とある旅の終焉《おわ》り
魔獣と魔法が当たり前に存在する世界での話。
とある草原。
さんさんと日光が照りつける中、若い男女が隊列を組んで黙々と歩いていた。
「……にしても、暑いなぁ~」
その中でも、とりわけ身体の大きい男が口を開く。
この男の名はパゴス。
傷が目立つ無骨な顔が特徴だ。
「さっきからぜんっぜん敵が出てこねぇしよ。
母国まであとどんくらいだよ?」
「うーん……、あと五、六キロってとこかな?」
地図とコンパスを見ながらそう答えたのは、パゴスとは対照的な細身の青年だった。
彼の名はダビデ。
精悍な顔つきが特徴で、なかなか頭のキレる知性派である。
「げぇ……、まだそんなにあんのかよ。
くそ暑いし、くたびれちまったぜ……。
この分だと今日も野宿だな……」
明らかに嫌そうな声色でパゴスが言う。
「全くもうっ!
男のくせにだらしないわね!」
と叱咤する彼女の名はムーア。
一つにくくられた流れるような朱色の髪が特徴的だ。
整った顔立ちで、なかなかの美人でもある。
「うっせぇ!」
「まぁまぁ……、二人ともケンカは良くないですよ。
パゴスさん、あともう少しでこの旅も終わりですから頑張りましょ?」
そう優しく声をかけるのはシエル。
童顔でのんびり屋だが、穏やかで優しい彼女はもっぱらケンカの仲裁役である。
現在、この四人で旅をしていた。
何故かというと、彼らの出身国には次のような決まりがあったからだ。
『一定の年齢に達した健康な若者は約三年の旅に出ること』
それは成人の儀式に等しく、それを終えると一人前として認められる。
徴兵制度のないその国独自のものであった。
そんなわけで旅に出てから既に約三年近く立つ。
もう少しでこの旅も終わりである。
そんなことも相まって、ろくに休息を取ってなく体力を消耗しきっていた。
なんせ、最後に宿で休んだのが三日も前である。
パゴスが文句を垂れるのも仕方ないだろう。
しかし、そんな彼らに更なる苦難が降りかかる。
「グギャー!」彼らの前に立ちはだかったのは、鳥形の魔獣キメラ。
複数体で群れをなし、得意の焔で旅人を翻弄するなかなかの強敵だ。
「おぉっと!やっとお出ましか!」
パゴスがスラリと斧を抜く。
それに習うように、みな武器を構える。
ダビデは剣、ムーアは鞭、シエルは杖。
こちらが四人。相手も四体。
「いくら数が居ようと、所詮は雑魚の集まりでぇ!」
そう息巻くパゴスに
「ちょっとパゴス! あんまり油断しないでよ!」
と、ムーアが怒鳴る。
それが合図かのようにキメラたちが襲いかかってきた。
戦闘開始。
まず始めに動いたのはダビデ。
大きく跳躍し、
「せぃっ!」
一閃━━。
「ギャッ!」
ダビデの一撃で真っ二つに裂けたキメラは、そのまま二、三回ほど痙攣し動かなくなった。
三年近く旅を続けてるだけあってなかなかの実力である。
仲間の仇とばかりにもう一体がダビデに襲いかかる。
とっさのバックステップで避け、
「パゴス!」
と呼びかける。
「おうよ!」
パゴスが斧で斬りかかる。
しかしキメラも並みの魔獣ではない。
パゴスを振るった斧は空を切った。
それにあわせてキメラは焔を吐き出す。
「ちぃ……!」
咄嗟に腕で防いだパゴスだったが結構なヤケドを負う。
「ムーアっ! カバー頼む!」
ダビデが指示を飛ばす。
「任せなさい!」
ムーアがパゴスを庇うようにして鞭を振るう。
と、その間に回復魔法の詠唱を済ませたシエルがパゴスを回復させる。
再び戦闘に参加したパゴスは、先ほどのお返しとばかりに暴れまわった。
残りのキメラを一掃し終わった時にはみなクタクタであった。
「仕方ない……。今日も野宿だね」
そう提案したのは、ダビデ。
彼らは、結構な体力を消耗したキメラ戦の後も、何度か魔獣に襲われた。
幸い、スライムなどの雑魚ばかりだったので退けることができた。
だが、夜になるとさら狂暴な魔獣が頻繁に出現するのだ。
三回連続の野宿に、ムーアは心底嫌そうな顔をしたが、これ以上魔獣の襲撃を受けたらかなり危ない。
旅をしてるうちにつけた知識を生かしたダビデの賢明な判断だった。
慣れた手つきでテントを完成させ、シエルに魔除けの結界を張ってもらう。
こうしておけば、テントを魔獣に襲われる心配もない。
思えば、今夜がこの四人で過ごす最後の夜である。
明日になれば国に着き、この旅は終わりを告げ、みなそれぞれ違った道を歩み始める。
テントで横になりながら全員が同じ事を考えていた。
性格や考え方など、何から何まで違う四人での旅は決して楽な訳ではなかったがとてもいい経験になったと誰もが思っていた。
深夜。
「眠れないです……」
唐突に口を開いたのはシエルだった。
「そうだな……」
ダビデも起きていた。
それにムーアもパゴスも。
眠れなかったのはみんな同じ。
「早かったね。この三年間」
「本当にあっという間だったぜ」
ムーアやパゴスも話し出す。
それから四人はとりとめのない話を続けた。
旅の道中での出来事や将来のこと。
はたまた自分の両親や兄弟の事など。
飽きもせず夜更けまで話し合った。
そうして、彼らは今夜も草原で一夜を明かす。
翌朝。
彼らは母国へと足を向けた。
旅の終焉はもうすぐそこまで迫っていた。そう、旅の終焉りが━━。
END
最後まで読んで下さって本当にありがとうございます!
どうも、紅凰です。
今回はルビ振りの練習も兼ねてるのでいっぱい振ってあります。
相変わらずストーリー適当ですみません。
次こそまともな奴を書きたいです。
ではまた