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北風の道  作者: きーち
第三章 ホロヘイの厄介事
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第五話 チンピラの集団

 作戦決行当日。夕暮れを待ってから、ルッドとダヴィラスはキャルの家へと向かっていた。

「何度も言いますが、タイミングが重要です。治安隊が踏み込んでからだと遅いし、ババリン団がこっちの考えに気付いて、家から戻ってくる時間を与えるのも拙い」

 だから、今現在の時間に家へ向かう必要がある。キャルの家へ乗り込み、ババリン団と交渉する。それを今から始めれば、彼らを追いだす頃には、自警団達がババリン団を潰すために動き出すだろう。

「当事者の………あの娘は……連れて来なくて良いのか?」

「ハッタリが大切ですから。隣に小さな女の子がいたら、あまり良い印象が無いでしょう?」

「………あんたが言う良い印象とは、相手に………威圧感を与える印象という解釈で良い………のか?」

 概ねその通りである。キャルはババリン団に顔が割れているというのもあり、交渉への参加はこちらの利にはならない。だから、ダヴィラスが借りている部屋で待機してもらっていた。

「小さな娘が、チンピラに囲まれているっていうのも不健全でしょうし、まあ、僕らは僕らで頑張ったら、結果的に家が返ってくるんですから、それで良いかと」

「………何か……あったのか?」

「はい? なんでそんなことを聞くんですか」

 何かあったかという問いに、思わず反応してしまうルッド。確かに昨日、“何か”があったのであるが、そのことについて、ルッドは他の誰かに伝えた覚えは無かった。

「様子が………少し変だ」

 目を細めながら、ルッドを見てくるダヴィラス。その視線がどうにも居心地の悪さを感じさせてくる。

「失礼ですけど、僕の様子が変かどうか、分かるくらいの付き合いってありませんよね?」

「かもしれんが………昨日の朝までは、軽い仕事を行う程度の気構えに見えた。だが、こう………今は違う」

 ダヴィラスは言葉で現そうとして、それができず、空を掴む様な仕草をしながら話す。要は、ルッドから受ける印象が、昨日の朝と今とでは違うと言いたいのだろう。存外に彼も勘が鋭い。

「小ちゃな娘を危険な事態に巻き込むっていうのは、本人の事とは言え、気が引けません?」

「まあ………確かに………」

 事がババリン団や町の自警団だけで納まる仕事なら、ルッドもキャルを連れてこようかという気にもなるのだが、さらにそこへブラフガ党が関わってくるのであれば、近づけさせないのが賢明だろう。

 ダヴィラスには、交渉自体が危険な物であるから、キャルは近づけさせないということにして理由を説明する。

「相手はチンピラ連中かもしれませんが、数は多ければそれだけ危険です。口先だけで解決するつもりでも、手が出てしまえば大変だ。だから、まあキャルはお留守番ってわけですよ」

 とりあえず、そういうことにしておいた。ブラフガ党との一件は、ルッドの内心で留めておきたかったのだ。話が広がれば広がる程に、ルッドの立場が悪くなりそうだから。

「それについては………わかった」

 本当だろうか。もしかして、ルッドの様子を疑いの目で見ていないだろうか。ダヴィラスの表情は、ルッドにそういう勘繰りをさせてしまう。彼の外見は生来からそうなのだと言われれば、それまでだが。

「………そろそろだな。予定どおり、真正面から?」

 ダヴィラスが足を止めて告げる。勿論だ。道路を挟んだ先にあるキャルの家を見ると、家の前でたむろしているチンピラはいない。既に自警団が動いたのかと焦るものの、外から見る家には、争った痕跡は無く、単に家の中に全員が入っているだけなのだろう。ならば好都合だ。

「躊躇なく進みますから、ルーンデさんはしっかり付いて来てくださいね。途中で怖くなって立ち止まったりされたら、台無しになります」

「……仕事だからな。そこはちゃんとやる。喧嘩沙汰になった場合はどうしようも無くなるが………」

 護衛や用心棒と言った仕事を生業にしている人間の台詞とは思えない。だが、それを承知で雇っている手前、文句は言えないだろう。

「喧嘩沙汰になったら、仕事自体が失敗です。できるだけ威厳がある様に構えながら、交渉の成功を祈っててくださいよ」

 ルッドはダヴィラスにそう告げると、その場から歩き出した。向かうのはキャルの家の玄関だ。

 早歩きで到着し、勢いよく玄関先の扉を開ける。家の中には、何人かの不法占拠者が存在し、開け放たれた扉に反応してか、こちらを向いていた。

「あ? ………おい、誰だお前!」

「ちょっ、なんだなんだ!」

 突然の訪問者に騒ぐ男達を無視して、家の中へ侵入していく。後ろにいるダヴィラスの脅しが効いているのか、手はまだ出してこない。ただし、このまま黙っていれば、そうでも無くなってくるだろう。

「お前らの頭はどこにいる。さっさと会わせろ」

 最初に辿り着いた部屋。そこにいるチンピラの一人にルッドは近づくと、出来る限り凄みを聞かせて話し掛けた。ただ、この場で一番背が低く、一方で声はあまり低くないルッドがそうしたところで、あまり威厳というものはあるまい。そこはダヴィラス頼みだ。

「はあ? 何言ってんだこいつ」

「俺に聞かれてもなあ」

 チンピラの一人が、呆れ顔で仲間と話す。そういう対応も想定済みだ。ここから、どうやって彼らのトップを引き摺り出すかが腕の見せ所である。

 実は奥の手があるのだが、それはここぞという時まで取っておきたい。

「いちいち説明するのも面倒だが、こっちにも用があるんだよ。今、ここにあんたらの頭はいるのか? いないのか?」

「待て待て。会わせろっつって、会えるもんでも無いだろうが。理由くらいはだな」

 とりあえず、話しは聞くつもりでいるらしい。ただ、長話をすればこちらにボロが出てしまうため。さっさと交渉を進めることにした。

「ああそうかい! ちまちまと準備しなけりゃあ会えないってか! なら仕方ねえ。先生、

話し合いには時間が掛るそうだから、ここにいる連中全員をブっ倒してから、じっくりと話を進めましょうや」

 先生ことダヴィラスは、ルッドが声を掛けた途端、近くでしか判別できない程度に体が揺れた。

(おいおい。頼むから、動揺がバレないようにしてくれよ)

 ここでダヴィラスの正体がバレるのは危険だ。交渉が失敗するどころか、チンピラ連中に袋叩きにされる。

「ま、待てっておい。わかった、リーダーを呼んで来れば良いんだろ。ちょっとここで待ってろ」

 ババリン団はそれほど大きな組織では無く、少し脅せば、すぐにトップが出てくることは分かっていた。ダヴィラスの顔様々という奴だ。そうして、彼らには度胸が無い。この場にいる連中にしても、全員が若いのだ。所詮はあぶれた者達が徒党を組んだだけの集団。その場その場で適切な判断ができるはずも無い。

(そんな集団が、良くブラフガ党の後ろ盾があるなんて言えたもんだよ。だからこそ、こっちにもやり様があるんだけどさ)

 数人の若者が家の二階へ上がり、集団のリーダーを呼び出しに向かう間、ルッドはババリン団についてを頭の中で考えつつ、さらには家の内部を観察する。何がしか有利になる情報は無いかと思っての行為だ。

(家は思った以上に荒らされてない……掃除なんかはしていないみたいだから、汚れは仕方ないよね。問題は……うん、色々と無事みたいだ)

 とりあえずは、取り返し甲斐のある家のままであることが判明する。これはルッドにとって好都合。仕事が成功した際の報酬も期待できそうだ。

(この場に残ったババリン団員は二人。他は二階に上がっちゃった。見張りのつもりか知らないけれど、見張りの対象と同人数っていうのは、人数不足なんじゃないかなあ………)

 ルッドは、どちらか一方だけならばなんとかできる自信はあるし、いくら戦闘が不得意と言っても、ダヴィラスだってチンピラ一人くらいなら相手にできるだろう。

 つまり、この場で暴れれば、とりあえず目の前の二人は倒せるということだ。

(交渉の場での暴力は基本的にご法度だから、するつもりはまったく無いけれども、つくづく集団としても未熟だと思わせてくるなあ………)

 これは思ったよりもやり易いだろう。手玉にだって取れそうだ。

(普段から威勢の良い連中なんて、そんなもんなんだろうね。本当に怖い相手っていうのは、親しげな表情で近づいてくるものなんだ)

 昨日、そのことを思い知らされた。あの時に比べれば、今回の交渉は生ぬるいとすら感じてしまう。いざとなれば逃げれば良いのだ。それで自分の命だけは助かる。一方で、昨日はその権利すら奪われていた状態だった。

(度胸がついたってことなんだろうけど、二度と味わいたくない交渉だよ。あれは)

 比較的、気楽な気分でババリン団のリーダーを待つルッド。何が起こるのかという恐怖より、どうしてくれようかという好奇心が湧きたつ。

(なんだろう。こういう感覚は初めてだ。本来なら、気の緩みや慢心から来るものだと思って、注意しなきゃならないんだけど………あ、来た来た)

 ルッドは二階から降りて来る足音を聞き、一旦、思考を切り替える。ババリン団のリーダーが出て来たのなら、その人となりを観察し、どうやって交渉を進めるかを考えねば。

「おいおい。なんだと思えばただのガキじゃ……厳つい兄さんも一緒かよ」

 二階から降りて来たチンピラ、他の人間より年齢が上で偉そうに見えることから、恐らくは彼がリーダーなのだろうが、やはりあまり威厳の無さそうな男だった。小さな集団の性格とは、その集団と統率者の能力が影響するものだが、ババリン団のリーダーであればそんなものだろう。ダヴィラスの顔を見ただけで少し驚いているのだから、あまり肝っ玉は強く無いはず。

「あ! てめえは前の!」

 リーダーの他にも降りて来た人間は数人いた。その中の一人がルッドを指で差しながら叫んでくる。なんだろう。どこかで見たことがある。向こうもそうらしいが。

「あ、この前、この家の玄関で会った」

「そうだ! あの時はよくも仲間を」

 思わぬ人間の登場で、少し場が荒れてしまった。いや、初めてこの家の前を通りかかり、キャルとババリン団の争いに巻き込まれた時は、3人の団員に顔を見られていたため、またこの家に来て、彼らの誰かと顔を合わせる可能性は十分にあっただろう。

 少しばかり厄介な事態であるが、あくまで少しだけだ。やり様はいくらでもある。

「そりゃあこっちの台詞だ。いちいち人に突っ掛ってきやがって。おかげで、こっちもこの家に乗り込むための準備が必要になったんだからな」

 ルッドはダヴィラスに目線を向ける。準備、つまり手強い用心棒を連れて来た理由を、そういうことにしておいた。

「って、ことはてめえは、あのガキの関係者として来たってわけか」

「ガキ? なんのことだ」

 リーダー格の男が、ルッドと話す男に尋ねる。

「この家の前の持ち主がいたじゃねえですか。こいつ、そのガキの仲間か家族からしいです」

 それは間違いであり、とりあえずルッドは訂正しておく。もっと向こうがこちらの立場を勘違いする様に。

「まだそんなことを信じてるのか? ありゃあ、絡まれていたガキが勝手に言ったことだろう。まったく、うちも格が落ちたか。こんな奴らにすら名を騙られるくらいにな」

「あ?」

 ルッドの言葉に、リーダー格の男が反応する。良い調子だ。もっと興味を惹いてやろう。

「まだわかんねえのかって聞いてるんだ。俺達が、何でこの場所に出向いたのかってことをな。ええっと、あんた、名前は」

「ば、ババリン・ズオボルドだ」

 なるほど。リーダーの名前がババリンだからババリン団か。とても安直だ。こういう集団というのは、自分達の名前を恰好付けて名乗るのが常なのだが。

「ほう。やっぱり記憶にねえな。けれど、俺達の名前を勝手に使ってるわけか」

「俺達の名前? あ、まさか、あんた!」

 良かった。向こうで気が付いてくれた。こういうのは口で伝えず、相手の思考を誘導させる形で気付かせるのが、一番効果があるのだ。

「幾らなんでも、これを知らないわけは無いよな。ええ?」

 この場面がもっとも“これ”を活用できるだろう。そう考えて、ルッドは奥の手を服のポケットから取り出す。一枚のハンカチ。とても面白い絵が描かれたハンカチだ。その意匠を分かる人間が見れば、驚愕の表情を浮かべることであろう。ババリン・ズオボルドもそういう人間の一人だった。

「その……刺繍は………」

 明らかに狼狽した様子のババリン。この刺繍の意味と、ルッド達がこの家にやってきた理由を漸く想像できたらしい。あくまで、ルッドがわざと与えた印象であるが。

 刺繍はホーンドラゴンの形をしている。そう、昨日、ブラフガ党員から与えられた物だ。ルッドは自らを、ブラフガ党員と偽っているのである。

(ババリン団はブラフガ党の名前を無断で使っている。治安隊はそれを利用して彼らを放置しているけど、放置するわけには行かない組織が別にあるんだよね)

 それがブラフガ党だ。自分達の名前を勝手に名乗るチンピラども。これは明らかに組織に悪意を持って接している。だから、何時かはその報いを与えよう。ブラフガ党の様な組織ならそう考えると、ババリンという男はここに来て漸く気が付いたらしい。

「ま、待ってくれ。ちょっと名前を借りただけなんだ! 別にあんた達に喧嘩を売るとか、そういう考えがあったわけじゃあない!」

 彼らとて、ブラフガ党がどういう集団なのかを知っているのだろう。敵対者となった時、それは自身にとって致命的な状況になるとも。

(本気でブラフガ党を騙っているのは僕達の方だけどね。最初から、ブラフガ党を名乗って、ババリン団をこの家から追い出すつもりだったけど、まさか本物が現れるとは)

 当初の予定では、ブラフガ党がシンボルとする絵を描いた紙を、このハンカチの代わりに示すつもりだった。ババリン団の様な組織を脅すなら、その程度で十分だと考えたのだが、今は本物があるのでそれを使う。

「名前を騙った時点で、俺らの顔に泥を塗ってるのはわかるよなあ? それで喧嘩を売ってないだと? こりゃあ随分と生易しい考えをお持ちで」

 ババリンを嘲るルッド。ただ、これもやり過ぎれば争いになる。適度に彼を追い詰めることが大切なのだ。

「お前らにはしっかりとした報いを受けて貰おうと考えていた。おっと、俺達に手を出しても無駄だからな。まさか、俺の仲間がこの先生一人だけと思ってんのか?」

 ここでルッド達の口を封じれば。そんな考えが頭を過ぎているはずのババリンに、ルッドが忠告する。実際、静かにしていれば、外から人が動く様な物音が聞こえてくる。

「手を出すなんて! そ、そんなことしねえよ! 出来心だったんだ、許してくれ! まさか、その………殺したりなんかしないよな?」

 大分、精神的にまいっているらしいババリン。リーダーがそんな様子なので、他の団員も表情が恐怖に染まっていた。

「………そのまさかだ」

 これはルッドの言葉では無く、ダヴィラスが口にしたものだった。まさか、思わぬ形で援護が来た。喧嘩は不得手と言っていた彼だが、交渉の流れを読む才能はあるらしい。

 彼は腰に下げた剣の柄を握る。ただ、それを引き抜くまではしないだろう。彼は次に続くであろうルッドの言葉を待っているのだ。

「頼む! 頼むから! 見逃してくれよ! なあ、お前らも頭下げろ!」

 ババリンがルッドに泣きつきながら、一方で他の団員は叱咤する。ころころと表情を変える彼が、どこか可哀そうになってきた。

 騙しているのはこちらなのだから、罪悪感だって湧く。ならば、さっさとこの交渉も終わりにしよう。

「と、まあ、お前らを始末してやろうと思っていたわけだが。安心しろ、お前らが想像以上にド素人だってことは分かった。さすがにそういう奴等を皆殺しってのは、こっちも抵抗がある」

「ほ、本当か!? な、なら」

 泣きそうだったババリンの表情が、歓喜に染まった。集団のリーダーとして存在していた彼だから、一般人よりかは威厳があったのかもしれぬが、今の彼は可哀そうなチンピラでしかない。

「だが、落とし前はきっちりと付けて貰おうか。確かこの家は、俺達の名前を使って他人から奪ったもんなんだよな?」

「あ、ああ。ガキが一人住んでいてよ、そいつ追い出して、集会場にでもと思って―――

「だったらさっさと出て行きやがれ! 俺らの名前を使ったのなら、ここは俺達のもんだ! 10数える間だ。その後に家に残っている奴がいるのなら………」

 ルッドは、この場にいるチンピラ全員に目線を合わせて行く。しっかり、ルッドの言葉を理解して貰うために。

「いいか? 家に残ったままの奴がいやがったら、俺達の敵だと考える。10、9、8」

 ルッドが数え始めると、チンピラ達が一斉に走り出した。向うのは家を出るための扉だ。玄関や裏口へ走り、なんとか10秒以内に家から逃げ出そうとする。

 そうして、10秒が経過する頃には、ババリン団すべてが家から逃げ出していた。2階の窓から飛び降りた者もいただろう。

「さて、上手く行きましたね。ダヴィラスさんも援護ありがとうございます」

「まあ………本当に立っているだけで報酬を貰うのは、さすがに……な」

 ダヴィラスは苦笑している。自分の立場を卑下するその顔にも威厳があるというのは、なんだか皮肉めいていた。

「外が騒がしくなってきましたね。治安隊とババリン団の争いが始まったみたいだ」

 ババリン団との交渉の間に物音が聞こえた。それは、外で治安隊が、ババリン団が集まるこの家へ一斉に突入しようと準備をする物音だったのだ。

 ルッドはその状態の中、ババリン団を家から追い出すことで、争いの場を家の中から外へ移させたのである。これでババリン団が潰されるし、家に害が及ぶことももうない。

「機を見て、僕らも逃げましょう。今、家に居たままだと、奴等の仲間だと思われる」

 ルッドはダヴィラスにそう告げる。キャルへ正式に家を返すのはそれからであろう。

「………しかし、ババリンという男の最後の姿は……さすがに憐れみを感じたな。あんたに死ぬほど脅されたあげく………外で治安隊に捕まると」

 部下の前で泣き言を口にする姿も見られているし、不幸と言えば不幸だろう。しかし、元々は人の家を奪い、尚且つ、自分達より大きな組織を騙った向こうが悪い。身から出た錆であろう。

「むしろ、僕は親切をしたつもりですよ。治安隊に潰されるなんて、要は全員が捕まる程度のことじゃないですか。けれど、そのまま放置されていれば、もっと危険な事になっていたと思います」

「俺達の様な偽物で無く………本物が現れてたかもしれないな………そうして本物は……俺達の様に甘く無い………」

 実際、その本物は既に現れており、ババリン団より先に、その周囲をうろついていたルッドに声を掛けてきた。そのままブラフガ党がババリン団へ直接的に対処していれば、状況はこんなものでは済まなかったはずだ。

 ブラフガ党との交渉は、あくまでルッドが自らの命を守るために行ったものであるが、結果的には、彼らの命も助けたことになるのだろう。

「……そろそろ裏口から出るか。騒ぎの勢いから考えると、その方が良い………」

 ダヴィラスが外の騒音を聞きながら、そう提案してくる。

「そんなタイミングとかって、わかるものなんですか?」

「前に……レイナラが言っていなかったか? 自分の身と………依頼人の命を守るくらいの腕はあるんだ………」

 ルッドはダヴィラスのその言葉に驚いた。彼の本質は、自分の仕事に自信を持てない人間だと思っていたからだ。

(なんだ、案外、彼も仕事人なんだ)

 まるっきり才能が無いわけでもあるまい。仕事というのは才能よりも前に、仕事に対する誇りややる気が先立つ物だ。例え才能が無くとも、それらがあれば、金銭を稼げるだけの結果は付いて来るものだろう。

 レイナラはダヴィラスのことを、顔だけで依頼人を呼び込めると言っていたが、それだけでは無いのかもしれない。

「それじゃあ、経験者の考えに従って、さっさと逃げますか」

 ルッドは家の裏口に向かって歩き出した。家を出た先では、ババリン団と治安隊の争いが最高潮に達しており、今さら家から出てきたルッド達に気が付く者はいない。

 夜の闇が広がり始めたというのに、喧騒が続いているホロヘイの町を、ルッドとダヴィラスはひっそりと走り抜けていった。



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