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視聴者の“指示コメ”が全部スキル化するので、ソロでも攻略できる  作者: ゆうと


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18/21

任意

「端末を提出してください。——任意で」


調整官の声は柔らかい。

でも、言葉の芯は硬かった。

拒否した瞬間に“正規手続き”が牙をむく、そういう硬さ。


監査官は無表情で、書類の束を机に置いた。


「管理局本部監査室です。

本件は“安全上の緊急措置”として扱います。

配信の停止、端末の提出、関係者の聴取。

協力いただけない場合、正式な命令に移行します」


宮本さんが息を呑む。

女が一歩前に出かけたが、管理局の男が手で制した。


「……落ち着け」


管理局の男は、監査官をまっすぐ見る。


「監査室が来るのは理解する。だが研究部門が同行?

しかも“特別調整官”とは聞いていない」

監査官は淡々と答える。


「研究部門は専門性を担保するためです。

特別調整官の同行は、上の決裁です」


調整官は微笑んだまま、俺を見る。


「あなたの能力は未知です。危険です。

管理局として、まず隔離し、解析し、再発防止を——」

女が吐き捨てる。


「隔離? 解析?

それ、回収の言い換えでしょ」


調整官は肩をすくめる。


「言葉はどうでもいいんです。

結果が大事です。

あなたが事故を起こせば、社会が壊れます」


その言い回し。

俺の胸の奥が冷える。


“社会が壊れる”

それは黒田も使った言葉だ。

同じ台本。


俺はスマホを握り、保護枠——公開捜査枠の画面を見た。

投票ボタンは七つのまま。


【煙】

【盾】

【隔離】

【切替】

【証拠】

【沈黙】

【通報】


視聴者はすでに押している。

【証拠】と【沈黙】が強い。

守りながら、刺せ。そういう意思だ。


管理局の男が、静かに言った。


「提出の根拠は」

監査官が書類を指で叩く。


「緊急措置規程。

“安全上のリスクが高い対象物の一時保全”」

管理局の男が続ける。

「対象物が“端末”だと言ったな」

「はい」

「端末は道具だ。リスクの本体は何だ」

監査官が言う。

「配信者本人です」

「なら、端末提出は本質ではない」


監査官が眉を動かす。

調整官は笑った。


「だから本人も提出していただきます。任意で」


任意。

その言葉が、鎖みたいに重い。


俺はここで、間違えると死ぬ。

拒否したら強制手続きへ。

応じたら回収されて終わる。


でも——俺には“公開”がある。


俺はマイクに向かって短く言った。


「聞いてる人。今から、言葉で戦う。

押すのは【沈黙】と【証拠】だけでいい」


投票が揺れ、【沈黙】が確定した。


《採用コマンド:沈黙》

《表示:最小》

《感情誘導ワード:遮断》


画面がシンプルになる。

俺の頭も、少しだけ冷える。


俺は調整官を見た。


「任意なら、条件を出す」

調整官が目を細める。

「条件?」

「公開捜査枠の前で、全部言葉を残す。

それでいいなら“任意”で協力する」


監査官が即座に言う。


「配信は停止してください」

俺は首を振った。


「停止した瞬間に“自然に消える”。

黒田の件で分かった。

俺は配信を切ると命が危ない。

だから、切らない」


調整官は穏やかに言った。


「それはあなたの主観です。医学的根拠は?」

俺は答える。


「主観でも十分だ。

“安全”を言うなら、俺の安全も守れ」


女が小さく頷いた。

宮本さんが喉を鳴らす。

管理局の男は、監査官に向かって言った。


「配信を止める根拠はあるか」

監査官は言葉に詰まる。

「……混乱を招く」

「混乱を招くのは、手続きが不透明だからだ」


調整官が口を開く。


「あなたは危険です。

“支持率”で能力が変動するなら、なおさら」

——出た。


支持率。

こいつは知ってる。確定だ。


俺の背筋が凍り、同時に確信になった。


倉庫街の煙の中で笑った声。

“面白いね”と言った声。

目の前の調整官だ。


俺は一歩だけ前に出て言った。


「今、“支持率”って言ったな」

調整官は微笑む。


「ええ。あなたは公開でその概念を使っていますから」

俺は首を振る。


「俺が“支持率”を公開で理解したのは最近だ。

初期の段階で、支持率を使った過負荷テストがあった。

79%から32%に落ちたあれ。

……あれを知ってるのは、黒田か、黒幕だけだ」


監査官が眉をひそめる。

調整官の笑顔が、ほんの少しだけ薄くなる。


俺は続けた。


「あなた、倉庫街で言ったよな。

『やっぱ配信、面白いね』って」


女の目が鋭くなる。

宮本さんが息を呑む。

管理局の男は何も言わない。沈黙で圧をかける。


調整官は、ゆっくりと瞬きをしてから言った。


「……証拠は?」

俺は即答した。


「ある」

俺は投票を見た。視聴者が【証拠】を押している。

確定。


《採用コマンド:証拠》

《提示:音声/端末履歴(要点)》

《保存:第三者バックアップ》


女が押収端末から、倉庫街の“音声メッセージ”を短く再生した。

25秒も要らない。

一番刺さる部分だけ。


「やっぱ配信、面白いね。

——壊れる寸前が一番きれいだ」


調整官の顔色が、初めて変わった。


監査官が小さく声を漏らす。


「……あなたの声に、似ている」

調整官はすぐに取り繕う。


「似ている声は世の中にいくらでもあります」

女が冷たく返す。


「なら否定しなよ。

“倉庫街にいた”って。

“関与してない”って」


調整官は言葉を避けるように、監査官を見る。


「監査官。手続きを進めましょう。

ここで言い争っても——」

管理局の男が遮った。


「今のは言い争いじゃない。

“任意提出”の前提が崩れている」


監査官が咳払いし、書類をめくる。


「……では、正式命令へ移行を検討——」

調整官がすぐ言う。


「検討ではなく、移行しましょう。

危険です」


早い。

強制に持ち込む気だ。


俺は息を吸った。

ここで逃げると、正規手続きで潰される。

でも逆に、相手が“強制”に踏み込む瞬間は、証拠が残る。


俺はマイクに向かって言った。


「聞いてる人。ここから先は、相手が“手続き”で俺を回収しようとする。

押すのは【通報】。今だけ」


投票が一気に【通報】に寄る。確定。


《採用コマンド:通報》

《アラート:運用/管理局監査室(外部)/記録》

《公開:手続きログ》


宮本さんが即座に言う。


「運営の上層にもアラート飛ばしました。

“正規手続きの濫用”として監査ラインに乗ります」


監査官の顔が強張る。

調整官の目が鋭くなる。


「……あなた、ここでそうやって世論を煽る気ですか?」

俺は首を振った。


「煽ってない。記録してるだけ」

「記録は、あなたの都合の良い編集になり得る」

「だから、運営のバックアップも、監査室のログも、第三者保存も入れた」


調整官が、初めて苛立ちを隠さず言った。


「……あなたは、自分が何をしているか分かっていない」

俺は淡々と返した。


「分かってる。

あなたは“安全”って言葉で俺を回収する。

黒田はそれを台本って言った。

俺は装置にならない」


調整官が、一歩だけ前に出た。


「装置?

あなたは社会のリスクです。

リスクは管理されるべきです」


その瞬間、管理局の男が低い声で言った。


「今の発言は記録した。

“リスクだから管理する”——それは保護じゃない。管理だ」

女が続ける。


「任意じゃなく、最初から回収目的」

宮本さんが言う。


「運営としても危険です。

正規手続きの濫用は、プラットフォームの信用を壊す」


監査官が咳払いし、調整官を制するように言った。


「……調整官。言葉を選んでください」

調整官は、薄く笑った。


「失礼。

では、正式命令を出します。

あなたは端末を提出し、配信を停止し、——」


その瞬間。


俺の画面の端に、見たことのない表示が出た。


《具現化:新規コマンド候補》

《名称:反転》

《条件:公開圧力/強制命令》


……反転。


視聴者の投票が、勝手に揺れ始める。

新しいボタンが、うっすら浮かび上がる。


【反転】


俺は息を呑んだ。

これは、今の状況そのものが生んだ武器だ。

強制で押し切ろうとする相手に対して、何かを“反転”させる。


俺はマイクに向かって、短く言った。


「……押して。新しいやつ。

【反転】」


投票が一気に集まる。確定。


《採用コマンド:反転》

《対象:命令文》

《出力:公開照合》

《結果:不整合 検知》


監査官の書類の一部が、画面上に要点だけ表示された。

そこに、見えるはずのない“照合結果”が出る。


発令権限:未承認


決裁番号:不一致


緊急措置:要件不足


監査官の顔が真っ青になる。


「……そんなはずは——」

調整官の笑顔が消えた。


「誰が……照合を……」


宮本さんが、低い声で言った。


「運用側のログと照合しました。

その決裁番号、存在しません」


管理局の男が言う。


「つまり偽造だ。

正規手続きに見せかけた“偽の命令”」


調整官の目が、獣みたいに細くなる。


「……やっぱり、面白い」


その一言で確定した。

こいつが声の主だ。


女が即座に言う。


「今言った。記録した。

“面白い”って。

倉庫街と同じだ」


監査官が机を叩く。


「調整官。説明してください」

調整官は静かに言った。


「説明しますよ。

——でもその前に、配信を止めてください」


俺は首を振った。


「止めない。

止めたら消される」


調整官が小さく息を吐き、優しい声に戻した。


「では、次は“本当に”回収に行きます」

その瞬間、拠点の外で無線が鳴り響いた。


「外部車両、接近! 複数! 無灯火!」

管理局の男が立ち上がる。


「来た……!」

女が俺を見る。


「逃げる?」

俺は盾を構え、言った。


「逃げない。

——公開で、捕まえる」

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