プロローグ
あの時、真白き雪は降ったのだろうか。
少なくとも、純白の粉雪は舞っていた。
止めどなく舞い降りる粉雪。風の吹かない雪降る夜は、無音のとばりに二人の少年を閉じ込めようとしていた。
彼らは言葉を交わさないまま、同じ場所を見つめていた。
視界を阻む粉雪など意にも介さず、じっと足元の地面を見つめていた。
その狭い大地には、何かを埋め戻したような跡があった。
何か。
彼らはそれを知っている。
唐突に静寂が破られる。
「俺の記憶も壊してくれ」
言ったのは、全身を土埃にまみれさせた白髪の少年。
そしてその願いを向けられた巻き毛の少年の姿は、まるで普段着のまま挑んだ戦場から帰還した直後。
後者の少年は口を開く。
「無理だよ」
白に満たされつつある空間を、彼の言葉が静かに震わせる。
「僕はもう、僕の一生分〝この記憶〟を壊しちゃったから」
悲しげな微笑みと共に、彼は唇を結んだ。
再び、静寂が二人を包み込んだ。
静かに時が流れていた。
淡々と過去が紡がれていた。
「……」
忘却を拒まれた記憶が、白髪の少年の心を激しく締め上げた。
彼は何かを言いかけた。しかし、それは告げられないまま彼の深くへと呑み込まれた。
切なる願いが響く代わりに、彼の瞳から最後の涙が落ちた。
透明な涙のしずくは、音無く純白の中にかき消えた。
このひと時、世界は白に満ちていた。
これが真白き世界では無いということを、彼らはとうに知っていた。
――それは二年も過去の事。
この日の二人を知る人物はいない。
だから少女は唱え続ける。
「真白き炎燃え立て!」
今宵も燃える真白き炎が、春夜の闇を異質に照らす。