表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/51

2章の8

 ランプシェードから拡散する明かりだけが、この狭い部屋を照らしている。

 薄暗い部屋である。しかし部屋の中央のテーブルにつく人物たちの容貌を窺うには充分だ。

 うち少女の頭には黒いウサギの耳が生えている――もとい、ウサギ耳のついたフードをかぶっている。顔を隠すためのフードでは無いらしい。目元に浮かんだ気だるそうな感じは誰もの目に明らかである。

 少女は、自分の前に置かれたティーカップの縁を人差し指でなぞっていた。その度カップに半分ほど入ったミルクティーの水面に細かな波紋が立つ。

 絨毯の敷かれた床に着かない両足は、交互にぶらぶらと揺れている。

 一見に暇を持て余している女の子。しかし彼女はただぼんやりとこのテーブルに着いているわけではない。

「リープ。お前ヘマやらかしたみてぇだな!」

 突然吹っ掛けられた揶揄に、ウサギ耳の少女・リープはあからさまに嫌な顔をした。

「ぅえー、もう広まってんの?」

「クァインの奴が言ってまわってんぜ。と言ってもあいつの場合、親切心からだろうから怒んなよ」

 リープの仰いだ先の少年はケラケラ笑った。そして手にしていたアイスティーのグラスを豪快にテーブルに置くと、椅子にどかっと腰かけた。

 リープとさほど変わらない年齢の少年だ。薄いシャツとジーンズと、このテーブルに不釣り合い極まりない服装をしている。ケープにシャツ、ショートパンツのリープの方が遥かに合った格好だ。

「キャニー」

「ん?」

「頼むからもっと静かに座ってくれ。……私の紅茶が半分無くなった」

 と挟んだコート姿の男は、落胆した目で自分のカップを見ていた。少年・キャニーが座った衝撃で、中身の紅茶が大量にこぼれてしまったようだ。

「紅茶くらいでガタガタ言うなっての。お前はいちいち細かいんだよ」

「まぁ、それがマイスの性格じゃん」

 リープも口を挟む。彼女のミルクティーは無事だったようだ。

 コートの男・マイスは諦めたようにため息をつく。

「これから〝ファウナ〟の報告会だと言うのに、もっと大人しくできないのか」

「最近ただの茶会になってんだろー? 毎回真面目に用意してんのはお前だけだって」

 またもケラケラ笑うキャニー。マイスは深々とため息をつく。

「今日も欠席が多いようだしな……」

 マイスはテーブルを挟んで正面のリープを見た。

「久々に議題に上げるべき事態が発生したと思ったのだがな」

「ぅ、……やっぱりそれ?」

「当然だろう。結聖回収の現場を目撃され、その情報が魔術師へと渡った。お前は他人の魔術――忘却術に紛れて奴を始末しようとしたが、それも失敗し、あろうことか姿を見られかけた」

「だっ、大丈夫だって。ちゃんと捲いたから」

「さーすが、ウサギ耳付けてるだけあって逃げ足は速えな」

 からかうキャニーを、リープは横目で睨みつける。

「しかも具合の悪いことに」

「そー。リープちゃん、とんでもないヤツを相手にしちゃったみたいだねぇ」

 三人の頭上へ、また別の声が降ってきた。

「よぉ、オーヴァン」

「三人ともひっさしぶりぃ。相変わらずいじりいじられ楽しそうだねぇ」

「どういう意味だ……」

 新たに現れた、シンプルなシャツとパンツそしてアフロヘアの男・オーヴァンは、片手をひらりと振ってテーブルに着いた。

「大変だねぇ。例の医者が忘却屋に走るとは思わなかったでしょ」

「クァインめ……情報屋とは言え一体どこまで広めてんのよ」

「情報伝達は駿馬のごとく。これが彼の座右の銘だ」

「親切心だ、親切心!」

「あぁもう、わかってるわよ!」

 リープは苦々しい顔で呻くと、ミルクティーに口を付けた。

 彼女がこくりと飲み下すのを見届けると、オーヴァンは続けた。

「スノウクリスタル=メイラード。今や二大巨頭となった忘却屋の一人。自然操術系ってだけでやっかいなのに、更に忘却術までマスターしちゃってるヤツなんだよねぇ」

「知ってる。あの医者に忘却術を掛けてる所も見てたし」

「今日はブルームと一緒に強制忘却やってたんでしょ?」

 そのオーヴァンの言葉に、リープは首を横に振った。

「強制忘却ができるのは花の魔術師だけみたい」

「じゃあ、今日仕事してたのはブルームの方だけなんだ」

 頷くリープ。

「そしてお前はブルームの忘却術によって抽出された結聖を操り、スノウクリスタルを仕留めようとしたが、あえなく失敗したんだな」

 リープは図星! とばかりに唇を歪めた。

 マイスは説教ばりに続けた。

「万魂操術で結聖を意のままに操ったとはいえ、所詮は凡人の結聖。結聖を破壊する経験を積んだ忘却屋に対しては、さして効果も無い作戦だったな」

「ぅわ、きびしー」

 からかうようにキャニーがなじる。

「しかもなんだ? 顔見られたんじゃねぇの?」

「リープちゃんの逃げ足なら大丈夫でしょ」

「それには同感だ」

「……あんまり嬉しくないんだけど」

 褒めているのか何なのかわからないオーヴァンとマイスに、リープは複雑な顔で返す。

 そして表情を沈めると、視線を流しながら言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ