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視聴者の“指示コメ”が全部スキル化するので、ソロでも攻略できる  作者: ゆうと


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20/20

入口

篠宮は去り際に言った。


「次は“もっと自然な方法”にします」


その言葉のせいで、部屋の空気がずっと重いままだった。

暴力じゃない。偽装侵入でもない。

“手続き”と“世論”と“体”――全部を同時に締め上げてくる。


黒田が保護車両の中で、低い声で言った。


「来るぞ。

あいつは“勝てる形”しか選ばない。

……自然に見える勝ち方な」


管理局の男が答える。


「なら、自然に見えない形で潰す」

女が続ける。

「公開。記録。第三者。逃げ道ゼロ」


宮本さんがタブレットを開き、短く言った。


「公開捜査枠、トップに固定できます。

ただし、相手は“正規停止”を本当に通すかもしれない」

「通した瞬間が証拠だ」

管理局の男が頷いた。

「篠宮が“本物の決裁”を握っているなら、その出所を炙り出す」


俺は息を吸った。

怖いのは、刺されることじゃない。


——“切られる”ことだ。


配信を止められた瞬間、俺は孤立する。

孤立した瞬間に消される。

黒田の言う「自然に終わる」は、そこに繋がっている。


だから、先に“場”を作る。


「行く場所は?」

女が言った。

「ダンジョン入口」


俺は一瞬、息が止まった。


「……入口?」

管理局の男が言う。

「篠宮が一番嫌がる場所だ。

監視カメラ、人、人、公式の記録。

そして——異常現象の中心」


黒田が笑った。


「正解。

あいつらは“現象”を独占したい。公開は嫌いだ」


ダンジョン入口の広場は、昼でも夜でも明るい。

照明と監視カメラと、管理局の警備。

そして“見物人”。


俺はそこで、公開捜査枠を立て直した。

コメント入力なし。投票のみ。遅延5分固定。多重バックアップ。


画面に並ぶボタンは、いつもの七つ。


【煙】

【盾】

【隔離】

【切替】

【証拠】

【沈黙】

【通報】


宮本さんが小声で言った。


「ここなら、相手が何をしても“記録が残る”」

女が言う。

「逆に言うと、相手は“記録に残らない攻撃”をしてくる」

黒田が即答した。

「体だよ。過負荷。薬。事故。転倒。発作。

……全部“自然”にできる」


管理局の男が俺を見る。


「だから、ここで終わらせる。

篠宮を“入口”に引きずり出す」


俺はマイクに向かって言った。


「聞いてる人。ここが最終局面。

押すのは【沈黙】と【証拠】。

煽りに反応しない。証拠だけ積む」


投票が揺れて、【沈黙】が確定した。


《採用コマンド:沈黙》

《表示:最小》

《外部ノイズ:遮断》


そして、来た。


スマホが震える。

宮本さんのタブレットにも、同時に通知。


《LIV運用:正式通知》

《安全審査により配信停止(即時)》

《根拠:管理局研究部門/監査決裁済》


……本物の手続き。

偽造じゃない。

「決裁済」の文字が、胃を冷やす。


宮本さんが青い顔で言う。


「これ、通ってる……。上が通した」

女が呟く。

「篠宮、決裁権限を握ってる」

管理局の男が歯を食いしばる。

「内部だ。……本当に内部が動いた」


配信画面が暗転しかけた、その瞬間。


画面の端に、新しい表示が出た。


《具現化:新規コマンド候補》

《名称:固定》

《条件:配信停止(外部)》


固定——【鍵】の上位互換みたいな名前。


視聴者の投票が一斉に揺れた。

新しいボタンが浮かび上がる。


【固定】


俺は息を吸って言った。


「……押して。【固定】」


投票が確定。


《採用コマンド:固定》

《対象:配信経路》

《結果:停止命令を“記録として固定”》


配信は止まらなかった。

その代わり、画面に“停止命令の全文(要点)”が固定表示された。


決裁者:監査室(署名あり)


起案:安全研究部門(SRD)


目的:対象の一時保全(端末・本人)


期限:本日中


宮本さんが、震える声で言う。


「……止められない。

止めようとしても、この枠が“停止命令を抱えたまま生きる”」

女が言った。

「つまり篠宮は、止めるほど証拠が目立つ」

管理局の男が低く笑った。


「勝ち筋ができた」


広場の向こうに、人が現れた。


黒いスーツ。歩き方が軽い。

あの声の主。


篠宮 恒一。


監査官もいる。

警備もいる。

でも篠宮は堂々と、入口の真正面に立った。


そして、こちらへ微笑んで言った。


「止まりませんね」

俺は答えた。


「止められない形にした」

篠宮は小さく頷く。


「いいですね。

それなら“自然に”終わらせましょう」


その瞬間、俺の体がズンと重くなった。

頭が熱い。胸が詰まる。視界が狭くなる。


——過負荷じゃない。

支持率の痛みじゃない。


“体”だ。


黒田が叫ぶ。


「来た! 吸入か、散布だ!」

女が周囲を見回す。

「煙じゃない。匂いがない……」


篠宮が静かに言った。


「あなたは危険です。

危険な人は、保護されるべきです。

——倒れてください。今ここで」


膝が笑いそうになる。

倒れたら終わる。

担架で運ばれて、回収されて、戻らない。


俺は歯を食いしばってマイクに向かって言った。


「聞いてる人……【隔離】……!」


投票が一気に【隔離】に寄る。確定。


《採用コマンド:隔離》

《対象:周囲環境》

《結果:外部干渉(散布)を遮断》


空気の膜が“厚く”なる。

次の瞬間、重さが少しだけ抜けた。

息が吸える。


女が目を見開く。


「効いた。散布が切れた」

篠宮の目が細くなる。


「……隔離、便利ですね」


俺は揺れる視界のまま、篠宮を見た。


「便利なのは、お前の台本だろ。

安全、保護、リスク——全部同じ言い回し」


篠宮は笑った。


「言い回しは大事ですよ。

人は言葉で動きます」


管理局の男が前に出る。


「篠宮。停止命令の出所を説明しろ」

篠宮は監査官を見た。


「説明は監査官がします。

私は専門家として助言しただけ」


監査官の顔が硬い。

だが、その背中に“逃げ道がない”のが見える。


——篠宮は監査官を盾にする。

いつも通り。


俺は息を整えて、短く言った。


「じゃあ公開で照合する。

……押して。【反転】」


投票が【反転】で確定。


《採用コマンド:反転》

《対象:停止命令の決裁経路》

《結果:異常(迂回ルート)》


画面に要点だけ出た。


監査室決裁:通常ルートを経由していない


起案SRD:外郭番号で直接“上層”に接続


例外承認:同一人物の連続承認(要監査)


監査官が息を呑む。


「……こんな経路、私は知らない」

篠宮の笑顔が薄くなる。

「監査官。あなたの職務は“知らない”では済みませんよ」


監査官が震えながらも、言った。


「私は……署名した。

だが、私に提示された資料が虚偽だった可能性がある。

この経路も——私は承認していない」


篠宮の目が、冷たくなる。


「……裏切りますか」

監査官が言い返す。


「裏切りではない。監査だ」


その瞬間、広場の空気が変わった。

“公式の場”が、篠宮の台本から離れ始めた。


篠宮は一歩下がり、低い声で言った。


「分かりました。

なら、回収部隊を正式に動かします」


遠くで車両のドアが開く音。

黒装備が動き始める。


女が叫ぶ。


「盾!」

視聴者の投票が【盾】に寄る。確定。


《採用コマンド:盾》


透明な盾が広がり、人の流れを分断する。


管理局の男が無線に叫ぶ。


「入口広場、回収部隊展開!

正規性照合を要求! 侵入扱いも視野!」


篠宮は、俺を見たまま言った。


「あなたは、ここで人を巻き込みますか?」

俺は息を吸って答えた。


「巻き込ませない。

——だから“場”を変える」


俺は叫んだ。


「押して!【切替】!」


投票が確定。


《採用コマンド:切替》

《配信先:多重同時中継》

《表示:入口広場の公式カメラ映像》

《結果:個人端末依存を解除》


宮本さんが声を上げる。


「……今、配信のソースが“入口の公式カメラ”に切り替わった!

あなたの端末を奪っても配信は止まらない!」


篠宮の顔が、初めてはっきり歪んだ。


「……っ」


俺は続けて言った。


「これが公開だ。

俺を回収しても、映像は残る。

手続きも残る。命令も残る」


篠宮が、低く言った。


「なら——入口ごと止める」


その瞬間、入口のゲート表示が一瞬だけ点滅した。

警備の動きが乱れる。

何かの“緊急停止”がかかりかける。


管理局の男が叫ぶ。


「入口停止は権限が要る! 誰が——!」


篠宮が、静かに言った。


「私です。

安全研究部門は、入口の安全係数を管理している」


……つまり、篠宮は“入口”に触れる権限も持ってる。


黒田が叫んだ。


「やめろ! 入口を止めたら事故が出る!

それこそお前が終わる!」


篠宮は淡々と返した。


「事故は統計で処理します」


その言葉が、最悪だった。


俺は息を吸った。

入口そのものを止めようとするなら——逆に、入口そのものを“証拠”にする。


「押して。【反転】。対象は“入口停止命令”」


投票が確定。


《採用コマンド:反転》

《対象:入口停止の権限行使》

《結果:監査違反/危険行為(重大)》


画面に、要点だけ。


入口停止は“二重承認”必須


現在:単独承認


重大事故リスク:高


監査自動通報:発動


同時に、広場の公式スピーカーからアラートが鳴った。


「監査アラート。入口停止操作。承認不備。停止処理は保留」


入口は止まらなかった。

そして、篠宮の“権限乱用”が、入口の公式システム自身に記録された。


監査官が、篠宮を見て言った。


「……あなたは今、監査違反をした」

篠宮の顔から笑みが消える。


「監査官。あなたは本気で——」

「本気だ。

あなたは“安全”を盾に危険を作った」


管理局の男が一歩踏み出す。


「篠宮。監査対象として身柄を確保する。

抵抗すれば、入口停止の未遂も加算される」


黒装備の回収班が動こうとした瞬間、足が止まった。

公式カメラ。監査アラート。公の場。

もう“自然な回収”にはならない。


篠宮は、薄く笑った。


「……なるほど。

あなたは“装置”じゃない。

——厄介な“観測点”だ」


女が冷たく言う。


「観測点でいい。消されないから」


篠宮が踵を返しかけた、その瞬間。


黒田が叫ぶ。


「逃げるな! お前、俺を処理しようとしただろ!」

篠宮は振り向かずに言った。


「あなたは役目を終えたからです」


その言葉で、黒田の顔が真っ青になった。

でも同時に、監査官の顔が固まった。


「……処理?」

篠宮が止まった。

一拍。

そして、初めて小さく舌打ちした。


——言質。


俺はマイクに向かって言った。


「押して。【証拠】」


投票が確定。


《採用コマンド:証拠》

《保存:処理発言/入口停止未遂/決裁経路》

《第三者送信:完了》


宮本さんが短く言った。


「……送信完了。運用外部監査、管理局監査、全部に飛びました」

管理局の男が無線で言う。


「確保する。今だ」


篠宮の肩に手がかかる。

回収班は動けない。

監査官が“止めない”。

入口の公式記録が、篠宮の逃げ道を塞いでいる。


篠宮は抵抗しなかった。

ただ、俺を見て、最後に言った。


「面白いね。

——でも、次は“別の観測点”を作る」


俺は息を吐いて答えた。


「作れない。

作った瞬間、また公開で潰す」


篠宮は笑わなかった。

目だけが、冷たかった。


篠宮が連行されるのを見届けた瞬間、膝が抜けそうになった。

隔離が切れかけて、また体が重くなる。


女が俺の肩を支える。


「終わった」

「……終わった、のか?」

管理局の男が言う。


「終わりじゃない。

だが、今日の勝ちは確定だ。

SRDは表に出た。篠宮は捕まった。入口停止未遂も記録された。

もう“自然に消す”は通らない」


黒田が、保護車両の中で小さく笑った。


「……負けたわ。やっと」


宮本さんが俺の端末を見て、静かに言う。


「配信、まだ続いてます。

止めますか?」


俺は少しだけ迷ってから、首を振った。


「止めない。

最後に言う」


俺はマイクに向かって、短く言った。


「聞いてくれた人。

俺は装置にならない。

誰かの台本にもならない。

——それだけ」


投票が、静かに【盾】に寄った。

守りの意思。

それが、いちばん嬉しかった。


画面の端に出る。


《支持率:計測=投票(安定)》

《外部干渉:低》

《具現化枠:回復中》


……生きてる。


俺は、やっと息を吐いた。

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