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視聴者の“指示コメ”が全部スキル化するので、ソロでも攻略できる  作者: ゆうと


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7/18

規約違反

白い煙が、通路の奥まで一気に広がった。

ライトが霧に散って、距離感が死ぬ。目の前の壁すら曖昧になる。


「こっちだ!」


先頭の男――管理局の協力員が、迷いなく腕を引いた。

この人たち、少なくともダンジョンの中では慣れている。俺は言われるまま走った。


背後で、誰かが笑った。


「いいねえ、煙幕。配信者らしい“演出”だ」


演出じゃねえ。生存だ。


女が低い声で言った。


「……声が近い。複数。装備も重い。探索者じゃない可能性がある」


「探索者じゃないって、じゃあ何だよ……!」


若い男が半泣きで呻く。

俺も同じ気分だった。


スマホが震える。通知が重なる。


《公式アカウント:至急、配信を停止してください》

《あなたは規約違反の疑いがあります》

《運営判断により、配信は制限される可能性があります》


コメント欄が地獄みたいに流れる。


【運営きた】

【BANされたら終わり】

【止めるな】

【バックアップ取れ】

【煙で見えねぇw】

【規約違反って何】

【工作来てる】

【アンチ増えた】


“工作”の文字を見た瞬間、左腕がピリッとした。

嫌な痛み。さっきまでより、露骨に。


そして、画面の隅。


《支持率:82%》が、ぐらっと揺れて《76%》に落ちた。


「……おい」


一気に落ちるのはおかしい。

嫌な予感がした。


《悪意反動 軽減:中》が、薄くなって《軽減:小》に変わる。


痛みが増す。

アンチの言葉が、針になる。


【住所晒す】

【本名】

【死ね】

【消えろ】


「っ……!」


俺は歯を食いしばって、画面から目を逸らした。

見れば見るほど刺さる。見ないと状況が分からない。最悪の仕様だ。


女が俺の表情を見て察した。


「支持率が落ちてる? ……あなたの“能力”は、視聴者の反応に依存してるの?」


「たぶん、そうだ。応援が増えると痛みが減る。悪意が増えると刺さる」


「……じゃあ、狙われるのはダンジョン内だけじゃない。外からでも殺せる」


先頭の男が吐き捨てる。


「くそ。だから“配信”は危険なんだ」


危険なのは配信じゃない。

配信を利用してくる奴らだ。


煙の向こうから、金属の擦れる音。

ライトが二、三、点滅するように見える。霧の中で、光が揺れた。


「止まれ」


先頭の男が手を上げて、全員を止めた。

俺たちは壁際で息を殺した。


そして――見えた。


黒い装備。統一されたヘルメット。

探索者の装備とは違う。実戦というより“現場対応”の装備。

腰にぶら下がっているのは剣じゃない。丸い筒と、箱形の機械。


男が笑いながら言った。


「配信者くん、どこ行った? 運営からのお願い、聞こえてるよな?」


運営。

こいつら、運営側の人間?


女が小声で言った。


「……違う。運営の人間が、ダンジョン内で武装して追う? ありえない」


じゃあ何だ。

“運営を名乗って”動ける別の勢力。


先頭の男が歯ぎしりする。


「利権屋だ。ダンジョン配信の“権利”で食ってる連中がいる。視聴者を集める大手だけが儲かる仕組みを作ってる」

「俺みたいな無名がバズると困る、ってこと?」

「それだけじゃない。……お前の配信、映像に“ありえない現象”が映ってる」


盾。楔。煙。

確かに、普通なら“編集”か“仕込み”に見える。


男の一人が、腰の箱形の機械を取り出した。

アンテナみたいなものが伸び、青いランプが点く。


――ブゥン。


空気が、わずかに震えた気がした。


スマホの画面が一瞬フリーズし、画質が荒れる。


「……なにこれ」


若い男が震え声で言う。


「電波妨害だ。配信を切らせる気だ」


コメント欄に、同時に文字が流れた。


【止まった】

【配信重い】

【音途切れた】

【運営BANじゃなくて妨害?】

【やばい】

【逃げろ】


画面の隅、《支持率》がさらに落ちた。


《76%》→《68%》→《61%》


落ちるたび、左腕が刺される。

悪意コメントが増える。増えるほど刺さる。刺さるほど冷静さが削られる。


「……くそ。これ、“支持率を落とす”のが目的だ」


女が頷く。


「工作アカウントでアンチコメントを増やしつつ、妨害で“応援が届かない”状態にする。支持率が落ちれば反動が増える。あなたは勝手に崩れる」

「そんな……」


先頭の男が短く言った。


「殺し方として最悪だな」


背後から、あの笑い声がまた近づく。


「おーい、配信者くん。危ないから配信やめようなぁ? 規約違反だもんなぁ?」


規約違反。

その言葉が、笑いの道具になっている。


俺はスマホを握りしめた。

配信を切ったら、俺の武器が消える。

でも続けたら、妨害で応援が減って支持率が落ちる。

詰み。


――いや。


詰みじゃない。

やれることがある。


俺はコメント欄に向かって、息を切らしながら言った。


「聞こえる人だけでいい。短くていい。『応援』って打ってくれ。」


女が目を見開いた。


「……視聴者に指示?」

「俺の痛みが軽くなる。多分、“支持率”が戻る」


先頭の男が吐き捨てる。


「バカげてる……が、他に手は?」


スマホがまたブレる。電波が死にかけている。

でも、数秒だけ繋がっている。


コメントが流れた。


【応援】

【応援】

【応援】

【応援】

【生きろ】

【負けるな】

【応援】


――ピリッ。


痛みが、少し引いた。


《支持率:61%》が、《64%》に戻る。

小さい。けど、確かに戻る。


「効く……!」


そのとき、背後の黒装備が叫んだ。


「おい、妨害強めろ! 応援が入ってる! “支持”が戻ってる!」


やっぱり。こいつら、支持率を見てる。

つまり――“俺の仕様”を知ってる。


先頭の男が一歩踏み出した。


「お前ら、何者だ。ここは管理局の――」


「黙れよ臨時協力員。お前は“雇われ”だろ?」


黒装備の一人が、ヘルメットを少し上げて笑った。

目が冷たい。


「これは事故じゃない。コンテンツだ。事故にされたら困る」


コンテンツ。

ダンジョンの命を、視聴者の数字で呼ぶ言い方。


女が低く言う。


「……利権側で確定」


黒装備の男が、俺のほうを指差した。


「配信者くん。簡単な話だ。今すぐ配信を切れ。で、上と話せ。所属を決めろ」

「所属?」

「お前の配信、伸びる。伸びるなら“管理”が必要だ。勝手に伸びると困る。事故が増える。スポンサーが逃げる。金が動かない」


つまり、自由にやるなってことだ。


俺は息を吸った。

腹の底が熱くなる。


「……俺は、誰の許可もなく配信する」

「ほう」

「俺は、俺の人生を取り戻すためにやってる。お前らの金のためじゃない」


黒装備の男が笑った。


「じゃあ死ね」


その瞬間、箱形の機械が鳴った。

ブゥン、と音が大きくなる。


スマホの画面が真っ黒になりかける。

電波が切れる。応援が届かない。支持率が落ちる。反動が増える。

殺される。


――間に合わない。


俺は、最後の手段を選んだ。


「採用……!」


具現化枠は、ゼロ。

でも、画面の隅が一瞬だけ光った。


《支持率:64%》

《具現化枠 回復:1》


回復。ギリギリで戻った。


コメント欄に短い文字が滑り込む。


【遮断】


遮断。

……短い。強い。危険だが今必要。


俺は叫んだ。


「採用――【遮断】!」


《具現化 残り:0/3》


瞬間、俺たちの周囲の空気が“膜”みたいに歪んだ。

黒装備の妨害機の音が、急に遠くなる。

ライトの光が、膜で散って“届かない”。


「……何だこれ!?」


黒装備の男たちが騒ぐ。

妨害が効かない。電波が戻る。コメントが流れる。


【応援】

【応援】

【応援】

【今の何】

【バリア?】

【やべえ】

【逃げろ!】


《支持率》が戻る。


《64%》→《71%》


左腕の痛みが軽くなる。

呼吸が戻る。


女が息を呑んだ。


「……遮断って、電波妨害を遮断してる?」

「わからない。でも、今は繋がってる!」


先頭の男が即断した。


「撤収! 今だ!」


俺たちは走った。

膜は長く持たない。直感が言っている。


背後で黒装備が怒鳴る。


「囲め! 逃がすな! 配信者だけでも押さえろ!」


その瞬間、別の声が通路に響いた。


「――動くな」


低い。よく通る声。

煙の向こうから、別のライトが差し込む。数が多い。


黒装備が一瞬止まった。


「……チッ。来やがったか」


現れたのは、管理局の本隊だった。

制服の上に装備。胸にエンブレム。

先頭に立つ男が、俺を見て言った。


「君が配信者か。……話は後だ。今は保護対象だ」


黒装備の男が吐き捨てる。


「管理局が首突っ込むなよ。これは――」


「事故だ」

管理局の男が冷たく言った。

「一層に鎧騎士。想定外出現。調査案件。君たちの“コンテンツ”ではない」


空気が一瞬、凍った。


黒装備の男が俺を睨む。


「……いいか。配信者。次は外で会う。お前の支持率なんて、いくらでも落としてやる」


そう言い残して、黒装備は煙の向こうへ退いた。


管理局の男が俺に近づき、スマホを見た。

配信画面。コメント欄。支持率表示。


「……本当に、見えてるのか。これは」


俺は息を吐いて、頷いた。


「見えてる。……俺だけの、変な表示だ」


男は短く言った。


「君は“異常個体”扱いになる。だが――」

目が、少しだけ柔らかくなる。

「君がいなければ、今日は死人が出ていた。助かった」


その瞬間、スマホが震えた。

また通知。


《公式アカウント:配信停止の要請》

《停止しない場合、アカウントに制限をかけます》

《協議のため、面談を要請します》


俺は笑った。乾いた笑いだ。


「運営も来る。利権も来る。管理局も来る。……俺、どこにも逃げ場ないな」


女が隣で言った。


「逃げ場は作る。まず外へ出る」


管理局の男が頷く。


「外で“守る”。その代わり、君は全部話せ。何が起きているか。誰が仕掛けているか。君の“コメント具現化”が何なのか」


俺はスマホを見た。

コメントが流れる。


【応援】

【応援】

【生き残れ】

【次回が気になる】

【面談編くるw】

【運営ざまぁして】


画面の隅、《支持率:71%》。

生きてる。


俺は、スマホに向かって小さく言った。


「……次回、やる。絶対に」


暗闇の奥で、誰かが笑った気がした。

今度は、黒装備じゃない。もっと遠い、別の笑い。


そして、管理局の男が最後に言った。


「君の配信は――世界を動かす。それを嫌う人間が必ず出る。覚悟しろ」

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