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北風の道  作者: きーち
第三章 ホロヘイの厄介事
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第二話 仕事をしない自警団

 目の前の問題に対して、やるべきことは幾らでもある。それがルッドの考え方だった。万全の解決法というものが無い以上、こちらにとって有利な方向に傾けることこそが、最前の解決であると考えているし、それには幾つもの方法を講じて、徐々にこちらが望む状況を作りださなければならないからだ。

「だから、いきなり何もかもを解決しようなんて思っちゃあいけない。例えば、きみの家を不法占拠するあの一団。あの一団を痛い目にあわせてやろうなんて考えは、真っ先に排除すべきなんだ」

 軽食屋を出たルッド達は、今後の話をしながら町中を歩いていた。向かう先は、さきほど逃げたキャルの家である。

 そこへ向かうことに異論は無い様子のキャルだが、ルッドの話に対しては反論があるらしい。

「なんで? あいつら、人様の家を我が物顔で荒らしてるんだぞ? ぎゃふんと言わせなきゃ気が済まねえよ!」

 威勢の良いキャルであるが、女子供がどれだけの力技ができるというのだろう。勿論、ルッドもできることは少ない。今は軽食屋で食べた鶏肉の照り焼きが胃にもたれており、あまり荒っぽい行動をする気分ではないのである。

「きみの目的は、家を取り戻すことと、二度とあのババリン団とか言う連中に家を奪われない様にすることだろ? 違う?」

「そうだけどさ。結局、追い出すには力技じゃん」

「力技は方法であって、目的じゃあないってことだよ。そこを考え違いしてると、最終的には望む結果が得られない。まず僕らがすべきなのは、敵の情報を知り、僕らの目的を達成するには、その敵をどうすれば良いのかを考えることだ」

「う………ううーん」

 キャルは小さな頭を抱えている。少々難しい話だっただろうか。具体的な話をしてみなければ、理解ができないのかもしれない。

「要するに、これからきみの家に向かうわけだけど、その時は別にババリン団と決着を付けるつもりは無いし、できれば殴り合いなんて状況にもなりたくない。とりあえず話して、時には挑発して、相手がどういう目的や意図を持って、きみの家を奪ったのかを聞き出すために向かってるんだ」

 時間的余裕があるのなら、準備には時間を掛けるべきだとルッドは考える。策謀に対するもっとも強大な敵は時間制限であり、今回はそれがあまり脅威では無い。ババリン団をどうするかについても、時間を掛けて対処するつもりであった。

「目的を話せって聞いて、はいそうですか、なんて答えてくれる相手じゃないと思うけど………」

「まあね。だから力技自体は否定してないよ。ただし、目的を達成するのにはそれだけじゃあ駄目なんだ」

 軽食屋に入るまでに倒した禿頭の男。あの男を捕まえて、尋問でもしてみるべきだったかとルッドは考える。手っ取り早く相手の目的を聞き出すなら、そういう手法が一番効果的だろうから。

「さっきのと同じ事をしたいね。誘き出して、情報を聞き出す。一人くらいが相手なら、向こうが荒っぽいことをしてきてもなんとかなりそうだし」

「けど、絶対あいつら警戒してるぜ? 頭動かす脳は無さそうだけどさ、集まって敵をぼこぼこにしてやろうって本能はあるんだ」

 そこが難しい問題だ。既にこちらが敵だとバレている以上、向こうの油断を誘うというのは簡単で無い。

「ま、行けばなんとかなるもんさ。そろそろ君の家だろ?」

 向かう前から頭を悩ます必要も無いだろう。ルッドが思うに、今回の敵はそれほど強大では無い。

「まず最初は、遠くから様子を窺って見る?」

「そうだね。そうしよう」

 キャルの提案にルッドは賛成する。顔が知られている以上、不用意に近づけば危険かもしれない。キャルの家の周囲を確認してから、何をするか決めるというのも必要な行動だろう。

「兄さん。ほら、こっちこっち」

 キャルの方が町中の構造を良く理解している。隠れながらも、家の周囲が良く見える路地にまで案内してくれた。

「やっぱり、家の周りをうろちょろしてるよ」

 路地の影から自身の家を覗くキャル。ルッドも同じく家を見てみると、そこにはババリン団と思しき集団が、通行人を因縁でもつけるかのように睨みつけている。彼ら以外の人間にとっては、とても迷惑だろう。

「迂闊に近づくっていうのは、駄目な雰囲気だね。それにしても………」

「何?」

 妙な様子だと感じるルッドだが、キャルはそうでも無いらしい。分からぬものだろうか。

「ババリン団がブラフガ党と繋がりがあるって話だけど、誰でも知ってる情報なの?」

「誰でもってわけじゃあないけど、あいつらを知ってる人なら、そういう話を聞いてると思う。だって、ことある毎に口にしてるんだ。俺達の後ろにはブラフガ党が付いてるってさ」

 なるほど。これはまた厄介なことになってきたかもしれない。単純に家を取り返せば良い問題というわけでも無さそうだ。

「あ、ほら見て! あの小太りのおっさん。自警団のジービスって言う奴なんだけど、あたしが家を奪われたって言った時、ババリン団が犯人だってわかると、何もしてくれなくなったんだ。今だって、あいつらが迷惑なことしてるのに、注意もしないだろ?」

 確かに自警団のジービスとやらは、遠巻きにババリン団を睨みつけるだけであり、それ以上の行動は無い。それがまた妙である。

「………まず調べる必要のある相手が変わった」

「え? あいつらはどうするのさ。ちょっと、兄さん!」

 ルッドはとりあえずこの場を離れることにする。ババリン団に見つかれば、また時間を無駄にしてしまいそうに思えたからだ。

 やるべきことが別に見つかった以上、そちらを優先することにするルッド。あの暴力的な一団と交渉するよりも、面白い事になりそうだなと感じるのは、キャルにとってみれば不謹慎に思えるだろうか。




 ルッドがキャルに案内されてやってきたのは、ホロヘイの町の自警団が集まる詰所だった。

 ホロヘイ民間治安隊という名前が付けられた組織の宿舎としても機能しているらしく、周囲には比較的体格の良い人間が行き交っている様に見えた。

「なんでこんな場所にわざわざ来るんだよ。言っとくけど、力を貸してくれないからな。あたしが何度、この場所に泣き付いたか………」

 そして、何度も願いを無視されたのだろう。でなければキャルが恨めし気に詰所を見るはずがない。

 家に強盗が入って家ごと奪われたなどという状況で、自警団が助けてくれぬとなった時、彼女はどれほど絶望したことだろうか。

「だからこそ、ここに来る必要があったんだよ。妙だからね」

「妙?」

 気付かぬのは当事者ばかりである。客観的に見れば、どう考えてもおかしな事態になっているというのに。

「とにかく詰所に入ろう。追い返しに人が来るなら、それこそこっちのチャンスだ」

 この詰所にいる誰でも良い。キャルとババリン団の事情を知る人間が来れば、こちらの狙い通りになる。

 そう考えて詰所に一歩近づくルッドだったが、いきなり肩を掴まれて転びそうになった。

「ちょっと待ちな」

 何事かとルッドが振り向くと、そこにはキャルの家の周囲でうろうろしていた自警団員、ジービスとか言う中年男が立っていた。

「待ちなと言われても、僕、捕まる様なことをした覚えはありませんが」

「頭ン中で悪巧みしている連中は、いっつもそう言うんだ。本当に何もしてないなら、ただ単に驚くんだよ。こういう場合はな」

 腹の出た不恰好な男だというのに、威圧感だけはある。伊達に町の治安を守っていないと表現すれば良いのか。その割には、目に見える悪事を見逃しているが。

「なんだよおっさん! いっつもこっちのことを無視する癖に、こっちのやることは邪魔するってのか!」

 怒り心頭のキャル。そもそも、この民間治安隊という組織の評価が、彼女の中でガタ落ちしているのかもしれない。むしろ、そうでない理由が見つからない。

「………ガキは黙ってろよ。今はこの兄ちゃんと話してるんだ」

「なんだと!」

 あんまりなジービスの言い草に、キャルがさらに顔を赤くする。

「気持ちはわかるけど、ちょっと抑えて。せっかく向こうから接触してきたんだ。話くらいは聞いてみよう」

 まさか本当に不審人物と考えて、ルッドに話し掛けて来たわけではあるまい。恐らくは、キャルの家をルッド達が物陰から探っていた時から、後をつけられていたのだ。でなければ、まっすぐこの自警団の詰所までやってきたルッドを、詰所の前で呼び止めるのは不可能だ。彼もまた、キャルの家の周囲を見回っていたのだから。

「ほう。話はある程度わかるみたいだな」

「ええ。女の子一人の助けを無視する様な人らよりは、物分りが良いつもりですから」

 皮肉にもならない挑発を口にしてしまうルッド。本来なら穏便に事を進めたい気分なのだが、いい加減、この町のやり方について頭にきていたところだった。

「…………はっ。事情も知らないで」

「大凡、見当はついてますよ。ここに来たのはその確認です」

「兄さん、何の話をしてるんだ?」

 会話について来られない様子のキャル。ただ、頭の混乱が優先されているらしく、怒りの感情が忘れ去られているのは良い傾向だ。怒鳴り合いになれば話が進まないのである。

「きみに関わる話ってところかな。あとで詳しく聞かせてあげる。いまのところは僕の顧客になるからね」

「おい待て。そのガキに話すってのは―――

「都合が悪いですか? でも残念でした。実は僕、あなたの態度にとても腹が立っています。彼女のことをガキと呼ぶのもそうですが、自分の仕事を全うできずにいる姿が特に」

 立場的にはこちらの方が優勢だと読み取ったルッドは、会話の中でも上位に立った話し方をする。狙いは相手の焦りを引き出すこと。焦る相手は、勢いを間違えて話さなくても良いことを話す場合がある。

「だから待てって。タイミングの問題なんだよ。今はだな………くそっ」

 自分が口にした内容が、本来口にすべきでないことだったことにジービスが気付く。だが、もう手遅れだ。

「なるほど。つまり“そろそろ”ってことなんですね。ちょっと安心しました。彼女の身に明確な危険が及んでからが、そのタイミングだと思ってたもんで」

「あ、あたしに何か危険があるっての?」

「その前に行動するらしいよ、この人達は」

 一応は自警団としての矜持はあるらしい。最初から捻じ曲げたそれを、今さら軌道修正しているだけなのだろうけれど。

「わかってるなら、あんたは手を出すな。一応は堅気だろ」

「そう見えます? 実はそうでも無さそうでして。僕、彼女に家を取り戻して欲しいって頼まれちゃったんですよね。だから、あなた達が直接動く前に、さらに要領よくあの家を解放する必要があるんです」

「俺達の邪魔をするつもりか? 町の外の人間が町の治安隊を敵にして、上手く立ち回れるとでも思ってんのか?」

 凄むジービスに向かって、へらへらと笑ってみせるルッド。内心では少しビビっていたルッドだが、こういう交渉では、自分の余裕を相手に見せつけることが重要だ。

「まさかですよ。僕が提案しているのは、双方が上手く行く様にしようじゃないかってことです。あの家は僕がなんとかします。一方で、あの一団はあなた達がどうにかすれば良い。僕らは“ババリン団”については手を出しません。それで良いですよね?」

「ちょ、ちょっと兄さん! ババリン団に手を出さないってどういうこと!」

 契約違反だと騒ぐキャルだが、ルッドは彼女との約束を反故にするつもりは無い。

「家を取り返して欲しいっていうのが、きみの願いだよね。さっきも言った通り、目的を忘れちゃあいけないよ。安心して。きみの家自体は、絶対にきみの手に戻る様にする」

 なんとかキャルをなだめるルッド。これで彼女が治まってくれれば良いのだが。

「………タイミングの時期は、明後日の夜だ。それまでに俺達の邪魔しなければ、とりあえず敵とは思わないでおいてやるよ」

 ジービスはそう言い残してこの場を去った。交渉はとりあえず上手く行ったらしい。あとはルッド側がどうすれば良いかを考える予定なのだが、とりあえずは―――

「で……どういうことなんだよ。ぜんぜんわかんねえよ!」

 話がさっぱり理解できず、怒りのやり場を常に逸らされ続けたキャルが、若干、頬を膨らませてルッドを睨んでいる。とりあえずは、彼女に対しての説明から始めよう。客商売では、顧客の不満を解消することも重要な仕事だ。




「つまり、この町の自警団は、きみの助けを無視しているわけじゃあなく、明確な意思を持って、きみを助けなかったってことだよ」

 ホロヘイの表通りを歩きながら、市場に並ぶ品々を見て回るルッド。商人としての知識を磨くため、こういう癖を付けておくべきだと考えた、意識しての行動である。

「それが意味わかんないんだよ。結局、治安隊は役に立たないってことじゃあないのか?」

「大分違うよ。ババリン団の後ろにいるブラフガ党が怖いっていう場合は、対応が無視になるけど、明確に動かないという意思を見せているのなら、事態はもうちょっと変化していることになる」

 嫌なことをしたくないのでなく、絶対にやらないという状況を治安隊が作りだしているとすれば、そこには複雑な事情が存在すると見て良い。

「あー、例えば、ブラフガ党に直接脅されているとか?」

「真っ先に考えたのはそれだけど、国の中央都市にある自警団を、直接脅せるほどの力があるというのは、幾らなんでも考え難いんだよねえ。おっと、これって何の細工かな? 作りが細かい」

 市場に並んでいた変わった石の細工物を見て、ルッドはキャルに尋ねる。

「石珠だよ。それ」

「へえ。こういうのもそうなんだ。言われてみれば、玉の置き方に規則がある。すみません! これ、幾らですか?」

 店員を見つけてから呼び寄せる。値段が手ごろなら、買って見ようと思ったのだ。商人の道具としてなら使えそうだから。

「ああ、もう! そんなのは別に良いだろ! 要するに治安隊の目的はなんなんだよ!」

「慌てない慌てない。順序立って説明しなきゃ、分かんないでしょ? あ、それくらいなら買います。袋は良いですから、そのままで」

 店員に石珠の代金を払って、手に入れたそれをポケットに入れる。ルッドの服はタブついたローブの様な物で、物入れになるポケットが外側にも内側にも複数ある。手に納まる程度の物であれば、体力が許す限り、幾らでも持ち歩けるのだ。

「ブラフガ党に脅されているんじゃあなければ、別の何かに命令されていることになる。治安隊単体は、目の前の悪事を見逃すなんてことはしないだろうからね。ほら、あのジービスっておじさんも、イライラしながらきみの家を睨んでいたでしょ?」

「ああ、そう言えば」

「本来は捕まえる対象を見逃さなきゃならないっていうのは、仕事をする人間にとってはムカつく話なんだと思うよ。だから常にイライラしている」

 それはつまり、自分の意思を曲げてまで、ババリン団を見逃しているということで、その様子がルッドには妙に感じたのだ。

「ブラフガ党以外に、治安隊にプレッシャーを掛けられる相手なんているのかよ」

「いるじゃあないか。民間治安隊なんて名前でも、この町の自警隊という立場な以上、国の支援は当然受けているんだよね?」

 中央都市の警護というのは、そのまま国家の安定に繋がる仕事であり、本来なら国家直属の組織が行う仕事だ。恐らく、この町の自警団もそういう性格が強い組織なのだと思われる。民間という名前が付いている点は、成り立ちの歴史に民間人か何がしかが関わっているのだろうし、運営上も民間人の手が入ったものだろうと考えられるが、それにしたって、国がまったく無関係というわけではあるまい。

「え、ってことは、国が治安隊を止めてるってことか? あたしの家に強盗が入った事件に? うっそだー」

 笑うキャル。確かに信じ難い話だろう。だが、視点を変えてみると、しっくり行く状況であるのだ。

「今の状況を整理してみると良いよ。きみの家がババリン団という集団に奪われた。そこまでは、良くありはしないけど、ただの事件だ。問題なのはその後の状況さ」

「あたしが家を奪われたって訴えても、何もしてくれなかったことか?」

「それもそうだけど、もう一つ。ババリン団がブラフガ党の後援を受けているという噂があったよね」

 この点がもっとも重要だとルッドは考えている。事実がどうであれ、事態を大きく動かすのは、それくらいの組織が関わって来るだろうから。

「ああ。あいつらが常々言ってるんだ。俺達のバックにはブラフガ党がいるってさ。ただのコケ脅しだと思ってたけど、治安隊が動かない以上、事実ってことに―――

「いや、多分、本当に虚勢だと思うよ、それ」

「え?」

 ババリン団がやっていることを見るに、明らかにチンピラっぽいことしかやっていない。人の家に強盗に入るのは良いが、そこを溜まり場にするくらいで、後は周りの人間に因縁を付ける程度である。噂に聞くブラフガ党と関係しているにしては、やることがとても小さいのだ。

「ババリン団の構成員を見ても、若い人達ばっかりだったよね。要は町のあぶれ者が集まった、自分達が大きくなった様に勘違いしている、良くある種類の一団だと思う。そこにはブラフガ党との関係が生まれるはずもない」

「でも、それこそ治安隊が動かない理由にならないぜ?」

「そうだね。ババリン団を検挙すれば、デメリットが発生するからこそ、治安隊は動かない。そういう視点で見ると、僕の予想は的外れになってしまう。けれど、ババリン団を検挙しないことで、ある種のメリットが発生すると考えればどうだろう?」

「え? あ、え?」

 しまった。また難しい話をしてしまったか。キャルはぼんやりとした表情を浮かべた後、頭痛でも感じたかの様に頭を抱えている。もしかしたら知恵熱でも出たか。

「ええっとね、きみはババリン団がブラフガ党と繋がっていると、当初は信じていなかったけど、暫くして信じる様になったんだよね。それはなんで?」

「いや、だから、あたしの訴えを治安隊が聞いてくれないからで………あれ?」

 首を傾げて止まるキャル。漸く、自分がおかしな事態に陥っていることに気が付いたのだろう。

「そう。事態をややこしくしているのは、ババリン団じゃなくて、治安隊の方なんだよ。つまり、きみの今の状況を望んだのは治安隊だと言える」

 さらに考えを進める。治安隊が望む状況とは、具体的にはどういう状況か。

「ババリン団はブラフガ党との繋がりを吹聴して、きみの訴えを治安隊が聞き入れないという状況から、誰もがババリン団とブラフガ党との繋がりを信じる様になった。当事者からしてそうなんだからね」

「けど、そんなのは嘘だって、兄さんは考えているんだろ?」

「うん。その嘘が真実として思われているという点に、治安隊にとってのメリットがある」

 正確に言えば、治安隊では無く、その組織の運営に協力している国にであるが。

「ババリン団が、小物っぽい悪さをして、治安隊が見て見ぬフリをする。そうなると、どうなると思う?」

「なにしてるんだあいつらって、周りの人間が怒ると思う」

「その通り。この国の狙いはそこなんだろうね。ババリン団なんていう何時でも潰せる集団が、ブラフガ党の悪評を撒き散らしてくれる。これは好都合だよ。ブラフガ党の名声が落ちる一方になるし、その後は………」

「後は?」

「何時までも放って置いたら、今度は悪評が治安隊やこの国自身に向かうことになるだろ? だから、機を見て潰す。そうすれば、国がブラフガ党の一部を退治したということにもなる。これは一般人には好評だろうねえ」

 ラージリヴァ国を動かしている人間というのは、ルッドはまだ知らないものの、国を動かすのは民衆であるということを良く理解している人間と言える。

 敵になる相手は、直接叩くので無く、評判を落とし、尚且つ自らの評判を上げることで勝利を引き出そうとする意図は、今回の事件から伺い知ることができた。

「じゃあ、その機を見て潰すっていう時が来たら、あたしの家は帰ってくるかも?」

「とりあえず、ババリン団は存在しなくなるだろうねえ。そして、その時期は、さっきのおじさんが言ってたよね? 明後日の夜がそれだ」

 それまでに、ルッドは色々と用意しなければならないだろう。顧客のキャルが、この変化する状況の中で、もっとも利益を得られる様に。



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