盾
空気が割れた。
目の前に、透明な板が生まれる。
ガラスみたいに薄いのに、なぜか“頑丈だ”と直感が言っていた。
《具現化 残り:1/3》
――【盾】で、1回消費。
上限、きつい。でも今は迷ってる暇がない。
二体目の骸骨が槍を突き出す。
さっき壁に刺さった槍より速い。狙いが正確で、殺しに来てる。
俺は反射で盾を前に出した。
――ガンッ!
金属が割れるみたいな音。
槍が盾にぶつかった瞬間、先端が跳ねて軌道が逸れ、床に刺さった。
「……防げる!」
視聴者数が「38」になっていた。
コメントが流れすぎて読めない。
【でたw】
【盾やば】
【それチート】
【いけるいける】
【次は反撃】
【押せ】
【雑魚w】
【死ねw】
また来た。アンチ。
左腕が、ピリッと痛む。
さっきよりは軽い。……でも確実に“刺して”くる。
俺は歯を食いしばって、良いコメントだけ拾う。
ここで感情に引っ張られると、負ける。
「採用する。次――」
コメント欄が、ひとつだけ“目立って”見えた。
【投げろ】
短い。具体的。危険も少ない。
俺は即決した。
「採用――【投げろ】!」
盾の端が、急に“持ちやすく”変形した。
取っ手が生えて、腕に固定される感じ。
《具現化 残り:0/3》
「……くそ、これで最後!」
骸骨が二体、同時に来る。
一体が正面から槍。もう一体が横から回り込んで、挟み撃ちにする気だ。
俺は一歩後ろへ下がった。
罠と粘液は避ける。壁沿い。狭い通路の利点は、槍が振り回しづらいこと。
正面の槍が来る。
盾で受ける。
――ガンッ。
勢いを殺さず、そのまま盾を“投げた”。
盾が回転しながら飛んでいく。
金属の縁が、骸骨の脛に当たった。
――バキッ。
骨が折れる音。
骸骨が前のめりに崩れ、槍が床に滑った。
「よし!」
でも盾は床に落ちたまま、戻ってこない。
当たり前だ。投げたんだから。
横から回り込んだ骸骨が、俺の背中へ槍を突く。
コメントが流れる。
【しゃがめ】
【転がれ】
【左】
【壁!】
俺はしゃがんで前へ転がった。
槍が空を切り、背中の服を裂く。冷たい汗が噴き出す。
転がった先、床に落ちた槍がある。
俺はそれを掴んだ。
「……借りる!」
骸骨って、倒し方は単純だ。
“動力”を止める。関節。青い火。
倒れている方の骸骨の目の奥、青い火がゆらゆら揺れる。
俺は拾った槍を、そこへ突き刺した。
――ズン。
火が跳ねて、消えた。
骨が、ただの骨になる。
視聴者数が「70」になっていた。
【うおおお】
【今の上手い】
【盾投げ天才】
【切り抜き確定】
【神回】
【初配信でこれ?】
【運営BANされるだろw】
“運営BAN”。
その文字を見た瞬間、喉がひゅっと鳴った。
……そうだ。
これはチートだ。明らかに。
でも、今は考えない。
残り一体。
槍を持った骸骨が、ゆっくり立ち上がる。
さっきより慎重だ。学習してる。
盾は床の向こうに落ちたまま。
上限はゼロ。具現化できない。
「……詰み?」
コメントが流れる。
【槍捨てろ】
【距離詰めろ】
【目】
【関節】
【塩】
塩――。
俺はポーチを探り、小袋を掴む。まだ残ってる。
骸骨が槍を振り上げる。
突くんじゃない。今度は叩き潰す気だ。
俺は一歩踏み込んで、わざと“槍の内側”に入った。
近すぎる距離。怖い。でも槍は長い。内側は弱い。
その瞬間、骸骨の腕が少し止まった。
……一瞬の迷い。人間みたいに。
俺は塩を関節へ叩きつけた。
――パチッ。
青い火が乱れる。
骸骨の動きが鈍くなる。
「今だ!」
短剣を、関節の隙間へ。
刃が骨に当たって弾かれそうになるのを、体重で押し込む。
――ズン。
入った。
骸骨の腕が落ち、槍が床に転がった。
俺は拾った槍で、最後に目の火を突いた。
――シュッ。
青い火が消える。
骸骨が崩れ落ちる音が、通路に響いた。
静寂。
俺はその場に座り込んで、やっと息を吐いた。
喉がカラカラで、笑いが漏れる。
「……初配信で、死ぬかと思った」
視聴者数が「120」。
コメントが流れる。
【生きてて草】
【ガチで神回】
【次いつ?】
【フォローした】
【切り抜き作る】
【盾投げタイトル入れろ】
そして――最後に、嫌なコメントがひとつ。
【次は死ねw】
左腕が、またピリッと痛む。
俺はスマホに向かって、静かに言った。
「……お前の言葉、俺に刺さってる。面白がるなら勝手にしろ。でも、刺すなら――」
俺は立ち上がって、暗い通路の奥を見た。
さっきの【目印】が消えた先。さらに奥へ続く道。
「――その分、俺は強くなる」
画面の隅に、新しい表示が出た。
《支持率:—% 集計中》
……支持率?
コメントが一斉に流れた。
【支持率きた】
【システム開示w】
【これ上がると強くなるやつだ】
【次回確定】
俺は笑った。
「……次、行くぞ」
暗闇の奥で、何かが鳴いた。
さっきより、ずっと大きい音が。




