表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
視聴者の“指示コメ”が全部スキル化するので、ソロでも攻略できる  作者: ゆうと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/18

黒幕

「——採用、煙!」


投票が確定した瞬間、白い煙がセンター前の空間を一気に覆った。

ガラス張りの建物のライトが霧に拡散して、距離感が消える。


黒い影が二つ、煙の向こうで動いた。

足音が速い。迷いがない。現場慣れしてる。


女が叫ぶ。


「近い! 盾!」

保護枠Bの投票が【盾】に跳ねる。確定。


《採用コマンド:盾》

《具現化枠 回復:1》

《具現化 残り:0/3》


透明な盾が腕に張り付き、胸まで覆うように広がった。

その瞬間――パスッ、と乾いた音。


何かが盾に当たり、コンッと弾けた。


「タグじゃない……」

女が息を呑む。


管理局の男が低く言う。


「ゴム弾。制圧用だ。だが距離が近いと骨が折れる」


影が煙の中から突っ込んできた。

黒装備の現場班。顔はマスクで隠れている。


「配信者、引け!」


管理局の男が俺の肩を掴んで引きずるように後退させる。

俺は盾を前に出したまま、体勢を崩さないように踏ん張った。


二発、三発。

盾が受ける。衝撃が腕に響く。


女が現場班の腕を取り、関節を極める。


「動くな!」

相手が呻きながらも、もう片方の手で何かを投げようとする。


小さな筒。

音もなく転がった。


管理局の男の顔色が変わる。


「閃光弾だ! 目を閉じろ!」


——パァン!


世界が白くなる。

鼓膜が揺れて、一瞬だけ音が消える。


俺は反射で盾を顔の前に上げ、しゃがみ込んだ。

視界が戻りかけた瞬間、煙の向こうに“別の影”が見えた。


現場班じゃない。

スーツでもない。


——警備員の制服。


センターの警備員が、こっちに走ってくる。

でも、その動きが不自然だった。


女が叫ぶ。


「違う! あれ警備員じゃない!」


男は手を伸ばし、黒田の方へ向かう。

狙いは黒田の救出?


いや――違う。

黒田の首元に何かを当てようとしている。


管理局の男が怒鳴る。


「止まれ!」


男は止まらない。

そして、黒田が初めて声を荒げた。


「やめろ! それは——!」


その瞬間、男が黒田の首元に押し当てたのは——

注射器みたいな小さな器具だった。


女が飛び込む。

腕を叩き落とす。


注射器が転がり、割れる。


透明な液体。

鼻を刺す薬品臭。


黒田が息を切らしながら叫んだ。


「……殺す気かよ! 俺を“処理”する気かよ!」


管理局の男が警備員を押さえつけ、顔を覗き込む。


「お前、誰だ」

男は歯を食いしばって無言。

でも、首筋に小さなピンバッジが見えた。


——D-ストリームのロゴじゃない。

別の、見覚えのないシンボル。


宮本さんが、青い顔で言った。


「……これ、配信業界じゃない。

“外部の”……」


女が言った。


「黒田は現場統括。切り捨てられる側。

だから“口封じ”が来た」


黒田は地面に座り込み、笑うように息を吐いた。


「……はは。そういうことか。

俺、便利な道具だったわけだ」


管理局の男が黒田の襟元を掴む。


「黒幕は誰だ。今言え。次は本当に消される」

黒田の笑いが消えた。


「……言う。言うから守れ。

俺を守れ。でなきゃ無理だ」


女が即答する。


「守る。今ここで言え」

黒田は唾を飲み込み、震える息で言った。


「D-ストリームは表の顔。

俺らの上に、“設計者”がいる」


「設計者?」


黒田は俺を見た。

その目から、今までの“面白がり”が消えている。


「お前の能力。コメント具現化。

あれは偶然じゃない。

……最初から“誘導”されてる」


背中が冷たくなる。


「誘導?」

「お前が最初に潜ったダンジョン。

あの入口、偶然じゃない。

“バズるように”仕組まれてた。

視聴者が集まる場所、時間、状況。

全部、設計されてた」


管理局の男が低い声で言う。


「誰が設計した」

黒田は歯を食いしばり、言った。


「……管理局の外郭。

“安全研究部門”って名乗ってる連中だ。

表向きは事故防止の研究。

でも実際は、異常現象を“商品化”するための研究」


宮本さんが息を呑む。


「管理局……?」

管理局の男が鋭く言う。


「証拠は」

黒田が震えながら答える。


「俺の端末に、連絡先がある。

『S.R.D.』って略称で登録されてる。

……そいつらが、偽公式のテンプレも、通報誘導の文面も、全部“台本”を作った」


女が吐き捨てる。


「じゃあ、内通者は“会社”じゃなく“組織”か」

黒田が頷く。


「俺らは実働。

あいつらは設計。

そして、あいつらの狙いは——」


黒田が俺を見て、言った。


「お前を“装置”にすること。

支持率を上げ下げして、出力を制御して、

危険な場面でだけ能力を引き出す。

……最終的に、ダンジョンを“管理”できる兵器にする」


俺の左腕が、じわっと熱くなる。

痛みじゃない。

怒りだ。


「……ふざけんな」


黒田が続ける。


「D-ストリームはただの“現場カバー”。

スポンサーも、世論も、運営も、全部そのための道具。

俺はそれを“面白い”って思ってた。

……でも今、俺も処理されかけた」


管理局の男が無線を取り、短く言った。


「本隊。今すぐ“SRD”を洗え。

安全研究部門、外郭。関係者リスト。アクセスログ。

——内部捜査を開始する」


女が俺を見て言った。


「これで、ようやく“本当の敵”が見えた」

宮本さんが震える声で言う。


「でも……管理局が相手なら、僕らは……」

管理局の男が冷たく言った。


「だからこそ、公開だ。

隠せば消される。見せれば動く」


俺はスマホを握り直した。

保護枠Bの投票は、静かに【証拠】へ寄っていた。

視聴者は分かってる。


今必要なのは、煙でも盾でもない。

“証拠”だ。


俺はマイクに向かって言った。


「聞いてる人。今、黒田が言った。

黒幕はD-ストリームじゃない。

もっと上だ。

——俺は装置にならない」


投票が確定する。


《採用コマンド:証拠》

《表示:黒田の自白(要約)》

《保存:音声/ログ》


宮本さんが画面に短く表示する。

長くは出さない。

だが、逃げられない部分だけは残す。


管理局の男が黒田に言った。


「黒田。お前は保護する。

代わりに、端末の中身を全部出せ」

黒田は力なく頷いた。


「……出す。

俺だって生きたいからな」


女が周囲を見回し、息を吐いた。


「現場班は確保。口封じ役も確保。

——でも終わってない。

本当の敵は、もっと静かにやる」


管理局の男が俺を見る。


「配信者。次の戦場はダンジョンじゃない。

“組織”だ。

そして、お前の命綱は——視聴者じゃなく“証拠”になる」


俺は頷いた。


「証拠で勝つ。

そして、二度と俺を玩具にさせない」


黒田が小さく笑った。

今度は、苦い笑い。


「……やっと“面白い”って思える戦いだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ