第一話 石工の村へ
命を賭けるに値する。そんな物は世の中にどれだけあるだろうか。家族や友人、名誉や誇り。それらは比較的上等な代表例として挙げられる。金や異性との恋愛。それらを挙げた場合、あまり良い趣向とは思われないかもしれない。
兎にも角にも、命を賭けるという大々的な宣言の後に続く物というのは、案外、そこら中に、それも多種多様に存在しているのだ。
では、そんな命を賭ける物として、芸術と口にした場合は、どういう目を向けられるだろうか。
多くの場合、内容によるという回答が返ってくるだろう。例えば別の金銭を稼ぐ仕事があり、それを突然辞めて、芸術に生きると言った場合、正気を疑われる結果となる。もしかしたら、全力で殴られるかもしれない。
一方で、実際に芸術を生業としている者がその言葉を口にすると、さすがだと納得してくれる人間が多いだろう。
芸術とは本来、生活に関わらない趣味であるのだ。それで金銭を稼げるというのは、人に理屈では無い何かを訴え掛ける最低限の技術があるということであり、それに命を賭けていると口にするのは、むしろ人から分かりやすい共感を生み出すことになる。
では、自分はどうだろうか。今日も目の前の石を眺め、観察し、削るためのノミを振るう。その腕で、金を稼いでいることは確かだが、命を賭けているとはとても言えない。芸術を辞めるか死ぬかのどちらかを天秤に掛けるならば、容易く前者を選ぶだろう。
そんな自分が、ひたすらに芸術の道を進んでいるのは皮肉に思えた。しかも日々の生活のための糧を、その腕によって稼いでいる。技術は確かにあるのだろう。だが、人に何故、その道を進むのかと問われた時、返答に困ってしまう。自分は決して、そこに心血を注いでいるわけでは無いのだから。
酷い裏切りだと思う。そもそも、自分がやっているのは芸術ですら無いのかもしれないのだ。単なる作業を続ける道具として、対価を得ている。そこには芸術的感性など一つも入る余地が無い。
だからだろうか。自分には技術があり、もしかしたら才能があるのかもしれないが、一流の芸術家が、何がしかの偶然によって作られるという、奇跡の一品と言った物だけは、作れないのだと思っていた。そういうのは、芸術という道にすべてを捧げた人間にこそ作り上げられる物だと信じていたのだ。
だが、そうでは無いのかもしれない。芸術に神がいるのだとしたら、それは酷く気まぐれで、自分の様な者にすら、その機会を与える存在なのかも………。
商人、ルッド・カラサが、自分が雇われた家の玄関に看板を吊り下げたのは、この家の主人に雇われた二日後の早朝だった。
「『ミース物流取扱社』。うん、やっぱり、こういう分かりやすいのが良いよね」
家の主人、キャル・ミースの姓から取った会社名だ。家主兼社長のキャルは、もっと凝った、恰好の良い名前を希望していたが、一目見て何をしている会社なのかが知れた方が良いとルッドは考えたため、この名前に決定した。
(そのことだけで、昨日まで揉めたせいで、看板が酷く簡素になっちゃったけどね………)
ラージリヴァ国にて、何らかの看板を作る場合、殆どは石看板を使う。この国の木材はそれほど質の良い物とは言えず、一方で良い石があちこちで取れるので、費用は多少掛かっても、長持ちする石看板を作るのである。
ただ、ルッド達にはその様な時間が無かったため、木板に染料を使って描いた物を使っていた。近い将来、ちゃんとした物を作らなければ、何時かこの木板の看板は判別ができぬほどにボロボロとなるだろう。
(まあ、あくまで仮の会社なんだから、それで丁度良いのかもしれないけどさ)
ミース物流取扱社は、社長のキャルの父親が、この家に帰ってくるまでの仮組織であった。本来は、彼女の父親が商人として働いていた家であるのだが、長らく帰ってこないままの父親の代わりに、ルッドが雇われたのだ。
「おーい、兄さん。看板の設置は終わったかー」
家の中からキャルの声が聞こえて来る。彼女には、自身の家を商人の家らしくするために整理をして貰っている。最近までチンピラ連中に家を奪われていたというのもあり、それが中々に大変だ。
少なくとも、以前の家主が残していた商売に関する資料だけは整理しておかなければ。
「うん、終わった! すぐにそっちに行くよ」
看板を玄関に掛け終わったルッドは、玄関に看板が掛かる景色を少し離れて見た後、ミース物流取扱社へと入った。
「で、さっそく商売を始めたいと思うんだよ」
「いっきなりだな。何か急ぐことでもあるのかよ」
家に入ったルッドは、キャルに今後の方針を提案してみるのだが、彼女は社長として困惑するのみであった。
「君のお父さんが残した帳簿やメモ書きなんかを調べてみたんだけど、ホロヘイの北あたりに、マーダって地域があるそうだね」
「ああ。石材の一大産地だよ。北に山、南に沢があって、どちらからも性質の違った良い石が取れるってんで有名なんだ」
キャルも知っている町らしい。ならば話が早くて助かる。ルッドは自分が見つけた一枚の紙を取り出した。
「これなんだけどさ、商機って言うのかな、大陸のあちこちの町で開かれるであろうイベントの時期が書かれたメモだと思うんだよ。この国の文字が十分に分かるわけじゃあないから、まだ全部読み切れていないんだけど」
「イベント?」
「お祭りとか、急な祝い事とかだね。もう時期が過ぎてたり、一回限りの物とかが多かったけど、もうすぐマーダの村で祭典みたいな物が開かれるって情報も書いてあったよ」
だいたい一週間かそれくらいの先に行われる祭典だそうだ。重要な物なのかは知らぬが、祭典の時期を書いた部分が○で囲われている。
「そこで何か商売でもするのか?」
「どっちかと言えば、必要そうな物品をホロヘイで集めて、向こうで納品するって形になると思う。ほら、一応、物流を取り扱う店として出発したわけだし」
というより、商品の輸送以外の仕事がまだ出来そうに無いから、そういう店としてスタートしようという話になったのだ。
「ふうん。確かに、儲けが出そうな話だよな。人が結構集まりそうなのか?」
「そこまでは書いてないよ……ただ、芸術に関わるとか」
「芸術か………あー、わかった。知ってる。石工技品評会って名前だ、確か」
「石工?」
キャルが知っているということは、有名な祭典なのだろうか。
「そう。石材が産出するだけあって、石工も多く集まる村らしくてさ、そこで作られる工芸品も馬鹿にならない額で売られてるって、以前、父さんが話してたんだ。確かに、急いで行った方が良いな。往きだけじゃなく、帰りでも何か売り物になりそうな物を運べるかもしれないぜ」
なるほど。それは是非とも向かわなければ。二度も商売をする機会があるということであるし、その度に商人としての経験を積める。
「しかし、石工が集まる村か………石材の一大産地とも言ってたよね?」
「ああ。他にも幾つかあるらしいけど、あたしが知ってるのはそこくらいだね。つまり代表的な場所ってこと」
「ふむ。つまりこの国にとっては重要な拠点というわけか………」
ルッドは商人としての思考から、本来の職業である外交官としての思考に移った。ルッド本来の仕事は、このラージリヴァ国で、国内の様々な情報を密かに集めて、先輩の外交官に報告することである。マーダという地方が、この国にとって重要な場所ということならば、その情報も報告事項の一つとなる。
「昨日、なんか資料みたいな物を作ったり、突然、町に出たりとかしてたけど、石工技品評会に向けての準備だったんだな」
「え? あ、そう。まずは、向こうに何を運べば良いか考えててさ。他にも運ぶ際の費用の計算とか地理の確認とかも必要だったし」
ルッドの言は嘘では無かったが、それ以外にもやっていたことがある。それは、これまでに集めた情報を纏め、報告書の形で、代理人を通して先輩外交官へ渡す作業である。
それらの仕事は他人にバレるわけには行かないため、キャルには誤魔化して話す。目の前の人間が、他国の間者であるなどという話は、誰にとっても不快な情報だろう。
「すぐにマーダへ向かいたいってことは、そういう準備も既にできてる状態なのか?」
「そうだね。今日すぐにってわけにはいかないけど、明後日の朝くらいなら、マーダに向かうことはできるはずだよ。それで聞いて置きたいんだけど、君はどうする? 家で留守番するか、それとも僕と一緒に向かう?」
キャルはまだ子どもと言って良い年齢であるが、それでも、今はルッドの雇用主だ。商人としての経験だって、将来的には積む必要があるだろう。ならば、ルッドと共に町の外で商売をするという選択肢は、有って然るべき物だ。
「正直、行ってみたい。だけどさ、この家を誰もいないままにするのは抵抗があるんだ………」
キャルは一度、この家を不良共に奪われた経験から、家を空けてまた同じことになるのを恐れているらしい。
「準備はできてるって言ったろ? ちょっと費用は掛かるけど、安上がりで家を守る方法ならある」
ルッドはキャルに向かってニヤリと笑った。
「用心棒を二人も雇うなんて、随分と太っ腹よねえ。それとも、以前の商売が上手く行ったのかしら」
ホロヘイの町を北に出た街道を歩いて暫く、用心棒や護衛などの仕事しているレイナラ・ラグドリンが、突然そんなこと口にした。
「どうなんでしょうね。余裕云々ならあんまり無いんですけど、使わなきゃならない経費っていうのは、どんな状況でも少なからずあるじゃないですか」
レイナラを旅の護衛として雇ったルッドは、とりあえず彼女にそう返しておく。マーダに向かうことを決めた明後日、ルッドはレイナラともう一人の用心棒を雇って、さっそく旅に出ることにした。
今はその道中であり、当然、レイナラには護衛代を払っている。
「使わなきゃならないねえ………その割には、もう一人の用心棒に関しては、無駄な出費に思えるけれど」
レイナラはそんな嫌味を言うが、嫌味を向ける相手はここには居ない。代わりにいるのは、ルッドの雇用主であるキャルだった。
「今は、家を空けるわけにはいかないんだよ。チンピラ連中はいなくなったけど、また同じようにされる心配があるからな」
キャルはもう一人の用心棒を雇ったことに対して、そんな理由を口にする。実際、そのことを決めたのはルッドだった。
キャルにはルッドと同じく、商人としての経験を積んでもらいたいため、家で留守番をさせるというのは抵抗があった。
だから留守を任せる用心棒を雇い、現在、ルッド達のいないキャルの家に住んでもらっている。
「留守番を雇うっていうのは分かるのよ? けれど、その相手がダヴィラスっていうのはねえ………」
どうやら無駄な出費というのは、留守番を雇うことそのものよりも、留守番を任せた用心棒にこそあるらしい。
ダヴィラス・ルーンデは、外見こそ用心棒に相応しいのだが、戦いの腕がからっきしであり、その部分を見れば、家を守って貰えるかどうかは不安になるだろう。
「それも経費の関係ってことです。あんまり高い雇い賃を払える程、余裕が無いんですよ、こっちも」
何もかもが万全にできる護衛となれば、その分、代金も割高だ。今度の商売では儲けを出したいとルッドは考えていたため、削れる出費は削るつもりである。結果、雇った護衛達は、何がしかの欠点がある人物となる。
「まあ、私としては、だからこそ雇われたわけだし、文句を言うのもあれよね?」
護衛としての欠点で言えば、レイナラも当然ながら持っている。彼女の場合、戦いの腕に関して文句は無いのであるが、一方で、女性であるという一点で、護衛としての才に欠けていた。
野盗に襲われた際に撃退できる腕があるというのは心強いが、そもそも襲われずに済むのならそれが一番である。だが、レイナラの外見を見て、襲うのを躊躇う野盗はなかなか居ないだろう。
「あたしとしては、姉ちゃんがちゃんと強盗を退治できるかどうか、まだ不安なんだけどな」
レイナラがダヴィラスの能力を不安がっている様に、キャルもレイナラを見て、雇う価値があるのかどうか分からないらしい。
「それなのよねえ。戦いの腕って、結局は戦って見なければわからないのだけれど、まさか雇用主と実際に戦ってみるなんてのは無理でしょう?」
キャルの嫌味混じりの言葉に、レイナラは困り顔を浮かべる。実力を疑われることには慣れているが、一方で、そうである事実には納得し難いと言ったところか。
「ぶっちゃけ、他の人はどうしてるんでしょうね。僕は護衛業の世界には疎いですから、どうすれば良いかがさっぱりですよ」
「そうねえ……例えば、顔に傷跡を作るとかかしら。抵抗があるけれど、生活に困ればするしか無くなりそう」
女性が言うと重みのある言葉だ。女性だと言うだけで外見に劣りがあるのなら、少しでもそれを向上させる努力が必要になるのだろうが、顔に傷跡を残すとなれば、一生物だろうに。
「こうやって、地道に護衛として雇って貰って、名前と顔を売れば、その必要も無くなってくるのだろうけれど………だから、あなた達には感謝してるのよ?」
「そう言って貰えると、安く雇っている罪悪感は無くなりますね」
レイナラに支払う護衛代は、相場よりも随分と安い。彼女が自身の欠点を認めた上で、それでも雇って貰うべく取り決めた護衛代だったからだ。
「だから、家で留守番しているだけでお金を貰ってるあいつがムカつくのよねえ」
「それこそ、生まれ持っての才能じゃねえの?」
キャルの言う通りだろう。ダヴィラスの外見はそれだけの無二の才能であった。あの男が番をしている家を奪おうなど、誰が考えるものか。
「とりあえず、うちの社としては、両者共に今後とも懇意にさせていただくってことで」
色々とこのまま愚痴が続くのは面倒臭そうなので、話を無理矢理纏めておく。金銭や生活の話となると、生々しくなるのは人の習性なのだろうか。
「うちの社っていうのも、なんて言うか急な話よね? あなたって、確か外国から来たのよね? なんでホロヘイで会社を組織してるの?」
「色々とあるんですよ。ちなみに、雇う時にも言いましたけど、彼女がうちの社長です」
レイナラの問いに答えつつ、ルッドはキャルを見る。
「ミース物流取扱社の社長、キャル・ミースだ。よろしくな」
キャルは胸を張って、自らの立場を紹介する。
「………本っ当に色々あるのね」
「あはは」
キャルの姿は子どもであり、明らかに社長という肩書きに見合っていなかった。それでも、彼女はルッドの雇用主だ。今回の商売も、彼女の家が蓄えていた資金を幾らか出しての物である。だからこそ、儲けを出してやりたいと思う。
「それで、これをマーダの村まで無事に運ぶのが私の仕事で良いのよね? 今回はどんな商品なの?」
レイナラは、ルッド達と共に移動している馬車を見た。相変わらず馬に見えない毛深い動物が馬車を引いているが、今回はちゃんと屋根が付いていた。
前回の商売で、大陸での旅は馬車がしっかりとした物をと考えていたため、貸し賃が多少割高でも、良い物を選んでいた。
これから大陸は冬に近づいていくため、そのままテント代わりに使える物が良いとの判断であるが、それに加え、今回の商品は、大事に運ぶ必要のある物だった。
「馬車に積んでいるのは、服なんかの生地ですね。できるだけ色が多種に渡る様に仕入れましたよ。こういうのは傷が付いたら値段が落ちますから、慎重に運びたいところです」
ラージリヴァ国で服の生地と言えば、その多くが獣の毛である。恐らく、今、馬車を引いている様な動物達から刈り取った物なのだろう。一方で、絹や綿などは貴重品として見られているらしい。
「なんでまたそんな物を?」
「これから向かうマーダの村って、石工を職にしている人が多いみたいじゃないですか。しかも、近い内に石工の技術を見せ合う祭典がある。となれば、こう言った芸術品を飾る材料になりそうな物が、必要になってくると思うんですよね」
ルッドが用意したのは服の生地であるが、それをそのままの用途で売るつもりは無く、祭りの場を飾り付ける材料になりそうな物として売る予定だ。
「良い視点だと思うんだよな。タイミングさえ合えば、儲けは出せそうな気がするぜ」
キャルのお墨付きもあった。と言っても、彼女とて商売の経験など殆ど無いだろうが。
「ふうん。そんな物なのね。なら、私も大事にこれを守らきゃね」
笑うレイナラは、確かに頼りになりそうだ。盗賊退治の実績があることは、ルッド自身が承知している。
「まあでも、距離的に近いから、もしかしたら働く必要は無さそうだけれど」
「そうなったら、こっちも護衛の代金も事前の取り決め程度の額を払うだけですよ」
その方が安く済む。安全は誰しもが望む物であろう。そうして、今回に限っては悪いことも起こらずに、目的地のマーダへ辿り着くことになる。
問題が起こるのは、マーダの村へ着いてからであった。
高揚感と言うのは、個人から出るものでは無く、周囲の雰囲気が徐々にそうなっていく物だろう。
だから、その高揚感の原因を知らぬ物でも、その場所に近づけば、空気が変わっていることに気付くことがある。
マーダの村に辿り着いたルッド達も同様で、村全体が浮かれている雰囲気を、誰とも話すことは無く感じていた。
「やっぱり、祭典間近ってことなんだろうね」
村の雰囲気を感じて、ルッドはそれが自分だけの勘違いでないことを確認するため、キャルにも同意を求める。
「ああ、あたしもそう思う。持って来た商品が売れると良いよな」
キャルは馬車と村を交互に見てから答えた。街道から村へと入れば、そこはもう祭りの飾りつけがされた村の主要道路に繋がる。雰囲気だけの話では無く、実際に目で見て、石工技品評会とやらが開かれる予定であることが分かった。
「そうよねえ。その方が、私も気分が良いわね。帰りも雇って貰う予定なんだし」
レイナラはまだルッド達に同行したままだ。マーダの村に着いた時点で、レイナラの仕事は終わっている。だから、ルッド達の商売も関係無く、また同行する必要も無い。
「帰りって……ホロヘイに帰る時も雇うなんて言ってましたっけ?」
一応、彼女との契約はマーダに商売品を運ぶまでで、それ以降はまだ白紙のままだ。
「えー、だって帰りも、ここの工芸品を運ぶつもりなんでしょう? だったら、私をまた雇うべきだわ。あなた達、はじめてここに来たのよね? なら、代わりの護衛を探すのは余計な手間だと思うのだけれど」
彼女の言う通りではある。契約はしていないが、帰りも彼女を雇えれば良いとは思っているのだが、本人に最初から期待されるのは癪である。
「この馬車の売り物が、ちゃんと売れるかどうかに寄りますよ。ねえ、社長」
「まあな。赤字が出たら、護衛代金だって節約しなきゃならなくなる」
「そんなのって無いわ! あなた達が雇ってくれなきゃ、この町で別の雇い主を探さなきゃいけないじゃない! ホロヘイに戻るにしたって、旅費が掛かるし………」
護衛業というのは、護衛先の目的地まで行うと、またそこで別の雇用主を探すのが普通らしい。もし、それが不可能であるならば、別の町まで自ら移動する必要がある。勿論、その際の費用は実費だ。
護衛代金とはそういう費用も含めて要求するらしいのだが、レイナラの場合、自身の代金を安く設定しているため、帰りの費用を自分で払えば、すぐに生活が苦しくなってしまうらしい。
「あーはいはい。ちゃんとこの商品が売れれば、また雇ってやるよ」
一応、レイナラを雇うかどうかの決定権は社長のキャルにある。今回の商売も、元金の多くはキャルが出しているのだから。
「そういうことなら、私だって手伝うわよ! で、何時、何処でこれを売るつもりなの!?」
必死の形相で尋ねて来るレイナラ。彼女も生活が掛かっているのだから当然か。
「こっちで、飾りを纏めて扱う商店なんかがあれば良いんだけど、まずはそれを探すことからだね。村中に飾り付けがあるってことは、そういう店がある可能性は高いと思う」
自ら商品を客に直接売るつもりは無い。客に商品を売るノウハウは、現地の店の方が圧倒的に有利なのだから。
多少、安く見積もられても、そういう店に商品を卸した方が、商品をすべて捌けるだろう。
「買い入れ料より、高く引き取ってもらえれば良いんだけど」
村を見渡すルッド。キャルの父親が残した資料まで利用して準備した商売だ。今度はちゃんと儲けを出したい。