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視聴者の“指示コメ”が全部スキル化するので、ソロでも攻略できる  作者: ゆうと


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5/20

支持率

暗闇の奥で鳴った音は、さっきの骸骨よりずっと重かった。

床が、微妙に震える。

遠くで金属が擦れるような、嫌な響き。


俺は一歩だけ下がって、息を整えた。

やばい。今の俺は――具現化の残りがゼロだ。


スマホの画面の隅で、《支持率:—% 集計中》が点滅している。

支持率。

何の支持だ。誰の何が、どう集計されてる。


コメントは相変わらず流れる。


【支持率って何】

【投げ銭的なやつ?】

【好感度だろ】

【アンチ死ね】

【NGワード設定しろ】

【運営見てるぞ】


“運営見てるぞ”の一行に、背中が少し冷えた。

配信プラットフォームの運営か。ダンジョン管理局か。

どっちでも嫌だ。


左腕が、またピリッとした。

さっきの【次は死ねw】が、まだ残ってるみたいに。


「……まずいな」


俺は言いながら、通路の壁に背中をつけた。

カメラは切ってない。切りたくない。

ここで切ったら、俺の“武器”が消える。


コメント欄が、ふっと落ち着く。


【深呼吸】

【一旦戻れ】

【無理すんな】

【落ち着け】

【応援】


“応援”の文字が流れた瞬間、左腕の痛みが少し引いた。

……やっぱり。

悪意は刺す。善意は相殺する。


「支持率って、そういうことか?」


俺が呟いた瞬間、画面に小さな文字が浮かび上がった。


《支持率:集計中》

《現在の視聴者反応を解析しています》

《悪意コメントの反動は支持率により軽減されます》


「……解析って何だよ」


コメントが笑う。


【システムメッセージw】

【主人公だけ説明書ついてる】

【反動軽減はデカい】

【つまりアンチも燃料】


燃料。

ふざけた言い方だが、否定できない。


遠くの足音が、また鳴った。

近い。こっちに向かってきてる。


俺は通路の角をそっと覗いた。

暗闇の向こうに、青い火が見えた。

骸骨じゃない。もっと大きい。

鎧の形が、異様に“厚い”。


――鎧騎士。

人間サイズより二回り大きい、古い甲冑。

中身が空っぽなのに動いてるみたいな、あれ。


しかも、手に持っているのは槍じゃない。

大剣だ。


「……一層の“外れ枠”じゃねぇか」


視聴者数が「180」。

コメントが一気に跳ねる。


【うわ出た】

【鎧騎士は無理】

【逃げろ】

【壁際】

【足元狙え】

【盾欲しい】

【次の具現化まだ?】


盾。欲しい。

でも枠がない。


俺は唇を噛んで、スマホに向かって言った。


「支持率、早く出せ。今、必要なんだ」


まるで命乞いみたいな言い方になって、自分で腹が立つ。

でも、これが現実だ。


《支持率:算出中》

《しばらくお待ちください》


ふざけんな。


鎧騎士が、ゆっくりこちらに顔を向けた。

甲冑の隙間から、青い火が覗く。

目が合った気がしただけで、喉が鳴った。


大剣が持ち上がる。

空気が重くなる。


コメントが流れる。


【塩は効かない】

【関節は硬い】

【背中の隙間】

【罠使え】

【罠だ罠】


罠。

そうだ。さっきの通路には罠があった。

床が沈んで杭が落ちるやつ。


俺は後ずさりした。

鎧騎士に背中を向けない程度に、ゆっくり、ゆっくり。


鎧騎士が追ってくる。

一歩。二歩。

そのたびに床が震える。


角を曲がる。罠の床が見えた。

杭が落ちた跡の穴。まだ作動するか分からない。


「頼むぞ……」


俺は小石を拾って投げた。


――カチ。


床が沈み、天井から杭が落ちた。

まだ生きてる。よし。


俺は罠の手前で止まり、鎧騎士を待った。


鎧騎士は止まらない。

そのまま踏み込む。


――カチ。


床が沈む。杭が落ちる。


……刺さらない。


杭は鎧騎士の肩に当たって、火花を散らしただけで弾かれた。

甲冑が硬すぎる。


「は!? うそだろ!」


コメントが荒れる。


【草】

【硬すぎ】

【罠無効かよ】

【じゃあどうすんの】

【支持率はよ】


鎧騎士が大剣を振り上げた。

通路が狭いのに、刃が壁に当たらない。

“ちょうどいい軌道”で振れるように作られてるみたいだ。


俺は反射でしゃがんだ。

刃が頭上を通り、壁を削って火花が散る。

風圧で耳が痛い。


「……終わるぞ、これ」


そのとき。


《支持率:82%》

《具現化反動 軽減:中》

《具現化枠 回復:1》


画面の隅に、見慣れた表示が復活した。


《具現化 残り:1/3》


「……来た!」


コメント欄が爆発する。


【きたああ】

【82は高い】

【今だ】

【盾!】

【壁!】

【止めろ!】

【回復の条件それか】

【アンチざまぁ】


俺は迷わなかった。

短くて、確実に必要なもの。


「採用――【盾】!」


空気が割れる。

透明な盾が目の前に生まれる。


鎧騎士の大剣が、俺の盾に叩きつけられた。


――ドンッ!


今までの金属音とは違う。

胸に響く衝撃。

腕が持っていかれそうになる。


でも、止まった。

刃は盾にめり込まない。

盾の表面が波打って、衝撃だけを吸い込む。


「……耐えた!」


俺は盾を押し返しながら、目線だけで周囲を探した。

鎧の隙間。背中。関節。

どこでもいい、弱点。


コメントが流れる。


【背中の留め具】

【腰】

【腰の隙間】

【大剣重い、次の振り遅い】


遅い。

そうだ。大剣は重い。振った後に“戻り”がある。


俺は盾で受けたまま、一歩だけ横にずれた。

鎧騎士の刃が壁に触れて、火花が散る。


その一瞬、鎧騎士の腰の隙間が見えた。


「……ここだ」


俺は短剣を逆手に握り直す。

盾で受けながら、腰の隙間へ突き刺した。


――ギン。


硬い。入らない。


「くそっ!」


左腕がピリッとした。

コメントが刺さる。

さっきより軽いのは支持率のおかげだ。でも、痛い。


コメント欄に一行。


【楔】


楔。

……短い。具体的。

“隙間に打ち込め”ってことか。


俺は息を吸った。


「採用――【楔】!」


《具現化 残り:0/3》


手の中に、硬い金属片が現れた。

小さい。三角形。

ドアの隙間に打ち込むやつ。


俺はそれを腰の隙間に押し込み、短剣の柄で叩いた。


――カンッ。


楔が噛み込む。

鎧騎士の動きが一瞬、止まった。


青い火が揺れる。


「……止まった!」


コメントが叫ぶ。


【今!】

【抜け!】

【中身!】

【火!】


俺は楔をさらに叩き込む。

鎧の継ぎ目が、わずかに開いた。


そこから、青い火が漏れる。

まるで呼吸みたいに、脈打ってる。


俺は短剣を突き刺した。


――ズン。


今度は入った。

青い火が、びくっと跳ねる。


鎧騎士が、初めて“苦しむ”みたいに大きく揺れた。

大剣が床に落ち、甲冑が崩れそうになる。


視聴者数が「300」。


コメントが滝みたいに流れた。


【神回更新】

【楔天才】

【盾受けからの楔は強い】

【切り抜き不可避】

【スポンサー来るぞ】

【運営ほんとに来るぞ】


“スポンサー”。

“運営”。

現実の匂いが濃くなる。


鎧騎士が膝をついた。

青い火が、弱くなる。


俺は息を吐いて、カメラに向かって言った。


「……支持率。これが、俺の“弾”だ」


その瞬間、画面に通知が一つ出た。


《公式アカウント:あなたの配信を確認しました》

《確認のため、次回配信前に連絡してください》


「……は?」


コメント欄が一斉に湧く。


【運営来たw】

【終わった】

【BANか】

【逆に伸びる】

【次回もやれ】

【逃げろ】


俺は鎧騎士の残骸を見下ろした。

青い火は、もう消えかけている。


そして、暗闇の奥から――別の音。

今度は、複数。

しかも、人の足音が混じっている。


誰かが来る。

探索者か。管理局か。利権か。


《支持率:82%》の表示が、まだ消えない。


俺は笑った。乾いた笑いだ。


「……次回、確定だな」


暗闇の向こうで、誰かが言った。


「今の、配信してたのか?」

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