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視聴者の“指示コメ”が全部スキル化するので、ソロでも攻略できる  作者: ゆうと


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6/21

来訪者

「今の、配信してたのか?」


暗闇の向こうから出てきたのは、人間だった。

しかも一人じゃない。三人。装備も揃ってる。


先頭の男は、ヘルメットのライトを俺に向けたまま、肩の力を抜かずに言った。


「ここ、一層だぞ。初心者が来る場所じゃ――」


言いかけて、男の視線が止まった。

俺の足元に散らばる骨と、崩れた甲冑。

そして、床に転がる大剣。


「……鎧騎士、倒したのか?」


俺は短剣を握ったまま、立ち上がった。

息がまだ荒い。背中の服が裂けたところがヒリつく。


「倒した。……そっちは誰だ」


男が名乗るより早く、俺のスマホが震えた。


《公式アカウント:あなたの配信を確認しました》

《確認のため、次回配信前に連絡してください》


コメント欄が、騒ぐ。


【現地きたw】

【管理局?】

【ギルド?】

【通報されたな】

【口うまくやれ】

【証拠は配信ログ】

【逃げろ】


男の後ろにいた女が、俺のスマホを見て眉をひそめた。

細身で、装備は軽い。目つきが鋭い。


「……配信者か。最近増えてる。けど、ここで“鎧騎士”を倒す配信者は聞いたことがない」


最後の一人――若い男が、やけに興奮した声で言う。


「え、まさか! さっき切り抜き回ってたやつ!? 盾投げの――」


「黙れ」


先頭の男が一喝した。若い男は口をつぐむ。

こっちに向けられたライトが眩しい。


先頭の男は、低い声で言った。


「俺はダンジョン管理局の臨時協力員だ。今日は“事故確認”で入ってる」

「事故確認?」

「一層の深部で、想定外の高ランク個体が出た。鎧騎士だ。……お前が倒したなら、その件は一旦、助かったと言える」


助かった。

その言い方が、妙に引っかかった。


「想定外、って……一層に出るのが異常ってことか」

「本来はな。出ない。出てはいけない」


女が俺のスマホをもう一度見た。


「配信してたってことは、“ログ”が残ってる。倒した瞬間も、出現位置も」

「残ってる。全部」

「なら、提出できる?」

「……提出?」


嫌な汗が背中を伝った。

提出。運営。BAN。

頭の中で最悪のワードが並ぶ。


先頭の男が、言葉を選ぶみたいに一拍置く。


「正確には、“任意で協力してほしい”。ただし――」


男の目が鋭くなる。


「いまのお前の配信、危なすぎる。一般人が真似する。視聴者が煽る。ダンジョン内で死ぬやつが出る」


コメント欄が反発する。


【説教うざ】

【自己責任だろ】

【配信がなきゃ誰も見ない】

【でも真似する奴は出る】

【落ち着け】


俺は、スマホの画面を一瞬だけ見た。

視聴者数は減っていない。むしろ増えている。


「……俺も、真似されたくはない」


正直な言葉だった。

あの鎧騎士は、たまたま勝てただけだ。運が良かった。コメントが良かった。

真似したら死ぬ。


女が一歩近づいた。


「あなたの配信、“何か”がおかしい。盾とか楔とか……アイテムを現場で拾ってるようには見えない」


空気がピンと張った。


俺は反射で、スマホを握り込んだ。

バレる。

言えば終わる。言わなければ、疑われる。


先頭の男が言う。


「……運営から連絡が来てるなら、配信プラットフォーム側も把握してる。お前が何者でも、今は“事故の目撃者”だ。協力してくれ」


若い男が我慢できずに口を挟む。


「いや、でもさ! あれ、ガチでヤバいって! 盾が出た瞬間、コメ欄――」

「黙れっつってんだろ」


女が若い男を睨み、俺に目を戻した。


「今日の映像、提出できるなら、ここで身柄をどうこうはしない。帰っていい」

「帰っていい、って……」

「逆に言うと、提出拒否するなら、事情聴取は避けられない。鎧騎士の件は重大だよ」


先頭の男が続ける。


「――お前が“狙われる”可能性もある」


「……は?」


その一言で、背中が冷えた。


男は床に落ちた甲冑の破片を、靴先で軽く動かした。


「こういう想定外の出現は、たいてい“人為的”だ。誰かが深層の何かを、上に引っ張ってきてる」

「そんなこと……できるのか?」

「できる。やる理由もある。混乱で儲かるやつがいる」


利権。

そういう匂いがした。


コメント欄に、嫌な流れが混じる。


【提出するな】

【管理局信用できん】

【売られるぞ】

【でも証拠出さないと詰む】

【公式=運営=利権かも】


そのとき、また一行だけ、空気が変わるコメントが流れた。


【住所バレ】


俺の心臓が一瞬止まった。

冗談だろ、と思った直後、続けて。


【本名】

【勤務先】

【晒す】


左腕が、ピリッと痛む。

今までの“死ね”より、ずっと嫌な痛みだった。


「……っ」


女が俺の表情の変化に気づいた。


「どうした?」

「コメントが……」


俺は言いかけて、飲み込んだ。

言っていいのか。配信の中身まで警察みたいに踏み込まれるのか。


先頭の男が、低く言う。


「……アンチか。晒しは犯罪だ。運営に通報しろ」

「運営が、さっきから連絡してきてる。たぶん……」

「たぶん?」

「俺の配信を、確認したって」


女が吐き捨てるように言った。


「じゃあ余計に急いだほうがいい。ここで揉めてる場合じゃない」


俺は歯を食いしばって、決めた。

まず、生き残る。

それだけだ。


「映像は出す。……ただし条件がある」

先頭の男が眉を上げる。「条件?」

「俺の身元と、連絡先。守ってくれ。晒しが出てる」

女が即答した。

「それは管理局じゃなくても守る。危険なら一時的に保護もできる」

「保護……」


若い男が小声で言う。


「え、スターじゃん……」


女が睨む。若い男は黙る。


先頭の男が言った。


「よし。提出の手順は上でやる。今は撤収だ。……ここは危険だ」

「撤収って、俺は――」

「お前も来い。単独で帰るのは危なすぎる」


コメント欄が荒れる。


【同行しろ】

【連れてかれる】

【証拠残せ】

【録画しとけ】

【バックアップ】


俺は配信画面を操作して、録画をクラウドに二重保存した。

指が震える。けど、やる。


《保存完了》


その瞬間。


スマホの隅に、もう一つ表示が出た。


《支持率:82%》

《悪意反動 軽減:中》

《具現化枠 回復:1》


《具現化 残り:1/3》


……回復してる。

今なら、まだ一回だけ切れる。


先頭の男が通路の奥をライトで照らした。

その光が、揺れた。


「……来るぞ」


暗闇の向こうに、青い火が複数。

さっきの鎧騎士より数が多い。

そして――人の声もする。笑ってるみたいな声。


女が低く言った。


「追っ手かもしれない」


若い男が息を呑む。


「マジで……」


俺はスマホを握りしめて、つぶやいた。


「……採用、必要だな」


コメント欄が、狂ったみたいに流れる。


【煙】

【目くらまし】

【壁】

【走れ】

【逃げ道】

【封鎖】

【落とし穴】

【助けて】


その中で、短くて、今必要な言葉が目に刺さった。


【煙】


俺は決めた。


「採用――【煙】!」


《具現化 残り:0/3》


空気が白く膨らみ、通路が一瞬で霧に沈んだ。

ライトが拡散して、向こうが見えなくなる。


先頭の男が叫ぶ。


「……何をした!?」

女が息を呑む。「これ、煙幕……!?」


俺は走り出した。


「説明は後だ! 今は逃げる!」


霧の向こうで、人の声が笑った。


「――見つけた」


そして、配信画面に、見慣れない通知が重なった。


《公式アカウント:至急、配信を停止してください》

《あなたは規約違反の疑いがあります》


俺は笑った。最悪だ。


「……次、来るぞ」

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