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視聴者の“指示コメ”が全部スキル化するので、ソロでも攻略できる  作者: ゆうと


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21/22

アフターグロウ

篠宮が連行されていく背中を見送ったあと、広場の空気は“勝利”より先に“疲労”で満ちた。

誰も声を上げない。拍手もない。


ただ、公式カメラの赤いランプだけが点いている。

記録は続く。

終わったはずの戦いが、終わっていない証拠みたいに。


女が俺の肩を支えたまま言った。


「立てる?」

「……立てる」


足はまだ重い。

隔離が切れかけた反動だ。

第1章の最後で“支持率”じゃなく“体”を狙われたことが、いちばん嫌な余韻として残っている。


管理局の男が無線で短く指示する。


「入口停止未遂、監査アラート記録、全部保存。

篠宮の身柄は監査室へ直送。

SRD関連のアクセスログ——消される前に抜け」


“消される前に”。


勝ったのに、言葉が暗い。

黒田の言った通りだ。

あいつらは、静かに消す。

だから、勝利の後処理が遅れた瞬間に、逆転される。


宮本さんがタブレットを見ながら、苦い顔で言った。


「……拡散、始まってます」

俺が聞く。

「何が」

「あなたの件。まとめ。切り抜き。

“英雄”扱いと、“危険人物”扱いが同時に伸びてる」


女が吐き捨てる。


「両方伸ばすのが一番危険。

神格化と悪魔化は同じ燃料だ」


管理局の男が頷く。


「その通りだ。

英雄になった配信者は、必ず誰かに利用される。

そして、英雄が転ぶ瞬間は金になる」


……金。

篠宮の後ろにあるもの。

黒田が“資金層”と言った影。


黒田は保護車両の窓の奥で、俺を見ていた。

さっきの苦い笑いが消えている。

代わりに、怯えがある。


あいつは悪人だった。

でも今は、悪人としての余裕がない。


俺は車に近づいて言った。


「黒田」

黒田が口を開く前に、管理局の男が言った。


「近づきすぎるな。

篠宮が捕まっても、黒田は“消される対象”だ」

女が続ける。

「口封じは終わってない。むしろ始まる」


黒田が窓越しに、小さく笑った。


「なあ……。

お前、俺のこと嫌いだろ」

「嫌い」

即答した。嘘はつかない。


黒田が肩をすくめる。


「だよな。

でも、俺が死ぬと“次”が分からなくなる」

「次って何だ」

黒田は唾を飲み込み、言った。


「篠宮は“調整官”。

あいつは現場の調整役で、責任を背負う役。

——背負わせるための人形だ」


女が眉をひそめる。


「じゃあ誰が作った。台本を」

黒田は視線を逸らし、絞り出すように言った。


「……金」

管理局の男が静かに言う。


「資金層」

黒田が頷く。


「投資。スポンサー。契約。

D-ストリームも、運営も、管理局外郭も、全部“金”で繋がる。

篠宮が捕まっても、金は逃げる」

俺は聞いた。


「名前は」

黒田は首を振った。


「言えない。

言った瞬間に俺が消される。

……守秘もあるし、もっと直接的なのもある」

女が言った。


「脅し?」

黒田が笑った。


「脅しっていうか、約束だな。

“喋ったら終わる”っていう、ちゃんとした約束」


管理局の男が無線を切って、黒田に低い声で言う。


「なら、“喋っても終わらない”形にする。

公開だ」


黒田の目が揺れる。


「公開……」

「そうだ。

お前が喋るなら、保護の下で、記録の下で喋れ。

消せない形で残す」


黒田は黙り込んだ。

怖いのが顔に出てる。


俺はそこで気づいた。

黒田にとって、篠宮より怖いものがある。

それが資金層だ。


……敵は、まだ上にいる。


臨時拠点に戻ると、運営(LIV)の人間が増えていた。

スーツ。硬い顔。短い会話。

いつもの“現場運用”じゃない。


宮本さんが俺に小声で言う。


「……上が来てます。

“あなたの配信を今後どう扱うか”の協議」

女が吐き捨てる。


「やっぱり来た。

英雄を“檻”に入れる会議」

管理局の男が淡々と言う。


「檻に入れないと、別の檻に入れられる。

——資金層の檻だ」


会議室に入る。

運営の上役が、丁寧な笑顔で俺を見る。


「本日はお疲れさまでした。

あなたの協力で、大きな事故が防がれた可能性があります」

丁寧すぎて、逆に冷たい。


「ただ——」

来た。


「安全上の観点から、今後の配信は“管理下”でお願いしたい。

具体的には、配信枠は公式枠に統合し、

機材、端末、ログは当社が保持します」

女が即座に言う。


「保持=回収」

上役は笑顔のまま返す。


「いえ、保全です。

あなたを守るためでもあります」


……篠宮と同じ台本。


俺は息を吸って言った。


「条件がある」

上役が微笑む。


「伺います」

俺は淡々と言った。


「三つ。

1つ目、ログは当社だけで持たない。第三者バックアップを常時。

2つ目、停止命令・制限は必ず“理由付きで公開固定”。

3つ目、俺の端末を奪っても配信が止まらない“切替”を標準機能にする」


会議室が少しだけざわついた。

運営上役の笑顔が、わずかに固まる。


「……それは、当社の裁量を超えます」

管理局の男が淡々と言う。


「裁量の話ではない。

篠宮の事件で、裁量が悪用された。

なら、裁量を縛る仕組みが必要だ」


上役が視線を下げる。


「検討します」

女が冷たく言う。


「検討って言葉で時間を稼いで、その間に“自然に消す”んでしょ」

上役が困ったように言う。


「……誤解です」


誤解じゃない。

でもここで感情で押しても意味がない。

この人は敵じゃない。

敵は“この人を動かしているもの”だ。


そのとき、宮本さんがタブレットを見て息を呑んだ。


「……来た」

「何が」

宮本さんが言う。


「別の配信者です。

“似た現象”のクリップが、今、急に伸びてる」

画面を見せられる。


暗い路地。

誰かがスマホを構えている。

そして、画面の中で——小さな光が出る。

煙でも盾でもない。

もっと“整ってる”。


クリップの最後に、短いテロップが入っていた。


「第二の観測点、出現」


……誰が書いた。

誰が名付けた。


女が低く言った。


「始まった」

管理局の男も頷く。


「篠宮が言った通りだ。

“別の観測点”を作り始めた」


俺の端末が、微かに震えた。

画面の端に、小さく表示が出る。


《新規候補:照合》

《条件:複数観測》


視聴者の投票が、ざわつく。

観測が割れ始めている。


俺は息を吸って言った。


「第2章だな」


誰も否定しなかった。

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