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視聴者の“指示コメ”が全部スキル化するので、ソロでも攻略できる  作者: ゆうと


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9/18

公開対決

ドアが、もう一度――ドン、と叩かれた。


会議室の蛍光灯が微かに揺れる。

外の無線が叫んでいるのが聞こえた。


「侵入者、複数! 入口突破――!」


宮本さん(LIV運用)が椅子から立ち上がりかけて、顔面蒼白のまま固まった。


「ここ、管理局の拠点ですよ……? どうして……」


女が短く言った。


「“拠点”だから狙う。証拠を押さえるために」


管理局の男は机の上の水を蹴り倒し、俺の前に立つ。


「配信は――」

「切らない」


俺はスマホを握り直した。

画面の隅、《支持率:56%》。左腕はまだ痛むが、針程度で耐えられる。


コメント欄には、さっきの単語が残っていた。


【鍵】


鍵。

今この瞬間に必要な鍵は、ドアの鍵じゃない。


“隔離”を固定する鍵だ。

人間の言葉と、機械のノイズ。その境界を――壊されないようにする鍵。


俺は息を吸って言った。


「採用――【鍵】」


《具現化 残り:?/??》が、また一瞬だけ揺れて――落ち着いた。


《隔離:固定》

《固定時間:10:00》


表示が出た瞬間、コメント欄の見え方が変わった。


上のレーンに、相変わらず機械的な【応援】の洪水。

でも――下のレーンには入ってこない。


下には、人間の言葉だけが残った。


【青】

【応援】

【落ち着け】

【生きろ】

【大丈夫か】


《支持率:56%》が《62%》まで戻る。

左腕の痛みが、さらに軽くなる。


「……効いた」


女が小さく息を吐く。


「隔離を“固定”した。これでノイズが混ざりにくい」

管理局の男が、俺のスマホを睨む。

「……そんな都合の良い」


都合が良いんじゃない。

俺が、死なないために必要なんだ。


そのとき、外で大きな音がした。

金属が床に落ちる音。怒鳴り声。


「止まれ! 管理局だ!」


次いで、落ち着いた声が響く。


「落ち着いてください。こちらは“安全管理”です。暴力はありません」


安全管理。

聞き覚えのある言い回し。


宮本さんが歯を噛み、呟いた。


「……D-ストリーム」


ドアの向こうが、静かになった。

そして、ノックが一回。


コン、コン。


さっきの乱暴さとは逆に、礼儀正しい音だった。


管理局の男がドアの前に立ち、短く言う。


「名乗れ」

外から、落ち着いた男の声が返る。


「配信権管理会社D-ストリーム。統括の——神崎です。

この配信者の“安全確認”に来ました」


女が吐き捨てる。


「安全確認で拠点に侵入?」

「侵入ではありません。緊急です。……あなた方も分かっているはずだ。

この配信は危険だ。世界に影響が出る」


世界を動かす。

さっき管理局の男が言った言葉を、敵も同じように言う。

胸の奥がムカついた。


管理局の男が、ドアを少しだけ開けた。

鎖をかけたまま、隙間から外を見る。


そこにいたのは、黒装備じゃなかった。

スーツの男。身なりが良くて、笑顔が薄い。


「神崎です。話せますか」


管理局の男が言う。


「ここは管理局の施設だ。勝手に踏み込むな」

神崎は笑った。


「管理局に用があるわけじゃない。配信プラットフォームに用があるわけでもない。

“彼”に用がある」


隙間越しに、神崎の視線が俺に刺さった。


「君。配信者だね。……君は今、偽公式アカウントに脅され、工作で支持率を揺らされている」


――知ってる。

当然だ。お前らがやってるんだから。


神崎は続ける。


「君を守る手段がある。

D-ストリームに所属しろ。

そうすれば、運営連携、スポンサー、警護、法務……全部つける」


コメント欄がざわつく。


【乗るな】

【利権屋】

【囲い込み】

【でも守りは必要】

【判断むずい】


《隔離:固定》のおかげで、ノイズの洪水が入ってこない。

人間の迷いだけが見える。重い。


神崎が、優しい声で言った。


「もちろん、拒否もできる」

言葉が、柔らかいまま鋭くなる。


「拒否した場合、君は“安全上の問題がある配信者”として扱われる。

通報は増える。世論は揺れる。運営は守りきれない。

そして——君は次にダンジョンで死ぬ」


宮本さんが机を叩いた。


「脅迫だ!」

神崎は肩をすくめる。


「現実です。君たちだって分かっている。

こういうものは、管理されなければ事故になる」


女が低く言う。


「事故を作ってるのはお前らだ」


神崎は笑ったまま、言葉を返さない。

その笑顔が、いちばん嫌だった。


管理局の男が、ドアの鎖を強く握る。


「帰れ。ここで交渉はしない」

神崎は、あっさり頷いた。


「分かりました。では、君に“選択肢”を提示します。配信者」


神崎が、スマホを軽く掲げた。

そして、ゆっくり言う。


「今、君の配信に——“本物の公式通知”を出せます」


その瞬間、俺のスマホが震えた。


《公式アカウント:重要》

《あなたの配信は重大な規約違反です》

《停止しない場合、永久停止となります》

《異議申立ては受け付けません》


宮本さんが叫ぶ。


「それも偽物です! うちの通知形式じゃない!」

神崎は、穏やかに言った。


「視聴者は形式なんて見ない。

“公式”と書いてあれば信じる。

そして支持率が落ちる。——君は苦しむ」


《支持率:62%》が《58%》へ落ちた。

左腕がピリッと刺される。


神崎が言った。


「ほら。もう効いている」


……ムカつく。

でも、ここで感情に飲まれたら負ける。


俺はスマホを顔の近くに持ち、はっきり言った。


「聞こえる人。今から“合言葉”を変える。

『青』は継続。追加で『角砂糖』。

この二つを打ってくれ。短くでいい」


コメント欄に、人間の言葉が並ぶ。


【青 角砂糖】

【青 角砂糖】

【青 角砂糖】

【応援】

【生きろ】

【青 角砂糖】


《支持率:58%》が、《61%》に戻る。

固定された隔離の下で、確かな“人間の柱”が立っていく。


神崎の目が、ほんの少しだけ細くなった。


「……面白い」

女が言う。


「工作が効かない」

神崎は笑顔のまま続ける。


「効かないなら、効くところを叩くだけだ」


神崎が指を鳴らした。


外で、別の男が無線で何かを指示する。

次の瞬間、俺の配信画面の上部に、赤い帯が出た。


《警告:通報件数が急増しています》

《配信は自動制限される可能性があります》


宮本さんが顔を青くする。


「……通報爆撃」

神崎が言う。


「これは“公式”じゃない。

これは“多数決”だ。通報が集まれば、システムは止める。

運営が止めなくても、機械が止める」


たしかに。

システムは、善意でも悪意でも止まる。


俺は深く息を吸った。

そして、カメラ――いや、音声の向こうの“人間”に向かって言った。


「今から、公開で証明する。

俺を脅してるのは“運営”じゃない。

俺を潰したい“会社”だ」


管理局の男が眉をひそめる。


「公開……?」

「ここで隠すと、ずっとやられる。

見てる人が一番多い今、逆に“証拠”にする」


宮本さんが、決断した顔で頷いた。


「……僕が言います。LIV運用として」


神崎が笑った。


「好きにしろ。視聴者が信じるかは別だ」


俺はスマホを机に置いて、言葉を噛みしめるように続けた。


「LIV運用の宮本さんが今ここにいる。

偽公式通知は、運営の形式と違うって言ってる。

――それでも“公式”だと騙すのが、D-ストリームだ」


神崎が肩をすくめる。


「名誉毀損だよ、配信者」

「じゃあ否定しろ。

今この場で、俺を脅した偽公式を止めてみろ」


一秒、沈黙。


神崎は笑ったまま、何もしない。

止められない。止める気もない。


宮本さんが、震えを抑えながら言った。


「聞いてください。LIV運用です。

あなたに届いている“公式通知”は、当社のものではありません。

なりすましです。ログを取っています。——必ず対処します」


コメント欄が揺れる。


【本物?】

【運用が出てきた】

【マジ?】

【じゃあさっきの公式は嘘?】

【角砂糖w】

【応援】


《支持率:61%》が《66%》へ上がる。

左腕が楽になる。身体が戻る。


神崎が、少しだけ苛立った声を出した。


「……運用が現場で発言? 滑稽だ。

そんな“中の人”を出すなら、こちらも“中の人”を出せる」


神崎がスマホを見せた。

画面には、見慣れない管理画面のようなものが一瞬だけ見えた。


詳細は見えない。

でも、ひとつだけ分かった。


こいつは、偽公式を“操作している”。

少なくとも関与している。


その瞬間、コメント欄に、短い言葉が流れた。


【録れ】


録れ。

……そうだ。今の一瞬を、証拠にする。


俺は即座に言った。


「採用――【録画】」


《具現化 残り:?/??》

《隔離:固定(残り 06:12)》の下に、新しい表示。


《証拠保存:開始》


スマホの画面が、一瞬だけクリアになった。

神崎が見せた“管理っぽい画面”が、音声の向こうの視聴者にも伝わる。


コメントが爆発した。


【今の何】

【操作画面?】

【黒すぎ】

【証拠】

【通報爆撃やってるだろ】

【角砂糖!】


《支持率:66%》が《72%》へ上がる。

固定された隔離の中で、人間の怒りが“味方”として燃え始める。


神崎の笑顔が、初めて崩れた。


「……君、面倒だな」

「面倒でいい。生きるために必要だ」


神崎がドアの隙間越しに、低い声で言った。


「では宣言する。

君のアカウントは、今日中に“止まる”。

君が配信を続ける限り、君の支持率は壊れる。

君が守りを求めるまで、続く」


そして、最後に。


「——次は、コメントじゃなく“現実”で落とす」


背筋が冷えた。


管理局の男が、鎖を強く引いた。


「帰れ」

神崎は、微笑んだまま踵を返す。


「またね、配信者。

面談は終わりだ。次は契約だ」


足音が遠ざかる。


会議室に残ったのは、息苦しい静けさと、スマホの振動だけだった。


宮本さんが、俺のスマホを見て言う。


「……通報爆撃、まだ続いてる。システム制限が入る前に、配信の形式を変えないと」

女が言った。

「“コメント欄で殺される”なら、コメント欄の形を変える」

管理局の男が俺を見る。

「次にやることは一つだ。

D-ストリームを止める。法務と捜査を動かす。証拠が要る」


俺は左腕を押さえながら、息を吐いた。


「証拠は取った。……でも足りない。

相手は金がある。逃げ道もある」


コメント欄に、最後に一行流れた。


【次は先手】


先手。

そうだ。次は、俺が先に動く番だ。


画面の隅、《隔離:固定》の残り時間が減っている。


《残り 04:58》


固定が切れたら、またノイズが押し寄せる。

その前に、次の一手を打たないと死ぬ。


俺はスマホに向かって言った。


「聞いてる人。次の配信は形を変える。

“通報爆撃”に強い形にする。

合言葉は――次回から毎回変える」


コメントが流れる。


【角砂糖w】

【応援】

【先手だ】

【やれ】


俺は、短く言った。


「……次回、D-ストリームの“名前”を、配信の場で出す」


宮本さんが目を見開いた。


「それは……」

女が頷く。

「戦争になる」


管理局の男が、冷たく言った。


「なら、勝て。負けたら死ぬ」


俺は笑った。


「勝つ。俺はもう、戻れない」

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