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視聴者の“指示コメ”が全部スキル化するので、ソロでも攻略できる  作者: ゆうと


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15/20

切替

公式検証枠の画面に、淡々と表示が並ぶ。


《外部操作:拒否(3件)》

《偽公式:検知(2件)》

《通報爆撃:無効》

《証拠保存:継続》


——効いてない。

黒田のいつもの手は、ここでは通らない。


それが分かった瞬間、逆に嫌な予感がした。

“効かない”と分かった敵は、必ず別の武器を持ってくる。


管理局の男が、机の上に押収品の袋を並べながら言った。


「黒田の現場班は掴んだ。音声も、端末もある。

このまま捜査に回せば勝てる」


女が首を振る。


「黒田は逃げる。

いや——逃げる前に“潰しに来る”。自分が捕まる前にね」


宮本さんがタブレットを見ながら、顔を青くした。


「……来ました」


俺が喉を鳴らす。


「何が」

「SNSのトレンド。あなたの配信に関する“まとめ”が一斉に上がってる。

内容が……最悪です。犯罪者扱い。やらせ。危険行為の扇動。管理局と癒着……」


管理局の男が苛立ったように舌打ちする。


「世論攻撃か」

女が低く言う。

「支持率じゃない。外の世界の“信用”を落とす攻撃」


俺は息を吸った。

あの痛みとは違う。刺さらない。

でも、じわじわと首を絞めるやつだ。


画面の投票が揺れる。


【沈黙】が伸びる。

視聴者は、空気の変化を感じている。


俺はマイクに向かって短く言った。


「聞いてる人。今、外で工作が来てる。

でもここは公開検証。

嘘はつかない。証拠だけ出す。——焦らない」


投票が確定する。


《採用コマンド:沈黙》

《表示:最小化》

《外部情報:遮断》


画面から余計な通知が消える。

俺の頭の中のノイズも、少し薄くなる。


宮本さんが続ける。


「……もう一つ。これは本当に危険です。

“緊急通報”が入ってます。この拠点に対して」


「緊急通報?」

管理局の男が立ち上がる。

「内容は」


宮本さんの声が震える。


「爆発物がある、って。

……完全に嘘です。でも、対応しないといけない。拠点の機能が止まる」


女が吐き捨てる。


「目的は“捜査を止める”こと」

管理局の男が低く言った。

「黒田……」


俺は奥歯を噛んだ。

支持率工作が効かないなら、現実を止める。

配信を止める。捜査を止める。——それでも俺を装置にしたい。


画面の投票が【切替】に寄り始める。

視聴者は分かってる。ここに留まるのが危険だ。


女が俺を見る。


「切替、使える?」

「使う」


俺はマイクに向かって言った。


「今から“場”を切り替える。

この枠は囮になる。

次の枠の合言葉は——現場で出す。今は言わない」


投票が確定する。


《採用コマンド:切替》

《配信経路:分岐》

《公開枠:維持》

《検証枠:移行》


一瞬、世界がズレた感覚。

同じ配信なのに、こちら側だけが“別室”へ移る。


画面はシンプルになる。


《LIV運用:保護枠B》

《閲覧:合言葉必須》

《遅延:05:00(固定)》

《投票:継続》


コメント欄はない。

投票だけ。視聴者は少数。

でも——“濃い”。


女が短く言う。


「これで“外”の騒ぎに巻き込まれにくい」

管理局の男が言った。

「囮の枠は?」

宮本さんが答える。

「残ります。偽公式も通報爆撃も、そっちに集中する。ログが取れます」


——敵は、囮を叩く。

叩けば叩くほど証拠が増える。


合理的だ。

だけど、黒田は合理だけで動くタイプじゃない。


あいつは、“面白がる”。


そのとき、拠点の外でサイレンが鳴った。

人の声。警備の指示。足音が増える。


管理局の男が無線に言う。


「……分かった。現場対応は任せる。

俺たちは“黒田のライン”を詰める」


女が押収端末の履歴を見ながら言った。


「黒田の指示、固定の中継点を経由してる。

さっきの通知にも同じ癖がある。——場所は近い」


管理局の男が眉を上げる。

「どこだ」


女が短く言った。


「D-ストリームの“安全管理センター”。表の顔。

倉庫街から車で二十分。ここからも近い」


宮本さんが息を呑む。


「……そこ、スポンサーも出入りします」

「だからいい」

女の目が冷える。

「逃げにくい。見られる。証拠が残る」


俺は喉が乾いた。

公開裁判。逃げ場のない場所。

まさにそれだ。


画面の投票が【盾】に寄る。

視聴者は“行く”前提になっている。


管理局の男が俺を見る。


「配信者。行けるか」

俺は頷いた。


「行く。

——黒田を、“公開の場”で詰ませる」


車に乗り込む。

拠点は騒がしいが、こちらは静かだ。

保護枠Bの視聴者は少なく、投票は鋭い。


俺はマイクに向かって言った。


「聞いてる人。今から、敵の“表の拠点”に行く。

危険だから、押すのは【盾】か【隔離】だけでいい」


投票が揺れ、【隔離】が確定する。


《採用コマンド:隔離》

《具現化枠 消費:1》

《具現化 残り:0/3》


車内の音が少し遠くなる。

外の光も、薄い膜を通したみたいに鈍る。


女が窓の外を見て言った。


「尾行、いる」

管理局の男が即答する。

「撒くな。撒いたら事故になる。——逆に連れて行く」


「……連れて行く?」

「黒田に“現場が動いた”と見せる。

黒田は面白がって出てくる。出てきたら終わりだ」


俺は息を吸った。

たしかに、黒田はそういう奴だ。


D-ストリームの“安全管理センター”は、綺麗すぎた。

ガラス張り。警備員。ロゴ。

“安全”を看板にした建物が、いま一番危険に見える。


車が少し離れた場所で止まる。

管理局の男が言う。


「ここからは一分勝負だ。

証拠はすでに揃ってる。あとは“黒田本人”を引っ張り出す」


女が押収端末で、短いメッセージを打った。


「現場失敗。証拠押収。次の指示を」


送信。


——既読。

返信は早かった。


「場所どこ。配信者は?」


女が答える。


「安全管理センター付近。配信者は生きてる」


既読。

数秒後、返事。


「笑 最高 今行く」


俺の背筋がゾワっとした。

本当に来る。

こいつ、楽しんでる。


管理局の男が低く言った。


「……来るぞ」


建物の出入口が開いて、男が出てきた。

スーツ。軽い足取り。スマホ片手。

笑ってる。


——黒田。


俺は思わず呟いた。


「……いた」


その瞬間、保護枠Bの投票が跳ねる。

【盾】が確定する。


《採用コマンド:盾》

《具現化枠 回復:1》

《具現化 残り:0/3》


透明な盾が、腕に張り付く。

心臓の鼓動が少し落ち着く。


黒田がこちらを見た。

目が合った気がした。

そして、スマホに向かって手を振った。


……配信を見てる。

いや、“俺を見てる”。


黒田の口が動いた。声は届かないのに、読めた。


「——見つけた」


女が言った。


「今」

管理局の男が無線で短く言う。


「本隊、確保」


黒田が一歩、こちらへ。

その瞬間、周囲の車から管理局の人間が出た。

囲む。逃げ道を塞ぐ。


黒田の笑顔が、ほんの少しだけ歪む。


でも、笑いは消えない。


黒田は軽く手を上げた。


「え? 何これ。

管理局が“安全管理センター”で暴れるの?

配信、面白いねぇ」


管理局の男が冷たく言った。


「黒田。D-ストリーム現場統括。

偽公式、通報爆撃、追跡タグ、狙撃、脅迫。

——逮捕だ」


黒田が肩をすくめる。


「証拠? どこに」

女が言う。

「全部ある。端末。音声。現場。あなたのメッセージ」

「ふーん」


黒田は、俺を見た。

笑って言う。


「でもさ。君、配信切ったら死ぬんでしょ?

ここで配信切らせたら、勝ちじゃん」


その瞬間、俺の新端末が震えた。

画面の隅に出る。


《外部干渉:検知》

《干渉:音声》

《出力:—》


……黒田は鍵を捨てた。

でも、別の“鍵”を持ってる。


女が叫ぶ。


「気をつけて! こいつ——」


黒田が笑った。


「——“支持率”じゃなくても、壊せるんだよ」


周囲のスピーカーから、急に音が鳴った。

センターの外壁に設置された大型モニターが点灯する。


そこに映ったのは——俺の顔。


さっきまでの配信の切り抜き。

悪意の字幕。煽るテロップ。

「危険行為」「犯罪」「やらせ」

一斉に流れる。


人が立ち止まる。

スマホを向ける。

ざわめきが広がる。


……世論。

リアルの“支持率”を落とすつもりだ。


俺の腕が一瞬だけ重くなる。

痛みじゃない。視線の重さ。


保護枠Bの投票が、狂ったみたいに【沈黙】へ寄る。

視聴者が、守ろうとしてる。


俺は息を吸って言った。


「採用——沈黙」


《採用コマンド:沈黙》

《出力:最小》

《表示:遮断》


俺の配信画面から、外の煽り映像は見えなくなる。

でも現実は、消えない。


黒田が笑って言う。


「ほら、世界が君を嫌い始めた。

君がどれだけ証拠を出しても、見たいものしか見ない人はいる」


管理局の男が前に出る。


「黙れ」

女が言う。

「ここでやる気? 公開で?」

黒田が頷く。

「公開が好きなんでしょ? なら公開で壊す」


俺は盾を握り、黒田を見た。


——このままじゃ、負ける。

証拠があっても、世論で潰される。

黒田はそれを狙ってる。


でも、俺にも武器がある。


“場”を切り替える武器。


俺はマイクに向かって、短く言った。


「聞いてる人。次の一手は【切替】。押して」


投票が一気に【切替】へ寄る。

確定。


《採用コマンド:切替》

《公開出力:反転》

《表示:証拠》

《配信先:同時中継》


次の瞬間、センターの大型モニターの映像が一瞬乱れた。

黒田が用意した煽り切り抜きが消え——


代わりに映ったのは、“黒田の自白音声”の波形と、端末の指示ログ。


短く、逃げられない部分だけ。

「テストだった」

「装置にする」

「遅延は俺が落とした」


現場の空気が、止まる。


黒田の笑顔が、初めて固まった。


「……は?」


管理局の男が冷たく言った。


「公開だ。

逃げられない」


黒田の目が、俺を刺した。

今までで一番、殺意が濃い。


そして、黒田が小さく笑った。


「……やるじゃん」


次の瞬間、黒田のスマホが床に落ちた。

黒田は両手を上げている。確保される。

だが——


女が叫んだ。


「まだ終わってない! こいつ“現場班”が——!」


背後の路地から、黒い影が動いた。

現実の襲撃は、まだ残っている。


保護枠Bの投票が、一斉に【煙】へ振り切れる。


俺は息を吸った。


「——採用、煙!」

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