、この瞬間にも起きているさ。俺達は外来人だ。ここで飯を食っているだけでも、この国にこれまで無かった変化をもたらしている」
グラフィドはこの様に煙に巻くような発言を時々するが、これには相手を試す意味合いが含まれている。自分が何を言いたいのかを察することができるかどうか。それをテストしているのだ。
(それが癖になっちゃってるらしいけれど)
何でも無い様な会話でも、あやふやな事を言ってくる場合もあり、正直、好印象を持たれない話し方である。本人も気にしているのか、仕事上、目上の者と会話する場合は、意識して控えているらしい。
「それで、この国がブルーウッド国と交流を持った結果、どういう事が起こったんですか?」
グラフィドとの会話に限っては、ルッドはもう慣れた物だ。今回の話題はブルーウッド国とラージリヴァ国間で起こった何かが問題になっているのだと、彼の言葉から推測できる。
「この国で船の需要が増えているっていうのは知っているか?」
「詳しくは知りませんけど、まあ、そうなってるでしょうね。そう幾つも造れる物じゃないですから、需要って表現をするのはアレですけど」
ブルーウッド国との交流が始まった結果、ラージリヴァ国では他国へと向かうための船が急遽必要とされ始めている。
元々、他国との交流が殆ど無かった国のため、外海へ出る船というものはまったく存在しておらず、ブルーウッド国との交流も、大陸の外延部の移動に用いる船を、さらに改造して使っている状態で、それにしたって数が無い。
「これまで少なかった数を補うためか、結構な数の船を造るつもりだそうだから、需要って表現で良いのさ。国中の船大工が、今は慌ただしく働いている」
「なら港の数も増やす必要がありそうですよね。冬に凍らない港を幾つ作れるか……それが今後の発展の鍵になりそうだ」
色々とこの国も変わろうとしている。それが良い方向なのか悪い方向なのかについては、神ならぬルッドに分かるはずも無い。
「先の事を考えるのも大切だが、今の問題は船の需要が増えて、この国がその後押しをしようとしている事だ」
「へえ。国が後押しを………、ブルーウッド国との交流を始めたのもラージリヴァ国なんだし、当然と言えば当然か。どういう支援内容なんです? 船の製作費の何割かを国が出すとか?」
外海を渡る船ともなれば、造るために馬鹿にならない額の金銭と資材が必要になってくる。幾ら需要が増えたとは言え、それらを急に用意することなどできないだろう。
だから、ある程度を国が肩代わりするというのは良くある話だ。今後の利益を考えるならば、肩代わりした金銭以上の物が、将来的に手に入る見込みがあるのだし。
「一応、低い金利と長期間の返済猶予という形で、金銭を貸し与える話が進んでいてな。資材に関してはうちが格安で売る事により解決した」
「うちって……ブルーウッド国がですか?」
確かにブルーウッド国は木材を主要産物にしており、船用の木材なら大量に用意できる立場だ。
「ここらで相手国に貸しを作っておくのも悪く無いと思っている。本国にも許可を貰って話を進めているんだ。交流や商業用の船が増えるのは、こっちとしても利益になるしな」
国と国との交流は、基本的に貸しの擦り付け合いである。相手にとって得になることを、如何に恩を着せがましく行うかが重要になる。
それと言うのも、出来得る貸しを与えて肝心要の瞬間に恩を返せと要求するための準備なのだ。国というのは、必ず一国だけでは立ち行かなくなる瞬間があり、その時のための保険に他国が存在すると言って良い。
勿論、恩を着せて安心していると、返ってきたのは仇だったという状況も有り得るため、十分な注意が必要になってくるが。
「良い話じゃないですか。単にお金を与えるんじゃなくて、貸し借りという形で金銭の支援をするというのも、適当で良いと思いますよ」
詳しい支援方法というのをまだ聞いていないため断定はできないが、話に聞く限りでは、まともなやり方だとルッドは考える。これで船を造る労働者を無理矢理徴用したり、資材や金銭を、重税を掛ける形で補填しようとするのなら話は別であるが、そういった様子も無さそうだ。
「それだけで終わる話なら良かったんだがな………」
「何かあったってことですね?」
でなければグラフィドがルッドを呼び出したりはしないだろう。国の行う物事に、順調という言葉は絶対に付かない。必ず、何がしかの問題が発生するのであり、その解決方法の一つとして、ルッドが選ばれたのだと考えられる。
「何かが起こりそうって表現が正しいな。さっき言ったこの国が行う支援方法なんだがな、同じことをソルトライク商工会ってところが民間でも行うって表明したんだ」
「へえ。ソルトライク……それは大変ですね」
「知ってるのか?」
「ええ。まあ」
伊達にこの国で商人はしていない。ソルトライク商工会と言えば、この国の貸し馬車屋の7割近くを傘下に収める組織だ。ザナード・ソルトライクという男が一代で築き上げた組織であり、どの町をどう貸し馬車屋で繋ぐかの決定、馬車の修理技術の継承などを行っており、内陸を中心に行なわれる通商活動の中で、様々な権益を握っている。
ホロヘイの貸し馬車屋もソルトライク商工会の構成店であり、その店を利用するルッドも、勿論、ソルトライク商工会の名前と実態は聞いた事があった。
「けど、造船の支援を民間が行ってくれるのなら、それはそれで良いじゃないですか。国庫を浪費せずに、勝手に造船の需要を満たしてくれる。歓迎すべき事態では?」
国と同じ支援を別組織が行うというのは、一見、邪魔者が現れた様に思える。しかし今回に限っては、外海に出る船を造り、他国との交流を活発にする事で利益を得るのが主体であり、そこに至るまで過程において、消費する金銭を分担できる事態は、むしろ国として助かる事だと言えた。
「ラージリヴァ国だけじゃあ、造船の支援にも限界があるから、良い話だとは俺も思うんだが、名乗りを上げたのがソルトライク商工会と言うのがだな…………結構、国と仲が悪いんだろ?」
「悪いと言うか……上手くは行ってないとは聞きますね」
ラージリヴァ国としては、国内の流通で重要な存在である貸し馬車屋の多くを、民間の組織が傘下に収めているというのは、随分と不健全に見えるだろうし、度々その商売に口出しをしようとしている。そのことをソルトライク商工会側は、自分達の商売の邪魔であると認識しており、両者の関係はあまり良好とは言えなかった。
「元々ソルトライク商工会自体、各地方の領主が国の介入を嫌って、ラージリヴァ国が関わる貸し馬車屋の配置を遅延させていたところを、隙を狙う形でその勢力を広げたっていうのが背景にあるらしいですからねえ。組織の成立過程からして、仲良くなる可能性の方が少ない」
だからこそグラフィドは懸念しているのだろう。ラージリヴァ国とソルトライク商工会が同じ方法で造船の支援を行おうとしている。その状態で、問題が起こらないはずがないと。
「単純な問題なら、この国だけの問題で、俺が気にする必要も無いんだが………」
「何か考えでもあるんですか?」
含みのある言い方をするグラフィド。彼がこういう態度を取る時というのは、彼なりの狙いがある時である。
「そうだな……まあ、お前が集めてくる情報次第ってところだが、それを話す前に、ほら、来たぞ」
グラフィドは昼食屋の厨房がある方向に顎を向けた。ルッドが促される形でそちらを見ると、そこにはルッドが頼んでいた馬の足肉の骨付き焼きらしき料理が運ぶ、店員の姿があった。




