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視聴者の“指示コメ”が全部スキル化するので、ソロでも攻略できる  作者: ゆうと


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19/20

本物の回収

「外部車両、接近! 複数! 無灯火!」


無線の声が部屋の空気を切り裂いた。

監査官の顔が青くなる。

調整官だけが、妙に落ち着いていた。


「来た……!」


管理局の男が机を蹴るように立ち上がる。


「警備、全員配置! 出入口封鎖!」

女が俺の腕を掴む。

「配信者、奥へ。壁沿い」

宮本さんがタブレットを抱えたまま震える。

「配信は……」

「切らない」


俺はマイクに向かって短く言った。


「聞いてる人。今から“本物の回収”が来る。

押すのは【隔離】と【盾】だけ。

——頼む」


投票が揺れ、【隔離】が確定する。


《採用コマンド:隔離》

《具現化枠 消費:1》

《具現化 残り:0/3》


空気が膜になる。

外の足音が少し遠くなる。

光も鈍る。

“見つけるための情報”が削られる。


それでも、ドアが叩かれた。


コン、コン。


礼儀正しい。

さっきまでの現場班と違う。

“本物っぽい”ノックだ。


監査官が小さく言う。


「……誰だ」

外から、落ち着いた声が返る。


「管理局・安全措置執行班。

緊急命令に基づき、対象の一時保全を行います。

開けてください」


執行班。

聞いたことのない呼称。


管理局の男が無線を握り、短く言った。


「本部に照会。安全措置執行班、実在するか」

無線が返す。


「……照会中。該当部署、確認できません」


女が低く言う。


「来た。偽の正規」

調整官が、穏やかに言った。


「偽?

あなた方は、さっき“命令が偽造”だと言いましたね。

なら正しい命令で来ました。

——監査官。あなたの署名で」


監査官が顔色を変える。


「私の署名……?」

調整官は机に書類を滑らせた。

そこには確かに監査官の署名欄がある。

だが、監査官は首を振る。


「私は署名していない!」

調整官が、にこりと笑う。


「あなたは“今”署名します。

社会の安全のために」


……脅し。

でも言い方は優しい。

“正しいことをしろ”という形の脅し。


監査官が机から立ち上がる。


「私は——」

調整官が、低く言った。


「監査官。あなたが拒否するなら、あなたが責任を負う。

事故が起きたら、あなたが叩かれる。

あなたのキャリアが終わる」


監査官の顔が硬直する。

女が吐き捨てる。


「それがSRDのやり方。

“自然に”人を動かす」


ドアの向こうの声が、少しだけ強くなる。


「開けてください。

開けない場合、緊急措置として強制開扉します」


管理局の男が、俺に目を向ける。


「配信者。

ここで“正規性”を潰せ。公開で」

俺は頷いた。


さっき生えた新コマンド。

【反転】が、まだある。


俺はマイクに向かって言った。


「聞いてる人。

“正規の回収”を名乗ってる。

——押すのは【反転】」


投票が一気に【反転】に集まる。確定。


《採用コマンド:反転》

《対象:執行班の名乗り》

《照合:管理局組織図/監査権限》

《結果:不存在》


画面上に要点だけ出る。


「安全措置執行班」:組織図に存在しない


緊急命令:決裁ルート不一致


署名:監査官本人の認証不一致


監査官が息を呑む。


「……私の認証が、違う」

宮本さんが言った。


「運用側のログにも、同じ不整合。

この手続きは“正規のフリ”です」


調整官の目が、冷たくなる。


「あなたの能力は、やはり危険ですね。

書類の照合まで“歪める”」


俺は即答した。


「歪めてない。

嘘がバレる形に反転してるだけ」


女が管理局の男を見る。


「これで、扉を開けても“正当防衛”の根拠ができる」

管理局の男が頷いた。


「開けない。

そしてこの執行班を“偽装侵入”で確保する」


ドアが、ガン、と鳴った。

工具でこじ開け始めた。


管理局の男が無線に叫ぶ。


「入口、強制開扉。侵入だ。確保許可!」

女が短く言う。


「盾」

投票がすでに【盾】に寄っている。確定。


《採用コマンド:盾》

《具現化枠 回復:1》

《具現化 残り:0/3》


透明な盾が広がり、俺の前に壁を作る。


——バキッ。


鍵が折れる音。

ドアが開いた。


入ってきたのは、黒装備の男たち。

ただし、さっきの現場班より統制が取れている。

足並み、視線、手の位置。訓練済み。


先頭の男が言った。


「対象を引き渡せ」

管理局の男が返す。


「命令は偽造だ。

不法侵入で確保する。武器を捨てろ」


男は一瞬も迷わず、手を動かした。

非殺傷の発射音。


――パスッ、パスッ。


盾に当たって弾ける。

衝撃が腕に響く。


女が横から飛び込み、男の肘を叩き落とす。

管理局側も押し返す。

部屋が一気に戦場になる。


調整官は一歩も動かず、監査官の横で、淡々と見ていた。


「ほら。

あなた方が抵抗すればするほど、“危険”だと証明される」

監査官が震える声で言った。


「これは……あなたが呼んだのか」

調整官は微笑む。


「私は“安全”を求めただけです」


その言葉が、吐き気がするほど綺麗だった。


俺は歯を食いしばった。

このまま殴り合いになれば、相手の思う壺だ。

暴力の映像が拡散されて、俺たちが悪者になる。


だから——“正規性”をもう一段潰す必要がある。

相手の名札を剥がす。


俺はマイクに向かって短く言った。


「聞いてる人。次は【証拠】。

侵入してきた連中の“所属”を映す」


投票が【証拠】で確定する。


《採用コマンド:証拠》

《出力:識別子の抽出》

《表示:装備タグ/通信コード》


視聴者には分かる形で、要点だけが表示された。


装備タグ:民間警備規格(管理局規格ではない)


通信コード:D-ストリーム現場班と同一系統


指示系統:SRD経由


女が男の腕から、袖の内側のタグを引き裂いて見せた。

管理局の男が無線で叫ぶ。


「タグ確認。民間。

管理局執行班ではない! 侵入者だ!」


一瞬だけ、侵入者側の動きが止まった。

“バレた”という空白。


その瞬間を逃さず、管理局の男が前へ出る。


「武器を捨てろ! いまなら軽く済む!」

侵入者の先頭が歯を食いしばる。


「……撤収!」


一斉に後退。

煙の残る廊下へ逃げる。


女が叫ぶ。


「追うな! 罠だ!」

管理局の男が頷く。


「追わない。

——十分だ。証拠は取った」


部屋が静かになる。

荒い息だけが残る。


監査官が調整官を睨む。


「あなたは何をした。

私の署名を偽造し、偽の執行班を動かし、暴力を誘発した」

調整官は静かに言った。


「あなたは誤解しています。

私は事故を防ぎたいだけです」


管理局の男が冷たく言う。


「事故を作ってるのはお前だ」


調整官は初めて、少しだけ笑みを消した。


「……では、次は“もっと自然な方法”にします」

そして、俺を見る。


「あなたの配信は、今夜中に終わります。

運営の手続きで、世論で、そして——あなた自身の限界で」


その言葉が終わる前に、女が言った。


「名乗れ」

調整官は一拍だけ黙ってから、名札を指で弾いた。


「名乗る必要はありません。

どうせ、明日には忘れる」


俺はマイクに向けて言った。


「聞いてる人。最後に一回だけ。

——押すのは【反転】。相手の“名前”を出す」


投票が一気に集まる。確定。


《採用コマンド:反転》

《対象:名札/監査同行記録》

《照合:内部文書》

《結果:実名一致》


画面に、要点だけが表示された。


安全研究部門 特別調整官:篠宮しのみや 恒一こういち


同行決裁:SRD内部コード一致


過去案件:非公開(要監査)


監査官が息を呑む。


「……篠宮……」

調整官——篠宮は、初めて表情を変えた。

ほんの少しだけ、苛立ち。


「……その機能、想定外だ」


女が冷たく言う。


「想定外を作るのが、こっちの仕事」

管理局の男が言った。


「篠宮。

お前は監査対象だ。

逃げられない」


篠宮は、静かに笑った。


「逃げませんよ。

——次は、あなた方が逃げられなくなる」


彼は監査官にだけ聞こえる声で言った。


「監査官。

あなたの署名、もう一枚あります。

あなたが今夜どんな判断をしても、“自然に”終わります」


監査官の顔が凍りつく。


篠宮は背を向け、出口へ向かった。


管理局の男が叫ぶ。


「確保しろ!」

だが、女が腕を伸ばして止めた。


「今はだめ。

ここで拘束したら、相手の“安全”の台本に乗る。

逃げた方が、追える」


管理局の男が歯を食いしばる。


「……くそ」

俺は息を吸って、言った。


「次で終わらせる。

篠宮の“自然な殺し方”を、公開で潰す」


保護枠Bの投票が、静かに【切替】へ寄った。

視聴者も同じ判断だ。

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