公開捜査
黒田は保護車両に乗せられ、センター前は一気に“現場”になった。
警備員に見せかけた口封じ役も、現場班も、管理局の手で拘束されていく。
でも、空気は軽くならなかった。
むしろ重い。
——黒幕が“管理局の外郭”だと分かったからだ。
管理局の男(本隊の指揮)が、無線を切って言った。
「ここから先は、俺の一存じゃ動けない」
女が言う。
「内部が絡むなら、指揮系統を使った瞬間に情報が漏れる」
宮本さん(LIV運用)が苦い顔で頷く。
「つまり、今まで以上に“消されやすい”」
黒田が車内から叫ぶ。
「だから言っただろ! あいつらは静かに消す!
事故、通報、世論、法務……全部“自然に見える”形で殺す!」
管理局の男が吐き捨てる。
「……なら逆に、自然じゃない形で動く」
「どうやって」
女が聞くと、男は俺を見た。
「公開だ。
“内部捜査”じゃなく、公開捜査にする。
世論を味方にするんじゃない。
“記録”を味方にする」
俺は新しい端末を握りしめた。
保護枠Bはまだ生きている。
投票だけの、静かな観客がいる。
【証拠】が伸びている。
視聴者は、次の一手を知ってる。
俺はマイクに向かって短く言った。
「聞いてる人。今から“公開捜査”をやる。
敵は静かに消す。
だからこっちは静かにさせない。
——押すなら【証拠】」
投票が確定する。
《採用コマンド:証拠》
《保存:現場/端末/音声》
《同期:外部バックアップ》
宮本さんが小さく息を呑む。
「……同期、入れました。
これで“消しても残る”」
管理局の男が頷く。
「その通りだ」
臨時拠点に戻る車内。
窓の外を流れる街灯が、やけに冷たく見えた。
管理局の男が言った。
「SRD(安全研究部門)。正式名称は知らない。
外郭扱いで、表に出ない組織だ。
だが管理局の資金が流れている」
女が言う。
「資金の流れは追える?」
「追える。だが追う前に“止められる”」
黒田が苦い声で言う。
「正解。あいつらは“監査”の一歩手前で、全部燃やす。
紙も、人も、責任も」
宮本さんが震える声で言った。
「じゃあ、どうやって掴むんですか……」
管理局の男が短く答える。
「燃やせないものを掴む」
「何を?」
「命令系統だ。誰が“今”動いてるか。
SRDが動くとき、必ず“現場”に指示が出る。
——その指示を、公開で捕まえる」
女が言う。
「つまり、SRDに“次の手”を打たせる」
「そうだ」
嫌なやり方だ。
でも、黒田の話を聞く限り、相手はそう簡単に尻尾を出さない。
俺は聞いた。
「次の手って、何が来る」
黒田が即答した。
「お前の“信用”を潰す。
運営を潰す。管理局を潰す。
——それがダメなら、お前を“回収”する」
回収。
装置にするために。
女が俺を見る。
「回収させない」
管理局の男が頷いた。
「回収に来るなら、逆に捕まえる」
拠点に入ると、空気が明らかに変わっていた。
さっきまでいた人員の一部が、もういない。
警備の配置が変わっている。
管理局の男が眉をひそめる。
「……動いたな」
宮本さんがタブレットを見て顔色を変えた。
「LIV側にも動きがあります。
“安全上の理由”で、配信枠の凍結を求める正式文書が来た」
「誰から」
「管理局経由の……“研究部門”から」
女が吐き捨てる。
「来た。SRDだ」
管理局の男が低く言う。
「速い。黒田、やっぱり正しい」
黒田が笑った。乾いた笑いだ。
「言ったろ。あいつらは速い。
だから勝つなら“速さ”じゃない。
“見える化”だ」
俺の端末が震えた。
画面の端に、新しい通知。
《LIV運用:緊急》
《あなたの配信は安全審査の対象です》
《停止要請(管理局研究部門より)》
宮本さんが歯を食いしばる。
「……公式ルートで来た。
偽公式じゃない。
“本物の手続き”で止めに来た」
管理局の男が言った。
「つまりSRDは、運営の正規手続きを使って殺しに来る」
女が言う。
「静かに消す、ってこういうこと」
俺は深く息を吸った。
ここまで来たら、逃げ道はない。
でも、手はある。
“公開検証枠”を使う。
公式の土俵で、公式の手続きを逆に“晒す”。
俺はマイクに向かって言った。
「宮本さん。
今から“公開捜査枠”に切り替えて。
相手の停止要請を、形式だけじゃなく“理由ごと”出す」
宮本さんが迷いなく頷いた。
「やります。
ただし、危険です。運営が敵に見える」
「敵じゃない。
運営が“手続き”で殺されるなら、手続きごと守る」
投票が揺れ、【切替】が伸びた。
視聴者は分かってる。
俺が言う。
「採用、切替」
《採用コマンド:切替》
《配信:公開捜査枠へ移行》
《表示:手続きログ(要点のみ)》
《遅延:05:00》
画面に、短い要点だけが表示された。
送信元:管理局研究部門(SRD)
申立て内容:危険行為の助長、社会不安の誘発
要請:配信停止・端末提出
女が冷たく言った。
「端末提出。回収の第一段階」
黒田が頷く。
「そう。
“安全のため”って言えば、世の中は頷く」
管理局の男が俺に言った。
「ここからが勝負だ。
SRDが“正規手続き”で来たなら、こっちも正規で返す。
——公開でな」
そのとき、拠点のドアがノックされた。
一回。丁寧。礼儀正しい。
警備が覗き、青い顔で戻ってくる。
「……管理局本部からです。
監査官が来ました。研究部門の同行あり」
監査官。
研究部門。
SRDが、正面から来た。
黒田が小さく笑う。
「来たね。
——面白くなってきた」
女が俺を見る。
「配信、続ける?」
俺は即答した。
「続ける。
ここで切ったら“自然に消える”。
だから切らない。
——公開だ」
管理局の男が頷いた。
「よし。
会わせる。
その代わり、言葉を間違えるな。
相手は“手続き”で殺す。
こっちは“記録”で刺す」
ドアが開く。
入ってきたのは、黒いスーツの監査官。
その後ろに、白衣じゃない。スーツ姿の若い男が一人。
名札にはこう書いてあった。
「安全研究部門/特別調整官」
調整官が、俺の端末を見て微笑んだ。
「……配信、続けているんですね」
声が、妙に聞き覚えがある。
あの軽い笑い。
倉庫街の煙の中で聞こえた声。
背筋が凍った。
調整官が、穏やかに言った。
「初めまして。
あなたの“安全”のために来ました。
端末を提出してください。——任意で」




