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視聴者の“指示コメ”が全部スキル化するので、ソロでも攻略できる  作者: ゆうと


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14/20

鍵の正体

黒いバンが接近中。

倉庫街の夜風が冷たくて、息を吸うたび肺が痛い。


俺たちは細い路地を抜け、管理局の車が待つ暗がりへ滑り込んだ。

ドアが閉まった瞬間、外の音が遠ざかる。


管理局の男が無線を切って、低く言った。


「……よし。今は追跡は切れた。だが“鍵”は切れてない」

女が頷く。

「黒田は枠に触れてる。遅延を落とした。つまり——」


宮本さんがタブレットを抱えたまま、苦しそうに言った。


「枠の設定が奪われてるんじゃない。

“あなたの端末”に入られてる可能性が高い」


「端末に?」

俺は思わずスマホを握り直した。


宮本さんが頷く。


「配信枠をいじるには、運営権限がなくてもできることがある。

配信者の端末が持ってる“認証トークン”さえ奪えれば、

本人になりすまして操作できる」


女が言う。


「つまり鍵は“人”じゃない。盗まれた合鍵」

管理局の男が短く言った。

「どこで盗られた」


……心当たりがあった。

俺は息を吸って答える。


「初配信のとき、偽公式が来た。

あのとき、焦って操作した。リンクも……踏んだかもしれない」


宮本さんが顔をしかめる。


「偽公式が送るリンクは、ほぼフィッシングです。

ログインを誘導して、トークンを奪う。

それで“本人”として入れる」


若い男が震え声で言った。


「じゃあ、もう詰みじゃん……スマホ変えても……」

女が即答した。

「変えればいい。鍵を捨てるって話」


管理局の男が頷く。


「今すぐ、配信者の端末を“切り離す”。

新しい端末で、別のアカウントで、別の枠。

敵が持ってる鍵は無効になる」


宮本さんが口を開く。


「ただし——視聴者も敵も混乱する。

だから次の配信は、最初から“公開検証”として公式に立てる。

本人確認も二段階。共同管理。

それなら、偽公式が割り込む余地が減る」


女が俺を見る。


「やるなら、今。黒田は次の増援を動かしてる。

こっちも“場”を先に作る」


俺は頷いた。


「公開検証。

敵が混ぜられないルールで、全員の前でぶっ潰す」


車は短い移動のあと、別の臨時拠点に入った。

今度は本隊の人数が多い。入口の警備も厚い。


部屋に入るとすぐ、管理局の男が言った。


「スマホを出せ」

「……」

「壊すわけじゃない。隔離する。証拠だ」


俺はスマホを机に置いた。

宮本さんが、別の新しい端末を箱から出す。


「これ、LIV運用の検証用端末です。

あなたの個人端末とは切り離されてる。

ここから“公式検証枠”を立てます」


女が言う。


「合言葉はどうする」

俺が答える。


「視聴者に事前に教えない。

配信開始後、10秒だけ。

その後は毎分変える。

コマンドは——」


管理局の男が言った。


「増やせ。だが危険なものは入れるな。

攻撃誘導になる」


俺は少し考えて言った。


「コマンドは7つ。

【煙】【盾】【隔離】【切替】【証拠】【沈黙】【通報】」


若い男が目を丸くする。


「通報?」

「敵を通報する“通報”。

視聴者のボタンで、怪しい動きが来た瞬間、運営と管理局のログを動かす。

“多数決”を逆に使う」


宮本さんが頷く。


「できます。ボタンを押した回数で、運用チームにアラートが飛ぶ仕組みを入れます。

“通報爆撃”の逆利用ですね」


女が言う。


「沈黙は?」

「敵のワードに反応しないため。

荒らしが来たら“沈黙モード”に入って、投票以外の表示を消す。

支持率の揺れを最小化する」


管理局の男が短く言った。


「合理的だ。始めろ」


新しい端末で、公式検証枠が立ち上がった。


画面に出る。


《LIV公式:公開検証配信》

《協力:ダンジョン管理局》

《注意:危険行為を推奨しません》

《コメント入力なし(コマンド投票のみ)》


俺は深く息を吸った。

ここが、戦場。

でも今度は、俺が土俵を作った。


「開始する」


配信を開始。


視聴者が流れ込む。

でもコメント欄はない。

あるのはボタンだけ。


【煙】

【盾】

【隔離】

【切替】

【証拠】

【沈黙】

【通報】


右上に小さく表示。


《遅延:05:00(固定)》

《認証:二段階》

《外部操作:拒否》


……拒否。

これだ。


俺はマイクに向かって言った。


「聞こえる人。今ここは“公開検証”。

偽公式と、通報爆撃と、支持率工作が来る。

でもこの枠は、コメントで刺されない。

——ボタンだけで生きる」


視聴者の投票が動く。

【通報】が少し伸びる。

【証拠】も伸びる。


宮本さんが、配信の“公式バッジ”を画面に重ねた。

管理局の男も、制服のエンブレムを机に置いた。

証明を積む。


俺は続ける。


「さっき、D-ストリームの現場統括“黒田”は自白した。

偽公式、工作、追跡タグ、狙撃。

——全部“テスト”だったって」


ここで、予定通り来た。


画面に通知が出る。


《公式アカウント:重要》

《この配信は規約違反です》

《停止してください》


偽公式。

でも、今回は違う。


宮本さんが即座に、運用の画面を視聴者へ提示する。

“本物の公式通知”の形式。認証の差。

短い説明。見せるのは最小限。


「今のは偽物です」

宮本さんがはっきり言った。

「当社からの通知ではありません。なりすましです。ログを確保しました」


視聴者の投票が一気に【通報】へ寄った。

確定。


《採用コマンド:通報》

《アラート送信:運用・管理局》

《不審通知:記録》


管理局の男が無線で即座に指示する。


「偽公式発信元、追え。今すぐ」

女が頷く。

「来る。次は別の手で来る」


次は、通報爆撃だ。

分かってる。黒田はワンパターンじゃない。


そして、来た。


《外部通報:急増》

《影響:—》


……影響が表示されない。

代わりに、こう出た。


《通報はイベント保護により無効》

《運用監視:有効》


宮本さんが短く言った。


「効きません。ここは公式枠です」

管理局の男が、初めて小さく笑った。


「いい」


そのとき、画面が一瞬だけ揺れた。

遅延が、また落ちかける。


《遅延:05:00》→《04:30》→……


宮本さんが即座に止めた。


「……来た。外部操作。拒否ログが出てる」

女が言った。

「黒田が鍵をまだ持ってるなら触れるはず。でも触れない。

——つまり鍵は捨てられた」


俺は息を吐いた。

勝てる。今度は。


俺はマイクに向かって言った。


「黒田。見てるなら来い。

ここは全員の前だ。

偽公式も通報爆撃も効かない。

支持率も、コメントも、お前の武器じゃない」


投票が【証拠】に寄る。

視聴者は、次を望んでる。

証拠を出して、逃げ道を塞げ。


確定。


《採用コマンド:証拠》

《表示:保存ログ》

《提示:現場端末(押収)》


女が押収した工作端末の画面(偽公式送信、テンプレ、指示)を、必要最小限だけ映す。

同時に、黒田の音声――“テスト”発言――も短く流す。


部屋の空気が変わった。

“証明”が積み上がる。


そして、最後に。


《新規参加:D-ストリーム(認証なし)》

《アクセス:拒否》


拒否。

黒田は入れない。


俺は笑った。

初めて、ちゃんと笑えた。


「……これが“鍵を捨てる”ってことだ」


管理局の男が言う。


「次は逮捕だ」

女が頷く。

「現場班は押さえた。黒田のラインもある。

——逃がさない」


宮本さんが、静かに言った。


「ただし、黒田は次の手を打つ。

鍵が効かないなら、別の“鍵”を取りに来る。

——あなた本人を」


背筋が冷えた。

でも、逃げない。


俺はマイクに向かって言った。


「聞いてる人。今から次の段階に行く。

俺は“装置”にならない。

黒田の狙いは、俺を制御することだ。

——なら逆に、俺が黒田を制御する」


投票が揺れる。

【盾】と【隔離】が伸びる。

視聴者は守りを選ぶ。戦う準備だ。


俺は息を吸った。


「次は、黒田の“現場統括”を引きずり出す。

逃げ場のない場所で」

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