5.5話
5話のエピローグ的な何か。
「不整脈が気になる」という幼馴染の相談を終えた夜、笹山一樹は自分の部屋でインターネットを楽しんでいた。
ヘッドフォンってこんなに高いの!? と驚きつつ諭吉を差し出して購入した今ではすっかりお気に入りの赤いヘッドフォンを耳にあて、音楽を流しながらのネットサーフィンは彼の趣味の一つだった。
「ふんふんふーん」
時折、下手くそだとよく言われる鼻歌を混じらせてみる。マウスを動かして新しいページを表示させたところで、ふと先程自分が言い放った言葉を思い出した。
『お前のパソコンで『こい』って打ち込んで変換すると、魚の『鯉』になりそうだもんな』
「……」
紙飛行機を折ることが青春とぬかす幼馴染にそう言ったが、果たして自分はどうなのだろうか。
「れ、恋愛マスターだしなぁ、俺」
ただし自称である。
「よし」
一樹は深く一度頷いて、ワードを起動した。ワードに実際に文字を打ち、変換してやるのだ。短いアニメーションが表示されたあと、真っ白なテキストが浮かび上がる。
……カタカタカタとキーボードを素早く打ち込んで、
「こ、い……と」
あとは変換キーを押して漢字になるのを見守るだけである。しかし、どうも変換キーを押すのにためらいを覚えてしまう。
「……恋愛マスターは恋することが宿命ッ!」
我ながら意味不明な決め台詞であったが、とにかく変換キーを勢いよく押した。
『鯉_』
「……ですよねー」
恋愛マスターとはどこに行ったのか。
一樹は自分を嘲笑いながら、パソコンの電源を落とす。
うぃぃぃん、という音と共に画面が闇色に染まっていく。
その間、目覚まし時計に目をやると、時刻は日付も変わって0時を回っていた。
「もう寝るか……」
このことは絶対にアイツに黙っていなければ。そんなことを思って、パソコンの画面が完全に消えると、電気を消してベットに潜り込むのであった。
――社会の課題を忘れて先生にこっぴどく怒られるのは、もう少し先のことである。